12・一学期の授業です
一年生の一学期中間試験までは、基礎的な教育が行われる。
各課ごとの基礎知識のほかに、歴史 一般常識 読み書き、そして足し算、引き算、掛け算、割り算の計算の授業がある。
もう少しすると、私の書いた、『身体のしくみ』の授業も始まるが今は退屈な授業が続く。
『身体の仕組み』には挿入されている絵がちょっとグロテスクなので、嫌がる生徒もいるが、これを教えるようになってから、ローズ学園の生徒の能力が格段に上がったのだ。
基礎教育は、もともと冒険科のための学園であり、平民の生徒が多く、きちんと教育を受けていない者がいたために組まれたカリキュラムだ。
「退屈な授業ですね」
「ああ、メシールはこんな簡単なことから教えないと駄目なんだな」
一学期が始まり一月もたつとアスラの生徒達は授業に飽きてきていた。
「しょうがないですよ、メシールやロベルトの生徒のほとんどが平民じゃないですか」
「まあ、そうだな、その分昼からの自習でアサラの格の違いを見せつけようじゃないか」
自習時間になると、魔法科の訓練施設で、力任せに的に向かって魔力をぶつけていた。
メシールの生徒は決してそんなことはしない。
リコの作ったカリキュラムに従うほうが、高い能力を身に着けられるのを、先輩から聞いているからだ。
「はいそこ、おしゃべりしない。知っていること、わかっていることでも、きちんと聞くように」
人のことを言えない私である。学生の時は彼らと同じ気持ちだった。
「ねえ、リズ先生、もっと面白い授業やってよ」
「駄目です。ローズ学園は、卒業後にきちんと仕事が出来るようになるのが目的です。薬だけ出来ても、魔法だけ出来ても、社会人として駄目では、困ります」
アスラの子はみな貴族だ、就職の心配がないので、メシールの生徒より緊張感がない。
「そんなこと言って、ローズ学園の先生の実力って大したことないんだろう」
「そうだよな、きちんと実力を見せて欲しいな」
「そうね、薬学科だからって薬だけ作れるようになっても面白くないな」
アスラの生徒は言いたいことを言い出してしまった。
「それ以上おしゃべりはしないように。実際にマナを使って薬草からの薬作りは中間試験が過ぎてからです。その前に、薬づくりに必要なマナの操作が出来るようにしてくださいね」
「リズ先生、心配しなくていいよ。魔力でポーション作るから」
どうも、アスラではマナでなく魔力絶対主義らしい。
「リズ先生、一度アスラの生徒に、マナの大切さをしっかりと見せつけた方がいいのではないですか」
授業を私に任せ、教室の後ろにいたタミ先生が話しに割り込んできた。
「見せつけるっていっても、どうするつもりですタミ先生」
「私にはわかりません、今から学園長に相談に行ってきますので、リズ先生はこのまま授業を続けてください」
そういってタミ先生は、学園長室に向かっていった。
ぶつぶつ言うアサラの生徒をなんとか黙らせ授業を終えた。
「リコ、魔法科のアサラの生徒はどんな具合」
昼食の終わった食堂でリコに聞いてみる。
「アサラの生徒は集中してくれないのです。リコの話を聞かないのです。他の生徒の邪魔なのです」
魔法科の生徒であってもメシールの生徒はアサラの生徒より魔力が弱い。
しかし、リコの魔力の使い方は、あまり強さには関係ないのだ。
それに、魔力を増やしていく方法も授業で教えている。
「やはり、魔法の発動の違いになじめないんじゃない」
「それもそうなのですが、リコを下に見るのです」
「それはリコにも責任あるでしょ。リコは魔力を外に漏らさないから、あの子たちから見たら魔力ほぼゼロの先生にしか見えないでしょ」
「何とかしたいのです」
たぶんこれは私とリコだけでなく、アサラの生徒を担当している教師全員の悩みだろ。
「リズ先生、アッ リコ先生も一緒ね。学園長から問題解決の方法聞いてきました」
授業を抜け出したタミ先生が学園長室から戻ってきた。
「タミ先生、昼食も取らずに何をしていたんです」
「何をって、アサラの生徒にローズ学園の教師のすばらしさを見せつける方法です」
学園長が何かひらめいたらしい。
「それでどうするんです」
「えっと、明日、ローズ学園の森の隣にある。王都第二学校が騎士の演習に使う草原で、リズたちに模擬戦をしてもらのです」
「それで何がわかるのですか」
何だか私にはよくわからない。
「魔力がなくマナだけでもすごい力が使えること、学園で教わった魔法がすごいことがわかります」
「わかったのです。学園長がリズの戦いを見たいだけなのです」
そういうことだな、アスラの生徒にかこつけて自分が楽しみたいのだ。
「学園長が、第二学校に行って草原使用の許可をもらいに行ってますから明日実施ですね」
タミ先生、あなたは戦わないからいいですけど、私たちの意見は聞かないのですね。
そして翌日、草原にローズ学園の全生徒、教員 指導員が集められた。
「ねえ、リコ、ローズ学園ってこんなに人いたっけ」
「四倍以上いるのです。第一学校 第二学校 魔法省が全員いるのです」
「それだけじゃないぞ、私の親父も来ている」
アニスだ。王都の騎士団も来ているということか。
「私のお父さん来ているはず、それもお兄さん付きでね」
ナルである。ナルの父の兄って、王位継承権一位の王子のはずだ。
「冒険者ギルドの幹部クラスも来ているぞ」
エマだ。
何かすごい人たちの前で私たちの模擬戦が始められた。