ラケールの秘密(上)
モブキャラと思われていた、アイスことラケールさんのお話し。
戦艦ヴァレリアの完全破壊の後、敵艦隊に追われていたアーネストは突撃を決行し、星団連合方面とは反対の方向にジャンプして逃げた直後のお話・・・。
「クーン艦隊、ジャンプし撤退しました。ディスティア艦隊は追跡せず生存者の確認と、引き続き哨戒活動に専念するとの事」
「俺たちしか動けない、早く後を追うんだ」
「エネルギーバイパスを切り替え完了、ジャンプシーケンス開始します」
「旧型艦はコレだからな・・まぁ、ボヤいても仕方ない」
Ai「ジャンプシーケンス完了まで15分」
アーヴィン艦隊の主力は自国製の戦艦も保有しているが、殆どが旧式のディスティア製だ。新型艦の様にジャンプシーケンスを行いながら即座にアーネスト達を追いたいのだがそこは旧型。ジッと待つ以外手立てがない。ジョルディは逸る気持ちを抑え眉間にシワを寄せ腕を組んでその時を待つのだった・・・。
「提督、間もなくジャンプアウトします」
「即座に広域探査を始めろ、見つけ次第撃破しろ!」
バシューンと約60隻のアーヴィン艦隊がジャンプアウトして現れる。ジョルディ提督はもちろんアーネストの後を追っていた。発見さえすれば数に物を言わせ楽に首を取れるからだ。しかし時間が経ちすぎていた。遅いシーケンス、遅い巡航速度、何もかもが後手後手だった。
「500万キロ四方に艦影確認できず。探索を引き続き続行します」
「マーカーの識別信号は何処まで追えている」
「提督、電波が途中で遮断され、それと亜空間航行の影響で正確な位置は不明ですが、もう少し先にアウトしたと思われます。現在再計算中です」
アーヴィン軍は追跡マーカーを頼りに追跡していたのだが、途中でシグナルが消え亜空間航行中の影響で正確な位置を特定できなかったようだ。もう500万キロ先にアウトしていればクーン艦隊をギリ発見出来たかもしれなかった・・。
「分かった、どの道この先に間違いはない全速前進!」
「提督、敵は追跡マーカーを発見し破壊したのでしょう。探し出すのは流石に困難を極めます」
「ふん、諦めるにも残骸くらい見つけないと帰る言い訳が立たんだろう」
「わかりました、金属精密探査に切り替え小さな金属片を探します」
「提督、ジャンプ出現位置の再計算が出来ました。400万キロ以上先です」
追跡データを再計算しその場所に向かうと破壊されたマーカーの残骸を発見した。その直後500万キロほど離れた惑星の影からジャンプアウトする艦隊を探知したが、正確な方角がわからず諦めるしか無かった。
「くっそ、この場所にジャンプアウトして隠れていたのか!向かった方向はわからないのか」
「提督、惑星の影が邪魔で正確な方向がわかりません」
「早く、モニターに進路予想を出せ!」
作戦モニターには広域マップと詳細マップの両方がが映し出されたが、予想進路が広すぎた。惑星が邪魔をし角度的には20°程と狭い範囲を示していたが数光年先と考えるとこれ以上の追跡は探査船を出さないと不可能だ。
「クッソ!」
「提督、この範囲に生命が存在出来る惑星は100を超えます。艦隊を分けて捜索致しますか」
「こりゃ無理だな、奴らは隠れてジャンプシーケンスの時間を稼いでいたんだ。次のジャンプで家に帰るよ。さぁ終わりだ我々も帰ろう」
「了解しました。ディスティア司令本部には帰投すると打電します」
「それでは頼んだよ。はぁ〜これから先は俺たちも戦争に参加することになりそうだ。さて燃料問題をどうするかだな・・・」
アーヴィン宇宙軍は数年前ディスティアの機材更新に伴い、旧型艦を譲り受け60隻の艦隊を保持していたが、核融合炉を使う旧型故、以前のディスティアと同じくエネルギー問題が重くのしかかっていたのだ。もちろん生体エネルギーなど次世代の技術開発は進んで無い。今回、援軍として向かったのは良いがそれなりに消費したため当分の間は動けなくなると予想していた。
「先程の艦隊と戦うことになりますか、提督」
「ああ、多分間違いないだろう。平和的に解決できればそれが一番なのだが」
星団連合との全面戦争に発展しそうな様相を感じたジョルディ提督の表情は思わしく無かった。彼個人としては戦いより平和的解決を望んでいるが、ディスティア帝国の傘下にあるアーヴィン王国は追従するしか無いのだ。
「提督、ディスティア司令本部からの返信です。総統府に至急出頭せよとのこと、以上になります」
「チッ、燃料の無駄遣いだな。第2、第3艦隊はアーヴィンに向け帰投、第1艦隊はディスティアに行くぞ」
「了解」
「ふむ、だがこれは良い機会だ。ラケールを連れて帰るか流石に待ちすぎた・・・」
何やら呟くと戦艦20隻を引き連れディスティアに戻り、エセルバートが待つ総統府向かった。そして客間に入ると先にエイナル中将とラケール大使がジョルティーの帰りを待っていた。
「おおよく参られました。今回、ジョルディ提督のお陰で助かりました。それにしても動き出しが早かったですね」
「参戦が遅れたことを先にお詫び申し上げます、エセルバート総統代理。念の為準備をしていたにすぎません。それとラケール大使の指示が早かったお陰です」
「そう謙遜なさるな、本当ありがとう、心から二人に礼を言う」
「ありがとうございます」
星団連合に手を出したディスティアから遅かれ早かれ応援要請が来ることを予想していたジョルディは、エドガーが急逝した段階で臨時招集を発令した。それは暴動鎮圧、クーデターなど最悪の事態を想定しての事だった。だが今回はその事がうまく作用し功績に繋がった。勿論ラケールが逐一報告をしてくれたお陰だった。
「ジョルディ提督お久しぶりです。戻られるのでしたらラケール親善大使を連れてアーヴィンに戻られませんか」
「エイナル中将、何度も発言していますが私はアーヴィンに戻るつもりはありません」
能面の様な無表情のラケールは微動たりともせず、絶対に帰らないと言いだした。だが彼女は2年前、親善大使として赴任して以降、一度もアーヴィンに戻ろうとせず、要請があってもあれこれ言い訳をして決して戻ろうとしないのだ。
「ラケール親善大使、ユーリー国王宛に書簡を書いたので直接君が届けてくれないか。とても重要な事が書かれているのでな」
「エセルバート代理、ジョルディ提督ではその代役はできないのでしょうか。私は帰りたくありません」
あくまでも帰りたくないと言い張る彼女は梃子でも動かなさそうだった。この後何度か応酬を繰り返すが頑なに拒否するのだった。
「ラケール大使、これ以上の拒否は不敬とみなされます。それでもよろしいかな」
「はいエセルバート総統代理、処分をお考えでしたらお好きになさって下さい。これにて失礼します」
結局彼女は帰らないと言い張り、顔には出さなかったが不機嫌が手に取るように分かる。そのままエセルバートの忠告を無視して踵を返し大使館へと戻っていくのだった。
「やはり頑なに拒否しましたね。予想はしていましたが・・」
「エセルバート代理申し訳ありません。今から彼女を説得して連れて帰ります。流石に2年は長すぎです」
「そうですか、それではジョルディ提督にお任せします。新体制が出来上がるまではこれと言ってやることもないでしょう。こちらとしては長期休暇でも構いません」
「格別な配慮、痛み入ります」
「それでは頼みましたよ」
ラケールの後を追う様にジョルディは急ぎ大使館に向かった。今回は引きずっても彼女をアーヴィンに連れて帰るつもりらしい。そして玄関を入りズンズンと中に進むと慌てて職員が飛び出してきた。
「お、お待ち下さいジョルディー提督」
「なんだ、邪魔をするのか。お前らが怠慢だから彼女は2年も戻ってこないんだろ!」
「わわわ(焦」
「サッサッと面会させろ!」
アポ無しで大使館に入り、執務室に向かおうとしたが流石に止められた。しかしジョルディーは構わずラケールに合わせろと強く言い放ち、怒りに触れた職員はビビって慌ててラケールに連絡を取り案内することとなった。
「ラケール、こうして君と直接会うのは久しぶりだな」
「ジョルディ提督お久しぶりです。最後にお会いしたのは赴任直前ですね」
執務室に入り久しぶりに個別に顔を合わせたのだろう。あの無表情のアイスことラケールはジョルディを見た瞬間一瞬だけ笑顔がこぼれたが、すぐに泣きそうな表情に変わった・・。
「息子が会いたがっていたぞ、そろそろ戻ってきてくれないか」
「ううう、私は彼に、ベルナールに見せる顔はありませんし、あの針の筵の様な所にはもう戻りたくありません」
ボロボロと涙が溢れるラケールからは悲壮感が漂い暗く沈むばかりだ。ジョルディの息子ベルナールとは幼い頃からの友人だ。それも特別な感情をお互い抱いている仲だった。
「もうあれから3年だ、君の傷も癒えただろうしもう噂するやつなんかいない。息子のベルナールは本気で君のことを心配し信じて待っている」
「ありがとうございます。ですが・・ですが・・」
「今の君に必要なのは心の支えだ、息子は喜んで引き受けると話した。だから気にしないで今から家に来てくれないか」
テーブルを挟んで二人は会話をしていたがラケールは下を向き、ボロボロと涙を流すだけだった。だが心のなかでは葛藤が繰り返されていた。戻ればベルナールに会える、会いたい。今の気持ちを打ち明けたい。けど、行けば必ず噂され誹謗中傷を受けることは間違いなかったのだ。そう、彼女を苦しめるのはとある出来事が発端だった。
「こんな汚れた私でも宜しいのでしょうか・・戻ればまたあらぬ噂が立ち・・私耐えられません」
ラケールは現国王の弟にあたる元第二王子のオーバンの娘で、王女として慎ましく普通に生活していた。3年前とある晩餐会の夜、酩酊した第3王子アマンシオが肩を貸してくれと頼まれ自室に移動中、ゲストハウスに連れ込まれるとそのまま襲われ、喋れば殺すと脅され黙っていたが、翌朝、侍女がシーツに残った鮮血と男の体液を発見したことで騒ぎになり、目撃情報から二人が疑われ事情を聞くことになるが、王子はあろうことに相手が誘ってきただけだと強く言い張った事で、彼女が悪役に変わってしまったのだ。
「大丈夫だ、さぁ行こうラケール、明るい未来が待っている」
「・・・わかりました」
誰かの救いの手を待っていたのだろか、少し考えた彼女は立ち上がりベルナールの元に、会いに行くことに決めた瞬間だった。
次話で完結します。今後出てくる可能性は分かりません!




