混乱するディスティア帝国。
ヴァレリアが沈む前の戦いの詳細です。
活躍したエイナル艦隊は一旦修理のために帰港し24時間の休憩を取り、翌日、総統府に呼び出されエセルバートに報告を済ませたエイナルは司令本部に戻った早々に敵襲来の連絡が入った。
<エイナル中将、恒星圏内に多数の戦艦を確認>
「ああ、緊急連絡が入ったよ。だが俺の艦隊は動かせないだろ」
<残念ですが、戦艦は修理中の為まだ出撃できません>
「くっそ、アーネストの野郎がまさかこんなに早く再攻撃を行うなんて想定外だ!」
司令本部の自分の部屋でイライラMAXのエイナルは、机をたたき出撃できない憂さを晴らしていた。再攻撃は予想していたがまさか2日後に来るとは流石に予想できなかったのだ。
<エイナル中将、艦隊総数は70隻弱です。ヴァレリアが上がっているので心配ないかと。間もなく40隻の戦艦が緊急発艦します>
「おい!アーネストの狙いはヴァレリアだ!そんな事も分からんのか!急がせるんだ」
作戦本部との緊急連絡のやり取りをしていると、秘書官が血相を変え慌てて部屋に入ってくる。
「しつれいしますエイナル中将、エセルバート総統代理がお呼びです」
「クッ、こんな時に!」
今回の再攻撃に関する判断を仰ぐ為に呼び出したのだろう。現在の彼に腹心の部下、それも作戦立案できる将校は無比だ。エイナルに頼るしかない状況だ。断るわけにもいかず急いで総統府に移動するのだった・・・。
「戻ったばかりだってな悪いねエイナル中将。今後の対応策を知りたいのだ」
相変わらず巨体を揺らすエセルバートは、緊張しているのか座っていても大汗をかいていた。おまけに不安なのだろうか、落ち着きたいのか琥珀色の蒸留酒を煽り大きなため息をついていた・・。
「今回、アーネストの狙いはヴァレリアです!早急に艦隊を動かして対応しなければ沈みます」
「なら大丈夫だ、30分もすれば40隻は動ける。ふぅ〜」
「30分で勝負が付きます。今後の対応を考えて下さい!」
「なんだそれ、そんなに弱いのか?」
「私でしたら、ヴァレリアを下がらせ時間を稼ぎます」
「そうなの、それじゃ連絡してくれないか」
「わかりました」
この男、軍事行動に関して全くの素人だ。今更指示を出した所で間に合わない。だが損害を抑えるために早急に連絡を取るしか無かった・・。
ーー
クーン艦隊を追い旋廻中の戦艦ヴァレリア。
操舵手「旋回間もなく終了」
レーダー手「司令、クーン艦隊右に急速回頭を始めました」
ラウール「ふん、大気圏に突入でもするのか!追撃戦に移行する緊急回頭、射程に入り次第、各艦”自由砲撃”開始!」
「了解!各艦、右急旋回開始」
「よしこれで距離が詰まってクーンに損害が出るはずだ」
ラウールは距離が詰まると思い緊急回頭の指示をだした。この命令自体は間違ってはないのだが、各艦”自由砲撃”と併せた命令を出したのは悪手だ。艦長たちは命令に従い砲撃を優先し旋回を始め、まだ旋回が完了していないヴァレリアは遅れて回頭を始めるのだった。
「あっ!司令、右舷後方にジャンプアウトする艦影確認!デルタリア艦隊出現しました」
「えっ?挟撃するつもりなのか。左に緊急旋回、一旦離脱するぞ距離を取るんだ!」
「わ、わかりました」
旋廻を繰り返したディスティア艦隊は隊列が縦に伸びていた。それは砲撃を優先したため標準型の戦艦が先行し逆三角形の形になっていた。戦艦ヴァレリアに追従しているのは護衛の駆逐艦だけだ。大型艦に不慣れなラウールはここで大きな判断ミスをしていたが気が付いていなかった。
「司令本部から緊急打電、ヴァレリアを含む哨戒部隊は本星まで下がれとのこと」
「なにを今更、今から逃げるわ」
このまま旋回すると挟撃されると思い左旋回の指示を出した時、本部から退却命令が届いた。言われなくても撤退中だ。しかし右旋回を行い動き出したヴァレリアはスラスターを全開にするが慣性の法則に従い、中々曲がろうとはしなかった。
「エリアス、今だヴァレリアの左舷側の座標を送った!」
<了解!>
ラッセル<ほう、それなら派手に砲撃したほうが良いな。全門ヴァレリアに向けて砲撃開始!突撃だ!>
ラッセルもまた混乱させるために射程距離外から砲撃を開始。それに反応したディスティア軍はクーン、デルタリア艦隊に向け砲撃を行いながら左旋回を行っていた。
「エリアス、君が頼りだ。ヴァレリアを沈めてくれ!」
バシューンとヴァレリア左舷側にジャンプアウトしたサリヴァンズを含むアーブラハム艦隊。ディスティア軍が対応できる砲門は全て真反対のクーン艦隊に向けられている。砲撃されることは無比だ。
「前方、艦橋下、後方機関部に照準を確実に合わせろ。時間はあるぞ!」
「はい、完了しました。発射します!」
ブーンと低い音が響いた直後、バーンと大きな音と共にレールガンの弾頭がヴァレリアに吸い込まれていくのだった。
ーー
アーブラハム軍旗艦、サリヴァンズがまだ恒星圏外にて待機中の頃。ハインツはとある古参議員の事務所を訪れていた。
「今回の総統選挙にお出になるのですか」
「ああ、今回が最後のチャンスだからな」
そう話す男はグレイの髪にメッシュの様な白髪が混じったオールバック、切れ長の目は眼光鋭く、それなりの年齢を重ねた古参議員ランディ・サブレだ。もちろんハインツがお世話になっている最大派閥の長だ。
「今回の選挙は対抗馬を徹底的に潰します。私に秘策がありますので必ず当選するでしょう」
「ほう、それはありがたいな。でっ、其の方法とやらを聞かせて貰おうか」
ハインツはルッチラから提供された資料の一部を見せ、対抗馬が出馬宣言をした後、公表し逮捕させると説明した。
「なぁ、君には強力な協力者が付いているのか?」
ランディは怪訝な顔をしてハインツを睨んでいた。そう、彼も何かしら後ろめたいことを行っているからだ。
「ええ、私の野望に協力してくれる助っ人ですよ」
「そうか、それは良いのだが、この案件は私も絡んでいるのだが・・」
指差す対抗馬の議員は軍関係者の後援を受けている奴だった。そいつは武器調達の際、選定に大きく関与し製造メーカーから違法なバックマージンを貰っていた。ランディは同時期のシャトル選定の際、候補から外れたメーカーを指名することによりバランスを取っていたのだ。もちろんバックマージンを頂いていた。
「ええ、そうですね。ですが公表をするつもりはありません。私には何のメリットもありませんので」
「私が総統になったら、それなりの椅子が欲しいということだな。君としては財務か副総統辺りを狙っているのか」
「はい、察しが宜しいようで」
不敵な笑みでそう話すハインツは脅すわけでもなく。淡々と自分の野望を実現するために、取引に応じる構えを見せる。
「公表しない確約はあるのか。後ろから刺されるのは御免だぞ」
「まさか、”副総統”に就任すれば私にも被害が及びます。公表したらまとめて辞任間違い無しですよ。これ以上の安全策は無いと思われますが」
ハインツは副総統に就任した場合、ルッチラの力を借りて軍部の不正を暴露しようと考えていた。それは不正を正しマグマのように溜まっている不満を解消し、軍部との繋がりを強めようと考えているのだった。
ーー
戦艦ヴァレリアが爆沈した頃、フェデラリー共和国の諜報部にある情報がもたらされた。
<星団連合に情報を渡している奴の存在が確認された。早急に対処されたし>
所長「この情報は匿名で届いたのか」
職員「はい、痕跡を残さないようにネットカフェから送信されました。現在足取りを追ってますが、それがリモート送信していたようで難航しています」
「それで情報を漏らしてる奴は誰なんだ」
「発信情報が載っているのですが、これは特殊無線のようでして、未だ個人特定に至っていません」
「よし、亜空間通信機を使ったヤツの足取りを追うんだ」
勿論、その無線機は緊急連絡用にグスタフがミランダに渡したモジュールだ。彼女が使用した亜空間高速通信機にログが残っていたようだ。何度も使うと特定される可能性があった。
「ミランダ、アーネスト達にこれ以上情報を流すのは危険だ。これを見ろ」
<これって通信ログね、私達の関係よりマズイねこれは。モジュールを使うのは避けなきゃ>
テレビ電話で話すミランダとグスタフはまだ結ばれてないのだ。とは言え週末には秘密裏に会い情事を繰り返していたのだったが、どうやら週刊誌が嗅ぎつけたのか不審者が多数目撃されるようになり。現在は実家に戻り大人しくしていた。
「よほど緊急でない限りやめてくれないか、他の方法を考えるから」
<分かった、国外逃亡も考えなきゃね>
複雑な表情を見せるミランダは最悪のことを想定しているのだろう。それを見たグスタフは流石に心配になった・・。
「ミランダお願いだ、これ以上危険なことはやめてくれ。愛している君が死ぬのは見たくない」
<うんグスタフ、ありがとう私も愛しているわ>
なんだかんだで、相思相愛の二人だった。
ーー
アーネストの艦隊が現れる30分ほど前・・。
「ラケール大使、そろそろアーヴィン軍を動かしてほしいのだが」
エセルバートはアーヴィン王国のラケールを呼び出していた。彼女は暗殺が横行し、危険を感じ大使館に引き篭もったままだった。流石に情勢が悪くなり呼んだのだ。
「アーヴィン軍の準備はできております。いつでもお使い下さい」
「ふん、同盟国なら戦艦引き連れてとっとと来いよ」
傍らで聞いていたエイナルはお怒りだ。だが表情を全く変えない彼女は冷たい目線のまま軽く頭を下げた。
「私は単なる大使です。要請がない以上どうすることも出来ませんし、自ら戦争に参加する権限もございません。お気を悪くしたのでいたらお詫びいたします」
「相変わらず感情がない女だな。アイスと言われるだけあるよ」
「・・・」
ラケールは表情一つ変えること無く、エイナルの言葉に反応することはなかった・・。
「それでは頼むよラケール」
「承知しました、連絡いたしますので失礼します」
スッと立ち上がると機械式人形のように頭を全く揺らすこと無く、踵を返し静かに部屋を後にした。
「まったく、ピクリとも表情を変えない女だな。あれじゃ男も出来ない筈だ」
「ぐふふ、あいつはエドガー総統が冗談で誘った事があってな、”穴”が空いているだけの人形ですけどよろしいですか、って言い放ったんだぞ」
「総統閣下に対してそう言い放つってそりゃすごいな」
「あの品のある仕草はさすが元王女だけど、あの無表情じゃやる気も起きないわ」
その元王女ラケールはとある事がきっかけでそれ以来、人前では能面の様に無表情なのだ。その彼女はアーヴィン王国に連絡を済ませるとエセルバートのもとに戻ってきた。
「エセルバート総統代理、アーヴィン王国軍は既にジャンプを開始、30分後には恒星圏内外周部に到着。そのまま哨戒活動に入るそうです」
「ああ、わかった、ありがとう」
「それでは失礼いたします」
「それでは、私も失礼します」
ラケールは報告が済むと先程と同様、背中に芯金が入っているように全くブレずに、踵を返し部屋を出て行く。そしてエイナルも同じく離席し退出していくのだった。
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