それぞれの誰かの近況。中巻
時は流れます。
<フォーレスト王国>
アーブラハム帝国との和平条約を締結、アーネストが共同でフェデラリー共和国とコンタクトを取り終えた頃、エルシーはアシルを呼び出していた・・・。
「アシル、今日呼んだのは毎回議題に上がっているフォーレスト代表の側室の件についてです」
「・・・(黙」
呼び出し、側室、いつもの議題、このキーワードを聞いただけで黙ってしまうアシルはじっとエルシーを見詰め何か言いたげの様だが、それを口にすることは絶対に無かった。
「黙ってるということは肯定と受け取っていいわよね」
「何を根拠に仰っているのでしょうか、理由もなく我が娘をあの能天気な女王の所に差し出せと」
「アシル、いくら私との会話とはいえアーリー様を能天気と呼ぶのは失礼に当たるとお思いますけど!」
アシルがアーリーを能天気呼ばわりすると、流石のエルシーもいきなりご立腹になった。本人が聞いていれば確実に不敬に相当する内容だ。最大限の拒否の言葉として選び、わざと言い放ったのだろう。
「そうですね、前言撤回します。お気楽酒飲み女王の所には出せません!」
「もうあなたねいい加減にしなさいよ!数百年前アーリー女王が誕生しずっと王が不在で、側室の話は途絶えていたのは知ってますよね!」
「はい、もちろん承知しております!エルシー女王様」
激おこエルシーを嘲笑うかの様に話すアシルは、アデールの為にわざと印象を悪くしたいらしい・・。
「その候補者がバルカン地方に存在することは明白です!」
「そう申されても、何のことやら」
明後日の方向を向いて知らないを体現するアシルを見たエルシーはイラっと来たのか、候補者アデールの事を直接聞くことに。
「そう言えばあなたの娘、アデールに最近会ってないわね〜」
「グッ」
「妹さんには良くお会いしますけど〜」
ここまで強気な発言を繰り返していたのだが、会ってないの言葉で一気に顔色が悪くなるアシルを見て攻め時と思い久しぶりに会いたいと畳み掛ける。
「いえ、流行病にかかりエルシー様の前には出せません」
「あらあらそうですの、腕の良い治療師を呼びましょうかアシル!」
次にエルシーは治癒魔法で治療すると申し出たが断固拒否した・・。
「女王のお手を煩わせ我が娘を治療すると、他の族長が嫉妬で怒り狂うのであります。ですから御免被ります」
「はっ?」
「いえ、ですから特別は不要なのです。男の嫉妬は激しいので」
わざとボケているのか、少し意味不明な理由を並べ立てるアシルの言い訳を聞いてこれ以上は無理、無駄だと判断するしかなかった。
「そう、あなたの言い分はわかったわ、アシルそろそろ覚悟をお決めなさい、アーリー様がご立腹になる前にはね」
「はぁ、善処します」
「それでは下がってよろしくてよ」
「はい、失礼します」
もう既にアデールが適性者だと分かった上で拒否していた。それはエルシーがお飾り女王で強権を発動し辛いことを見透かしているのだ。アシルは終始、強気な姿勢で謁見を終えるのだった。
ーー
<クーン宇宙軍>
大規模改修に入ったエルフォードはメインエンジンを抜かれ、ウラッツェンが設計した新型エンジンが組み込まれ、始動の時を待っていた。だがしかし・・・。
「ああ、朝からなんだこの変な反響音は!」
エルフォードが格納されている大型格納庫からブーン、ブーン、と重低音のノイズが響き渡り近くの宿舎に住む夜勤明けの工員は全く寝る事ができない有様だ。もう不快と言っても過言では無いレベルだ。
「おかしいなジェネレーターはオンラインなのに何でコアからエネルギーが流れないんだ」
機関室内ではメインエンジンが始動せずウラッツェンは頭を抱えていた。
「ウラッツェン、オンラインだがバイパスにエネルギーが流れていないぞ」
「そ、そんな馬鹿な、こんな事あるわけないよ」
エナジーコアに直結されているエネルギー発生装置まで流れていたが、ジェネレーターに繋がるバイパスに送り込まれてなかった。
「メインエンジンに自立型Aiを載せたのが原因じゃないのか」
「言われてみれば確かにそうですけど、待てよ、言語プログラムかな」
慌ててウラッツェンはキーボード叩き設定を確認したが、クーン標準語で間違いなかった。そんな事をしているともう昼前に差し掛かろうとしていた。
「ウラッツェン!お昼持ってきたよ!」
昼休みの時間になり、ワルワラがランチボックスを携え格納庫にやってきた。
「うーん、原因が解決しないんだよ・・」
「ちゃんと食べて頭に栄養を与えないとだめよ!」
「うん、そうなんだけど」
「ねぇ、ウラツッエッン!ハミング眺めながらお昼にしたいな?」
「うん、いいよ」
結局ワルワラに言われハミングバードが置かれている格納庫に向かい、勇姿を眺めながら仲良くランチを取る事になった。
「はい、これ!今日はライスボールだよ。新米が手に入ったの」
ワルワラが朝から新米を炊いて作った丸いライスボール、要はおにぎりだ。それも中には甘辛い肉が包まれた美味しいヤツだ。
「ライスボールは初めて食べるよ、おいしそうだね!」
「ほら、手を拭いて掴んでたべるんだよ」
クーンでは小麦と同じくらい米が取れるのだ。しかし海苔は取れないので真っ白おむすびだが、所々タレが染みて茶色かった。
「うん、これ美味しいよモグモグ」
ウラツッエッンは豪快にかぶり付き、ワルワラはカジカジと齧りながら可愛らしく食べていた。
「ウヘヘ、良かった」
仲良く並んでベンチに座り、おにぎりを食べている2人はとても幸せそうだ。
「実はこの子も似たような症状でエンジンの出力が上がらないんだ」
食べ終わった2人はコックピットに入り、ウラッツェンが始動シーケンス起動するとエンジンがブーンと目覚めるがアイドリング以下でスロットルを弄っても出力パラメーターはピクリとも動かなかった。
「この子の音ってさ、何か嫌がっているように聞こえるわ」
耳をピコピコさせたワルワラは何かを感じるのか、コックピットを出ると整備用ハッチの方に向かった。現在ハミングバードは調整の為に内装は取り外され、ジェネレーターやコアが剥き出しの状態だ。
「ワルワラちゃん何か感じるの?」
「うん、あのボールが見える機械が嫌がっているみたい」
それは問題のエナジーコアだった。ハミングバードのエンジンはクーンで開発された小型高出力エンジンをウラッツェンが更にチューンアップした特別製なのだ。
「ほんと?あの装置から燃料が流れないんだよ」
「そうなの、ねぇ安心していいんだよ」
ワルワラはその装置に手を置き、宥めるように呟くと瞳の奥に火が灯るように一瞬赤色に変化。そしてヒューン、キーンといきなりアイドルまで出力が上がるのだった。
「わわ、何で?機械なのに、ワ、ワルワラちゃん特殊能力でもあるの」
「うんん、そんな能力ないよ!」
狼族の遺伝だろうか第七感が優れているのだろうか、とりあえず分かったことは生命の源を集めて作られたコアとワルワラが共鳴したことだけは確かだった。
「そ、それじゃエルフォードで試してみてよ」
「ブォンブォンうるさいおっきな船?」
「そう、僕が設計したエンジンに載せ替えたら火が入らないんだ」
「そう、分かったよ」
そして向かったエルフォードの機関室。ワルワラは初めて入ったのにも関わらず、コアに引き寄せられるように一直線に歩いていく。
「これだよね、ウラッツェン」
「そうだよ、この扉の向こうがエナジーコアのエネルギー発生装置だよ」
その扉を開け中に入ると、バチンと電気が走るように何か衝撃が走った。するとワルワラの瞳がまた赤く光り突然語り出す。
「貴方は運命に導かれて一生懸命戦うのね、そしていっぱいいっぱい人の命を救うんだ」
「ワルワラちゃん・・・何を言っているの・・」
ワルワラは遠くを見ながら未来が見えているのだろうか語り部のように話し、それを聞いたウラッツェンは意味がわからなく混乱していた。
「そう、分かっているのね自分の最期の姿が、女王の魂が偉大なる王を送り出すのね貴方は立派よ、だから怖がらずにウラッツェンの作ったエンジンを回してあげて」
「えっ、最期の姿?何を言ってるの」
ワルワラの語りに合わせる様に、ブウォンブォンとコアから変調した音が響く。
「怖いよね、怖いんだよね、ラインスラストのウラッツェンが作ったエンジンが、けどね運命には逆らえないの、だから偉大なる王とウラッツェンのために、お願い回して・・」
ガチャ!ピッピ!これまで頑なに開かなかった制御弁が開き、ブーンと唸っていたエンジンがヒューンっと甲高い音を放ち目覚め始める。
「うっ、動いた!動いた!」
「良い子だね、ありがとう」
ヒューン、ヒューンっとワルワラに応える様に変調ノイズを醸し出すウラッツェンが作った新型エンジン。
「ワルワラちゃん!」
「へっ?アレ私なにかした?」
ウラッツェンがワルワラを強く呼ぶと先ほどまで赤く変色していた瞳がいつものグレイ色に戻り意識が戻ってきた。
「何って、いま変な事呟いたらこの子が目覚めたんだよ」
「そ、そうなんだ。ちょっとポカンとしてたよ」
「えー、あれは一体誰だったの?何だったの?けどよかったよコイツが目覚めてくれた、ありがとうワルワラちゃん」
「う、うん、良かったね!(汗」
ワルワラには精霊の加護はない。だが先ほどの現象は確かに予言者の能力だ。その力を発揮したのは、生まれたばかりの小さな生命だとは誰も知らない・・。
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