ダリダの決断
乗っ取られ寸前で判断します。
岩塊に送り出した工作員は任務終了し、パラボラアンテナの分解を始めていた。
「アイアス司令、ディスティア偵察艦隊の無力化に成功しました」
「ご苦労さん、撤収してくれ」
「はい、間も無く移動する予定です」
どうやって無力化したのか、それは捕獲したディスティアの戦艦のメインフレーム内にある双方向戦術プログラムの解析を行い、エルフォードに付随する通信機を設置、それを介して偵察艦のメインフレーム内に侵入し全てのコントロールを奪ったのだ。
「アイアス司令、後は完全に電源を落としてくれれば、操舵を含む全てのコントロールがエルフォードから行えます」
電源を落とした時点で悪魔の様な乗っ取り作戦が始まるのだ。
「わかった、後は待つだけだな」
「はい」
<ディスティア偵察艦隊>
「艦長代理、残り時間6時間を切りました、再起動しますか?」
「それしか方法が無いんだよね・・」
「はい、船の固定に2時間、再起動に2時間、固定解除に1時間と考えれば残り30分程しか余裕がありません」
「わかった、この司令船だけ再起動、成功したら他の艦も行えばいい」
「了解しました〜」
遂に再起動を決断した艦長代理のダリダ。迫り来る恐怖からだろうか表情は青く、苛つくのか爪を噛んでいた。
「固定ワイヤー射出!」
ボフッとワイヤーが付いた固定装置が飛び出し岩塊に突き刺さった。工員数名が艦外に出て作業を始めていた。
「はんちょー、何発撃つんですか〜」
「おい!固定方法は学んだ筈だ!10万トン級は最低でも20本は必要だ」
「え〜、そんなに〜」
「射出装置は二つしか無いんださっさとやれ!」
間の抜けた喋り方の隊員はタラタラぷかぷか漂いながら作業している。のんびり行えば集合時間に遅れるのは間違いない。班長の顔は見えないが多分眉間に相当皺が寄っている筈だ。
「もう、怒らないでよ〜」
「ロレーナ艦長との集合時間まで余裕がないんだ!」
「はーい、そりゃまずいわね〜、みんな頑張ろ〜!」
「おー!」
そして少しだけスピードアップしたようだった・・・。
<エルフォード内>
「司令、船の固定が始まりましたが一隻だけです」
「クッソ以外に冷静だな一斉に電源を落とすと思っていたが、わかった私の艦隊を接近させようじゃないか」
「それは良い案ですね」
「だろ!」
アイアスはアーブラハム艦隊に命令を飛ばし、偵察艦隊に向けて接近する様に指示をだす。それも偵察艦に向けまっしぐらのコースを取らせた。
ーー
「やっぱ朝早くから監視しないとダメね、結局見つからなかったね」
「朝ご飯を抜けばよかったのに!」
そう話すのはロレーナとベスだ。宛もなくクレアを求め街中を探すが当然見つかるはずはなかった。
「だけど宿代と晩御飯は大丈夫よ」
「そうですねー」
ホテルに戻ると早速部屋に入り今後の予定?作戦を考えるが、アーネストと離れないクレアはいつ隙が出来るか考え込んでいた。
「かんちょ〜、レストランかバー、最終手段は駐機場ですかね〜」
「そうだが、アイツらが明日の朝、駐機場に来るかな?」
「ウーン、そうですよね。私達と同じわけないですよね〜」
結局何も決められないまま、夕食の時間を迎えてしまう。
ベス「さぁ、これ以上考えても仕方ない。食事に行きましょう!」
「そーですねー」
そして2人は長時間レストランでクレアを待っていたが訪れなかった。それもその筈、クレメンテ大統領に呼ばれていたのだった。無駄に時間だけが過ぎて最後の望みをかけてラウンジに移動し待つこと1時間・・・。
「今晩は、今日も監視かな?」
「うるさいわ!」
「あらら、まだ足りないの?また身内と絡むかしら」
「わわっ!」
アーネストが突然現れいきなり声を掛けてきた。そしてクレアが昨日のことを知っているかのような発言をすると、微妙な表情に変わるロレーナ、ベスは引き攣っている。
「やれやれ、それでは良き夜をお過ごしください」
「ふん!」
アーネストとクレアは昨日と同じソファー席に座ると即座に密着しラブラブ状態だ。
「やはりあの席にすわりましたね!」
何やらベスはスマホの様な装置を触っていた。
「あんた、人間心理学も知っていたんだ。ちょっと関心」
「あのソファーの位置はまわりを見渡せて且つ目立たない場所なんです。警戒する場合、空いていればまた同じ所に座ると判断しました」
「それで、会話は聞こえるの」
「ええ勿論聞こえます、いまリンクします」
ベスは事前に盗聴マイクをソファーに仕込んでいたのだ。2人は会話から明日の予定を聞き出すつもりだ。だが・・・。
「ねぇアーネスト、昨日疲れて寝ちゃったから今晩はたっぷりお願いね!」
「いいよ君が満足する迄何回でも、この前みたいに腰が抜けるまでで良いかな」
「ウフフ、期待しちゃうよ!たっぷりお願いね、チュッ!」
ロレーナ「あ゛ー、惚気話しは聞くに耐えん!」
ベス「アリャ、見てみてキスしてますよ」
「わざと見せつけてるんだよ!」
<アイツらジッと見てるぞ>
<いいのいいの、見せつけてあげましょう!>
「えー、やな奴じゃないですか〜、けどいいな〜私も加わりたいな〜!」
会話に同調するように蕩ける表情に変わったベス、それを見たアーネストは盗聴していると思い、クレアにフッと笑みを送るといきなり太腿を触り始める。
<あっ、いやん、だめよ、アン!>
<ほら今から盛り上がったら燃え上がるだろ!>
<もう、アーネったら!今日は激しくお願いね!>
「ぎゃー、聞くに耐えん!」
「死んでもらいましょう!」
<任せろ。今日はビンビンだぞ>
<いやん。もう息子が元気ね!>
「あ゛ー」
「激しい夜なのか・・」
盗聴のことを分かっているアーネストとクレアは面白がってわざとイチャイチャして過激な発言を繰り返す。そして只ひたすらその会話を聞かないといけない2人は沸々と怒りが増していた。
<それはそうと、明日は美容院に行くんだろ>
<ええ、昼食会に呼ばれたのでこちらのメイクに合わせたいの>
<なら午前中かあの2人が動く前に出かけた方が良いよ>
<そうねそうするわ>
エロい話の中で次の日の予定をさらっと話す。クレアはわざと捕まる為に美容院に行くことに決めていた。勿論聞いていた2人はニンマリしているのであった・・。
「よし、明日は美容院に行くぞ!」
「頑張りましょう!艦長今日はどうします?」
「はっ?静かに寝るだけだ!ふざけんな」
「もう、ちょっとだけ期待してたのに・・」
一部の隙を見せないベスだった・・。
ーー
ピンポイントレーダーには多少の数の変動はあったが、小型船の反応が出ているだけで大型艦の影は観測できなかったが、ピッといきなり大きな反応が出る。
「艦長代理!あの、その、これって・・」
「どうした、何を慌てている」
「これ、これ!戦艦です、戦艦!」
レーダー手が慌てて艦長に情報を送る、それは小型船だけだと思われたが、現れた船は戦艦だった。
「えっ?マヂ、方向は?」
「あの〜、節電のため次は早くても10分後なのですが、いま測定した方がいいですよね」
「いや待て10分後でいい、進路、方向がわかる筈だ」
再起動を始める直前に現れた戦艦は間違いなく敵だ。いきなり窮地に立たされたダリダは次のタイミングまでの間に正解を導き出さねばならなかった。
「・・・・(どうする、我々は探知されて無い筈だ、だが此方に向かって来るとヤバい」
「艦長代理、全ての船を再起動しませんか、それと有線連絡網を構築完了しました」
「・・・・(それも考えた、あとは敵の動き次第か・・」
ダリダは目を瞑りジッと思考を何度も繰り返していた。全艦再起動か、一隻だけ行ってひたすら隠れて過ごすか。しかし時間というものはあっという間に過ぎ去る。ピーンとアラームが鳴り次の探査結果が出た。
「進路は・・・ベルト帯をこちらに向かって進んでいます。現在のスピードだと会敵まで6時間といったところでしょうか」
「艦長代理決断を」
「・・・」
腕を組み深く考慮するが結局2択しか残らなかった。約半分の3隻同時再起動を行なって駄目なら残りの2隻も動かない可能性が高いからだ。
「正確な数字出ました。5時間と30分ほどです」
「準備出来次第、全艦再起動開始!」
「了解、全軍に告ぐ再起動開始せよ」
ダリダは苦渋の決断の末、全艦再起動の道を選んだ。だがそれは同時に全てのコントロールを奪われるとは知らずに・・・。
「全電源落ちます!」
数分後、準備が終わっていた司令船が先に電源を落とす。艦橋の中は真っ暗になり全てのコンソールから光が消え、3分ほど経過しただろうか。ピッと生命維持装置の電源が入り、戦闘用モニターには初期画面が映し出されコンソールにまた火が入り始めるのだった。
ーー
「アイアス司令、偵察艦1隻再起動開始、他の船も準備に入っています」
監視用カメラは作業中の工員の姿を捉え、一瞬エネルギー反応が消えたダリダの船は再起動を行い、現在進行中のシーケンスがエルフォードのモニターに映し出されていた。
「火器管制リモート完了、生命維持装置リモート完了」
次々にコントロールが奪われて行く様がモニターに映っていたのだった・・。
「完全にコントロールを奪うのにどれくらい必要なんだ?」
「ディスティアの戦艦は個別プログラムがブロック単位で構成されているので2時間後くらいでしょうか」
「わかった、1時間後、中継アンテナ、監視カメラの類は撤去だ」
アイアスは先に起動が済んだ船が広域スキャンを行うと予想。近くに設置してあるカメラの類を発見される恐れがあるため撤去の指示を出した。
「アイアス司令、広域スキャンを行うとお考えですよね」
「ああ、いきなりコントロールを奪うとバレるだろ」
「こちらからコントロール出来ますので探査の出力を下げれば問題ありません、というかアンテナ自体の電源を切ります」
「大丈夫なのか?」
「はい、原因追求しても早々に不具合は見つかりません。探査されればこの距離ですし確実にバレますよ」
「わかった、任せるよ」
現在、エルフォードの位置は岩塊を挟んで反対側に停船しているのだ、流石にこの距離だとステルス状態でも探査レーダーに探知されるのだった。
ーー
「艦長代理、シーケンス最終段階に入りました。僚艦4隻同時に再起動開始」
1時間後、ダリダの船が順調に立ち上がり始める頃、遅れて残り4隻も電源を落とし再起動を始めた。
「これで動いてくれよ」
「生命維持装置オンライン」
「よし、空気密度を確認でき次第ヘルメット脱着」
無事に生命児装置が作動、ヘルメットを脱ぐと、ふぅ〜と長く息を吐くダリダ。は緊張の糸が解けたのか表情が穏やかに変わった。
「艦長代理、サブフレームが立ち上がりません」
「えっ?」
まさかの、最悪な結果が齎された。
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