マーベリック一等兵、頑張る件。
マーベリック頑張ります。
アルベルト伍長「おい!貴様はお貴族様なんだってな!」
大柄で顔に傷がある熊族の伍長は見た目からしてThe軍人、というか猛者だ。もし少しでも逆らったら強烈な熊パンチが飛んできそうだ。
マーベリック「はい!伍長、身分はその通りであります!」
「何だ、その身分の言い方は何だ!庶民の俺を馬鹿にしたな、腕立て200回」
「はい!」
マーベリックがデルタリア軍に入隊して3日目、身体検査、適性検査をクリアし基礎訓練のため訓練学校に入学、自己紹介の時に身分と言い放ち反感を買い隊員の前で腕立てを始めた。
「・・・(くそ伍長め!」
「何だその反抗的な目は何だ!」
腕立てをするマーベリックの顔を至近距離で覗き込むように目を合わせた伍長はまたイチャモンをつけてくる。
「反抗・・して・・おり・・ません!」
何故か腕立てをしながら返事をするマーベリック。それは隣にいた目つきの悪い輩が手を休め”おかわり”の100回を貰ったのだ。止めれば追加で100回と言われるのは必至だ。
「ふん、軍隊に反抗的なやつは必要ない!命令を守るのがお前らの仕事だ!わかったか!」
「イエッサー!」
伍長が担当する30人ほどの新人隊員は結局全員腕立てをしていた・・。
「上長が言っていたぞ、この部隊は全員出来損ないを集めたポンコツ集団だとな、勝手にやめることは許さん、逃げたやつは脱走扱いで刑務所行きだ」
ポンコツ集団は戒めるために言い放っただけで、実は全員志願兵なのだ。マーベリックは1年間徴兵制度で勤めたことはあったが、当時上級貴族だったので基礎訓練は体験程度、おまけに士官扱い、見学とデスクワークで終わっていたのだ。
「元、お貴族様なら首席卒業しないとなマーベリック一等兵」
全員の腕立てが終わり、宿舎に案内され一通り説明が終わると早速伍長がマーベリックに絡んでくる。
「はい、勿論であります」
「そうか、そうだよな。徴兵とはいえ特殊部隊に志願した下級貴族が首席、中級貴族が次席、君は3番目か?」
「ま、まさか、その主席はアーネスト」
「おお、よく知っているな。そうか、それなら君は特殊部隊にいくか?彼らは抜群の成績を叩き出したぞ」
「何、だと」
アーネストが好成績で除隊したことは知っていたが、比較されると頭に血が昇りマーベリックは顔が真っ赤、今にも噴き出しような怒気に溢れていた。
「未だに彼らが叩き出した部隊レコードは更新されないのだよ、ガハハ、君には無理かもな」
「なんのレコードだ、教えろ伍長!」
「なんだその反抗的な態度は」
「あいつに負ける訳にはいかないんだ!下級貴族のあいつだけには」
伍長に挑発され、眼光が鋭くなったマーベリックの目は闘争心で溢れていた。
「おお、やる気だな貴様!」
「ああ、勿論だ!」
自信ありげに言い放ったマーベリック、しかしこの直後バコーン!伍長がいきなり殴りつけた!
「クッソ!」
「ふん!俺を倒してからそんな大口叩いてくれるかな」
「なん、だと!」
「かかって来い!」
まるでカンフー映画の主人公のように人差し指をクイクイと動かし、マーベリックを挑発していた。周りで見ている隊員達は青ざめている。そう、伍長は屈強な熊族なのだ。
「ふざけるな熊!」
「ふん、か弱いお貴族様!」
いきなり始まった格闘戦、だがマーベリックのパンチは全て避けられ、カウンターを毎回喰らい、徐々に顔が腫れあがっていく。
「クッソ、クッソ!」
全く当たらないがそれでも敵意剥き出しで戦うマーベリック。ここで伍長が意外な言葉を叩きつける。
「おいお貴族、直ぐに頭に血が上るような奴は・・・戦場で一番先に死ぬぞ」
「えっ?」
「おまえのことだ、冷静に判断できてない」
マーベリックはガムシャラに懐に飛び込んで殴り合うことを選択していた。だが腕力が人外な力を持つ熊族に叶うわけがなかった。
「クッソ、煩い!」
「アーネストは違ったぞ、俺が唯一負けた相手だ」
「なんだそれ」
因みにアーネストが伍長と模擬戦をした際は一定の距離を置き、カウンターを喰らわないようにポジションを変え、フットワークを活かした戦いに終始した。結果、速い動きに対応できない伍長は徐々にパンチを喰らい消耗し、最後は一瞬出来た隙を狙って顎に渾身の一撃を喰らい倒れたのだった。
「さぁ、終わりにしようか!」
「グフォ!」
ブンっと音がした瞬間、死角から放たれたアンダーフックが腹に決まりマーベリックは吹き飛び意識がなくなった。
「ふん、闘志だけは認めてやるよ」
そして瞬殺されたマーベリックが目覚めたのは宿舎のベッドの上だった。
「ッツ、痛い」
ボコボコにされたマーベリックは痛みを堪え起き上がると、周りには誰もいなかった。
「クッソ、あの熊」
そして枕元を見ると視界に一枚のメモが紙が目に入る。
<グランド100周>
ただそれだけ書かれていた、そう、伍長に負けた、それが罰なのだ。
ーー
1ヶ月後・・・。
「クッソ熊沈め!」
ドガ、バシ、ビシ、伍長と距離を置き牽制しながら互角にやり合っているマーベリックは嬉しそうな表情だ。
「おお、良いパンチだ!」
「沈め沈め!」
距離をとり接近せずあのフックを喰らわないように用心しながら戦うマーベリック。これで何度目だろうか、以前より拳が入るようになって来ていた。
「ふむ、まだ荒いな」
「なんだと」
「力むから見えるんだよ拳の筋が」
伍長は数度マーベリックの拳を受けてはいたが絶妙にクリティカルヒットを避けていた、
「俺の本気を受けてみろ!」
渾身の一撃を繰り出すマーベリック。だがしかしパンチを繰り出した瞬間、中隊長がその拳をいとも簡単にパシっと掴んだ!
「軽い拳だな、魂が篭ってない」
「中隊長ご苦労様です」
伍長はすぐさま戦いをやめ敬礼をしていた。
「邪魔するな!」
「ふん、邪魔はしないよ見苦しいから止めたんだよ、貴様は訓練が足らんな」
「クッソ!」
「君の拳には重さがない、それだけ背負う物がないと言うことか・・」
「なんだと、俺の拳が軽いって言うのか」
「ああ軽い、軽すぎる。伍長コイツは甘やかすな、もっとしごいて良いぞ」
「承知しました!」
上長の許可を得た伍長は、ブンっと全く見えないスピードのフックを繰り出し、ドカンと1発マーベリックを吹き飛ばした。
「グハァ!全力じゃなかったのか・・・」
渾身の一撃を食らったマーベリックの意識はそのまま落ちた・・。
ーー
翌日・・。
「本日はタイム測定の日だ、午前中に100mと400m、休憩を挟んで10キロ走、午後はトレイルランニング、明日は障害物競走と射撃だ」
隊員「伍長!記録更新した場合、とても凄い褒美がもらえると聞きました」
「ああそうだ、上位5名は特別に夜間外出許可が出る」
「おお、それは良いな」
「やる気が出てきたぞ」
「待て待て、記録更新した場合は何だと思うもっと凄いぞ」
「1日休暇をもらえるんすか?」
「はは、そんなに安っぽい褒美でいいのか?二つ更新した場合階級が一つ上がるとしたら頑張るか?」
「おお、本当だったんだその噂」
アーネストとラッセルは共に競い合い、10キロ走、トレイルランニング、障害物競走、射撃で歴代記録を塗り替えたのだ。だが彼らが卒業して以来更新されたことは無かった。
「ふん!俺が塗り替えてやる!」
やる気十分、マーベリックは歴代の記録を見て目を輝かせていた。
「あいつら100と400のタイムが異常に遅いな?」
二人の記録で唯一低かったのは100と400だった。疑問に思ったマーベリックは教官に話を聞くと、”Fの文字が見えんのか”と言われ、お前じゃ絶対無理だと言い返される。
「うん?まさかフル装備のFなのか、まさかその状態で走ったのか・・・」
「ああそうだ、フル装備で100m14秒は中々の足の速さだぞ、勿論アサルトライフル携帯な」
隊員「マジっすか?とんだバケモンじゃ無いですか」
「ふん、お前らみたいにサボらず筋トレしてたからな、あの二人は」
「え゛まさか、訓練時間外ですか」
「当たり前だ、時間は作る物だと言って毎日トレーニングを積んでいたぞ」
二人は訓練が終わった後の空いた時間にトレーニングを行い、休息日も勿論トレーニング三昧。目立たないように行っていたが教官たちは知っていた。
隊員「そこまで自分を追い込むってすげぇな」
「貴族の意地じゃ無いのか」
「マーベリック、そんな安いぽい考えじゃ無かったぞ」
「教えてください伍長」
「馬鹿かお前は、聞いてどうする既にその時点で負けてるんだよ。一つ言うなら志か最初から違うんだよ」
「クッソ!」
マーベリックは悔しいのか頭に来たのかいきなり不機嫌になったが、実力がものを言う軍隊に自分から飛び込んだ事を思い出し、思考を巡らせるのだった。
ーー
二日後・・・。
隊員「マーベリック残念だったな、全てにおいて完敗だな」
「ああ、そうらしい」
全ての競技が終わり夕食までの休憩時間に結果発表。自分の測定タイムと歴代記録を見比べていた。今回もアーネストとラッセルの記録を更新した隊員は一人も出なかった。
「あ〜、明日は休息日だゆっくり寝れるな」
「ああ」
口数が少なくなったマーベリックは静かに席を立ち、トレーニングルームに向かっていくのだった・・。
「クッソ、単純な走りですら俺は負けているのか!」
そしてトレーニングマシン相手にブツブツと独り言を喋り懸命に筋トレを行っていた。少し経つと音を立てずに伍長が部屋に入ってきた。
「マーベリック!」
「伍長・・アイツらは・・・ふん、俺の負けだ」
「君はここに来て訓練を始めたんだろ、それじゃ絶対敵わない」
「そんなことは分かっている、だが追いつき追い越さないとダメなんだ」
「俺が言うのは何だが、卒業は来週だ、どんなに頑張っても記録更新は無理だろう」
伍長は勝手にライバル視して頑張るマーベリックに助言を出しに来たようだった。
「ああ、そうだな」
「君は班長になった時、部下の動かし方が上手い、どうだ艦長を目指さないか」
「艦長だと、俺に船に乗れって言うのか」
「そうだ、宇宙軍は人が足りて無いそれも有能な若い士官がな、だから絶好のチャンスなのだ」
伍長は人の使い方の上手さ、怒っても冷静に判断するマーベリックを評価していた。入隊当初は野獣のように凶暴だったが、己の未熟さを知り、努力する事を覚え磨けば光り輝くような素質を持っていると思ったのだろう。
「宇宙軍・・」
「君は腐っても元貴族だ、人の使い方に慣れてる、最近は筆記試験も上位じゃないか。俺なら特殊部隊より艦長を目指す」
「ありがとうございます伍長!」
「ほっほう、初めて礼を言ったなマーベリック、貴様が成長して俺は嬉しいよ」
そう言うと伍長は部屋を出ていくのだった・・。
ーー
そして迎えた卒業式、成績優秀者の発表が行われマーベリックは最初に言われた通り3位だった。
「中隊長、伍長の姿が見えませんが」
校長の訓示が始まる前に講堂に集まった卒業生たち、マーベリックは伍長がいない事に気が付き、近くにいた中隊長に話を聞いた。
「俺が伍長の代わりだ以上、おいお前ら!」
そう言い放つと、ちゃんと並ぶのがお前らの義務だと言わんばかりに、ダラダラとしている隊員を睨む。
「ヒッ!」
司会「只今より、校長の挨拶を行う」
「あれ?確か入隊した時は副校長だったな、と言うことは初めて見るのか・・」
下手から登場したのは胸元に数個の勲章をぶら下げ、パリッとした儀礼服を纏った伍長だった。その姿を見た瞬間全員目を丸くしていた。
「ええ、校長だったんだ・・」
「アルベルト大佐に敬礼!」
「え゛?大佐だったの」
ザッ!一斉に敬礼をする卒業生たち。そしてアルベルトはこう言い放った。
「俺、伍長から昇進して大佐になったんだよ」
「ギャハハ、嘘だ〜」
「笑った奴、腕立て10回!」
「はい!喜んで」
数名の隊員はその場で軽く10回腕立て伏せを行い立ち上がりビッっと敬礼。”今日は余裕であります”と言い放つと見学席に来ていた両親達から笑いが溢れる。
「みんな騙して悪かったな。今回は宇宙軍に緊急配備するためアーノルド陛下勅命の元、俺が直々に君たちを見定めていたのだ」
その言葉を聞き響めきが起こった。話では聞いていたが宇宙軍は人が足りず早急に人を集めていると噂になっていたのだ。そして適性者の名前が読み上げられ最後に士官候補生の名が読み上げられた。
「今回は一般応募なので士官候補生は無理かと思ったが、マーベリック貴様はそのチャンスを物にした喜べ!」
「はい!喜んで拝命します!」
こうしてどん底から這い上がったマーベリックは士官への切符を手にし、活躍の場を宇宙に移していくのだった。
「今日は特別なゲストがお見えだ、有難いお言葉を聞き漏らすなよ」
「イエッサー!」
マーベリック「ゲェ!アイツは・・」
「クーン精霊王国軍、総司令官アーネスト陛下入場!」
アーネストが現れた理由は、クーン宇宙軍、デルタリア宇宙軍共に防衛任務と宇宙探検を行うと正式に声明を出し、これから関わりが増えるであろう卒業生に対し挨拶に訪れたのだ。
ーー
「アーネスト陛下、マーベリックは士官として無事卒業しました」
式典が終わり校長室でお茶を嗜んでいる二人。
「ご苦労だったね大佐、まさかアイツが士官候補生になるとは」
何故、校長が教官に化けていたのか、その理由はマーベリックが入隊した際、即座に貴族ネットワークとラッセルからアーネストに伝えられ、そしてアーリーを通じてアーノルドに詳細が伝わり、大佐に直接面倒を見てくれと勅命を出したのだった。
「最初はどうなるかと思いましたが、アーリー様に言われた通り目標を持たせ、実力差を見せつけるのが一番効果的でした」
「そうか、アイツはちゃんとやればできる奴だな」
「ええ、あの闘争心は中々でしたよ」
「そのうち戦場で会うかな・・」
そのマーベリックと次にアーネストと会うのは数年先、戦いの最中だった・・。
宜しければブクマ評価お願いします。




