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疫病(下)

上巻の続きです。

「気持ちいいね!」


ヒューと風が吹き抜け夏なのに少し肌寒く感じるその場所はクーンで1番高い電波塔だ。その先端の作業台に安全帯を装置した3人は密着状態で立っていた。


「ヒョ〜、こ、怖い」


クレアはその高さにビビってアーネストに抱きついてはいたが腰が引けて情けない格好になっていた。


「そりゃこの高さだからね」


「そう?景色いいじゃん!」


アーリーは全く気にする事なく景色を堪能中だ。森の中にあるその電波塔は地上から2500m、正面遠くに海が見え、後ろに控えている山脈と何しろ絶景なのだ。


「さぁ、始めるわよ!」


アーリーはとんでもない魔法をクーン全土に施すと言いだした。そう、治癒魔法をベースにウィルスを進化させると言うのだ・・。


「わかった、打ち合わせ通り魔力が枯渇しそうになったらキスして補給するよ」


「お願いね、祝福が少なくなったらそれが合図だから」


以前ウィルスを進化させ弱体化出来ないかと考え、治癒魔法と祝福を使い術式は完成したがその高度な魔法を操れるのはアーリーだけだ、無論数万ある避難所や病院をチマチマ回る訳にもいかず諦めていた。


「わ、私もキスして補給するの?」


その魔法をクーン全土に広げるにはアーリーの底無し魔力を持ってしても1人では無理だ、そこでアーネストとクレアの魔力を補給しながら行うというのだ。


「クレアはアーネストに補給してくれない?多分一気に吸い取って動けなくなるから」


「は、はい、それなら喜んで・・」


一安心?既に数度アーリーとキスしてもクレアは、とても恥ずかしそうだった。


「じゃ!行くわよ」


アーリーは天高く両腕を広げ、スゥ〜と深呼吸しながら目を瞑ると指先に淡いピンク色の光りが集まってくる。周りの精霊から魔力を貰いながら術式を起動させているのだろう、身体全体が光り始めていた。


「くっ!コホンコホン!」


咳き込み辛そうなアーリーを見てアーネストとクレアは心配そうだった。そう彼女は口減らしウィルスを患者から取り込み、体内で進化させるトリガーを探し見つけそれを全土にばら撒くつもりだ、そのために自分の身体を犠牲にしていた。


「精霊達よありがとう」


アーリーは精霊達に御礼を述べると同時に、青と赤の2色の魔法陣が頭上に現れ光り輝き出した。さぁここからが本番だ!また目を瞑り集中し始めた。


「プログレス!」


アーリーが呟くと青い魔法陣が広がり始め、それを追うように赤い魔法陣も広がり高度を上げ四方に伸びていく。治癒魔法と祝福を同時に発動させクーン全土に広げていくのだ。


「す、凄いね、やっぱ彼女の力は途方もないね」


「ああ、自分を犠牲にしてまでクーンに尽くす彼女は本当に凄い」


間近で見ている2人がそう話すのは、広がった魔法陣に向け虹色に輝く魔力がアーリーの全身から漏れ出てとても神秘的なのだ。


「そろそろかな」


アーネストは青い魔法陣が時折フワフワと不安定に光り始めると、目を瞑って魔力を注いでいるアーリーに優しくキスをする。


「うわぁ〜、凄い神秘的だわ」


虹色のオーラに抱かれたようにキスする2人がそう見えたのだろう、しかし少し経つとアーネストが崩れるように倒れた。


「アーネスト!」


「た、頼むわ・・」


一気に魔力を吸い取られたのだろう顔が青くなっていた。クレアは急いでキスをして魔力を送ると、顔色に温かみが戻ってくる。


「ありがとうクレア・・だが凄かったアーリーに全て取り込まれそうな感覚だったよ」


「アーネスト・・・もう少し・・・頼める」


アーリーの追加要請だ、術中で話し方が辿々しかった。クレアはまたアーネストにキスをして魔力を追加した。


「私は大丈夫、アーリーに送ってあげて」


「わかった」


少し苦しい表情をするアーリーにキスをして魔力を送り終わると、アーネストは脱力感に見舞われたのか膝をついた。


「アーネスト!」


「大丈夫だ、全部は吸い取られていない」


クレアはアーネストに魔力を補給してあげたいのだが、彼女も枯渇寸前で実は頭がクラクラしていた。


「アーリー、大丈夫かな」


「それは分からない、彼女しか分からないもう任せるしかないよ」


2人はジッとアーリーの様子を見るしか無かった。そして数分後アーリーが両腕を静かに降ろすと同時に二つの魔法陣が薄くなり始め完全に空に溶けていった。


「終わったよ」


アーリーはそう呟くが、視点が微妙にずれ合ってなく手摺に身体を持たれ掛けやっと立っていた。よく見ると握っている彼女の手が少し透けて見えていた。


「アーリー、無理しすぎだよ」


「思ったより・・キツかったよ・・アーネ・・」


アーリーはアーネストに向かって手を伸ばし、まるで受け取ってくれと言わんばかりだ。瞼が重くなってきたのか目が半開きなっていた。ゆっくり抱きしめると彼女は全てを預けてきた。


「お疲れさん」


眠そうに、うんと返事をするとそのまま意識が落ち、アーリーの重さが伝わってきた。


ーー


「ジャガー、感染者数と重症者の数に変化があるか」


「はい、感染者数は爆発的に増えましたが、重症者は激減し始め収束に向かっているようです」


電波塔からアーリーを降ろしクーン城に直行、途中魔力の補給を試みるが意識が戻ることはなかった、そして透明化した肌もそのままだ。アーネストは決行前に意識が飛んでも寝ていれば復活すると言われ、その通りに現在ベッドに寝かせたのは良いがアーリーはピクリとも動かなかった。


「アーリーの容態はどうだ」


「配下のつながりが切れてないので死んでるわけではありません。このまま様子を見るしかないでしょう」


ジャガーは横たわるアーリーを見て心配そうにそう呟いた。


「ふむ、少し無理をしたなアーリー」


いきなり現れた黒の精霊はそう言い放つと、どこから持ってきたのだろう、シュワシュワをスプーンで掬いアーリーの口に数的垂らす。


アーネスト「さ、酒だと!」


アーリー「さ、酒だ、酒だ!」


黒の精霊 「ホレ!」


アーリーの喉がクイっと一瞬動いたと思った瞬間パチクリと目が開き、そのまま起き上がり酒をコクコクと全て飲み干した。一部始終見ていたアーネストとクレアはドン引きだった。


クレア 「あちゃ〜、酒で起きたよ」


「腹減ったよ!食べるわよ!」


侍女「はい!」


起き上がるとテーブルに向かって歩き出し、タイミングを測ったように次々に侍女達が料理を運び、むしゃむしゃと食べ始めるアーリー。


「アーリー、もう大丈夫なの」


「うにゃ、食べたら寝るよ」


ほぼ本能で動いているのだろうか、ひたすら黙々と上品に結構な速さで食べ、締めにシュワシュワをラッパ飲みし、そしてポフンとベッドに倒れた。そしていつの間にか透けていた身体は元に戻り血色も良くなっていたのだった。


アーネスト「出鱈目というか大雑把というか、型破りだね」


「ここまで自分を追い込むなんて、私には出来ないよ」


思いっきり大の字で気持良さそうに寝ているアーリーの寝姿を見て2人は、改めて彼女の凄さを認識するのだった・・。


ーー


食事を摂って24時間後・・・。


「腹減ったわ」


いきなり起きてきたアーリーはシャワーを浴び食堂に現れた。姿を見た料理人は急いで準備を始め、シュワシュワを飲みながら待つこと15分。テーブルの上にはデーンと鳥の丸焼き、サラダ、パスタなど多種多様な料理が並び、最後にミーシャがあの丸いたこ焼きもどきをテーブルの上に置いた。


「これ食べるニャ!」


「勿論、頂きます!」


前回とは違い、ミーシャとお喋りしながら楽しく食事を摂るアーリー。アーネストとクレアは後処理で出かけていたが、急遽戻ってきた。


「アーリー復活したんだね」


「うん、もぐもぐ、ちょっと無理しちゃったね、けど大丈夫よ昔同じくらい使ったことあるからもう平気よ」


「もう、アーリー心配したんだからね!」


「ありがとクレア、それで抑え込めたの?」


「はいアーリー様、こちらをご覧ください」


ジャガーがタブレットを渡し、一瞥したアーリーはフッと笑みになった。そう、各都市の重症者数が激減していたのだった。


「良かったね、もう大丈夫だね」


「アーリー様、各地方からお礼の連絡が多数入っているニャ」


アーリーが自身を犠牲にしウィルスを弱毒化した事が知れ渡り、各地方の代表者からお礼の連絡が入ったのだ。


「うふふ、良かった」


「お礼の品を送りたいと言ってるニャ!」


「不用よ気持ちだけ頂くと返答してね」


「はいニャ!」


「うん、随分食べたね、今日明日はのんびりするね」


アーリーは出された食べ物を殆ど食べ尽くしていた。


「すごいね、それだけ食べるなんて」


「クレアあなたも食べて補給出来るけど、出来るなら精霊に貰ってね。この方法は普通じゃ無いし、真似されると大変になるからね」


「えっ、コレって魔法士の常識じゃなかったんだ」


「関係なくは無いけど、私たちは吸収効率が全く違うのよクレア」


普通の魔法士も食べれば魔力はそれなりに貯まるが、アーリー達はそもそも精霊の加護の数が多く、吸収能力が異常に良いのだ。


「うん、わかった」


「アーリー、食べて回復は見てて怖いよ」


「うん分かった、次は飲んで吸収するわ!」


「あ゛っ、酒が強い上に分解吸収、そりゃ酔わないわけだ」


「じゃ!寝るわ」


そう言うとアーリーは寝室に消えた。


「アーリー無理しすぎだ」


寝室に入ると何故か黒の精霊がいた。彼なりに心配になっていたのだろう。


「わかってるよ、けど助ける方法があるのに黙って見てるなんて私には出来ないの」


「そうか、ありがとう」


フッとアーリーが笑うと、理解したのか黒い霧になって消えいなくなった。


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