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寂しかった少女は温もりを見つけました。幸せになっても良いですか?

作者: 浅村鈴

雪がしんしんと降る最中、城の地下牢では元は高級だろうと分かるドレスを着ているが薄汚れ、裸足の少女が兵士に尋問されていた。


「お前がキャロル様に毒を盛ったんだろう!?さっさと吐け!」


髪を引っ張られ怒鳴りつけられても一言も発する事をしない少女。



少女はディアナ・レーリア。レーリア伯爵令嬢で、先程婚約破棄をされ、キャロル嬢への毒殺の罪で地下牢に入れられて、看守達に罪を認めろと責められていた。

そんなディアナの前に来たのは先程婚約破棄を告げた、カールソン侯爵家の嫡男アンリと婚約破棄直後に婚約したキャロル・シンプソン子爵令嬢だった。



「キャロル、何故こんな女に会いたかったんだ?コイツはお前を毒殺しようとしたんだぞ!?」


「アンリ様、ディアナ様はきっと罪を悔いてらっしゃいます。最後に2人でお話しさせてください」


「キャロルは慈悲深いな。分かった、10分だけだ」


そう言ってアンリはキャロルとディアナを2人きりにした。


「全く、いつまで黙っているのよ!貴方はもう終わりなんだから!実家の力と顔が綺麗なだけで、アンリの婚約者になったのが間違いだったのよ!ご実家の伯爵家も貴方と縁を切りましたわよ。

貴方は明日西の森にある娼館に行くことになるわ。醜い男共の慰み者になりなさい。その綺麗な顔が苦痛で歪むのか見られなくて残念だわ。

あははっ!いい気味だわ!私の勝ちよ!」


キャロルはディアナを見下す様に言いたい事を言い満足したのか、出ていった。




♢♢♢♢♢♢♢




キャロルの言葉通り、娼館に連れて行かれたディアナは兵士に蹴られた。


「こいつをどうしようが、お前達の好きにしたら良いとの事だ」


そう言って兵士は城に引き上げて行った。



娼館の女主人はディアナの身体を起こし、風呂場に連れて行った。

服を脱がせアザだらけの体を見てギョッとしていたが、汚れた頭の先から丁寧に洗い始めた。

風呂から上がると娼婦達がタオルで拭き、身支度を整えた。


「ありがとう」


ディアナは捕まってから初めて言葉を発した。


「お帰りなさい!ディアナ様!」


「お疲れ様でした!」


「これからは此処でゆっくり体を労って下さい!」


娼館の者は年若男女全ての者がディアナの元に集まり涙を流していた。


「心配かけてごめんなさい。皆、ただいま」


ディアナは、笑顔を見せた。直後安心したのか、そのまま眠りに落ちた。


ディアナは実はこの娼館のオーナーだった。6年前、森に迷い込み娼館に辿り着いたディアナは病気で倒れている娼婦達を見つけ回復魔法を使い病気を治した。

当時娼館の環境は劣悪だった。それもそうだろう、西の鬱蒼とした森にある、下級娼館などに訪れる者など、滅多にない。食べられない者達は病気になり次々死んでいった。だが娼婦達は自分達が困っていても、森に捨てられた子供を保護していた。そんな娼婦達は治療してくれたディアナに感謝し、抱きしめた。


「私の事、気味悪くないの?怖くないの?」

「なんでさ?こんなに可愛い子が助けてくれたのに。怖いわけないじゃないか。天使かと思ったくらいだよ」


そう言って1人の娼婦がディアナを抱きしめた。


「うわぁーん!ふぅっ!」


あたたかい温もりを感じ、ディアナは子供のように初めて声を上げて泣き出した。


「随分と我慢していたんだね。沢山泣きな」


そんなディアナを皆が抱きしめて、頭を撫でていた。


「大丈夫、大丈夫だよ」


と声を掛けながら。


前世の記憶を生まれながらに持っていたディアナは幼い頃から両親や周囲から気味が悪い子と思われ、興味の無い娘は侍女に任せっぱなしで、疎遠に扱われていたが、前世の記憶を頼りに伯爵家に出入りする大人を使い商会を作って成功し、幼いながら個人資産を既に持っていた。

12歳のディアナはその後、娼館を買い取り娼館の立て直しをした。

もちろん娼婦達を無理やり働かせたりはしていない。娼婦を辞めたいと言う者には勉強させ、受付や経理、料理人、メイドなど合う仕事をさせ、娼婦を続けたいと言う者には教養を付けさせた。身に付ける物も支給した。

数年が経った頃には高級娼館に変わり、密かに高位の者も通っていた。

恋仲になった場合、知り合いの貴族と養子縁組をさせて嫁入りまでさせた。全て其々の幸せの為に。

娼館の横には捨てられて娼婦達が保護した子供達や娼婦自身の子供達の為に孤児院も作った。

そこでは教師や医者も護衛も常駐して優秀な子供達は此処から巣立ち高位職に就いていた。

その後ディアナ自身は政略の駒として13歳の時にアンリと婚約させられていた。18歳になったら結婚式を挙げる予定だったが顔だけの面白味も可愛げもないディアナが嫌で婚約破棄を告げ、慰謝料など払いたくない為に偽の毒殺未遂の罪を被せた。

カールソン侯爵家にも孤児院出身の子供達が働いていて、ディアナが無実の罪で捕まり、処刑の可能性があると言う情報が娼館に届いていた。

それを聞いたディアナに恩がある全ての者が動き、簡単な死罪より地獄の苦しみを味合わせる為に娼館に落とそうと唆し、敵を上手く使いディアナを娼館に保護する事に成功した。






♢♢♢♢♢♢♢






『ハルク、いつでも孤児院に来て良いからね。今日もお腹いっぱい食べて帰るのよ』


ディアナはたまに孤児院に来るハルクに向かって気遣っていた。


『ありがとう!今日はトマスとキノコ狩りする約束していたんだ。行ってくる!帰ったらシチュー作ってよ!ディアナのシチュー最高だから!』


『分かったわ、今日のお昼はシチューね』







「……!ディアナ!目が覚めたか?」


「ハルク?」


「良かった。眠って起きないから心配したんだ」


いまにも泣きそうな青年がディアナを見つめていた。


「さっきね、昔ハルクが孤児院に来て、トマスとキノコ狩りに行く夢を見たの。小さなハルクが懐かしかったわ。ふふっ」


「俺が小さい時はディアナだって小さかったんだからな。シチュー、レイラさんが作ってくれたから少しでも食べろよ」


「うん、ありがとう」


「此処でゆっくりして体力回復しとけよ。俺が守ってやるからな」


そう言って、ハルクはディアナの額にキスした。


安心したディアナはまた眠りについた。


「アイツら、絶対に許さねぇ!」


ハルクの顔は鬼神の様だった。館の女性達からディアナの体の傷やアザの酷さを聞いていたから……。







♢♢♢♢♢♢♢♢








カールソン侯爵夫妻と嫡男アンリ、シンプソン子爵夫妻と令嬢キャロルが王宮に呼び出されていた。

部屋に入ると、国王、寵姫マリアンヌ、王太子のハルクが待っていた。

王妃は数年前に他界し、その後マリアンヌがハルクの母代わりとなった為、公式の場でもいつも3人で出席していた。



「此度、令息と令嬢の婚約が決まったそうだな。めでたい事である」


先に声を掛けたのは国王だった。



「ありがとうございます」


「そういえば、アンリ御子息は前は違う方と御婚約されてましたわね?確かレーリア伯爵の御息女だった記憶が……」


「おっしゃる通りです。ですが、彼女は弱き者を虐める悪女でした。婚約破棄をし、新たにキャロル嬢との婚約になりました」


「そうだったんですね。そうそう、この度王太子の婚約も決まったのですよ」


「それはめでたい!どちらの御令嬢がご婚約者になられるのですか?」


「宰相様の末の御息女ですわ」



最近噂になっている優秀な御令嬢ですな


「「「おめでとうございます」」」



「宰相と御息女が登城したそうだ。その方達にも紹介しよう」


宰相と部屋に入った息女に目を奪われた。



「ディアナ!?」


「アンリ様、上の者を呼び捨てはどうかと思いましてよ」


マリアンヌが窘めた。


「で、ですが、あの女はディアナ・レーリアではないですか?」


「彼女は確かにディアナですが、ディアナ・ファラモス公爵令嬢です」


ハルク王太子が微笑みながら答えた。


「その通りです。私の末の愛娘です。変な言いがかりはやめて頂きたい!」


宰相はアンリ達を睨んだ。


「そういえばカールソン侯爵、その方国から預かり経営している荘園をフレン子爵に売却したと聞いたが、間違い無いか?」


「は?その様な事は決して致しておりません。国から預かった荘園を売却するなど、あってはならない事です」


「実はな、今フレン子爵が来ているのだ。通しても良いか?」


「もちろん構いません!陛下の目の前で真実を!」


「フレン子爵入れ」


「失礼いたします。先程カールソン侯爵様が間違いだと言われましたが、こちらが譲渡契約書と荘園の所有者証書でございます。間違いなくカールソン侯爵家の印が押してあります。ご確認ください」


「ま、間違いなく我が家の印だ!?だが何故?私はこの書類を見たこともない」


「私は確かにこの書類を頂き、代金もお渡ししました。そちらにいらっしゃるご子息のアンリ様に。その時にそばにいらっしゃる御令嬢もご一緒でしたよ」


「アンリ!どう言う事だ!?」


真っ青になった侯爵はアンリを問いただした。


「そ、それは……。家督を継げば私の物になるのだと……。少しくらい先に売却しても問題ないと思って」


「なんだと!?勝手に我が家の印を押し、売却したのか!?あれは国から信頼の証で預かり経営していた物だ!国のものだ!それに今はまだ貴様が家督を継いだわけではなく、私が侯爵だ!何故そんな勝手なことを!」


「侯爵様!アンリ様を責めないでください!アンリ様は私にプレゼントをする為に少し借金が増えてしまって、困っていたのです」


「………」


キャロルの驚愕の言葉に一同凍りつき言葉を失っていた。キャロル本人は何が悪いのか分からない様子だった。


「侯爵、知らなかったとは言え、国の荘園を無断で売却した、嫡子であるアンリ様がされた事。どう責任取られるおつもりですか?」


沈黙を破ったのは宰相の言葉だった。



「し、子爵、荘園を倍の金額で買い取らせて頂きたい!」


「それは出来ません」


「な、何故だ!?」


「もうすでに私の手から離れています。先日、宰相様のご息女のご結婚祝いにディアナ様に差し上げてしまっておりますので」


「その通りだ。娘に頂いた結婚祝いを見て驚愕したわい。まさかカールソン侯爵が国から任された荘園が結婚祝いとは。直ぐに調べたら、ご子息のした事と分かってな。大事になる前にワシが王家に報告し、お返しした。

侯爵、此度の責任どう取られるおつもりか?」


宰相の話を聞き侯爵は力が抜けていた。


「愚息が申し訳ありませんでした。

コイツは廃嫡と致し、貴族籍からは外します。そして私は責任を取り侯爵の地位を弟のフェルトに譲ります。

どうか侯爵家取り潰しだけは……」


「カールソン侯爵、そちの気持ちは分かった。認めよう」


「ち、父上、廃嫡されたら私はどうなるのですか?」


「いまからは父でも子でも無い!

貴族でも無い。好きなように生きていくが良い」


「キャロル!君はオレを見捨てないよな?な?」


「触らないで!何もない貴方とは婚約破棄よ!!」


「そ、そんな!荘園を売ればお金になると教えてくれたのはキャロルじゃないか!」


「そ、そんなの知らないわ!」


「シンプソン子爵、契約時娘さんが居たのは事実です。知らないでは通りませんぞ!」


「む、娘は我が家の籍から外します!それでお許しください!」


「お父様酷いわ!私を捨てるのですか?」


キャロルは父の足にしがみついた。


「トカゲの尻尾切りの様に娘を切るか…。それもよかろう。

しかし、シンプソン子爵は領民に国に報告せず、多大な税を課している上、払えない者は家族を奴隷商に売り渡していると確認が取れている。

この国で奴隷販売は違反行為だと知っておろう!!証拠は既に揃っているぞ!!」


「お待ち下さい!何かの間違いです!!」


「見苦しい!連れて行け!追って沙汰を下す!」


シンプソン子爵は兵士に連れて行かれ、カールソン侯爵夫妻、シンプソン子爵夫人、アンリ、キャロル、そしてフレン子爵はその場を下がった。




「ディアナ、やっと家族になれるのね。嬉しいわ」


「マリアンヌ様」


「今まで通りマリアンヌと呼んで頂戴」


マリアンヌはディアナを抱きしめ髪を撫でた。


国王の寵妃である側妃のマリアンヌはディアナの娼館出身者だった。

元々は侯爵家の娘だったマリアンヌは家が策略により取り潰され、娼館に売られていた。当時の娼婦達に隠され客を取ることは無く、美しい顔を隠し下働きとして働いていた。

ディアナが娼館を改善した事により密かに宰相までお客として来ていた事で、国王が側妃を探していると聞いたディアナが女主人から宰相にマリアンヌを推薦させ、国王に目通り後、美しく聡明なマリアンヌを寵愛し、側妃になった。マリアンヌの後ろ盾には宰相がなっていた。宰相とマリアンヌの父は親友で娼館に落とされたマリアンヌを探していたのだった。

マリアンヌは亡くなった王太子の母の代わりに王太子を愛し、育てていた。

そして恩のある女の子の話をよくしていた。

自分が此処に居て、国王と貴方を愛せるのはディアナと言う少女のお陰なのだと。


「マリアンヌ母上、ディアナとはどんな少女なのですか?」


「ディアナは親に愛されなかった子。でもそれでも負けずに生きて、その上私達を助ける勇気を持った子ね」


「そんな子が居るんですね!僕のお嫁さんになってくれたら良いのに」


「残念ながら先日婚約が決まったそうなの…。でもディアナが辛い思いをしたら手を差し伸べて助けてあげて。約束してくれる?」


「はい!もちろんです!母上の恩人は絶対に助けます!!」


ハルクはマリアンヌから聞いた恩人の少女に会いたくて、王族に伝わる抜け道から城を抜け出し、西の森に来ていた。

孤児院で食事の用意をしている少女がいた。

見つめているハルクにディアナが声を掛けた。


「お腹空いてない?食べてって」


笑顔でお皿を差し出してくれた。


普段は毒味をしていない食べ物には手をつけることはなかったが、不思議と手が伸びて受け取っていた。


「美味しい!」


「良かった。おかわりもあるからね。私はディアナよ。お腹空いたらいつでも来てね」


『……!!この子がディアナ!?』


「ディアナ?」


「はい、どうかした?おかわりいる?」


「僕は、僕はハルク!よろしく!」


「よろしくハルク!」


ハルクはたまに王宮を抜け出し、ディアナが居る森に来ていた。来てもディアナが居ない時もあったが、孤児院の子達とケンカもしながら、仲良くなっていた。身分も関係なく出来た友達。

捨てられたこの森の者達とディアナは自分が守るのだとハルクは決意していた。

婚約者がいるディアナの横に立つことが出来ないとしても。


「今世では無理だけど、生まれ変わったら、絶対にハルクのお嫁さんにしてね。私はハルクが1番好きよ」


「僕もディアナが好きだ」


ハルクはディアナと約束のキスをした。


生まれ変わったらとの約束だったが、今世での約束に変わり、二人は結婚し、民の良き君主となり末永く幸せに暮らしました。


数ある作品から読んで頂きありがとうございます!

評価頂けると力の源になりますので、どうかよろしくお願い致します。


前作より時間が空いてしまいました。

寒くなると体が追いつかず、おまたせしました。

また少しずつ書いて投稿していきます。

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[良い点] ディアナが幸せを掴めて良かった! [気になる点] ディアナがなぜ実家である伯爵家で迫害されたのかが、エピソードが足らなすぎてうまく伝わって来ませんでした。 王家の事情や宰相に引き取られる…
[良い点] サクサクスッキリ読めました。面白かったです [一言] 良いストーリーだったから、短編じゃなくて5から8話の中編で読みたかった。
[良い点] はいち [一言] よく出来てるキャラ造形と配置。 ハラハラが割とすぐ解消したので良かった〜
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