六章 晴天
六章 晴天
そこにいたのは神崎だった。
「久しぶり、白亜、竜胆。」
神崎は微笑んでそう言った。その笑顔は、とても無邪気だった。
8年前もそうだった。俺はあの笑顔に惚れたんだ。
あれは確か…、空には雲一つなくて、太陽の日差しが満遍なく差し込んでいた初夏だったな。
俺が小2の頃。放課後、俺はよくクラスの男友達とかくれんぼをしていた。その日もかくれんぼをした。10人くらいいたかな。
そのメンバーには竜胆もいた。ただ、その時はまだ親友と呼べる仲ではなかった。たまに話すくらいのただの友達だ。
じゃんけんをして、竜胆が鬼になった。かくれんぼは校内全て使える。まあ先生に許可などとっていなかったが。
俺は体育館に向かった。体育館には人1人入れるくらいの大きさの倉庫がある。俺はその倉庫に隠れることにした。そこはとても暗くて、自分の手でさえ見えないほどだった。
はやく見つけてくれないかな。こんなところはやく出たい。
そう思いながら、隠れ続けた。
それから20分ほどたった。俺はまだ見つかっていない。そろそろみんな見つかっただろう。もうこんなところ出てしまおう。そう思い、俺は倉庫の扉を内側から開けようとした。
「ドンッ、ドンッ」
あれ?開かない。向きが違ったのか?もう一回。
「ドンッ、ドンッ」
あれ?…なんだこれ。まさか清掃員に鍵を閉められたのか?やばい。出れない。
何度も扉をガタガタ鳴らした。それでも、開かなかった。俺は、倉庫の中で一人泣いた。
「もう、ここから出れないんだ…」
幼い体で、闇の中泣き続けた。
暗い倉庫の中で、涙が出なくなるくらいに。
隠れてから1時間ほど、ひたすら泣いた。
「ガチャ」
そんな音が鳴ったそのとき、暗い倉庫に、一筋の光が差し込んだ。
「キシキシ」
傷んだドアが、擦れる音を出しながら開いた。
そこには、竜胆と神崎がいた。
「おい白亜、探したぞ!どこ隠れてんだよばーか」
「もう大丈夫よ、無事そうで良かったわ。もうこんなところに隠れないことね。」
竜胆は少し怒ったような顔で、神崎は微笑んでそう言った。
神崎のその笑顔に、俺は心を撃たれた。
そして俺たちはその後一緒に帰って、お互い家が近いことがわかって、登下校も一緒にするようになった。そこから同じ中学、高校に行って、俺らはずっと一緒にいた。
そして、神崎殺害事件が起きた。あの事件は、俺も、竜胆も、酷いほど心が傷んだ。
あぁ、もう神崎には会えないのか。
と絶望した。
もう会えないと思っていた神崎が、今、目の前にいる。
俺は、いつの間にか神崎に抱きついていた。
「ごめん、神崎。待たせた。」
「うん、待ってたよ。ずっと。」
神崎は微笑みながら、そして泣きながらそう言った。
「感動の再会ってやつだなー!よかったよかった!」
あ、竜胆がいるの忘れてた。竜胆の前でハグしちまった。
俺も、神崎も、頬を赤らめた。俺はハグをやめて、竜胆に言った。
「こ、これは違うんだ!勘違いするなよ竜胆!」
「まあそういうことにしといてやるよっ」
俺は一息ついた。
ほんと竜胆は陽気なやつだな。これが良いのか悪いのか。
まあ、そんなことはいいか。そんなことより、
「色々聞きたいことがあるんだが、神崎。いいか?」
「ええ。答えられるものはなんでも答えるわ。」
よし、じゃあ、
「まずは神崎殺害事件についてだ。まあ死んではいないが。神崎は死んだふりをしていたのか?」
「ええ。」
「なんでそんなことをした?」
「私を殺そうとしたのは吸血鬼だったわ。そして、もう知っていると思うけれど私は神族の王の血筋なの。
神族は吸血鬼に血を吸われても死なないから、神族は吸血鬼の天敵なの。
あのとき、私が死んだふりをしなければ、私だけでなく、周りの人にも危害が及ぶことは容易に想像できたわ。
もしあの極悪吸血鬼組織[冷惨血刻]にマークされたらあなたたちも死んでいたわ。」
…冷惨血刻?なんだそれは…
「その顔は…冷惨血刻を知らないのね。冷惨血刻は100万年前、竜族や神族の大量虐殺をした集団よ。」
100万年前の大量虐殺…、そうか、霞さんが言っていたあの事件か。つまりは…
「つまり、神崎は俺たちを守る為に死んだふりをしたと。」
神崎は大きく頷いた。俺は、もう一つの質問をした。
「次だ。吸血鬼の王、緋闇業の血筋の場所はわかるか。」
「ええ、わかるわ。前に神眼を使って探し出した。」
「それは本当か!奴の子孫は今何処にいる!」
「緋闇業は…まだ生きているわ。」
…は?何の冗談だ。緋闇業が生きていたのは100万年前じゃないのか?
「緋闇業は…100万年前からずっと生き永らえている。」
100万年前から生き永らえている???吸血鬼は不死か何かか?
「吸血鬼は血を吸うことで生命エネルギーを作り出すわ。つまり、血を吸い続けることができればいつまでも生き永らえることができるということよ。」
そんなことが…。吸血鬼は擬似的に不死を作り出すことができるのか。
「えーと、2人が話してるところ悪いんだけど、結局緋闇業ってやつはどこにいんの?」
竜胆が口を挟んだ。
「緋闇業は、Zー999の孤島にいるわ。」
Zー999だと?最南東じゃないか。そこまで行くには相当な時間がかかりそうだな。
竜胆は「うーん」と嘆いて言った。
「Zー999かあ、竜で飛んだとしても3日はかかるな…。他の移動手段は?」
「多分、竜で行くのが1番速いわ。」
確かにそうだ。Z−999の孤島にいるのなら竜で空を飛んで海を渡り、一直線に向かうのが最速だ。
これで次の行き先は決まったな。
「よし、じゃあこれからは行動を共にして、Z−999の孤島へ向かおう。それと、最後の質問だ。神崎は、核を持っているか?」
「白核を持っているけど、核がどうかした?」
俺は神崎に、核を集め願い事を叶えて吸血鬼の根絶やしをする計画を伝えた。
「なるほどね。だから緋闇業の居場所を知りたかったのね。」
「ああ、幸い俺たちはすでに二つの核を持っている。後は吸血鬼の王から赫核と黒核を奪えればミッションコンプリートだ。」
「そうね、そして一刻も早く吸血鬼を根絶やしにしましょう。」
話がまとまったところで、天境凛ちゃんが「そろそろ閉じますが、よろしいでしょうか?」と言った。
俺たちはコクンと頷いた。
天境双子は再び手を絡めあい、唱えた。
「クウカンヘイサ」
「クウカンヘイサ」
稲光が降り、瞬きをしたその一瞬でその空間は消えた。
目の前には凪凛太郎さんがいて、律儀に座っていた。
「そこの貴方は…神崎茜さんですか?」
「はい、失礼ですがどなたでしょう?」
「僕は凪凛太郎、かつて人間界の王だった凪悟の子孫です。」
「あなたが凪さんですか。これから行動を共にすると思いますが、以後お願いします〜。」
「ええ、こちらもお願いします。」
2人の挨拶が終わって、俺たちは天境家をでた。
外はかなり暗くなっていて、空には月が浮かんでいた。
凛ちゃんが、「今日はもう遅いので、泊まっていかれませんか?」と言った。
俺と竜胆と神崎は泊まることにしたが、凪さんは「涼太と涼平もZ−999に連れて行きたいので一旦帰ります」と言って1人で車に乗って帰っていった。
俺たちは1人ずつ違う部屋で寝た。
布団の中で少し考え事をした。
これから向かうのはZ−999の孤島。恐らく、俺たちと吸血鬼とで戦いが起こるだろう。
でも、こっちには十分な戦力がある。
吸血鬼の俺、飛行や攻撃に長けた竜族の竜胆那智、3秒先の未来が視える凪三つ子、そして血を吸われても死なない神族の神崎茜。
このメンバーなら絶対に勝てる。
明日からZー999へ向かう。今日はもう寝よう。
そんなことを考えながら、俺は眠りについた。
俺が眠りについて1時間後くらいに、僕は目を覚ました。
外に出て、空を見上げた。綺麗な三日月だった。
そういえば、あの日の月も三日月だったな…。
その刹那、緋色の記憶が蘇った。
僕は、頭を抱えて、涙を流して、発狂した。