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十三話 王都を駆け抜けろ!

「思ったより大きいですね? どうやって運びましょうか」


 貨物車の中に納められた黒光りするユートを見て、ヴァニーユは困った顔をした。駅の方でもこれを持て余していたようで、ここまで案内してくれた駅員の顔色は優れない。


「俺動かそうか?」

「動くんですか、これ!」

「ああ、動くさ」


 驚いているヴァニーユの横をすり抜け、グレイルはユートのロックを解除しドアを開ける。キーを回すとV8のオーストラリア製のエンジンがうなりを上げた。


 その音の大きさに護衛や駅員たちが怯んで一歩退く中、ヴァニーユだけは目を輝かせて黒光りするユートを見つめている。


 グレイルはそんなヴァニーユに感心し、少しだけ彼を見る目が変わった。


「これって機械で動く車の一種なんでしょうか。こんな模型サイズのものが動くなんて、信じがたいです」

「模型って……。自家用車の中ではかなりデカイ部類なんだぜ、コイツは」

「そうなんですね。我々の言う機械車はもっと大きくて荷物を運ぶ専用ですので」

「ふぅん」


 列車とはまた別に、運搬用の車があるのかもしれない。この国の文明レベルはよくわからないが、王都に来てもそこまで発展しているように見えないし、もしかすると近代化への端緒である産業革命は、この国ではまだ起こっていないのかもしれない。


「ひとまず、どこまで?」

「王宮まで」

「よし。乗れよ」


 グレイルは運転席に座り、ヴァニーユは助手席へ。

 どうしてもついて来ると言って聞かないボディガード二人は荷台に追いやられてしまった。なにせピックアップトラックなので、座席がないのだ。


「後悔すんなよ。あと、吐くなら降りてからにしろ」

「え……ちょ、ヴァニーユ様?」

「あの、これ、ゆっくり動くやつだよな?」


 ビクビクしているボディガードたち。いい大人だが、やはり初めての経験には心構えが必要らしい。


「飛ばしちゃってください」

「そんなぁ!」


 グレイルは構わずエンジンをふかす。気合十分!

 あとはかっ飛ばすだけだ。


「じゃー道案内よろしく」

「ええ。大きい道をそのまま進んで、坂を上ってください」

「それじゃ全開!」

「ひっ!? うわぁぁぁぁ!」

「ちょ、まっ、ああああああ!」


 いきなり唸りを上げて動き始めたユートに、護衛の二人は悲鳴を上げた。今頃大慌てで荷台の縁にかじりついていることだろう。一方、こういう乗り物は初めてのようなことを言っていたヴァニーユは目を輝かせていた。


「おお! 窓を開けても? 風を感じたいです」

「窓開けたら煙入ってくるぞ」

「構いませんよ。懐かしい……」


 石畳で舗装された道をユートが走る。辺りを歩いていた人々は悲鳴を上げながら脇へ避けていった。警笛が聞こえ、衛兵らしき男たちが追いかけてくる。グレイルはアクセルをさらに踏んだ。


「懐かしいってなんだよ」

「昔、風の精霊さまに連れられて空を飛びました。もう、何年も彼に会っていない。彼女に捕らえられてからずっと……。こんなに心がスッキリしたのは久しぶりです。ありがとう、グレイルさん」

「お、おう」


 城へ到着すると、門の前に槍を持った衛兵たちが大勢待ち構えていた。


「捕らえろ~~~!!」

「おおお〜!」

「やめなさい。この人は女王陛下への貢ぎ物です。この車も、安全な場所に保管しておくこと。すべて女王のものなのだから」


 気色ばんだ表情でグレイルを見ていた兵士たちだったが、ここでも、ヴァニーユの一喝で彼らはすぐさま引き下がった。女王の虜囚だという話だが、只者ではないことは確かのようだ。


「はっ、失礼いたしました! お前たち、運べ!」

「はっ!」


 すっかり車酔いしてゲーゲー吐いているボディガードたちを置き去りに、ヴァニーユとグレイルは城の内部へ案内された。なんとか捕まらずにすんだと思ったグレイルだったが、連れていかれた先はドアも窓も厳重にロックされた部屋で、閉じ込められているのは牢獄もここも同じだった。


「俺たちこれからどうなるんだ?」

「お風呂のあとに夕飯で、それから私は女王陛下に呼ばれたり、呼ばれなかったりすると思います」

「で、ソイツには先制攻撃すれば良いの?」

「攻撃しないで、説得してください!」


 ヴァニーユは苦笑する。この隷属の輪が外れなければグレイルを精霊のいる場所へ連れて行けない。そして、その輪を外せるのは女王だけなのだ。


「じゃあ、何か女王様の好きな食べ物とか持っていけばいいんじゃねえの?」

「なるほど! 懐柔作戦ですね!」


 女王という国のVIPに対してそんな物が果たして通用するかは謎だが、会いに行くなら手土産の一つくらい必要だろうとグレイルは考えた。


「しかし、好物と言われましても……」


 だが肝心のモノが用意できなければ無意味だ。頼みの綱のヴァニーユは、どうやら何も思い浮かばないようである。


「旦那ならそれ位知ってろよ!!」

「そんなこと言われても困ります〜〜!」


 グレイルが頬をツンツンつつくと、ヴァニーユは悲鳴のような声を上げた。


「ったく。そうだな、例えば甘いもんとかはどうだ? ケーキとかチョコレートとか、なんかあんだろ」

「食べてるところは見たことがなくて……」

「……じゃあ、花は」

「食べてるところは見たことがなく……」

「食いもんじゃねえええええええ!」

「あああああああ!」


 グレイルは腕ひしぎ腕固めを仕掛けてヴァニーユをしめた。

 まったく、同じ妻帯者として呆れてしまう。仕方がなくグレイルは女王の機嫌をうかがう方法を一緒に考えてやることにした。


 しかし、奴隷なせいかそれとも生来の気質か、この男は女王の好みどころかスリーサイズすら把握していなかったのである。


「花や香水は匂いによってダメとかがあるし、靴もダメ、下着も無理なら本当にお前、何ができるんだよ。教えてくれよ!」

「あはは……面目ありません」

「ここはやっぱ、無難に食いもんでいくしかねぇなぁ」

「女王のお呼びがかかったら、迎えに来ますからね。早くて四日後だと思いますので、それまでに買い物を済ませておかなければいけませんね」


 方針は決まったものの、不安しかないグレイルだった。

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