十ニ話 デッドオアアライブな話の内容
そのとき、部屋の中にたくさんの料理を携えた店員たちが入ってきた。湯気を立てたご馳走がテーブルの上に並べられていく。それらの位置をすべて指示し、取り分けさせる采配を取るのは、なぜかクリエムハルトだ。
グレイルは彼らに譲るように席を立ち、ヴァニーユの側へ移動した。
「別について行ってもいーけどさ、何処に行くつもりなんだよ。それにあのガキ共どーすんの? 置いてくのか?」
ヴァニーユは頷いて、やや大きな声で言った。
「グレイルさん、お手洗いに行きたくありませんか?」
「……まぁ、行ってもいいけど。男と連れションする趣味はねーが、まあ、アンタが行きたいってんなら」
「行きましょう」
二人いるボディガードが互いに目配せをして、一人がついてこようとするのを、グレイルは手で制した。
「おっと、ついてくるなよ? 狭いんだから邪魔なんだよ」
「そういうわけには」
「大丈夫、逃げませんよ。それよりもちゃんと王子を見ていてください。何をするかわかりませんから」
ヴァニーユもそう言い、ボディガードたちは渋々それに従った。廊下を歩きながら、ふと思いついたようにグレイルが言う。
「そういえば、アンタいくつなんだ?」
「え? 二十七ですが……」
「うおっ!? 十四歳の母じゃなくて十七歳の父じゃねーかよ!」
「ええっ!? 何かいけませんか?」
「あのガキまだ十歳だって言ってたからよぉ。……でも、もしかして他にも子供いるんじゃねえの? だってあの水色……」
「ええっと、お手洗い行きましょう!」
グレイルの言葉を遮り、ヴァニーユは男性用のトイレのドアを開けた。誰にでも言いたくないことの一つはあるものだろう、グレイルはそう思ってそれ以上は追求しなかった。
「先程の話ですが、この世界には、まれに異世界から落ちてくる人がいるんですよ。貴方のように」
「そうらしいな」
「ええ。貴方の力になってくれるとしたら、時間と空間を司る、時の精霊さま以外ありえません。しかし、それもどこへ帰りたいか、正確な場所がわからないと、帰れないのです。グレイルさんは、どうですか?」
「旅先だからなぁ。さっきも言った通り、思い出せると言えば、思い出せる」
「なら、急ぎましょう」
「で? デッドオアアライブなミッションの中身は何だよ」
グレイルの言葉に、ヴァニーユは表情を曇らせ、足に嵌まった輪を指し示した。
「……女王に、私のこの輪を外してもらわないといけないのです」
「つまり?」
「彼女は、私を王都から出してくれません。輪を外して、王都を出て、精霊さまの助けを借りなければ貴方を元の世界に帰せません。彼女に会って、輪を外してもらえるよう説得してくれませんか?」
グレイルは顔をしかめた。説得は苦手な分野だ。
しかも、その女王とやらはどう考えても物分かりのいい人物には思えない。
「うわ、めんどくせー」
「そう言わずに! 私、彼女苦手なんです……それに、私は奴隷なので、逆らえず……」
「とにかくそいつに会えばいいんか?」
「っハイ! それで、この輪っかを外してもらって、あと好きに外出する権利と、息子に会う権利をください! どうぞよろしくお願いします、グレイルさん!」
「いや、救世主みたいに言われてもよぉ」
「救世主! よい響きですね! ぜひに!」
「ソイツぶん殴ればいいのか?」
「戦って勝てるといいんですけど」
「とにかくソイツんとこ行きゃーいいんだろ?」
「はい! ちなみに、お荷物はそれで全部ですか? 全部持ってないと帰れませんよ」
「いや、一つでっかいのがあるんだけど……」
グレイルは旧王都から運んできた借り物のユートのことを頭に思い浮かべた。荷物と言える荷物はあれくらいしかない。
「列車に載せてきたんだよ。見てもらった方がはえーや」
「では、行ってみましょう。あ、もちろん、食事の後で」
話はまとまった。が、当然それを邪魔する者たちがいた。
グレイルたちが食事の席に戻ると、険しい顔をしたカス王子が仁王立ちして待っていた。その後方にはオドオドした水色の髪の従者が小さくなって立っている。
「父上! もうコイツに関わってはいけません! こんな者ほうっておいて城に戻りましょう!」
「おい、邪魔すんなよ」
「そうですよ、クリエムハルト。グレイルさんは貴方の命の恩人なんでしょう? それに、陛下もきっと、異世界から来た彼に会いたがるはずです」
「母上が? あの、母上が……?」
「とにかく、グレイルさんの荷物を持って、城へ行くのです」
その宣言にクリエムハルトやヴァニーユのボディガードたちは顔をしかめた。グレイルにとってもかなり突然のなりゆきだったが、彼らにとっては予期しない、驚くべきことだったようだ。
「勝手なことをされては困ります!」
「お考え直しいただきたい」
「いいえ。すべては我が女王のためです。それとも、彼を捨て置いて、女王の機嫌を損ねたら、貴方が責任を取ってくれますか?」
「それは……」
のんびりして見えるヴァニーユだが、護衛の進言を毅然とした態度で退ける。すべてはもう決定事項なのだと、その声は告げていた。
「座りましょう、グレイルさん。クリエムハルトは下がっていなさい」
「…………」
クリエムハルトは無言でグレイルを睨みつけると、二人の脇を抜けて走り去っていった。アイスシュークが慌てた様子で追いかけていく。
「アイツらどーすんの」
「放っておきましょう。王都なら、危険は少ないはずです」
「ふーん」
ヴァニーユは寂しそうに笑うと席につき、グレイルにも椅子を勧めるのだった。




