敵対
僕がNに合鍵を渡して以降、たびたび僕の日記に書き置きがされるようになった。それは異様なほどに具体的なもので、将棋を始めろだとか、スマホに名前をつけろだとか、よくわからないものも含まれていた。そして決まって最後には好感度の数値が書かれていた。でも、みんなNの仕業だということを僕は知っている。
これは僕の憶測だけど、彼女は日記に書き置きをして、僕に理想の男性になってほしいんじゃないかな。ここ最近の好感度がどんどん上がっているのも、僕が彼女の要求を達成しているからだと思う。将来良い家庭が築けるように精進せねば!
そういえば今朝の分はまだ見ていなかったな。今のうちに見ておこう。
近日、たこ焼きパーティが開催される。男子の余興、二人羽織にて全力でウケを狙え。現在の好感度、十四万三千。
たこ焼きパーティ? ああ、Oがなんか言ってたな。二人羽織でウケを狙え……、ふふ、私を楽しませてってことか。任せてくれよハニー。
それにしてもやはり、僕はNに誘導されている。まるで女神が僕の青春を導いてくれてるみたいだ。でもなんで直接言ってくれないんだろう……。
そうだ、今夜はNを待ってみよう。徹夜すれば絶対に彼女と鉢合わせるはずだ。そうと決まれば、今から寝ておくか。
……まずい、全然来ない。
なぜだ。もう朝の六時だぞ。一体いつ来るんだ?
眠たすぎる。今日も学校だというのに何をしてるんだ僕は。お願いだからN、早く来てくれ。焦らしプレイは僕の性に合わない。
「ごはんよー」
やばい、お母さんが呼んでる。ここまでか。当然日記には何も書かれてない。今日は来られない日なのか……?
もういい。学校の準備しよう。
部活の時間だ。でも眠くて力が入らない。
「昨日さー、ししょーと遅くまで喋っててさー。今日すっごい眠かったわー」
NとⅢの話を盗み聞けた。あああっ! くそっ! 少し予想してたけどやっぱりあいつかっ! 許せん、彼女の夜這いを邪魔するなんて!
「おいっ、S」
「おお、どうしたH」
僕はわなわなと震える手で、今にも殴りかからんばかりに問い詰めた。
「ちょっと来い、話がある」
「え……、俺もうすぐ立なんだけど……」
「いいからっ!」
僕はSの胸ぐらをつかんで外に引っ張り出した。
「お前、昨日の夜Nと喋ってただろ」
「え、なんで知ってんの」
「もう二度と電話すんな」
「いや、電話してきたの向こうなんだけど」とSはとぼけた顔で返した。
「うるさいっ! 嘘つくな! どうせ遅くに無理やり電話したんだろ! Nは迷惑してんだよ。次はないぞ」
そう言って部室に戻った。Sは僕の気迫に完全に委縮していた。ははは、ざまあみろ。
今日もNを魔の手から守った。良いことをするってのは気持ちいいな。
そうだ、二人羽織のペア、絶対にあいつとは組まないようにしよう。あいつらにも聞いてみるか。
「二人羽織のペアってもう決まったのか」
玄関で駄弁っていた馬鹿どもは一斉にこちらを向いた。実に間抜けな顔だ。
「あ、そういえばまだ決めてないな」
先に口を開いたのはMだ。それを聞いてOが続く。
「当日の的中で決めればよくね。Yはどうする?」
「俺は食う方じゃなかったら誰でもいいよ」
「Y~」
MがYを呼ぶこの声、絶妙に腹が立つな。耳が腐りそうだ。
「Aは?」とOが尋ねる。
「俺はSとがいいなあ」
「マジでっ!?」
つい身を乗り出してしまった。Aは驚いた顔で「え、うん」と答えた。
「よし、よろしく頼むぞ。頑張れよ」
「は? どうしたお前」
僕は高笑いしてその場を後にした。四匹は呆然と僕の勇ましい後ろ姿を見送っていた。