窮地
例の時間が刻々と近づいてくる。五時三十六分、Nが射抜かれるとか書いてたけど、安全管理は行き届いているし、いったいどうやって……。
「あー、矢取だりぃー。S、代わりに行ってよ」
「なんでだよ」
よしよし。いいぞ、A。そのままSを引き付けておけ。
そういえば今日は一度もNと話していない。妙に避けられている気がする。そうか、昨日のことがいまだに恥ずかしいんだな。ふふ、僕は全部わかってるよ。今だって君の半径二メートル以内に居るようにしてる。それが紳士の礼儀ってやつだ。
ああ、Aの言っていたように僕も矢取だ。今日のメンバーは……、僕、N、A、Y、O。まあ、王様に王女、その家来たちってところか。
ん、Nが動いた。僕もそろそろ行こう。
「A~、一緒行こ~」
「うわっ、なんだこいつ!?」
いつものようにOがAにへばりついている。まったく、気持ち悪い奴らだ。男同士でいちゃついて、まともに青春も送れないのか、こいつらは。
Nはというと、僕の後ろを静かに付いてきている。まるでペットのようだ。うーん、そういうプレイもいいなあ。
看的所に着くと、Nはすぐさま出口付近で安土のほうを向いて待機した。いつもは僕と喋ってくれるのに。
あっ、忘れてた。さっき時計を見たらもうすぐ五時三十六分だった。ということはこの矢取のタイミングか……?
赤いランプが光り、サイレンが鳴り響く。立が終わったみたいだ。「入ります」と言ってNが手をたたく。
あれ……、でも、まだ三本しか……。
「あっ……」
「あぶないっ!」
「まだまだまだまだまだまだっ!」
三人が鳴き声を発した。
やばい、Nっ!
「え……」
Nの手首をつかみ、思いきり引き寄せる。がくんと傾いた彼女の眼前に矢が突き刺さった。
「あ、あ、あ、危な……」
五人は刺さった矢を呆然と見つめていた。あのまま行ったら確実にNを捉えていた。
震える僕の手からは手汗が噴き出て、彼女の手首を濡らした。
「あの、H……、離して」
「あっ、ごめん!」
僕はNの手首からぱっと手を離した。この温もりは絶対忘れない。
それにしても、あの日記に書かれていたことが本当に起こるとは。いや、あれはNが書いたものだから、彼女が僕の気を引くためにわざと……?
デュフっとつい微笑みがこぼれる。「うわきも」という声が聞こえたが、今の僕はまったく気にならなかった。
矢取から帰ると、Mが必死にNに頭を下げていた。ああ、さっきのはお前だったのか。絶対許さねえからなこの野郎。まあいいか、これでこいつのアンチも少しは増えただろう。Aとの高貴で優雅な恋バナのときも、Mのことは散々に言ってやったし。
ひとまず安心だ。今夜もNは来てくれるかな。