女神
頭脳明晰、容姿端麗の僕、Hは今日もNを見つめていた。
「ししょー! ししょー!」
彼女の笑顔が僕の生きがいだ。でもどうやら僕と彼女の仲を引き裂く、うざったいクソ野郎がいるようだ。奴はNと並んで談笑している。苛立ちが募る。何故僕と喋らない!
仕方がない、こういうときは死んだような目で虚空を見つめていよう。そうしていれば、もうじき……。
「H君、元気ないね」
きた。僕の従順な下僕のⅢだ。彼女は誰に対しても明るく振る舞う女だが、僕と話すときは一際嬉しそうだ。
「それが、Nが……」
僕がそこまで言うと、Ⅲは何かを察したようにNのもとへ駆けて行った。ほどなくして、Nが僕に近づいてくる。
「H、どうしたの」
Nと目が合った僕は、乙女のごとく頬を赤らめて狼狽した。
「いや、ちょっと、あの……、お話ししたいなあって」
「ふーん、何の話」
「えーとね、うーん……、ふひっ、野球の話なんてどうかな」
「私野球あんまり知らないよ」
「いやあ、そんなこと言わずにさあ」
気持ちいい。彼女の姿が視界に収まっているだけで、僕がどれだけ幸せ者か実感できる。一生このまま、時間が止まってくれれば――。
「H、矢取だぞ」
クソったれがあっ! 誰だっ、僕とハニーの空間に水を差す愚か者は! とは口に出さず、声のほうを見るとMがいた。
「じゃあね、H」
そう言ってNは手を振ってくれた。ああ、彼女は現世に舞い降りた女神に違いない。このもやもやとした気持ちを今すぐ彼女にぶつけたい。きっと喜んで受け入れてくれるはずだ。
去り際、NがSのところへ戻っていった現場を、僕は見なかったことにした。