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自称魔王、後

前回のあらすじ


裏庭にての戦闘訓練中、無礼なエルフが現れる

「ユアンの方が優雅だ」って言ったらキレた



「この真祖エルフたるわたくしを、下賤の犬女と比べようなどとは……無礼にもほどがあります」


 ルデラは怒っている。

 しかし俺には、未だにこいつが何なのかわからない。

 せめて、敵、味方、クソ客のどれかに分類できるような情報が欲しい。


 ノインが襲い掛かって吹き飛ばされたのに、ガラシアは何も言わなかった。味方だと思っているならノインを咎める。心配するそぶりすら見せないという事は……、そんな余裕はないという事だ。

 敵か?


 ガラシアはゆっくりと歩いて俺の隣に立つ。

 手には何本か、剣を持っていた。


「ユリフラテス様。今日は、お一人で来たのですか? 供の者も連れずに……」

「必要ありませんから。それに、エルフたる私の移動速度に、ついてこれる者などいません」

「何の用があって?」

「ただの見物ですよ。根本的な差があったとは言え、元ライバルでしたからね」


 エルフってそんな凄い生き物なのか?

 パメラはそこまで強そうじゃないし、体から光る粒子をまき散らしたりもしない。

 何か違うのかな?


 ガラシアはルデラと会話しながら、視線を動かすことなく、俺の方に手を差し出す。握られているのはユアンから貰った方の木刀。俺は無言で受け取る。

 ここで、戦う気なのか? そして手伝えと?


「一つ聞いておきたいのですが、あなたは目指すのですか? 魔王の座を」

「もちろんです」

「ちょっと待って? どういう事なんだ? おまえは魔王……の候補か何かなのか?」


 俺は会話に混ざる。正直、状況が全然わからない。誰も説明してくれないし。

 ルデラは笑う。


「ふふふ。勇者を身内に飼っておきながら、何も教えていないとは……。もしかして、下剋上に備えた秘密兵器だったのかしら?」

「……」


 ガラシアは無言で、持っていた剣をバラバラと地面に落とした。

 いや、一本だけは握ったままだ。訓練用の木刀ではない、金属の真剣だ。


「お覚悟を!」


 叫ぶなり、飛び掛かる。

 空中で抜刀しながら、一瞬で斬撃を放ったガラシアを……


「何その動き? お遊戯かしら?」


 ルデラは、あざ笑う。

 おそらく人間なら一撃で切り捨てられていたような速度と重さの斬撃を、剣の腹を親指と人差し指でつかむだけで止めていた。

 だが、ガラシアも、既に剣を手放している。


「エレメンタル・リロード」


 何かの魔術的スキル。

 俺の目には、景色が一瞬ぼやけたようにしか見えなかった。


 ルデラは剣を投げ捨て、後方へ飛び跳ねて下がる。


「趣味の悪い技を使うわね」

「堕天使ですので」


 ガラシアは武器を失ったが、それでも前に出る。

 チョップ、正拳突き、回し蹴り、アッパー、足払い、胴打ち。

 ルデラはその全てを、左手を動かすだけで弾き続け、下段攻撃だけはジャンプで避ける。本気を出せば一瞬で状況をひっくり返せそうに見える。

 ガラシアもそれを知っているのか、スキルの類は使わず、効果がないとわかっている格闘に徹している。


 時間稼ぎか?


 弾き飛ばされたままのノインを見る。地面に倒れて丸くなっている。重傷を負ったわけではないようだが、戦意も失せているように見えた。

 俺はジッキンの所まで後退。


「おい、結局、あいつなんなんだ」

「あれは……なんというか、わしの一存では説明できないな」


 ジッキンも歯切れが悪い。

 そもそもエルフとドワーフって仲が悪いんだっけ?

 悪いなら悪いで、好きなだけ悪口を言えばいいのに。

 そうしないのは……ジッキンは他人の基準で判断しているのだろうか?


「あいつ、エルフって言ってるけど、攻撃していいのか?」

「いや……、なんで、わしにそんな事を聞く?」

「誰も事情を教えてくれないからだろ。パメラもエルフだけど、連れてきたら、交渉の余地があるかな?」


 パメラは店のカウンターにいる。呼べば来る。と言うか、この騒ぎは聞こえていて、自分で来てもおかしくない。

 そんな俺の考えを恐れるかのように、ジッキンは目を逸らす。


「いや、それは……」

「ダメなのか?」

「絶対にやめてくれ。下手をすると、優先で攻撃対象になるかも知れん」

「そうか」


 未だに状況がよくわからない。だが俺の心は決まった。


 この前のダンジョンで、ケガをしたサノテを救ってくれたのはパメラだ。

 パメラを殺されるわけにはいかない。

 なら、ルデラは敵。今はそれで十分だ。


 俺は木刀を構えると、前に出る。

 ルデラが、こちらを見てニヤリと笑う。


「アクア・ウォール」


 出現する水の壁。巻き込まれそうになったガラシアが後退する。

 俺はルデラから目を離さないまま、ガラシアに聞く。


「どうすれば、いいと思います?」

「何事もなかったかのように、お帰りいただくのが一番なのですが……」

「殺すのは?」

「さすがにマズいですね。報復が怖いです」

「わかりました」


 あとは、ルデラがどの程度頑丈かによる。試しに何発か打ち込んでみればいいか。


「俺が一人でやります」

「大丈夫ですか?」

「手加減は得意ですよ」


 俺は大ウソをついてさらに前に出た。

 ルデラは、わざわざ水の壁を消してから、俺に言う。


「手加減なんていらないわ。仮にあなたが全力を出しても、どうにか死なずに済む程度でしょう」

「……」


 安い挑発だった。

 そう言っておけば、俺が防御に徹するとでも思ったのだろう。


 だが俺は木刀をルデラの腹めがけて突き出す。

 人は、正中線への攻撃を受けると判断に迷う。右に避けるか、左に避けるか、どちらが正解か考える必要があるからだ。


 ルデラも一瞬反応が遅れた。そして、左腕で防御しようとした。

 無意味。


崩塞突ほうさいとつ


 ゴワギン!


 ダメージはなかったのかもしれない。

 それでも、ルデラは成す術もなく後方に吹き飛び、風系の魔術で体勢を立て直して着地した。


「驚きましたね。さすが勇者、珍しい戦い方をします」


 いや、驚いたのは俺の方だ。城壁を崩すような一撃を食らって、骨折した気配すらない。

 こいつ、完全に人型に見えるのに、体内に骨が存在しないのか?

 皮膚にも傷がついていない。


「無敵?」

「そんなわけありませんよ。もちろん、今のは手加減したのですよね? 全力を出して構いませんわ」

「……」


 ごめんなさい、めっちゃ全力でした。


 本当に殺していいなら、使えそうな技はいくつかある。例えば、頭部に貫徹破岩衝 (かんてつはがんしょう)を叩き込むとか。これが直撃しても死ななかったら、幻術を疑う。

 今回は、それを試すわけにはいかない。だとすると……もうアレしかない。


「わかった。次は全力を出す。覚悟しろ」

「何を見せてくれるのかしら」

「楽しみにしていろ。見せるのはおまえの方だがな」


 ルデラは、自分がダメージを受けるとは思っていないようだ。

 俺はルデラに向けて駆ける。


「竜炎剛破斬 (りゅうえんごうはざん)」


 木刀を振る。

 ルデラは跳んで避けるようなそぶりを見せた。

 俺はさらに一歩踏み込む。返す刀がルデラの胴を捉えた。


 ジュバッ、グォォォン!


 剣術にも、魔力を消費する技がある。

 魔術師が呪文を唱えて炎の球を飛ばすように、剣に炎をまとう技がある。

 あくまで剣に炎をまとうだけで、遠距離攻撃はできないが……このエルフ、なんか植物っぽいし、燃やすにはこの技で十分だ。


 だが、俺の見込み通り、ルデラの皮膚には傷一つつかなかった。


「ふふふ。それがあなたの全力かしら? よく当てた、と褒めてあげるわ。でも、私の体には傷一つつけられなかった、みたい……だけど?」


 その通りだ。体には傷一つつけていない。体には。

 その代わり、葉っぱその物のような服の一部が、ぺらりとめくれて、剥がれ落ちた。

 右の脇腹の辺りで、すっぱりと切れていた。


 植物は炎に弱い。学のない田舎者でも知っている。

 ルデラは慌てて露出した脇腹を抑える。


「なっ……なんてことをっ」

「今回は俺の勝ちと言う事にさせてもらおう」

「くっ……」


 俺は、ルデラに先んじて勝利宣言をした。

 反論はなかった。これまで見せた余裕の態度が、逆にルデラの勝利を遠ざけてしまっている。


「剣聖って凄いんだにゃ……刀を当てるのは当然で、その後の効果を……にゃるほど……」


 ノインが倒れたまま言う。

 いや、横目でそっちを見れば、さっきと体勢が変わっていて、もう地面にうつ伏せになってくつろいでいるようにしか見えない。

 頼むからまじめに参加してくれ!


「ふん。いいわ。今回は負けを認めてあげましょう。けど覚えていなさい。本当に命のやり取りをすれば、おまえたちには一部の勝ち目もないわよ!」


 言うなり、ルデラは杖をシャランと鳴らす。

 景色がレンズを通したように歪んで、ルデラの姿が消えた。

 まるで最初から誰もいなかったように。


 地面に落ちている緑色の布のような葉っぱだけが、今の出来事が夢でないと証明していた。


 ガラシアが、安堵のため息をついた。

 とりあえず脅威は去ったようだ。


 でも、これは後できちんと話を聞いておく必要があるな。パメラに。


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