戦争中に出会った皇子に紅茶を
「私の婚約者になってくれないだろうか?」
目の前の発言に一瞬にして場の空気が凍った。
それもそうだ。ここは先程まで戦争が起きていた場所だ。
「スライド皇子!?どこか頭でも打ちましたか??すぐに医者をお呼びします!!!」
「待て。私は至って普通だ。頭も打っていない。急なのは分かっている。婚約者のふりでいいんだ。一緒に王宮に来てはくれないだろうか?」
本当に何を言っているんだろうか。我が王国の皇子は。さっきから言葉を探すが開いた口が塞がらない。
「皇子!!この者が誰かわかっておっしゃっているんですか!?あなたには聖女様という方が!!」
「わかっているさ。彼女は私の命の恩人だ。彼女に命を救われて一目惚れしたんだ。聖女殿は候補であって正式なものではない。彼女を王宮に連れ帰っても王は文句は言わないだろう。」
「途中、棒読みな気が、、、いやでも無茶がすぎませんか?」
私の目の前でよくわからない言い争いが始まってしまった。どうしてこんな状況になっているのか少し思い出す。
この国は今日、戦争に勝利した。目の前にいるスライド皇子によって率いる騎士団によって我が国に攻め入ろうとしていた他国は撤退していった。
私は食事と寝る所を提供されるというだけで兵士に志願したこの国の孤児だ。毎日、日雇いの仕事をしていて体力には自信があり剣を振ったらセンスがあったらしくあれよあれよと戦場の最前に出ていた。
騎士団とは離れた場所にいたのだが敵の攻撃で兵列が崩れ、馬に乗っていた皇子様(この時は皇子様とは知らなかった)が馬から落ちそうな時を狙って敵の攻撃が集中した瞬間に私が庇ったのが出会いだった。
周りの騎士たちからは見えない位置から矢が飛んできたのが見えて思わず腕を伸ばしていた。矢は私の腕に刺さり、皇子は無事だった。その後、体制を立て直した我が国は勝利した。
全てが終わった後に腕の手当てをしていた救護テントの中で事件は起きたのだ。
「君の意思を無視する気はないが悪い話ではないと思うんだが。なにもタダでとは言わん。」
ぼうっとしてると急に話を振られた。目の前の美丈夫な彼は真っ直ぐにこっちを見ていて冗談ではないと感じる。どの道、戦争が終わり住む場所もなくなるんだ。どうにでもなれ。
「でも私は孤児で教養などありませんよ。それでもよければ屋根のある場所と食事が三食食べれるならば行きましょう。」
「任せてくれ!その条件を飲もう!私はスライド・バーンエイル。この国の第一皇子だ。王宮では私の婚約者として扱うので不便はさせない。少しばかり教養は身につけてもらうがな。名前を聞いても?」
「エリーと言います。よろしくお願いします。」
「これからよろしくエリー。」
なぜか彼の笑顔が少し気になったが、こうして私は婚約者のふりをする事になった。
彼の婚約者になって数ヶ月、わかったことは彼は自由だという事だった。
元々、聖女様という人が婚約者候補だったらしいが王様に勝利した褒美は私を婚約者にする事を無理矢理取り付けたらしい。
「彼女は裏表が激しく腹黒で嫌だ。」だの「高飛車な態度が嫌い。」だの私の部屋に来ては言いたい放題。おかげで私は聖女様と会うと睨まれて嫌味を言われるのだが、、、
彼は知ってか知らずか王宮で私をべた褒めしているらしい。
あの時、救護テントで彼の暴走を止めていた?人は皇子の従者でレイトさんという方で今では皇子の愚痴を言い合う仲だ。
「本当にスライド皇子は困ったものです。」
「たまには息抜きをしてもいいだろう?重要な書類には目を通してある。レイトもたまには甘い物どうだ?」
そう言いながら甘いお菓子をレイトさんに差し出しているけれど、ここは私の部屋だ。
たまに執務室から抜け出しては私の部屋でお茶をする彼を横目にレイトさんに苦笑いする。2人とも最近、忙しそうで目の下のくまが目立つ。
「レイトさんも一緒にどうですか?最近、紅茶の入れ方を勉強しているので練習に付き合ってもらえませんか?」
「ほら、エリーの練習に付き合うのも婚約者の務めだろう?レイトも付き合え!」
「はぁ〜、エリーさんも甘やかしすぎないで下さいね。でもせっかくなので頂きましょう。」
そう言って2人並ぶ姿を見るのは何回目だろうか。
「まだまだ勉強中なので期待はしないで下さいね?」
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いつものように3人で紅茶を飲みながらゆっくりした時間を過ごしているとふいに彼と出会う事になった腕を思わず触っていた。
「傷が痛むか?」
「いえ、なんだかこんな穏やかな日は夢じゃないかなって腕を触って確かめたくなるんです。」
「そんな時は私が抱きしめてあげよう。」
「え、えぇ!?」
急な言葉に顔が熱くなってしまう。
「スライド皇子!そういうのは私がいないときに言ってもらえますか?今すぐに執務室へ戻ってもいいんですよ?」
「すまん。すまん。レイト、もう言わないからもう少し居させてくれ。」
本当に心臓に悪い。まだ顔は熱くて冷めた紅茶を一気に呑み干して席を立つ。
「もう一杯お入れしますね!!少し待っていて下さい!!」
「レイト、俺の婚約者は可愛いだろう?」
そういいながら彼はまた出会った時のような笑顔をしていた。