俺達のラブラブエンド目指して・ヒロインはいりません!
ゲーム大好き高校生4人組が、最新作ゲームをプレイ。
婚約者ルートを模索中に事故に巻き込まれ、転生というテンプレにすぐ馴染み、婚約者とのラブラブエンドに向かう!障害はヒロイン! @短編その1
高校3年の4人、会話順番は、
1・アルフレア(大谷静)
2・リーンブルグ(河田宗介)
3・ワッツ(竹中穂積)
4・オニール(灰崎辰雄) です。たまに順不同。
やっと書けました。63000文字。笑う。
追記>>あのアイテムのしょおとしょおと追加。
「あーー!!うざいっ!!お前が死ね!俺のナタリィを悪役令嬢とか抜かしやがって!」
「本当、うざいな、アレ。フラーウがあんな最後を迎えるなんて・・!」
「アレ扱いで充分だ。オレのモーリンたんをぉ!」
「僕はサイファだけで充分満たされてる。なのに・・・!」
4人の男子高校生は、ブツクサ文句を言いながら校門を出る。
顔は日本人にありがちな黒髪に濃い茶色の瞳。身長も高3だから175前後で、普通の男の子。
4人の名前は『大谷静』『河田宗介』『竹中穂積』『灰崎辰雄』。
彼らが口にしていたナタリィとかフラーウとかモーリンとかサイファとか・・女の子の名前は日本人にはあり得ない名前だ。そう、もうお分かりだろう。こんなパッとしない高校生に、外人ギャルの彼女なんか出来よう筈も無い。
最近発売されたゲーム『ローズガーデン・ゲート』で出てくる女の子の名前だ。
なんでもこのゲーム、『男の子も女の子も楽しめる恋愛ゲ〜ム』だそうで。
主人公は4人の男の子で、そのうち一人を選び、ヒロイン以下数人の女の子を攻略するのだ。
初期設定で主人公にはそれぞれ婚約者がいるのだが、この子を振ってヒロインや他の女の子達の心を掴んでハーレムエンド。なぜなら婚約者がいわゆる『悪役令嬢枠』で、主人公の恋路を邪魔するのだ。
婚約者と一緒だと、そもそもゲームを進める事が出来ない!だって進行上『悪役令嬢』が必要だもん!
そして驚くべきは・・婚約者一人だけと結ばれるエンドは、物凄く難しい!!この4人が団結して攻略するも、未だ婚約者との二人きりエンドに行けなかった!
というか、本当に婚約者との二人きりエンドなんてあるのだろうか?状態だ。
まだ発売して3日しか経っていないので、情報が少ない。
もしも行けなかったら、開発会社の悪評を色んなところに撒き散らしてやる、なんて本気で思った4人だ。
婚約者エンドに行こうとしても、何故かヒロインがくっついてくるのだ。
おまけに攻略する他の女の子というのが、4人の主人公の婚約者という鬼畜仕様!
ハーレムエンドは総勢5人の女の子と、少ないんだか多いんだかな人数だ。
わざわざ友人の婚約者を、略奪して恋人にするというド最低ゲーム、その手の性癖の方には人気だろうが・・
他の内容も時々胸糞要素もある。
何故そんなゲームを買ってしまったか!だったら買わなきゃいいのに!と思うだろう?
ストーリーはやらなきゃ分からなかった!ここまでクソとは思わなかった!!
とりあえずストーリーは置いておくとして、声優が良かった!有名人気の絵師で美麗、エロ満載だった!!うん、エロ大事だね!
取り敢えず、彼らはプレイしてみた。
4人の男主人公は・・
アルフレア・ボゥ・ザーフェス(17) ザーフェス王国王太子で嫡男 大谷静が選択
リーンブルグ・カーン(17) カーン公爵嫡男 河田宗介が選択
ワッツ・ビルホース(17) ビルホース侯爵嫡男 竹中穂積が選択
オニール・セイクリッド(17) セイクリッド辺境伯嫡男 灰崎辰雄が選択
を、それぞれ選んでプレイ。
オープニングデモが終わり、まず最初に婚約者のスチルが出るのだが・・・
4人は心を鷲掴みされたのだった!!
アルフレアの婚約者は、ナタリィ・タイソン。
タイソン侯爵の長女で美しい藍色の髪を縦ロールにしている。お妃教育も頑張る優等生だが、本当は甘えん坊。この甘え顔が、たまらない。
リーンブルグの婚約者は、フラーウ・シーシリエ。
シーシリエ伯爵令嬢の彼女は金髪紅瞳の魔法使い。華奢で妖精のようだ。ハキハキした元気っ子で、婚約者をいつもきりきり舞いにさせる我儘さんだ。我儘は彼にしかしないというところもポイント、たまらない。
ワッツの婚約者は、モーリン・ヒューパール。
ヒューパール公爵令嬢は、煌く銀髪に空色の瞳。思慮深く口数は少ないが、婚約者に手作りのお菓子をいつも用意してくれる。胃袋を掴まれているのだ。たまに微笑む顔も彼にしか見せないという、特別感があってたまらない。
オニールの婚約者は、サイファ・キンケイド。
キンケイド近衛騎士団長の令嬢で、オニールとは幼馴染。いつも二人で野原を駆け回り、剣の稽古も一緒だった。赤っぽいオレンジ色の髪と金色の瞳のスレンダー美人だ。意外と裁縫が上手で、彼のハンカチやシャツには御守りの刺繍が縫われている。「私の髪色の糸だよ!」たまらない。
「俺もう婚約者だけでいい・・綺麗で賢い甘えん坊・・・ナタリィ・・」
「これこそ嫁。フラーウさんに振り回される人生最高」
「あ〜〜・・可愛いんじゃ〜〜〜・・俺のモーリンたん・・」
「ちっさい頃から愛を育むとか。もう、お前しか見えない。サイファちゃん・・」
4人は婚約者だけ、二人だけのエンドを目指した。
だが・・・
どうやっても!!ヒロインがくっついてくる!!唯一の婚約者エンドだが、何故か婚約者とヒロインが仲良くしていて、男主人公を真ん中にして婚約者とヒロインのサンドイッチでエンドロール。
4人がコントローラーをぶん投げたのは言うまでも無い。
「いらん、ヒロイン。我がナタリィを悪役令嬢だと・・?」
「消えろ。俺のフラーウが汚れる」
「俺はモーリンたんと二人きりでエンドを迎えたいんじゃ〜〜!!」
「俺は愛人はいらん。一夫多妻なんて不義理は、サイファちゃんに申し訳ないっ!」
・・・と、文句たらたら。
ヒロインの名は・・言いたくない、口が汚れる、記憶から消したい・・シルフィーエ・ロンド。
学園にどういうわけか、最終学年3年生で転入してくる庶民。
なんでたった1年だけ授業を受けるんだ。すぐ卒業だぞ、勉強追いつけるのか?まあヒロインだから都合?
とか思っていたが、ちゃんとついていくどころか、ビックリの学年3位以内に入っちゃってる。
どんな天才だ。何をどう勉強したら、庶民が国内有数のハイスペック学園に、編入出来る学力を手に入れられるんだ。ヒロイン補正か?そうなのか?
容姿とかスタイルだが、顔はまあ可愛い部類。胸も大きい。よくあるゆるふわピンクヘア。
『俺の婚約者の方が可愛いけどな!!数倍も!!』と、4人がハモる。
こっちの心にグッとくる言葉を散りばめてくるが・・もう完全拒否な4人には響かない。
昨夜も4人は自宅で攻略。もう何回リプレイしたか・・・
そして授業も終わり、下校の道すがらの『攻略会議』。
「だ、ダメだったぁ・・・またアレが隣にしっかりくっついてきたよ」
「俺も。なんでだ?アレとの好感度を、上げないようにしてもダメか?」
「どうしてもいかなくちゃいけない所で、好感度が上がっちゃうんだよなぁ」
「食堂ルートと理科室ルートは外せないからなぁ」
「学園祭ルートは、絶対にあいつと回る事になっちゃうからな」
「後、アレがいないとクリアできないところあるからな・・3箇所だっけ?」
「どっかいかなくて良いとこ無いかな」
「うーーん・・・アレ飛ばすと先行けないし、戻っちゃうんだよな」
嫁(予定)の為にも、どげんかせんといかん・・・4人は大きく溜息をつく。
「まあ、今日も嫁(暫定)のために攻略するべ」
交差点で4人が信号待ちをしていると・・・
パパァアア・・・!!
唐突にクラクションが鳴り響き、大きなトレーラーが左折、だが後輪が滑って車体がスピン!!
4人のいるところに突っ込んできたーーーーー・・ 一瞬の出来事だった。
「お」
「はっ」
「ん?」
「なっ」
4人は緑豊かな公園?に立っていた。
見覚えのある噴水が目の前にある。
更に服が学生服じゃ無い。これまた見覚えのある制服だ。
「ぶっふぉ!お前、誰だ。アルフレアの奴!」
オニールがアルフレアを指差し、吹き出した。
「うわ!オニールは誰だよ。へえ、俺アルフレアな訳?俺静だ」
「静アルフレアかよぉ・・・オニールか、俺は。ちなみに辰雄な」
アルフレアの右隣は、服を見て・・
「この着崩し・・ワッツだな、こいつ。あ、俺穂積でーす」
「残りはリーンブルグか!メガネか!お分かりの通り、宗介だよぉ〜ん」
「美男に転生!でもこれって・・」
「だな」
「いやぁ〜ん、お約束ぅ〜」
「この噴水は・・学園の正面玄関前の広場にある・・」
「ゲームのオープニング後だな?」
「そうそう、ここで会える!我が愛しの・・サイファちゃーーんっ!!」
「うっわ!嫁に会えるって?やりぃ〜〜!」
「いやっほーーー!!」
「ヤッフーーーー!!」
「きたきたァーーー!!」
「ふぉおおーーー!!」
男子高校生のテンションで、暫し大騒ぎ。ちゃんとプレイしていた主人公に転生した!なので婚約者も押しだ!喜ばしい!!もう手足を振り回して、身体中で喜びを表現した。
疲れてようやく冷静になると、ちょっとおセンチな気分に浸る・・
「俺たち、やっぱ・・」
「死んだな」
「即死だね」
「トレーラーに跳ね飛ばされたからな」
「転生かぁ・・」
「あのゲーム世界かよ!驚きしかない」
「うわ!!嫁に会える!会える!!ウヒョ〜〜」
「はふ〜〜ん・・・早く会いたいっ!」
嫁(気が早い)に会えるなら死んでも不服なし!!
などと決意する4人だったが。
ついと4人の制服姿の女の子が現れ、こちらに笑顔でやってくるでは無いか。
彼らにしか見えないキラキラ透過光が、婚約者達を輝かせている。
「アルフレア殿下、ご機嫌麗しゅう」
「やっほう!リーン様っ!」
「ワッツ様、おはようございます」
「オニールん!おはよう!同じクラスになったね!」
4人は顔がにやけてくる・・でれぇ〜〜んってな。
(あああっ!!未来の嫁が可愛すぎるんじゃーーー・・)
なんて綺麗で可愛くて最高で・・・語彙力がダメになるくらい尊かった。
そしてあまりの尊さに、少し涙ぐんでしまった。
ゲームでは同じクラス、3Aだった。
どうやらまた同じらしい。
「ナタリィ。さ、手を」
「・・はい(ポッ)」
アルフレアはナタリィの手をとり、教室に向かう。
残り3組も、彼女と腕を組んだり手を繋いだりして後に続く。
さて。彼らは『婚約者溺愛脳』になってしまっているので、『嫁可愛いっ!!』としか思っていないから理解できていないだろうが・・
彼女たち婚約者は『悪役令嬢』の役になる。ゲームの都合、もあるが。
実は本性も、それなり『悪役』な訳だ。
ツンケンしたり、気に入らなかったら乱暴に振る舞い、八つ当たりや文句を言ったり。
高位貴族のお嬢様だ、思い通りにならなければ暴れる・・幼女並みな事を仕出かす。
この所業、婚約者の中で一番大人しいモーリンですら、やらかしたのだ。
だから・・転生前の4人の男主人公達は、婚約者達が好きでは無かった。というか嫌いだった。
無闇に我儘をいう、聞いてもらえなかったら文句を言う、パシッと頬を叩かれた事もあるのだ。
気に入らない子には意地悪をする。そして精神的に追い込み、泣き顔を嗤うのだ。
・・男主人公達は、この彼女達の態度を嫌悪した。ドン引き、心底震えた。
「あいつらは人間か?」
婚約者だから注意もしたが、逆に罵声で応酬された。キンキン声で捲し立てられれば、友好的な気持ちも目減りする。ゲンナリ、精神的にも消耗する。会いたくない、心から拒否した。
ここまで追い込まれ、愛情などマイナスゲージだった。
だから、こんな状態でヒロインが優しく話しかければ・・・ね?
ころっと!もうすんなりころっとですよ!
だが転生した4人は、婚約者達とのファーストコンタクトで心を鷲掴みされての一目惚れ。
まともに恋をした事が無かった17歳の男の子に、彼女達は眩しかった。
そして元の男主人公達が味わった『悪役令嬢』要素を彼らは体験していない。
彼らが会った時には、既に改心し反省して可愛くなった婚約者だ。
あの所業を知っていたら、もう少しヒロインを大事にしたかもしれないが・・
すっかり嫁ラブな彼らは、ゲーム中の婚約者達の会話のセリフでちょっときつい言い方をしてきたって、
「ああ、これがツンデレのツンですな」
ちっとも気にしなかった。
それどころか言葉優しく近寄るアレには『言葉で拐かすビッチ』と、超辛口。
何処までも嫁(になると頑なに信じている)ラブだった。
一方で婚約者達は・・
最近、男主人公達と上手くいっていない・・・とは分かっていた。
あの我儘のはっちゃけた時期は、14歳くらいがピークで17歳の今は落ち着いたものだ。
17歳であの暴れん坊な所業を続けていたら、流石に拙い。色々と拙いのは分かっている。
Q/ なんであんなことしたの?
A/ 取り巻きに『強い所』を見せつけるため、舐められないようにガツーン!と。
・・・今思えばやり過ぎた。反省しています・・自分で判らないくらいはっちゃけました。
その所為で、ダンスパーティーのエスコートも4回に1回くらいしか受けてくれなくなっていた。
デートどころか、食事会も何度もキャンセルされている。
お宅訪問も『我が家に来ない』『彼の家に行けない』状態。
でも高位貴族のお嬢様だから、素直に謝れない。
つい『察してよ!』とか思ってしまう。身から出た錆とは、よく言ったものだ。
そして新学期。
彼女達にしたら勇気を振り絞り、始業前に噴水前で待ち合わせをした。返事は無かった。
来てくれないかもしれないと思いつつ、彼女達は噴水前に行くと・・
婚約者達は笑顔で待っていたのだ。まあ、心というか魂は転生前の彼らでは無くなっているが。
でも確実に言えることは・・・4人は婚約者に好意的な雰囲気を醸し出していた。
最後に彼らの笑顔を見たのは、どれくらい前だっただろうか?
そして、アルフレアは手を差し出し、エスコート。
「ナタリィ。さ、手を」
笑顔で彼女を見つめられ、恐る恐る彼の手に添えると、彼の指が包んで招くように歩み出す。
他の皆も腕を組んだり、手を繋いだりして教室に向かう。
女婚約者達はちょっと涙ぐんだ。
もう馬鹿な真似はしない。彼の傍に居られない苦しみが、こんなに辛いとは思わなかった。
自分がどれだけ彼を好きなのかも知った。
今までの愚かな自分を反省し、愛される努力をしようと決心したのだった。
さて、婚約者達の懺悔を知らない4人だが、いよいよ遭遇する厄災に向けて気を引き締めていた。
アレは朝のホームルームに現れる。
何はともあれ・・
俺たちは愛しい婚約者達と離れなければ良いのだ!
「話しかけられても無視だぞ」
「当然!」
「聞こえないフリをする」
「ブスって言う」
!!!!
残り3人はオニールの勇者的発言に目から鱗だ。
「それ!採用!」
「さっさと心えぐるのは良い手だ」
「俺は・・・モーリンとイチャイチャしてお前の付け入る隙は無いと猛アピールする」
「はうっ!!な、なんて・・・計算高い」
「よく街で見かけたバカップルをやってみる。と言うか、やってみたかった」
「俺も俺もーー!!」
「うふ、ふふ。人前でするのは・・背徳感もあって・・燃えるね」
酷いと言わば言え。
本命彼女とのラブラブの為なら、男は非道にもなれるのだ。
さあ。
ここからが、本番だ。
いよいよヒロインが教室に入ってくる・・
リーンゴーン・・
始業の鐘が鳴って暫くして、担任のヒューイ先生が入ってきた。
王族で主席のアルフレアが、
「起立!礼!」
と号令をし、着席する。
「今日から3Aの担任となったヒューイだ。よろしく!さて早速だが」
ヒューイ先生が手招きをすると、ひとりの少女が教室に入ってきた。
「みんな、転校生だ。3年に編入の、シルフィーエ・ロンド君だ」
「初めまして、シルフィーエ・ロンドです。シルフィって呼んでくださいね!」
ニコッ!と愛想よく笑う女の子に、男共は静かにどよめく。
(可愛いな)
(おお、胸がおっきい)
概ね高評価のようだ。
対する女子は・・
(貴族じゃ無いわね)
(庶民って、こうなの?)
(声が・・コビ売ってる感じ)
あまり良い印象では無い。
そして選ばれし4人の男主人公達は・・防御態勢に入る!!
ゲーム中でもアレが『初めまして』と挨拶する場面で、淡いピンクの巨大なハートがドーン!と現れてしゅ〜と消えるエフェクトが入るのだ。
すると主人公達は「可愛い・・・」と、うつつを抜かしたセリフを吐くのだ。
(俺たちは絶対そんなこと言わん、ゲーム補正だ!あのハートが原因か?)
4人で突き詰めた結果、アレは『魅了』攻撃と判明したのだ。なので・・
「やっべ!魅了来るぞ!防げ防げ!フィールド全開!!」
「うわっ、障壁結界!」
「おいそれ露骨!具現化しちゃうから!せめてシースルーとかに!」
「ウリャ!バリアーーー!!」
「それ魔法ちゃうやろ!」
え?アルフレア殿下達何喚いてるの?防御魔法?結界?
クラスみんなの視線が4人に集中する。
「あ、アルフレア殿下?」
「リーン様も?」
「どうされましたの?ワッツ様」
「オニールん!」
婚約者も呆然。
いつもの彼じゃ無い、そんな目でこちらを見ている!
(やっば・・!)
すかさずキラキラキラキラキラキラ〜〜ン!!付きで格好を決め、
「君!どういうつもりか?高レベルの魅了を撒き散らすなど!!」
すくっと席を立ち、未来の王アルフレアはビシィ!と手で制す。
さすが未来の王、格好つけるのが素早い。中身が転生高校生でも、身体はアルフレア。
ちゃんと王子仕様もこなせます。
日頃の信用と信頼MAXのアルフレアの台詞に、クラスメイトは騒然とした。
次にリーンブルグが席を立ち、クイッとメガネを中指で調整しつつ、
「魅了は攻撃魔法だ。君、もしかして俺たちを敵と思っているのか?」
ワッツは席を立たず、机を両手でばん!と叩く。
「仲良くしたいなら、普通にしろよな。不愉快な術使いやがって」
最後はオニール。首をゆるっと横に振りつつ、手を『やれやれ』と持ち上げた。
「君は誰でも彼でもそんな術を使うのかな?それに魅了って、異性に効果がある術じゃないか?もしかして彼女のいる男にまで、かけるつもりな訳?」
学園でも高位の貴族で、注目されている4人の言葉は、殊更女生徒に衝撃を与えた。
クラスの中でお付き合いしているカップルもいる。婚約者がいる子もいる。
勿論、4人も婚約者と同じクラスだ。
危機を感じた女生徒は、お相手に駆け寄ってしがみ付いた。
「アルフレア殿下、大丈夫ですの?」
いつもクールで貴族然とした公女の、慌てる様が可愛い。
自分は本当に思われているんだなぁ、と喜ぶのも仕方が無いのだ。
「うふふ、心配してくれるの?ナタリィ。大丈夫、私の君への想いは揺るがないから」
スチルでも高評価を頂くスウィートスマイル、良い子良い子と頭を撫でると、婚約者は頬を染めて、
「もうっ」
プィッと明後日を向いてしまった。耳が赤い。困った、可愛殺しきました!!
リーンブルグに駆け寄るフラーウは、泣き出しそうな顔だ。
「リーン様っ、リーン様っ!」
リーンブルグは身長が185センチに対し、フラーウは147センチ。片手でひょいと抱えて鷹匠のように『手乗りフラーウ』にして、近接攻撃、いや笑顔を向ける。
「俺が迷わないように、見ていてくれるか?」
「みゃああ、リーン様っ!!私を見ててくださいませっ!は、は・・離しませんっ」
そして彼の頭にギュウと抱きつくと、彼女のささやかな胸の谷間に顔が押し付けられる。
ワッツの婚約者はナタリィよりも冷静で、静々と彼の傍に立つ。
「ワッツ様・・」
もっと俺に抱きついてくれても良いんだけどな・・
ちらと婚約者の顔を見ると・・頬が薔薇色に染まっていて、瞳が潤んでいる。
彼女は本当、引っ込み思案で、奥手で、でも怒らすと怖い。
彼女の両手を両手で包み、両親指に唇を落とす。
「モーリン。俺は君を不安にさせてる?じゃあ、もっともっと、君に分かって貰得るようにしなくちゃいけないね。君が不安にならないように、俺も努力するから傍に居なくてはいけないよ」
「はい」
か細い声だが、返事をした。本当に奥手な彼女だから急立てず、焦らず待っていよう。
不意にモーリンは跪き、彼の手を引き寄せて顔を近付けると頬を寄せて・・柔らかく微笑んだ。
・・・・・・。うん。本当、大事にしよう。改めて決心したのだった。
オニールの婚約者は小さい頃からの付き合い、幼馴染だ。
気心も知れた友人だったが、父親同士が友人だったのでその流れで婚約した。
転生前の彼は彼女に対して愛情がなかったわけでは無いが、おてんばな彼女を将来の妻にするという気持ちには中々ならなかったようだ。
だが転生した辰雄は、この活発でボーイッシュなサイファに一目惚れをした。
明るくて、元気で、まるで青空のような気持ちの良い性根(悪役令嬢な部分もあるが)が気に入った。
「オニールん!!」
「う、わぁ?」
サイファがドーン!体当たりする様に抱きついた。
「・・・サイファ?」
「〜〜〜〜・・ぐす」
「・・・おやおや。サイファ、ベソかいてどうした?」
「・・大丈夫?」
「大丈夫だって。魅了で俺たちがどうこうなんて無いだろ?付き合いも長いしさ」
ガキの頃からほぼ17年近く一緒だったから。
まあ、前の奴はずっと傍に居たサイファも良いけど、別の女の子と恋愛したいと思っていたんだろうな。気持ちは分かるが、サイファと他の誰かを比べる事とか。間抜けだったな。
サイファは彼の腕に顔を押し付けて抱きついている。まだグスグスとべそをかく彼女を見て、彼は苦笑した。おい、俺。サイファは俺が貰うから、安心しろ。
4人もだが、クラスのカップルも同じく愛を再確認していた。害が無くて良かった。
だってもう3年生、来年には卒業、18歳ともなれば結婚する者もいる。
彼ら4組も卒業後1〜2年以内には結婚予定だ。
「はい!!みんな、席について!・・ロンド君、職員室に来てくれるかな」
「え、あ・・はい・・」
戸惑うアレを連れ、担任は教室を出て行った。多分校長室で説教だろう。
なんたって王太子や高位貴族がいる教室で『魅了』を使ったのだ。説教で済まないかもしれないが、知ったことか。退学してくれれば良い。
魅了は睡眠や痺れに匹敵する攻撃呪文だ。あんなもんクラスメイトにぶちかますとかおかしい。
なんであのゲームはシルフィーエをヒロインにしたんだ。本当訳分からん。
そして、なんでアレを必ず攻略しないといけないんだ。
俺たちは贅沢は言わない、いや、もう自分に決まった婚約者がいる時点で贅沢だ。しかも可愛い!
4人も5人も他人の彼女や婚約者を寝取ってまで増やす気は無いんだ。
「俺達は須く嫁だけを愛でたい!」
「だから・・・俺の婚約者と!!イチャラブさせてくれれば良いっ!!」
「もう何もしないでエンディング行ってくれても良いのよ?」
「うふー・・腕にしがみつかれてしまったんじゃ〜。腕に胸の感触が・・」
こうして初日イベント的なモノは終わった。
アレは結局退学はされなかったが、厳重注意されて萎れて帰ってきた。
魅了を喰らわなかったが、まだ油断するな。魅了ポイントはあと3回ある!
このゲーム、終盤間際に戦闘イベントがあるのだ。
剣と魔法でスカルドラゴンを倒さなくてはならない。
だから剣と魔法を強化する必要がある。強化の方法は、授業選択だ。
毎月後半に『来月の授業予約』で、剣を強くしたいなら『剣術』の授業を予定カレンダーの日枠をクリックすると、『どの授業にしますか』とメニューが出るから選択をするのだ。
あとはバランス良く『剣術』『魔術』『学問』などを設定するだけ。
『学問』は魔法を使うのにも大事だが、剣での戦いでも必要だ。
カレンダーには大きなイベントも書き込まれているので、それまでに何を上げたら良いかよく考えて設定しなければならない。イベント日は授業が無い。おまけに土日も授業が受けられない。だが、冒険者ギルドで依頼を受ける事が出来る。
そして月替わりの日、これまた美麗な絵が出て来るのだが・・アレの絵なのだ。それが2月まで続く。今月の絵は・・
「このプリン、もーらった!え?食べたいの?うふふ、一口あげる!」
とか台詞も付く。それを見て4人は『うわあ〜〜〜』と情けない声を出しながらのたうち回る。
「お前じゃねぇーー!!我はナタリィのスプーンで、間接キスしたいのじゃー!」
「フラーウがスプーンで・・アレの顔をフラーウで上書き・・」
「達人か!!俺もモーリンたんと・・・モーリンたんーーーっ!」
「サイファはこんな事絶対にしない。照れ屋だから。こいつのサジなんぞ、こうだ!」
そしてすぱあーーーん!と手ではたき落とすアクションをしてみせた。
「おおおおおおおおお!!お前こそ真の騎士様だぁ!!」
・・・以上、生前の一コマでした。
「月末スチル、くるよな」
「くるんじゃ無いか?・・なぁ、確か4月はプリンだったよな」
「しかもアレしか無い」
「書き出してみるか」
オニールは紙を出し、4月から始まる月末スチルを書き出した。
4月 プリン
5月 広大な花畑
6月 雨
7月 初夏的な風景
8月 海
9月 テスト勉強
10月 文化祭
11月 ギルドの依頼
12月 クリスマス的なもの
1月 新年の挨拶
2月 バレンタイン的なもの
3月 卒業
「アレがデデン!と真ん中にいる。月末スチル、アレしか無い」
「他に攻略している女の子と入れ替わっても良いのよ?」
「っつーか、嫁(最高)一択」
「このゲームのアレ、そんなに人気なのか?俺には分からん」
さてスチルのような出来事が起こるとしても・・
『ま、スキップすりゃ良いんじゃね?』
皆の意見は同じだった。
とりあえず・・・
寮に戻ると4人はお互いの予定に合わせ、予定表に書き込むのだった。
それから10日後。
次のイベントは、街でお買い物!だ。
授業で使うキウイ草のシロップ漬けを買いに行くのだが、どこで売っているかが分からない。
4人はもう何度もプレイしているので、魔法グッズショップ『チッチチップ』に行けば売っているのを知っている。
商店街には10店舗のお店があるのだ。3件間違えると『校内売店』画像に変わり、
「なーんだ!校売で売ってたわね!」
となってしまい、『チッチチップ』特製キウイジャムが貰えなくなってしまうのだ。
あとは一緒に買いに行く人を選べる。婚約者かヒロインの2択。
ここでヒロインを選んで武器ショップに行くと、ブロードソードを貰える。
最初に手に入る強い武器だ。
「いらねえっ!!そんなもんより、嫁とデートだぁ!!」
4人は同じ答えだった。
だって、一緒にデートなんて、ここ外したら無いんだもん!!
そんな訳で、2店お店に行って、最後3店舗目に『チッチチップ』に向かうのだった。
アルフレアのデートコースだが、
「まず宝飾店でナタリィの好みの宝飾をプレゼント、そして本屋のコースだ。ナタリィは読書家だからな。どんな本を読んでいるかを知って、話を膨らますきっかけにする」
メガネ鬼畜参謀のリーンブルグは、
「俺は洋服屋行ってから喫茶店。ケーキ好きだからな〜。可愛い洋服を着せ替えして堪能もする」
「すげえ。もしや、貴方はデートマスター?」
「くっ・・!鬼畜眼鏡のくせに!」
「ま、負けないんだからねっ!鬼畜眼鏡なんかにっ!」
「何処がです。人を鬼畜って。本当、あなた方は」
お次の方、ワッツは・・
「俺は花屋でモーリンの好きな花を買って、そしてスーパー。プリンを作る用具を買うぜ!花を飾った部屋で、手作りプリンを二人で食べる。あの忌々しいスチルの記憶を上書きしてやる」
おおお〜〜〜〜・・・歓声にワッツは手で会釈で答える。顔はドヤ顔だ。
最後はオニール。
「俺は武器屋!あいつ手ごろな剣が欲しいって言ってたからなぁ〜。そして、お揃いの乗馬ムチ!」
「え?ムチですか?」
「もしや、もしや!!」
「騎乗してからの〜〜?」
「じゃじゃ馬ならし♪」
4人は『ひゃっほ〜〜〜ぃ!!!』とテンションMAXだ。
放課後、4人はそれぞれの婚約者と一緒にお買い物となった。
それはもう!!楽しゅうございました!!
その楽しげな光景を、建物に隠れて睨む人影・・・誰とは言わないが!
このイベント、実は婚約者と出掛けると喧嘩になってしまい、彼女達は帰ってしまうのだ。
で、ひょっこり現れたアレとお買い物を続ける、という展開だったのだ。
でもけんかしなかったよ!めでたしめでたし。
お次のイベントは月末・・図書館で『歴史』を調べるのだ。
500年の歴史があるザーフェス王国。
初代国王アルモネアの偉業をレポートするという宿題が出た。
図書館の蔵書から該当する本を探すのだ!
本は3冊。
マップにはパズル要素で本が隠されていて、パズルを解くと本が回収出来る。
間違いを3回すると図書館受付に戻されて、
「お探しの本は、今返却されましたよ」
と受付の司書さんが手渡してくれるのだ。
このパズルは5回解くと、『謎の鍵』『秘密メモ』が手に入るようになっている。
このイベントは主人公だけで行くことになっている。
嫁と一緒なら良かったのだが、野郎でぞろぞろと本棚に向かう。
パズルもアイテムも固定なので、一度やったら答えは解っちゃう。
でもやはり文句は言いたくなるのだった。
「なんだよなんだよぉ〜〜。嫁といかせてくれよぉ〜〜。寂しいじゃんよぉ〜〜」
「全くだ。本棚を目隠しにして」
「壁ドン!とか、ああああ!!」
「何やってんだよ!ワッツ!!」
壁ドンの仕草をして、本にドン!したら、向こう側に本がどさーーっと落ちた。
枠だけで仕切りが無い本棚だったのだ・・・
「あ〜〜も〜〜、何してんでちゅかっ!!かたじゅけなちゃいっ!」
「ほんともうっ!ぷうっ!!」
「ちゅいまちぇんねえっ!ごめちゃっ!!」
「馬鹿だろお前ら、ほんと馬鹿」
「のれよ、付き合い悪いぞオニール」
「そうだぞ、わかってまちゅかっ!!」
「本いっぱいでちゅっ!大変でちゅっ」
「お前のせいだろワッツ、っつーかキモいアルフレア〜。殿下でしょっ?ちゃんとしてよねっ!」
「もー、男子ったらぁ〜、ちゃんと片付けてよねっ!ワッツ貴様だぞぉ」
「あとちょいあとちょいあとちょい!」
「あ、そーれ!ラスト一冊!!」
何故か赤子言葉になっていたが、最後は全員で!
最近ようやく慣れて、みんな名前を転生したキャラクターで呼び合うようになった。
だけど中身はほら!男子高校生だから!4人で連むとつい、ね。
何時でもかっこいい4人でいるのが、辛い時あるんです。
こんな時はうーんとハッチャケて!
「よっしゃ、終わったぁ!おっしーまーーーいっ!!ヒューーー!!ヒューーー!!」
4人はハイタッチを順繰りでパーン、パーンと軽やかにスキップしながらグルグル回る事暫し・・
ふと、リーンブルグは本棚に何かを見つけて近寄った。
「ん?これは」
「どうしたリーン」
「図書館ってさ、見つかるアイテムは2個だけだったよな?」
「公式情報まだ出てないからなぁ」
「確か、ここから4つ目の本棚と、通路を向かってこっちの本棚下の棚にアイテムあったよな」
「あー、確かに。まだチェックしてない箇所ほったらかしてたな」
「いるもん取ったら見ないよな」
「鏡か?それ」
本棚には小さな手鏡が乗っていた。
リーンブルグが手に取り、『ポケット』(収納袋的なもの)に入れると。
みょいん♪
4人全員のステータスが表示された。
【リーンブルグ】
名前/リーンブルグ・カーン公爵子息
年齢/17
HP 0/50
MP 0/50
剣技/50
技 /
魔術/50
呪文/
所持アイテム
キウイ草のジャム 謎の鍵 秘密メモ
共通アイテム
真実の手鏡
【アルフレア】
名前/アルフレア・ボゥ・ザーフェス王国王子
年齢/17
HP 0/50
MP 0/50
剣技/50
技 /
魔術/50
呪文/
所持アイテム
キウイ草のジャム 謎の鍵 秘密メモ
共通アイテム
真実の手鏡
【ワッツ】
名前/ワッツ・ビルホース侯爵子息
年齢/17
HP 0/50
MP 0/50
剣技/50
技 /
魔術/50
呪文/
所持アイテム
キウイ草のジャム 謎の鍵 秘密メモ
共通アイテム
真実の手鏡
【オニール】
名前/オニール・セイクリッド辺境伯子息
年齢/17
HP 0/50
MP 0/50
剣技/50
技 /
魔術/50
呪文/
所持アイテム
キウイ草のジャム 謎の鍵 秘密メモ
共通アイテム
真実の手鏡
まだ授業で『剣術』『魔術』『学問』をこなして無いので、最低値のままだ。
「ん?おい、この共通アイテムって・・・なんぞや?」
「前世のゲームでは出てこなかったよな」
「無かったけど、パズルでめくっていない部分があっただろ、1箇所」
「あー。謎のメモと鍵が手に入ったから、放っておいたとこか」
皆で情報を共有しながらゲームを進めていたので、アイテムが取れる場所が分かった後は行かなかった箇所があった。そこにこの『真実の鏡』ってのがあったのだろう。
「で。これなんに使うんじゃろ。選択しても説明出ないぞ」
「さあ・・・発売3日で死んだからなぁ・・攻略情報も全然出てなかったから」
「まあ、進めてけばそのうち判るはずだ」
「そうだな・・あれ?」
ワッツが『ポケット』から鏡を取り出すと、共通アイテムからアイテム名が消えた。
「あー、そういう事?これ、俺達4人で1つって事だな」
「だから共通か」
「4人で一緒の時しか使えないのかな」
「そうだろうね」
『ポケット』にワッツが鏡を戻すと、再び共通アイテムに『真実の鏡』が表示された。
「この情報、調べないとな」
「もしや!嫁とのふたりのエンディングに繋がるアイテムか?!」
「おお・・・それなら分かる。やっぱ条件が足らなかったんだ!」
「よっしゃあ!やる気出てきた!」
先ほど取った『謎の鍵』と『秘密のメモ』と使って、『王室秘話』の中に書いてある『ドラゴンの特徴』を書き写し、4人は教室に戻ると机4つをくっ付け、班状態にしてレポートを纏めていると・・
「ねえ、その本みせてくれない?」
聞き覚えのある声がした。
見なくても分かる。うんざりするくらい聞いたから。嫁(恋しい)よりも聞いた。聞きたく無いのに聞かされた、呪われし声だ。人気声優で、彼女がアテる主人公が可愛いアニメも好きだった。『だった』、そう。今はその声のせいでアニメも嫌いになった。
『声優悪く無いやろ?』と言われても、もう生理的に受け付けなくなったのだ。とんだ被害だ。
それはさておき、アレに返事を誰もしない。
(俺はレポートに夢中で、聞こえない、聞こえない。誰か返事しろ)
と、4人は各々思っている。
自分は対応したく無いだけ、意地悪をするつもりは無い。
ただ・・俺達と嫁達に害なすつもりなら、アレは排除だと。
この優しげで温もりある・・感じの声。だが誤るな、これは聞いたら死ぬマンドラゴラ。
アレは俺達が王子で公爵で侯爵で辺境伯だから話しかけて来るのだ。
周りに人が居るのに、ピンポイントでこっちにやって来た。食べ物に集るハエのようだ。
彼らの不機嫌は、アレの無礼で馴れ馴れしい態度にだ。俺達は高位貴族でアレは庶民。
何が「その本見せてくれない?」だ。
俺達の可愛い婚約者なら、「見せていただいてもよろしいかしら?」だ。
口の利き方も知らん無礼者に、なぜこっちが合わせねばならんのだ。
だから無視してレポートを纏める。
アレは俺たちの側でじーっと見つめて待っている。
見るな。減る。
周りの生徒達もこの状況に気づいたようで、遠巻きに見て静観している。
うん、良い心がけだ。助け舟なんか出すなよ。より集中して、レポートが進む進む・・・
「出来た」
「俺も。チェックしてくれるか」
「俺も出来た」
「じゃ、右に回して」
レポートを右側に座る者に渡してチェック・・まだいるのかアレは。
レポート熟読・・・・照合、校正。
「誤字脱字なし、おかしな文も無し」
「こっちも」
「同じく」
「じゃ、提出するだけだな」
4人全員で席を立つ。・・しつこいな、まだいる。
「あ、あのっ!本を」
「うん?本は一旦図書室に返すから、あちらで借り直してくれないか?」
「えー(面倒・・)」
「(面倒言ったぞアレ)本を又貸ししたら、本の所在が分からなくなるだろう?ルールは守ろうな」
そしてオニールは本を持ち、図書室に向かう。
アレは慌ててオニールを追って行った。まずはオニールを落とすつもりか。
奴は4人の中で一番出来る子だぞ。しかも鋼メンタルだ。
「大丈夫かな」
「オニールは出来る子です」
「『ブスって言う』って言ってたけど、どう思う?」
「・・・言うに金貨2枚」
「言わないに金貨1枚。あいつは紳士だし」
「言って言って言いまくるに金貨5枚」
そして数分後。オニールが帰ってきた。
結果はワッツの大勝利だった。
言って言ってって言いまくり、半泣きにしたと。
「やっぱお前が勇者だオニール!!」
そしてオニールは安定の『手で会釈』。
しばらくして、アレがグスグスべそをかいて戻ってきた。
・・数日後、本日4月30日!!月末スチルの日だ!!
4人は図書館の2階にある会議室にいた。
「いよいよ来ちゃいましたですな!月末スチルの日ですぞ!」
「おい。アルフレア、お前いつ『ですぞ』キャラになったんだ?」
「ふふ、それよりも重要なのはスチルのような出来事が起こるか、ですぞ」
「確かに、由々しき事態・・ですぞ」
「そうですぞ」
「うっわっ!面倒だな、お前ら!」
「ですぞ」
「ですぞですぞ」
「です三」
「ブハッ!ばっか!本当にお前らって馬鹿!!」
「この姿でバカしてんの見られたら拙いよな、確かに」
そう。4人ともこんなにハンサムなのに、現世の男子高校生気質が時々まろび出る。
パンパン。
オニールが手を叩いた。
「はい静粛に!諸君、現実逃避の時間は終わった」
「相変わらず出来る子ですな、オニールんは」
「オニールん〜(濁声)」
「オニ〜ルん〜〜(ド低音)」
「うるさい。その呼び名はサイファだけに許可しているから」
「ほ〜い。さて!第一回月末スチル会議、始めますぞ」
「皆、4月のスチルを思い出してくれ」
「やだ。あのウザい顔を思い出させないでよぅ〜」
「そうじゃ無い、背景だ。背景を思い出せ」
「ん〜〜〜・・食堂っぽかったですぞ」
「校買にもプリンは売っているが、食堂でも売ってたな。でもあんなプリンあったっけ?」
「食堂で売ってるプリンにはなかったような・・」
「まあ、食堂に行かなけりゃ良いんでは?」
「腹が減る・・困りましたな」
「それに月末は結構良い『スペシャルランチ』が出るんだぞ」
「高位貴族様のお眼鏡に叶うレベルのな」
「しかも価格は破格」
「そしてデザート付き・・・はっ!!」
皆気がついた!
アレはスペシャルランチのデザートのプリンだと!!つまりスチル回避は食堂に行くなと?
「い、いやじゃ〜〜。転生したらやりたい事ランク2位、スペシャルランチ毎月全制覇がぁ〜〜」
「あれスチルでも出てたけど、本当うまそうだったもんな・・・」
「最初の4月ランチ、どしょっぱなから食べられないなんて・・」
「俺も実は楽しみにしていたんだ・・」
すくっと殿下は立ち上がった!!
「こ、これは・・神が与えた祝福!皆の者、婚約者をお食事に誘うのですぞ!!」
「お、おおおお・・・そうか。俺のプリンをフラーウに。フラーウのプリンを俺に」
「まさしくプリンのシーソーゲーム!」
「あかん・・・午後の授業、マジ魂抜けてるわ・・・」
「では会議終了!!各自嫁(嫁はプリン!スウィーツ!)にランチの申し込みをするのですぞ!」
「おおおっ!!」
「そしてノルマは!!嫁からアーンして食べさせて貰うっ!!ですぞっ!!」
「うおおおおおお!!」
4人は会議室を出て、『廊下を走るな』の張り紙が吹っ飛ぶ勢いで廊下を駆け抜け、婚約者の元へ夫々向かう。
先陣は未来の王、アルフレアだ。
「やあナタリィ、今日は楽しみにしていたスペシャルランチの日なんだ。たまには一緒にどうかな」
「アルフレア殿下・・よろしいのですの?」
「勿論。私はプリンに目が無くてね」
「プリンですの?」
「そう、プリン」
「くす・・良いですわよ」
ほんのり頬が染まって、可愛い嫁に、殿下は満足そうにニコッと笑う。
まあ、アルフレア殿下ったら、可愛い。プリンが好き・・ふむふむ。
婚約者のナタリィは、心のメモに書き記したのだった。
お次はリーンブルグとフラーウ。
「リーン様、どしたの?」
「今日は一緒にランチはどうだ?」
「ランチ!」
「どうする?奢るぞ」
「行く!奢らなくても良いけど」
「なんでも聞いた話によると、男は彼女に食事を奢るものなんだそうだ」
そしてニヤッと笑った。ニヒルな笑みに、フラーウさんは顔が真っ赤。
彼女!彼女って言ったぁ!!ゔれじぃ・・
「みゃああ!!・・行きますぅ(リーン様鬼畜メガネなお顔立ちですぅ・・素敵だけど)」
「ん?鬼畜?」
「みゃあ、なんでもありませんっ!」
ワッツとモーリンは、落ち着きの佇まい。
二人は教室の窓際に並んでいる。
「モーリン、たまには一緒に昼を過ごさないか?ランチでも」
「まあ・・よろしいんですの?」
「こうして一緒なんて、あまりしていなかったからな。このままでは、俺は君に見放されてしまうと危機を感じた、まあそう言うわけだ」
少し目を細めて微笑んだ。
「・・・嬉しい。あの、今日はスペシャルランチの日ですね。私、デザートがいつも楽しみですの」
「そうか!奇遇だな。俺も好きなんだ。今回は何か知っているか?」
モーリンは人差し指を唇に当てて「しーーっ」と呟く。
「楽しみなので、内緒にしてくださいね?」
「・・・ああ、内緒、だな」
なんか二人だけの『内緒』に、ちょっと照れて頬が染まる2人だった。
最後は出来る子、オニールんだ。
サイファは席に着いて本を読んでいた。
「おーい、サイファ。今日ランチしないか?」
「ランチ?」
「月末のスペシャルランチ」
「わー。良いの?」
「おう。奢ってやるぞ」
「・・・」
「ん?どうした?」
「ぐす」
サイファは瞳を潤ませて、ポタっと涙を落とす。
「お、おい。どうしたんだ」
「オニールん・・・ごめんなさい・・・ごめんなさい、ぐすっ」
(これはいかん、彼女の泣き顔を晒す訳には)
オニールはサイファの手をとると、早歩きで教室を出る。
サイファもぐいぐい引っ張られ、一緒に出て行った。
少し離れた人通りの無い廊下、二人は壁に持たれて体育座り。
サイファはグスグスっと鼻をすすりながら、彼に今までの事を詫びた。
つっけんどんな態度をする貴族の女の子がいた。
自分より爵位が低い子だった。
礼儀を軽んじる態度を何度もされて、ついにキレた。
ここでガツンと言っておかなくては、だから凄くきつく注意した。
でも舐めた真似をされた。5〜6人で集まって陰口を言ってた。
反省してなかった。
オニールを馬鹿にする言い回しまでされて、頭にきて頬を叩いた。
もう、舐められてたまるか。
そして注意が叱責に、叱責が罵倒にとどんどんエスカレートした。
もう止まらなかった。止める気も無かった。
今まで舐めてくれたあの子たちも、私を恐れてびくついている。
それがとても・・・楽しかった。
楽しくて楽しくて仕方がなかった。
だが14歳、中等部3年生になって。
いつもの様に『なっていない』子を『注意』していたら、その子がみっともない泣き方をして、それがもう、おかしくて笑ったら・・
「あいつらは人間か?」
アルフレア様が、真っ青な顔で言ったのを聞いて、さあーーーっと憑物が消えるように冷静になって。
冷静になって、今までの事が急に頭の中でグルグル回って・・
(私、何してたの?!)
自分がしていた事が、あまりにも恐ろしくて、ただただ呆然として・・・
気がつくとオニールは彼女と話す事も避ける様になっていた。
離れた所で目が合うと、さっと逸らして足早に去ってしまう。
今年で高等部3年、17歳。
もう何年も、まともに会話もしていない。
もう駄目かもしれない。
幼馴染で、いつだって一緒で・・我儘も怒らずきいてくれた。
だから調子に乗って・・
始業式の日、噴水で待ち合わせをした。返事は来なかった。
だから、待っていないだろう。
いなかったら婚約を破棄してもらおう。
私が悪かったんだから。オニールんは悪くない。
行ったらね。居たの。オニールん。
「行こうか」
手を繋ぐなんて何年ぶりだろう。
そして『魅了』事件でも、
「大丈夫だって。魅了で俺たちがどうこうなんて無いだろ?付き合いも長いしさ」
なんてさらっと言うし。
二人でお買い物も楽しかった。本当、昔に戻った様だった。
剣も選んでもらって、乗馬用鞭も見てくれて。
そして・・ランチに誘ってくれた!物凄く久しぶりで・・
「オニールん、ごめんなさいごめんなさい・・うえぇえん・・」
「サイファ。ちゃんと謝る事が出来る様になって、本当良かった」
「怒ってる?」
「俺はまあ・・苦労したんだな」
「?」
「またはっちゃけたら、俺がちゃんと叱ってやるから。自制もしようね」
「うん」
「もう反省タイムは終了!ランチ、楽しみだな」
「ううっ・・オニールんーー!!」
「うわぁ」
サイファが飛びついたので、オニール共々床に転がったのだった。
転がった格好で、オニールは笑う。
「うん!サイファが一番良い子だ!ちゃんと気がついて謝れる!俺のよ・婚約者が最高!」
嫁と言うのは我慢した。
出来る子の嫁も出来る、正善。
この世界の時間割は、午前3科目、昼休み、午後2科目。
今午前の科目が終わって、昼休憩の鐘が鳴った。
「あの」
誰かが声を掛けて来たが、こっちは先約がある。瞬時に席を立ち、エスコートする相手にお声がけだ。
「ナタリィ」
「フラーウ」
「モーリン」
「サイファ」
それぞれの相手の手を取り、いざ!食堂の月末スペシャルランチ!
まだ後ろにアレの気配があるので、早歩きになるのは仕方が無い!
そしてノルマ『嫁(蕩けます)にアーンしてプリンを食べさせて貰う』を皆達成!!
ついでに『俺達が嫁(プル〜ン)にアーンしてプリンを食べさせる』も達成した!
愛は異世界を巡るのだ!
さて、5月。
4月に日課の『剣術』『魔術』『学問』をちょいちょい予定に入れ、実行したので・・
ステータスが少し上がった。学問を上げると剣技と技、魔術と呪文が増えるのだ。
戦闘場面に現れるゲージがMAXになると、剣なら技を、魔術なら呪文が使える。
技の右横()は使用するポイント、技のや呪文の数字から引かれる。無限に使えるわけでは無いのだ。
各々で予定を決めたので、4人のステータスはこんな具合の成長となる。
【アルフレア】
名前/アルフレア・ボゥ・ザーフェス王国王子
年齢/17
HP 0/59
MP 0/56
剣技/80
技 / 居合斬り(10) 先制攻撃(15)
魔術/80
呪文/ 業火(10) 防風(15)
所持アイテム
キウイ草のジャム
共通アイテム
真実の手鏡
【リーンブルグ】
名前/リーンブルグ・カーン公爵子息
年齢/17
HP 0/50
MP 0/70
剣技/50
技 /
魔術/100
呪文/ 業火(10) 防風(15) 落雷(30) 火爆・全体(50)
所持アイテム
キウイ草のジャム
共通アイテム
真実の手鏡
【ワッツ】
名前/ワッツ・ビルホース侯爵子息
年齢/17
HP 0/56
MP 0/96
剣技/53
技 /
魔術/53
呪文/
所持アイテム
キウイ草のジャム
共通アイテム
真実の手鏡
【オニール】
名前/オニール・セイクリッド辺境伯子息
年齢/17
HP 0/90
MP 0/50
剣技/70
技 / 居合斬り(10) 先制攻撃(15)
魔術/70
呪文/ 業火(10) 防風(15)
所持アイテム
キウイ草のジャム
共通アイテム
真実の手鏡
『謎の鍵』『秘密メモ』は授業で使用したのでもう無くなっているが、キウイ草のジャムは中盤で使用するので、まだ残っている。
ステータスも皆徐々に上がっていて、技もぼちぼち覚えて来た所だ。
ちなみに普通の授業は当然受けている。毎日午後一時間、この選択授業があるのだ。
5月から冒険者ギルドに加入して、依頼を受ける事が出来るようになる。
HPやMP、お小遣いも貯められるよ!
最終ボスを倒すには、かなり強化しておかなければならない。
何せ一人で戦うから!ヒロインの手助けを受けずに倒す気だから!!
アレの力は借りん!!
こうして5月も剣術、魔術、学問に勤しみ、土日はダンジョンで依頼をこなして・・・
たまに嫁(卒業が待ち切れない)とデートしたり。
4組で集団デートとかも楽しんだりと、リア充生活も満喫!
もうこのまま行けば、嫁と幸せ二人エンド、いけるんじゃね?と思い始める4人だった。
お勉強タイム、今日はリーンブルグの部屋に集まり各自予習復習をしていると・・
「あ」
ワッツが変な声を上げたので、残る3人は彼に注目した。
「ヤバイ。5月・・・広大な花畑・・」
「・・・あ!月末スチルか!」
「忘れていましたな」
「どーするよ。確か月末にフィールド探索の授業があったな」
「その時に起こるか?」
「でもあのスチルの場所、フィールドっぽかったか?公園っぽかった気がする」
「今の時期、花なんて何処もかしこも咲き乱れているし、公園も花が綺麗だし・・うーん、スチルの場所、特定出来ねぇなぁ」
「なんの花かも、わかんねぇもんなぁ〜〜」
「黄色とピンクだったか?紫もあったなぁ」
「やっぱ、公園かな?」
「学園の花畑かもよ。あそこも大概広いし」
「ヤベェ・・この時期、どこも花畑だらけでマジわからん」
「よし!!」
できる子オニールが徐に立ち上がった。
「この時期、出かける時は、俺達で固まる、もしくは!!」
「もしくは?」
「嫁と一緒に行動だぁっ!!」
「それデートじゃん」
「デートで良いんだよ。俺達を守ってもらいつつ、嫁とも一緒!」
「よ、喜ばしいっ!!!」
「とにかく!花がある所には、嫁(花見デート、喜ぶかなぁ)と行動で!決定!!」
「おおおおーーーっ!!」
こうして図書館2階会議室会議は終了したのだった。
花がある所へ行く時は、嫁(可愛い)同伴。
たまに視界に人影が過ぎるも、隣の可愛い婚約者に微笑んで、
「あーー、僕ぁ幸せだなぁーー。君と一緒にいる時が、一番幸せなんだー(加山●三風)」
とかふざけ半分で言ってみる。
すると隣の可愛い可愛いああ可愛い嫁(俺瀕死)が、これまた可愛い可愛いああ可愛すぎ、まじ可愛すぎて死にそうになる笑顔を向けてくる。これは殺す気ですかそうですか。君のためなら死ねる。
可愛い幻想が途切れて正気に戻った時には、人影は消えていた。
こうしてスチルを切り抜け、嫁と月末スペシャルランチを頂く。
今回のデザートはフルーツタルト。
ナタリィが照れて、ちょっとモジモジしながら、
「はい、アルフレア殿下。あ、あ・・ん・・してください・・」
「ぶっふぉ!!」
殿下、顔真っ赤で鼻抑えています。なんか赤いの滴ってます。
ナタリィさん『アーン』と言う台詞が恥ずかしくて途切れ途切れ言うもんだからー!
いけない雰囲気な、喘ぎ声っぽくなってアルフレア殿下大変な事になってます。
「で、殿下?」
「ちょっと待ってちょっと待って・・(ゴシゴシ)はい、あーん」
はむっ。もぐもぐ・・
「何故だろう。ナタリィがくれたタルトの方がより甘露に感じる」
「まぁ・・・」
見えない花が、二人に回りでフワフワ舞っているような空気を醸し出していた。
これぞカップル効果。
左隣にはリーンブルグとフラーウ。
「リーン様っ!」
「なんだ」
「わ、私っ!じ、自分で食べられますのよっ!」
「そうか」
「だからムグムグ・・だから、自分ムグムグ」
「美味いか?」
「美味しゅうございます、ですがムグムグ」
リーンブルグの膝にフラーウは乗せられた状態、リーンが餌付けの如くフォークをフラーウの口に運ぶから、彼女は文句も言えなかった。というか、言う隙を与えてくれなかった。
「だから!リーン様も!食べてくムグムグ」
「うん。後でフラーウが食べさせてくれるんだろう?」
「み。みみにゃあああ・・」
「ほら」
「ムグムグ・・」
「フラーウが食べ終わらないと、俺が食べる事が出来ない」
「ムグムグ」
「けれど、急がなくて良い。ゆっくり食べなさい」
「でも・・もうっ!」
フラーウは体を捻り、机のタルトを取ると、
「はいっ!リーン様っ!あーん」
「・・・」
リーンブルグが無言で口をゆっくり開けると、ぽいっとタルト一口分を放り込む。
彼の上品に咀嚼する様をフラーウはじ〜と見つめる。
「美味しいですか?」
「ん・・」
「うふふ、さあ、リーン様!もう一口!あーん」
「・・・」
「むにゃ!ムグムグ」
リーンブルグもまたフラーウが口を開けた隙に、ぽいと一口食べさせたのだった。
食べさせやっこをするリーンブルグ達をチラチラと見るワッツは・・羨ましいと思った。
婚約者のモーリンは、静かにタルトを召し上がってらっしゃる。
お喋りもあまりしない彼女だから、ちょっと物足りない。
せめてアルフレアの婚約者ナタリィくらいの親密さが欲しい・・
自分の横に座るオニール組も、仲良さげにおしゃべりして食べている。
・・だが。
モーリンだけが悪い訳ではない。自分だって人のことは言えない。
自分も彼女に何を話しかければ良いのかさっぱりだったからだ!!
「美味しいね」
「ええ」
・・・・・。
はい!終わりました!!
こら、話を膨らませるんだよ!!ここで止めてはいけない!!
「モーリンは好きなお菓子あるのか?」
「・・・スウィーツはなんでも・・好きです」
はいっ!!また止まったよ!!
俺こんなに会話続けられなかったか?
パーティーで他所の令嬢と、くだらない会話もさら〜〜っと出来てるのに!
本命にこれは無いぞ・・・戻れ俺の会話術・・・
「・・ワッツ様」
「ん?」
「ワッツ様は・・お好きなスウィーツは何ですの?」
おおおおお!!モーリンが頑張ってる!
「そうだな・・昔君が作ってくれたブラマンジェ、あれ美味しかった」
「・・まあ。そうでしたの?」
「甘過ぎず、トロンとして美味しかった。また食べたいなぁ」
「・・・それでしたら・・・今度の土曜日に・・あ、ご用がなければ・・」
「用なんかあってもブラマンジェ優先だよ」
嫁(ブラマンジェのように白くて甘い)が頑張ってくれたなら、俺も頑張るしかなかろう?
最後は出来る子と出来る嫁の番だ。
二人は幼馴染でネタは豊富、喋り出し、波に乗ったら何時迄も話続ける事が出来る。
「ねーオニールん、今度ダンジョン、一緒に行かない?」
「おー、良いぞ。先月ぼちぼちスキル上げたから腕鳴らしに行くか」
ギルド依頼は5月から出来るからな。
・・・ギルド。
・・・・なんかあった様な・・
「あ」
「どしたの?オニールん」
オニールはテーブルを人差し指でコンコンコン、3回叩く。
「!」
他3人はピクリと一度反応し、顔を見合わせて頷いた。
そして・・
放課後の図書室2階、例の会議室に4人は集まった。
「ギルドでイベントの会話を聞きに行かなくちゃいけない」
「あー、そう言えばここで聞いておかないと、最終ボスでギッタンギッタンにされちゃうんだよな」
「忘れてましたな。勝てはするけど、すんなり勝てないのですぞ」
「そうそう、体力魔力ごっそり削られるもんなー。残してないと後々困るし」
そうなのだ。
5月のギルド依頼で、『オーク2体を倒す』を受けるとギルドの受付が支配人にチェンジして、重要な話を教えてくれるのだ。これ、一回こっきり、5月だけなのだ。
6月以降同じ『オーク2体を倒す』依頼を受けても、ギルド支配人にはチェンジしてくれない。
「うーん、マジ忘れてた!なあ、これから起こる重要な所、書き出して確認しよう」
「ですな。まあ、今は先に、ギルドへ行きましょう」
4人は図書館を出てギルドに押し掛け、ギルドの支配人を引き摺り出し、いやお伺いしたのだった。
「オーク2体倒したいですっ!」
「ああ、オーク2体ね・・はいこれ」
支配人は雑な態度で袋を押し付けると、手をしっしっと払う仕草をした。
「はいもう帰った帰った」
「え?あの」
「もうしょっちゅう来るんだよな、あー早く帰った帰った。全く5月になるとこんな奴ばっか来やがる・・・はぁ・・学生、とっとと帰れ」
そしてどすどす足を鳴らし、奥に引っ込んでしまった。
ああ・・・皆ここに来て『オーク2体』って言うんだ・・・
仕方ないね、5月限定だし。俺達4人以外も来るんだね。学生って、うちの学校かな?
重要な話が聞けるんじゃ無かったのか?
「・・・俺たちはイベントで必要だから来たが・・」
「授業で言ってたか?他の生徒も来てるとは」
「いや、聞かないなぁ・・これ俺達しか関係ないはずだよな?」
「まあその・・他の奴らは、関係ないから無視の方向で」
袋を開けると、思わずガン見した。
「なんでしょうなぁ・・・」
「・・うん」
「これってさぁ・・懐かしいと言うか・・あまり使わないよね?最近」
「うん。『イチヂク浣腸』って」
(これ、確かドラゴンとの戦いに有利になる話が聞けるイベントだったよね?)
4人は声にならない声が脳内にこだましていたのだった。
実はこのギルドでのイベント、4人とも面倒だからやらなかった。アイテム貰えるならともかく、と。
戦いが面倒以外気になる所も無かったので、すっ飛ばしていた。
おかしいな?アイテム貰えた。
もしや「嫁エンドに必要かも!」と思って来たのだが・・・何故?イチヂク浣腸とは?
「しかもスカルドラゴンですぞ、戦うの」
「骨のドラゴン、こいつ内臓あったっけ?」
「無かったような気がする・・というか骨だし」
「でもこんな小さい・・どこに使えば良いんだ?目薬変わり?」
「・・きっと追々分かるんのですぞ・・」
(あいつ、アンデッドだったよなぁ?)
4人は暫し突っ立っていたが・・・
「帰ろ」
とぼとぼと寮に向かって歩き出したのだった。
先ほど話していた、ゲームの流れを書き出すのはすっかり忘れてしまっている。
寮に帰ってから3年の生徒にギルドの話をすると、渋い顔で・・
「知らなかったのか?ああ・・王族や高位貴族様には言わないよなぁ・・・」
そして聞き出したら・・馬に使っていた、と。
この時期しかギルドで、しかもタダで貰えるので、慣例化していたと。
「馬用なら学校の備品で用意されているではないか」
「いえ、人間用がどうしても欲しいので」
「何故・・・はっ!」
アルフレアは急に悪寒を感じて追従を止め、視線を逸らし、一歩下がる。他3人もそれに倣った。
馬に使っていないだろ?なあ、馬に使っていないだろう??聞きたいけど聞けない・・
聞くなと本能が警鐘している!!!
「うん、分かった」
「殿下」
「説明はもう良いから。では」
「殿下、内緒に」
「うん、うん、うん。じゃ。じゃ!」
「他の方々も」
「じゃあ!!」
4人は競歩並の速さでそこから立ち去った。
疾しい事では無いかも知れないが、聞かない方が絶対に良い。
ハブられてこんなに嬉しく思ったことはなかった・・・
男子寮の闇を図らずも知ってしまった4人だった。
・・もう考えまい。
それよりも!スカルドラゴンにイチヂク浣腸を、どうこうする事の方が大事だよね?
4人は王子だからお部屋も王子用な王子部屋に集まっていた。
「それにしても・・どうですかな?」
「使い方、本当に追々分かると思うか?ドラゴンだぞ?」
「・・・こんな大きさだったっけか?イチヂク浣腸。縦15〜6センチあるじゃん」
「俺ガキの頃使ったっきりだからこんな大きさ初めて」
子供用は縦10センチ満たない大きさだ。
「多分大人用ですな。でもアンデッドにこれを使うのですかな?」
「こんな内容、ゲームであったかぁ?」
「男の子も女の子も楽しめるゲームと謳ってたよな、これ」
「そもそも・・本当にドラゴンに使うのか?」
「・・・・・・・・・・・・・」
全員再び押し黙った。
追々分かる事に期待し、その日は解散となった。
共通アイテムに『イチヂク浣腸』が追加された。
こうして6月、7月も剣術、魔術、学問に勤しみ、土日はダンジョンで依頼をこなして・・・
たまに嫁(卒業が待ち切れない)とデートしたり。
思い出した様に月末スチルをスルー、結末のスペシャルランチで〆。
4組のカップルは、日々着々と思いを通じ合わせているのを実感していた。
8月は夏休みで、授業が無い。ギルドに行って任務と、図書館での学習がメインとなる。
ゲーム本来の進行だと、攻略対象の女の子と親密になったりする努力をするのだろうが・・
そんなもん!嫁一択の俺達には必要無い『作業』なのだ!
嫁との愛を育む時間にしてしまうのは瞭然!
その証拠に、攻略対象の女の子が表示されてる画面には、婚約者しか埋まっていないのだ!
しかも好感度100%。当然だ。
そんな8月だが、重要なイベントが待ち構えている。
アレに関わるイベントだ。
嫌だがギルドの依頼を、アレと一緒にこなさなければならないのだ。
「いやですぞ」
「俺も嫌だ」
「嫌だ」
「話になりませんね。我慢なさい、これこなさなかったら進めませんから」
「じゃあジャンケンですな」
「ジャンケンお前弱いのに良いのかアルフレア」
「はっ!!俺も弱いっ!」
「はい、良い加減にしようねー!君達には呆れるしかない」
またも出来る子オニールが仕切る。
「何よ〜ぉオニールん〜」
「そうよっ!オニールん!」
「何か良い案があるって言うのっ?オニールん!」
「喧しい!なあ、ひとりで行かなくても、俺達4人で一緒に行けば良いんじゃ無いのか?」
!!!!!!
「やだ流石ですな!出来る子は違いますな!!」
「我がチームの頭脳だけあるな」
「そうか!眼から鱗だった。一緒に行けば良いか!」
「そういう事」
「そしてアレは付いて来させるだけ、放置で良い」
「はあああああっ!!神か!オニールんは神か!!」
絶賛の中、オニールんは安定の『会釈』だ。
こうしてギルドイベントへの不安は解消された!
さて、アレ扱いされているヒロイン、・・・・・・名前忘れちゃった!
しょうがないからアレのまま進める。改めてアレだが・・・
困惑していた。
もう、始業式から『モテモテ人生』がスタートするはずだった。
なのに・・・攻略対象の4人から攻撃されるとは?
ヒロインは色々省くが『とある』出来事がきっかけで、この学園に編入が許された。
たった1年だけの勉学となるが、学費は『とある』所が払ってくれるので心配はなかった。
多分ここを卒業したらその『とある』ところに就職となるのだろう。
せっかく学園に入学するのだ、1年間楽しもう!
確か王子様達とは同い年、同級生ということは、同じクラスになれるかも?
アレの住む町で、かの有名な学園に入学出来たのは快挙!とみんな大喜びだった。
何と『街の人気者』だったアレの為、街の皆んながお祝い会を開いてくれた。
彼女は孤児で、街の教会のシスターに引き取られて育った。
街の住民は毎週お祈りに来るので、彼女のことを知る人は多かった。
ちょっとしたお祭り状態で、多くの人々にお祝いを言われ、まさに人生絶好調な状況だった。
そのパーティーのお喋りで、王子様達の噂話を聞く事になる。
なんでも婚約者達というのが酷い意地悪なお嬢様で、気に入らない子を容赦なく虐めるそうだ。
傲慢で王子様達も嫌っているが、家との繋がりだから我慢していると。
お嬢様達にいじめられないように、気を付けろと心配されたのだった。
「まあ、なんて可哀想に」
貴族も大変ね。庶民で良かった。
この時はそんなに気にしていなかったが。
新学期の始業式、アレは期待を胸に初登校する。
そこで見かけるのだ。
素晴らしく美しい王子、そして高位貴族の御学友達を。
制服のバッジが同じ色。つまり、同じ3年生!
なんて素敵な方々なの・・同じ3年生・・お友達に、いや。
・・・恋人になりたい・・・
彼らの隣に婚約者がいるのを見て、彼女らの顔を・・自分の顔に挿げ替える妄想をした。
うん。どの殿方の隣にも、あたしはつり合うではないか。
酷い婚約者達だそうだから、あたしがお友達になって励ましてあげよう!
そして・・・あたしは庶民だから、そうね・・愛してくれるなら側室や愛人でも良いかな?
お金持ちだもん、贅沢させてくれるよね!
とまあ図々しい・・いや。この世界の娘なら、5人に1人くらいこんな考えを思い付くだろう。
でも想像で終わるのが普通。
学園の校風で『身分は関係なく、共に競い合い、友情を育む』とあるのだから。
王子様達とお友達!と、俄然親しくなる気満々だった。
いや、流石にそれをそのまま真に受ける者はいない。
やはり庶民と貴族では、なんだかんだで隔たりがある。
では友情が無いとは言わないが、常識の範囲程度の付き合いだ。
と言うか、この学園に庶民は全校合わせても5人程度、その庶民も大金持ちの商家だ。
アレのように完全庶民は本人だけ。
ドキドキワクワク、教室に入ると・・王子様に御学友達がいるではないか!
同じクラスになれたのが嬉しくて、思い切り可愛く挨拶をしちゃおう!
が。
突然、王子様達がアレに向けて『障壁結界』を張り巡らしたのだ!
彼らの表情は・・・まるで魔物を見るようにアレを睨んでいる。
「君!どういうつもりか?高レベルの魅了を撒き散らすなど!!」
「魅了は攻撃魔法だ。君、もしかして俺たちを敵と思っているのか?」
「仲良くしたいなら、普通にしろよな。不愉快な術使いやがって」
「君は誰でも彼でもそんな術を使うのかな?それに魅了って、異性に効果がある術じゃないか?もしかして彼女のいる男にまで、かけるつもりな訳?」
4人は口々にアレを弾劾したのだ。
(・・え。み、魅了?!な、何の事?)
アレは慌てた。気が動転しまくった。
クラス中が騒然となって、女生徒が立ち上がって、彼氏や婚約者に駆け寄る。
「アルフレア殿下!」
「リーン様!」
「ワッツ様・・」
「オニールん!」
彼らの婚約者も駆け寄った。すると、王子達は・・
蕩けそうな笑顔を彼女らに見せ、何か話している。その言葉を聞いて、婚約者達も嬉しそうに微笑んでいるのだ。
あら?仲悪いんじゃなかったの?婚約破棄間際とかじゃなかったの?
あの噂、嘘だったの?
その後、彼らに何度か話しかけようとしても・・
無視!無視!!無視!!!
放課中は4人で固まっている。
昼食は婚約者か御学友で一塊になっている。
勇気を出して一塊の彼らに話しかけても無視、もしくは席を立ってどこかに行ってしまう。
初めて会った時に、魅了を出した疑いの所為なのか・・完全に嫌われている。
と言うか、クラス全員に避けられている。女子には総スカンだ。だからずっとボッチだ。
街で彼女は人気者だった。笑顔で話しかければ、みんな親しくしてくれた。
つまり・・・意識していなかったが、魅了を使っていたのだと・・初めて知った。
校長室ではお説教というよりも・・脅しだった。
王宮からは摂政次官が数人の護衛とやって来て・・
『王子殿下、そして高位貴族の御子息方に、如何なる術も使うのは罷りならん。本来なら厳罰、死刑だったのだぞ』
見た目では優しげな紳士だったが、視線を向けられると心も脳も冷えた。身体もガタガタ震えた。
当然だ、王子・・未来の王に、その側近候補達に術を掛けようとしたのだから。
『お前は彼らに魅了を使ったそうだな。まだ17歳で・・・末恐ろしい娘だ。だが流石我が国を担う彼等は、お前の姦計に気付いたのだから何とも頼もしい。いいか。このような謀、二度とするでないぞ』
そして校長に、
『この娘、才能はあるようだ。今回は大事にはしないが、監督するように』
指示をして帰っていった。
(何よ・・魅了って・・)
悪い事をしたつもりは無かった。ただ、可愛い、良い子だと思われたかった。
いつものように挨拶をしただけだった。
悪いって知ってたら、知ってたら・・ダメだ。
知ってても、どうやったら魅了無しの挨拶が出来るの?
笑うと魅了になっちゃうの?
どうすれば良いの?
でも。
このままはいけない。
・・謝ろう。
あたし知らなかったって。
使っていたの、気づかなかったって。
悪いことした訳でないのに謝るのは、ちょっとシャクだけど。
でも相手は王子様と高位貴族の御子息だもん。
謝って、王子様達が赦してくれれば、何とかなる筈。
そして改めて、お友達になってもらうのだ。
もしかしたら起死回生、お友達から恋人になれるかもしれないではないか?
お妃は面倒だから、側室とか愛人とか。
きっと良い暮らしが出来る、『とある』所で働かなくて良くなる!
あれから数ヶ月・・
まだ謝れてない。
明日から夏休みだ。
結局『仲が悪く婚約破棄も近い』という噂だが・・
王子様は婚約者と睦まじくしている。このあいだは二人でお茶を、本を読み合って談笑していた。
御学友の子息達も、婚約者と行動しているのをちょくちょく見かける。
噂をつなぎ合わせると、婚約者のご令嬢達も前は意地悪だったが、今は改心したそうだ。
「ナタリィ様が昔の事を謝ってくださったの!殿下とうまく行っていなくて八つ当たりしてしまったって。ちょっと迷惑ではあるけど、あんなに可愛らしい仕草で言われたら、許したくなってしまったわ」
「私はフラーウ様に」
「まあ!私はモーリン様よ」
「サイファ様が私達に謝るとは思わなかったわ。でも私達もちょっと酷かったものね」
「ええ。お互い様なところもあったもの。私たちも反省しなくちゃ」
「私だったら謝るなんてできないわ。本当に素晴らしいわ」
婚約者達は、以前の行いを鑑みて大いに反省したそうだが、なかなか謝る事が出来なかった、本当に申し訳なかったと告げると、頭を下げたのだ!
こうして4人の婚約者は、概ね貴族令嬢達に赦されたそうだ。
聞いていた意地悪も確かに本当の話だったが、和解して過去の話になっていた。
何よ・・・
チャンスだと思ったのに!
上手くいけば王子、高位貴族・・いやそこまで高望みはしなくても、程々地位のある貴族か豪商の息子の恋人くらいにはなれたかもしれないのに。
・・・おっと。
そういう欲深い所は、反省しよう。
教室で、人目がある場所で、王子達に謝って赦して貰わなくちゃ。
王子様達に許して貰ったってアピールするの。そうすれば、今のような無視状態から抜け出せる筈。
このままではひとりで卒業を迎える事になってしまう。
日が経てば立つほど不利になる。
なのに・・・全然話を聞いてもらえない。
歴史のレポートを提出する課題が出たあの日、図書室に行くオニール様に取り縋って、やっと話を聞いて貰えたかと思ったら軽蔑の眼差しで睨まれて。
「何で付いてくるのさブス。俺は君と一緒の所を誰にも見られたくないんだ。サイファに見られたら・・彼女が泣いてしまう。君はね、それだけの事をしたんだ。分かってるか?本当、信じられないよ。無差別攻撃の魅了って。性根が本当、ブスなんだな。庶民は心の腐った奴をブスって言うんだろう?」
そして歩みを早め、彼は立ち去ってしまった。
その後、他の人達にも何度も何度も試すけれど・・・無視。
「何でよ・・・何でなのよ・・・」
黒い霧のようなモノが、彼女の足から湧き出していた。
「夏は海ですな」
アルフレアがポツリと呟いた。
「良いなぁ、海」
「海といえば釣りだな。カジキ釣りだな」
「ワッツ!なんでだよ!そこは水着だろ?・・ああ。サイファのすらっとしたスレンダーな肢体にぴったりの、体の線が丸わかりの・・貴様達の嫁(水着姿!)のも見たくないのか!!」
「んぶふぅ!ナタリィの、み、水・・着・・(ゴシゴシ)」
「お前の嫁、胸に尻があるもんな」
「なんですと?!ナタリィの極上豊満のむっちりオッパイになんて言い草!貴様の嫁はするーんとしててサーフィンの板になれそうですな」
「っだとぉ?オイコラァ、外出ろ。『落雷』で脳天に大穴空けてやる。あの華奢で繊細なフラーウの良さがわからんとは。まあ、そんな良さは俺だけが知っていれば良いけどな」
「あーあー、そうそう。お互いの嫁の良さは自分がわかっていれば良いんだ。そうだ。モーリンと船で沖に出て、のんびり寛ぐのも良いなぁ・・で、俺は釣りをすると」
「俺はサーフィンをするかな。板はリーンブルグの嫁・・ははは、冗談だ」
「赦さん・・・フラーウを足で踏むと言いたいんだな?貴様・・・お前は『火爆』で芯から焼いてやる」
図書室2階の会議室で、いつもの会議&予定を計画中。
「よし。来週海に行きますぞ。そして嫁成分を充填してから・・・アレとダンジョンに行く・・ぐぐぐ」
「4人で一緒にな!接触してくるかもしれないので、注意だぞ」
「腕組んでくるとかか?」
「手を繋いでくるかもな」
「うげぇ・・耐えられるかな」
「回避しろよ!頑張るぞ!」
「おーーー!!」
こうして4組のカップルは庶民に扮し、国一番の海のリゾート地『モスコミュール』に出掛けた。
勿論護衛もぞろぞろとくっついている。
ちなみに王子は騎士二人、ナタリィ嬢も侍女二人。
王子はナタリィ嬢と波で戯れ、雑誌の広告ばりの『ははは、待て〜』『捕まえてごらんなさ〜い』をやらかしている。でも絵になる。さすが王子殿下とその妃候補だ。
そして騎士と侍女も、なんだか良いムードになりつつあったりする。
リーンブルグとフラーウ嬢だが・・
波間に浮かぶフラーウ嬢の傍に、彼はぴったり張り付いている。彼女が泳げないので、リーンブルグがつきっきりで教えているのだ。で、体を密着したり、抱き寄せたりと。もうデレデレである。
こちらもリーンブルグには従者、フラウ嬢にはメイドが付き添いでついて来た。
こっちもなんだか良い雰囲気である。
ワッツは前に言った通り、船で沖に出てカジキ釣りだ。日陰でモーリン嬢は本を読んだり、ワッツを見つめていたりとそれ相応に楽しんでいる。今はお茶の用意をしている。
で。こっちの付き添い&警護だが、ワッツは年上の従姉妹が付いて来た。この世界では行かず後家扱いの24歳だ。退屈だから連れて行けと言われ、仕方無しに連れて来た。モーリンには兄が付いて来た。彼も男でも結婚していないと変な目で見られる29歳だ。なんというか・・お互い婚約者無しというわけで・・二人で楽しそうに話をしている。
出来る子オニールは、サーフィンをサイファと楽しんでいた。
オニールには女騎士が護衛について来た。辺境伯の保有する騎士団でも上位に食い込む実力の、女豪傑だ。対するサイファは、これまた屈強と言われる近衛騎士を連れて来た。彼は父の部下でもある。
護衛ではあるがリゾート地、しかも海だから軽装だ。
そしてこの二人も周りの流れに乗った!!背が高くてがっしりして、思った以上に美男な騎士にドキドキしてしまう女騎士、そして意外と女性らしい体形、そしてクリっとした瞳と綺麗な長い髪を見て、近衛騎士も顔が赤くなって来た。
「上手くいったな」
「うん!お父様が彼に、良い嫁を見つけてやりたいって言ってたもの。良い人なんだけど、出会いは少ないわ、結構奥手だわで」
「ウチのは女だてらに強い騎士だけど、上手く行くかなぁ」
「大丈夫!第3騎士団の副団長だから!強いよぉ〜?2メートル近い身長だし」
「うちのも180あるぞ。でも意外と料理が得意なんだってさ」
「まずは胃からですかー。こりゃすぐに陥落ね!食いしん坊で大食漢だもん」
と、仲人をやってたりする。出来る子と出来る嫁である。
結果から言うと、2年以内に全員結婚した、とだけ報告しておく。
こうして丸ごとラブラブハッピーなホリデーバカンスを楽しんだ王子達は・・・
いやいやグズグズ、イベント消化の『ヒロインとギルド依頼を達成』に赴く。
このイベントは、ギルドに経験値を稼ぎに来た主人公達が、アレに頼まれて一緒に依頼を受け、ついでに魔物を倒すという内容だ。行かなければ先に進まないので、行く。
正直、自分達はゲームに似た世界にいるだけだ、ゲームとは別次元だ・・なんて思っていたりする。
いっそゲームの流れを無視しても良いのでは?とか思うのだ。
だって、イチヂク浣腸とか。前の世界でプレイした時に出なかった。
それでも不安だから、気をつけてはいるが。
とにかく、このイベントに行く前に、例によって図書室2階で会議をした。
「ゲームの流れを改めて思い出してみよう!」
そして書き出したのがこれだ。
1/終 噴水前で婚約者と会う。
2/終 教室でアレと対面
3/終 お買い物イベ ○キウイ草ジャムを手に入れる
4/終 図書室イベ ●鏡を手に入れる
5/終 自分の婚約者を捨てて、アレや他の婚約者と親しくなる(飛ばしている)
6/終 ギルドで話を聞く ●イチヂク浣腸
7/終 自分の婚約者が意地悪をする噂を聞く
8/終 虐められた子を慰め、好感度が上がる(1)
9/終 アレと夏休みに海に行く
10/ アレのギルド依頼に付き合う
11/ 新学期早々剣術大会 好きな子に応援される 優勝して剣がもらえる
12/ 虐められた子を慰め、好感度が上がる(2)
13/ 元婚約者と話す (分岐的なとこ)
14/ アレとポーション作り ポーションを手に入れる
15/ 文化祭 アレと行動 バザーで古いグローブを手に入れる
16/ 虐められた子を慰め、好感度が上がる(3)
17/ ギルド依頼で行った先で謎の遺跡を発見
18/ 魔法を暴走した子を助ける(新たな攻略対象出現)
19/ アレに新たな力が(光属性)
20/ クリスマスイベ
21/ 新年イベ
22/ 虐められた子やアレと好感度を上げるミニイベ
23/ バレンタイン的なイベ 元婚約者と喧嘩する場面も
24/ 突然のスカルドラゴン討伐イベ
25/ 元婚約者への断罪イベ、好感度で誰かとくっつくエンド
「こんな感じだったですかな」
「まあ、細かいミニイベは書かなかったけど」
「・・・断罪イベ・・・ぐううううっ、モーリン・・・」
「まあ落ち着け。もし発生したら、俺も絶対にサイファを助ける・・!」
「今我々は「9』のところまで来ているのですな」
「ゲーム中手に入れてないアイテムとかもあるよな」
「この流れに乗るのが良いのですかな?」
「どうだろう。現に俺たちは『5』を無視した。嫁とは絶賛ラブラブ中だしな」
「本当、このイチヂク浣腸、何処で使うんだろう?ただのユニークアイテムか?」
「そういえば・・・好感度画面、ちっとも見ていなかったな。そいっ」
ピロリン
各自目の前に、ステータス画面が現れた。
このステータス画面は彼らだけでなく、全種族が開示出来る。勿論魔物もだ。
例えば
【オーク】
名前/
年齢/5
HP 0/180
MP 0/0
剣技/
技 /
魔術/
呪文/
所持アイテム
銀貨3枚
と、こんな感じだ。オークは魔法や剣技などは覚えられないので空欄だ。
4人のステータス画面には、好感度一覧が現れている。
この前よりは増えていて、友人達の婚約者も欄に載っていた。
アルフレアの好感度一覧を見ると、
ナタリィ『婚約者・嫁候補』好感度100%(恋人)
フラーウ『友人の嫁』好感度50%(友人)
モーリン『友人の嫁』好感度50%(友人)
サイファ『友人の嫁』好感度50%(友人)
と表示されている。他の面々も、婚約者は100%であとは友人だ。
当然、アレは無い。
だが、ギルドイベで・・・多分アレもここに表示されるようになってしまう!
「くっっ・・・!」
「いらん奴が追加されてしまう・・嫌だ・・・」
「いや、前向きに考えろ。向こうの好感度が分かると思えば!」
「なるほどな」
アレの好感度をどんどん下げる意向で進めれば、二人でエンドに近付けるのでは?
4人の思いはひとつ!!
自分の嫁(絶対に)とのエンド!でもゲームが終了しても、この世界は続くから。
これをバネに!嫁とさらにイチャラブに!!イチャラブに限界は無いのだ。
何せ彼等の両親は、十七(前世)の息子がいても仲良しだった。
ああなりたいな。なれれば良いな。と、思っていた。両親のその点は尊敬していた。
そんな溺愛の嫁(あーん早く『嫁です』って紹介したいっ)が、ゲーム終盤に『断罪』されるのだ。
様式美?いやいや待て待て。絶対ダメ。
「さて。ここからは真剣な内容です。嫁(尊い)に降りかかる・・断罪イベですぞ!!」
「うおおおおおお!!!!」
「言いがかりにも程がある。嵌められた感が増し増し、今の嫁がそんなことする訳ない」
「まあ、ゲームのときは確かに意地悪したりな所もあったが、今の彼女達は違う!」
アルフレアはむすっとした顔で頷く。
「下の身分の者が調子に乗ってたら、咎めるよね?だって、ナタリィは私の嫁になるんだよ?
将来の后だよ?女性の中で一番偉いんだよ?注意くらいするよね?」
リーンブルグも頷き、同意する。
「俺の嫁も結婚したら公爵夫人だ。我が国には公爵家は5つしか無い、ナンバー5の地位だ。それを断罪とは、片腹痛い」
「モーリンは公爵家の令嬢だ。あの優しいモーリンが、カッとなる言い方をしたとしか思えん」
ちなみに彼は侯爵で、モーリンよりも格下と思われがちだが、王国創生からの臣下で身分を上げることを断ってきた忠臣の家系だ。どちらかというと公爵的立場、王家からも嫁を貰っている名家だ。
「まあ、俺は何処のバカが言ったのか、もう調査済みだ。有事の時、守ってやらないつもりだ」
彼のうちは辺境伯、騎士団を有する防衛の要だ。貶めた奴らは本当、不味いことをしたものである。
「んまっ!さすが出来る子ね!オニ〜ルん、誰なのか教えてぇ〜」
「オニールん、俺にもぉ〜」
「チョコパフェ奢るから〜オニ〜ルん〜〜」
「本当、ばっか!お前ら俺のこと好きだな!そうだろう!」
「ちょ、調子に乗るんじゃ無いわよっ!す、好きなんかじゃ無いんだからっ!」
「そ、そうよっ!誰があんたなんかとっ!お、オニールんのくせにっ!」
「それより、教えてくれるんでしょうねっ?さ、さっさと言いなさいよっ!」
「くっ・・・ツンツンしつつ甘えるんじゃ無いっ!・・ババリー子爵の令嬢以下、3C女生徒達だな。謝罪して和解しているが、今だにヒソヒソ言っている。この時期から言っているのは潰しておくか」
「まだ8月だからな。年明けくらいにぽつぽつなら放っておいても良いけど」
「よし。新学期からは、3Cの女生徒をなんとかしよう」
「断罪イベ、絶対に潰すぞーーー!!」
「おおーーーーーっ!!!」
こうして気合入れまくりの4人、満を持してギルドにやって来た。キョロキョロと辺りを見回すと・・
いた。
一人で。
まあ学園でもボッチだから、一緒に依頼行ってもらえないんだろう。
仕方がないね!最初にあんな魅了攻撃なんかするから。
「おい。誰が声を掛けるんだ?」
「掛けたくない」
「同じく」
「今まで話もしないこっちから、話しかけるのは変だもんなぁ」
「アレは自分から絶対来るはず・・こっち見たっ!!」
アレは4人を発見すると『ロックオン』した様だ。こちらに・・来る!
「本当、強いなメンタル」
「マジか。ヒロイン補正か?」
「いや、アレはアイテムだ。進行上使用しないといけない・・あのイチヂク浣腸のような」
皆の脳内にはイチヂク浣腸が浮かぶ・・・・
「ブッハッ!!」
そして吹いて盛大にむせた。
共通アイテムイチヂク浣腸の色は・・・アレの髪の色に似ていた・・・
これがきっかけで、アレを見る度にイチヂク浣腸を思い出すようになっていた。
イチヂクと言えば冷静になれる。
さて。こんなにヒロインに対して酷い男主人公達。
何故そんなに辛辣なの?勿論理由は愛する嫁(大切)を断罪するのが、アレのせいだからだ。
エンドが『アレだけ』の時のみ、断罪イベントが始まるのだ!
婚約者達は、せいぜい『貴族のマナー』『貴族の矜恃』『男女間の礼儀』をアレに事ある毎に正しただけなのだ。はっきり言って、親切以外の何物でもない。
だって庶民だから知らないといけないと、最初は親切心から。だって婚約者達は高位貴族だもの。
売春宿の女じゃあるまいし、ベタベタしなだれかかる・・そういう態度は宜しくないと。
将来の后であるナタリィは、王子に対して無礼にもベタベタと取り付くアレに段々・・・怒りが増して・・・段々と言い方もキツくなる。
すると、アレは可愛く告げ口をするのだ。
「酷いんですぅ〜」って。その時、例の魅了を振り撒いて。
他の婚約者も同じく、怒りが増す。で、キツく言ってしまう。「酷いんですぅ〜」以下省略。
何度も魅了をくらっているうちに、王子達は『可愛い、可哀想』と思うようになっていって・・・
この世界、貴族の男女が節操なくベタベタするのは眉を顰めるレベル。
それを未来の王となる王子、その側近となる予定の彼等がしていては、周りがどう思うか。
彼等には正式な婚約者もいるのだ。そして、御学友も同じ状態だ。
婚約者同士ならともかく、友人、しかも庶民。
好き嫌いを関係なくしても、諫めなければならない。だから婚約者達は忠言したのだ。
彼等を諫める事が出来る立場なのは、自分達だけなのだから。
だが既に骨抜きにされて、アレを愛していると勘違いしてしまった彼等には、婚約者の声など届かない。
アレとの仲を裂く邪魔者にしか見えなかった。憎くて憎くて・・怒りが正常な思考を停止させた。
そして遂に愚かな行為、断罪を仕出かすのだ。
彼等の立場、そして将来を案じる彼女達を、彼等は大勢の前で弾糾したのだ。
しかも理由の内容は盛りに盛った半分以上出鱈目、あとは誰が聞いても好意での注意だったのだから、お粗末としか言えない。
ご都合主義なゲームではこの辺りで終了、アレとの二人エンドとなって、花と光で溢れたスチルでエンドロールとなるが・・
もうお分かりだろう。
この世界は、もう男主人公達には『現実』なのだから、これでは終わらない。
むしろここから最悪の人生が始まるのだ。
・・その後は簡単に予想がつく。
多分・・・断罪された婚約者達は、無抵抗ではいないだろう。
彼女達には『家』の名誉がある。そしてこの婚約を許可したのは、国王だ。
浮かれた『俺達』とアレは、ひとときの勝利に酔うがそれも僅かな時間だけ。
断罪した婚約者達は、遠く離れた教会で修道女になり、惨めな人生を送る・・・ハズだったが、『断罪』『婚約破棄』を知った婚約者達の『家』は怒り狂うだろう。
婚約者達と家族は、とても仲が良い。愛する娘が辱められ、虐げられたとなれば報復は当然だ。
王家に忠誠を誓っていた高位貴族の両親は、王に慨嘆するだろう。
そして婚約を自ら祝福し、許可した王の威信に泥を塗った俺達とアレは、処罰されるのは『常考』。
王子は父である王に、御学友は両親に、跡継ぎから外されて、追い出される。
そしてアレは野放しに出来ない能力を持っているので、神殿で幽閉されるのも『常考』。
アレが離れてようやく正気に戻っても、覆水盆に返らず。
魅了に掛けられての所業と言ったところで・・もう元には戻らないだろう。
彼女等の心も、己等の人生も。
将来一緒に歩む筈の婚約者にも見限られた俺達の未来は真っ暗・・・
・・となってしまう。こんな未来しか見えない。
アレと接触していたら、嫁との未来どころか人生詰まる。いや絶対に終わる。
話をする範囲まで近付いたら『魅了』を直撃してしまう。
こんなに嫁達(マジ天使)とうまくいっているのに、アレに人生を邪魔されてなるか。
この世界の状態回復という魔法だが、かなりの神聖魔法使いでないと扱えないのだ。
毒解きの魔法、麻痺解きの魔法はあるが、大体はポーションで治す。
だが魅了はポーションでは解けないので、今の段階では『時間薬』なのだ。
それかアレが遥か遠くに離れて行けば効果も薄れ、間も無く消える。
兎にも角にも、『魅了』にかからない事。つまりアレには近寄らない事が大前提である。
・・そういう訳だ。魅了にかかると、すぐに治せないのだ。
アレは俺たちにとって害悪でしかない。
アレが使う魅了の所為で、俺達は狂わされ、大好きな嫁達(こんな馬鹿な)を断罪する事になるのだ。
大事な大事な嫁に、俺達が・・俺達自身が言うのだ。婚約破棄に至る理由を。
そして、嫁達(嫌だ)よりもアレを愛していると。更に『婚約を破棄する』と言い放つのだ。
自分の気持ちを無視して操られて、俺達自身が嫁(止まれ)を辱め、俺達自身で人生を潰すのだ。
俺達が・・・大事な嫁(時間よ止まれ)を泣かすのだ。
断罪舞台は、卒業式前日の謝恩パーティー。
大勢の同級生に在校生、恩師や来賓の前で婚約者達を貶められるのだ。
愛する嫁達(こんな未来!)が、俺達によって断罪される光景が目に浮かぶ・・・
ナタリィは凛とした佇まいで聞くのだろう。貴族たらんと、背筋を伸ばし、涙も見せず。
そして誰よりも美しくそこに存在するだろう。周りは俺達の浅はかな行動に呆れ、ナタリィの毅然とした表情に、かの人こそ正義だと賛美するだろう。
フラーウは握り拳を皮膚が白くなるまで握って、大粒の涙をポロポロ零して、華奢な体を震わせて、けれどもしっかりと立ち、俺達を見つめるのだろう。
婚約者を僅かに信じて「リーン様・・」一度だけ掠れるような声で呼ぶが、返事が無いと理解すると悲しそうな表情で見つめるだけだ。
モーリンは彼の断罪の台詞を、ぼんやりと、虚な目で見ている。いや、もう彼女の目はどこも見てはいない。彼の一言一言が彼女の心に罅を入れ、『婚約を破棄する!』の台詞と同時に粉々に打ち砕かれて、見ることも、聞く事も放棄して、彼女はもはや生きる尸の様になってしまった。
この日のパーティーには兄は卒業生だったので、貴賓として招かれていて、この茶番を目撃する事となる。哀れな妹の姿に、彼女の兄の怒りは凄まじく・・・
サイファは目の前にいる彼を、敵兵の様に睨め付ける。だがそれも暫くの間。
静かに涙を零しつつ、ひたと見つめて聞いている。
台詞を全て聞き終えると男口調で、
「もう言いたい事は無いのか?」
と聞いてくるだろう。彼女は潔い。そして貶められたら2倍3倍にして返してくる。
「首を洗って待っているがいい、オニール」
小さい頃からずっと呼んでいたあだ名ではなく、名前を言う。訣別の意思表示だ。
大好きだった幼馴染、だが裏切られた重さは、計り知れ無い。
彼女等の性格なら・・こうなるだろう。
愚かな俺等を、持てる全ての力を持って責めて貶めてくれて構わない。殺してくれて良い。
それよりも。
アレの魅了に屈して、俺達が、俺達によって、大好きな君達を泣かす事に・・・耐えられない。
だから全力で回避する。
さあ。とにかく魅了に要注意だ。アレがこちらに駆け寄ってきた。
「あのっ!アル様、リーン様、ワッツ様、オニールん様っ!本当に、この間、いいえかなり前ですが、本当にごめんなさいっ!魅了を使ったりして!あーー、やっと言えた!良かったぁ」
ペコリと頭をアレは下げた。
「・・・・・・・・・・・・・・」
彼等はムッとした表情で押し黙った。
アルフレアは不愉快さを隠さない。口元が微かに震え、引きつっているのにアレは気付かない。
(なんだその呼び方!!ナタリィでさえ、人前ではアルフレア殿下だぞ!アルって誰にも呼ばれた事など無いぞ!!ふっざけろ・・・)
リーンブルグとオニールは全く同じ台詞でお怒りである。
(その呼び方は嫁(だけだ!)にしか許していない呼び方だ・・なんと図々しく馴れ馴れしい・・)
ワッツは普通に呼んでもらったが、とにかく不愉快そうな表情だ。
(なんでだろう・・・普通に呼ばれても怒りが増すのは・・多分謝る気持ちが無い口調だからだな)
更に火に油どころかガソリンを投下して、大炎上待った無しのアレであった。
こんなにギスギスした空気なのに、アレは『謝ったからもう許してくれたよね!』と思っている様だ。
「あ!そうだ!・・実はぁ、ギルドの依頼が2人以上でないとぉ受けられないんですぅ。『ネバネバ蔓草を取りに行く』依頼、すみませんが一緒に行ってくれませんかぁ?」
おう、それだよ。こんなクソ依頼、一人で行かせろや。クソギルド・・と、心の中で思いつつ。
彼等はコクリと縦に首を動かし、頷いて『了解』と返事をする。4人共、全く声を出していない。
そして5人で依頼先まで歩いて行く。ここから歩いて30分ほど奥に生えているので、とっとと終わらせるべく物凄い勢いで早歩き、もはや競歩、いやいや小走りだ。
「あ〜、早いっ!ま、待ってくださぁ〜いっ!」
アレも必死で追いかけるが、180越えの長身男子の本気では追い付くまい。
30分のところを10分程度で辿り着くと、
「よおーし、とっとと刈るぞ!」
「ほいっと、纏めたぞー」
「はい、茣蓙で包んでー」
「ほーいと、刈って」
「紐で括ってー」
「肩掛けの紐をつけてぇー」
「完成っ!!」
そこにようやくアレが到着。はぁはぁと息を忙しく吐いている。
「あ、あのぉ」
無言でアルフレアはアレの背に先ほど纏めた、ネバネバ蔓草の入った背負子的な物を背負わせた。
そして再び猛ダッシュ、彼女を置き去りにして走り出した。
「アル様リーン様ワッツ様オニ〜ルん様ー!ありがとうございますーっ!」
彼女のお礼の声に『魅了』を感じた4人は、更に加速、必死で駆けて行く。
「うふふ。照れちゃって!許してもらえたし、これからはもっと親しくなれそう!」
どこをどう取れば・・・やはりアレは鉄メンタル、いや鋼メンタルである。
この後帰り道で魔物が出てくるのだが、アレは放って置いてさっさと倒し、再び走る。
獲物をギルドに渡して褒賞を得ると、近くの喫茶室に入った。
そして好感度表を見るとやはり・・・アレの顔が追加されていて、なぜか好感度が70%になっていた。
「ヒィッ!!」
背中がぞくっとして、思わず全員変な悲鳴を上げてしまった。
「な、なんでだよ!!お前等の婚約者さん達より好感度高いって?」
「嫌われる様にしたよな?普通嫌われてると思うよな?」
「・・・恐っ。前向きなのか勘違い過ぎる」
「本気で許されたと思ってるんだろ?このバカ」
4人は肩をガックリと脱力。
「・・・と、とりあえず・・10番目は終了した。11番目は新学期からですぞ」
「剣術大会か。一位には剣が貰えるんだが・・・ゲームの時は、主人公が貰ったけど」
「そうか。俺達全員参加して戦うもんな。1位が貰うだけじゃね?」
「どうなるかはやってみないとな。で!応援は当然・・」
「嫁(応援かぁ・・どんな応援かな)!」
「嫁(リーン様!って可愛い声で声援かな)!」
「嫁(多分目を瞑り、両手を握って祈ってるんだろなぁ)!」
「嫁(やばいのは選手で出てきたらどうしようってことかな)!」
「ここは婚約者として、応援に来てほしい!と!!おねだり作戦は如何ですかな?」
「おねだりか。ふふ、たまには俺から言うのも良かろう」
「お弁当作って欲しいとか言おうかな」
「選手で出てくるなと注意しなければ・・さあ、厄介な依頼は終了したので、俺はサイファに先触れを送るぜ。明日デートしようって」
「きゃーー!出来る子は違うわね!よし、私もナタリィに先触れを送るぞ!そして応援をおねだりするでござる!」
「同じく」
「俺もー」
新学期の計画もバッチリ!アレを警戒しつつ、俺達は解散した。
残りの夏休みは、寮に戻って勉強、ギルドでの依頼などを受けて経験値上げを進めつつ、嫁(一緒)との経験値(愛の)も積み重ねるのだった。
本当、このままでも二人エンド、そして卒業後は結婚してラブラブ人生送れるんじゃね?
・・とか思えてしまう。大丈夫じゃないかと。
だって書き出したこれからの予定で、
5/ 自分の婚約者を捨てて、アレや他の婚約者と親しくなる(飛ばしている)
この箇所はすっ飛ばしているのだ。だってみんな別れてないのだから。
前世でプレイしても出てこなかったアイテム『真実の鏡』『イチヂク浣腸』とかは気になるが。
新学期の9月は
11/ 新学期早々剣術大会 好きな子に応援される 優勝して剣がもらえる
12/ 虐められた子を慰め、好感度が上がる(2)
この2つがポイントになる。
12は5に似た内容だが、嫁達がいじめや意地悪をしていない為、あまり重要では無いと思われる。
11の剣の授与が如何なるのか、気を付けなければ。
それと・・・アレだ。好感度70%。
「まあ・・・あっちが勝手に好感度を上げているだけですからな」
「こっちの好感度も出てくれれば良いのにな」
「それな!そしたら魅了でおかしくなっているのも、一目でわかるな!」
「欲しいな、俺達側の好感度も」
こうして夏休みは瞬く間に過ぎて・・・
新学期が始まった。
学園の話題は、剣術大会の話で持ちきりだ。
4人は去年も1〜4位に入賞しているので、当然参加である。
それぞれの婚約者達も応援してくれるとあって、去年より更に気合が入っているのだ。
「今年も優勝メダルを頂戴しますぞ。そしてナタリィにメダルを『カプッ』と齧って貰うのですぞ」
「くっ・・・今年は魔法を爆上げして、剣はあまり力を入れていない・・負ける」
「今年こそ1位を奪って、モーリンに捧げたいっ」
「やばい・・サイファがマジで出たがっている・・・俺当たったらどうしよう・・」
「ほぅ?俺は忌憚なくぶちのめすからな。勝負に性別は関係無い(キリッ)」
「ぎゃーー!!やめろーーー!!」
「オニールん、コユコト甘やかしちゃだめネ。きちんと手綱は締めヨ。じゃじゃ馬ならしネ」
「どこのあちゃらさんだ、お前」
「まあ、オニールんは嫁を鞭で躾けるんだったな」
「しねえよっ!!とにかく出たがっていて、我がままなところがまた出てきちゃって」
アルフレアが華やかな笑顔でウインクした。周りの客がフニャッフニャになっている。
「ふむ!ではこうしよう。今度俺達が練習相手になってやると!この未来の王が、直々ですぞ」
「え!良いのか?」
「だって、いつも頼りになるオニ〜ルんの為だもの〜」
「そうよ、オニ〜ルんの力になってあげる〜」
「ファイト!オニ〜ルん!」
「ありがとう!お前等、チョコパフェ奢ってやる!」
「ひゃっふ〜!」
かくして月の半ばまで過ぎたが、11番目に該当する出来事は起こらず、いよいよ剣術大会当日となった。
順当に勝ち進み、今回も準優勝まで勝ち進んだ4人だ。
A枠はアルフレア対ワッツ、B枠がリーンブルグ対オニールだ。
「頑張ってください!アルフ様!」
ナタリィの声援に、次の試合を待つB枠陣が『!』と気付いた。
「な、なんと!省略呼び・・・?」
「あー、分かったぁ。アレに馴れ馴れしく呼ばれたからだ!しかも呼び方変えてるし!」
「ああ、アレは『アル様』だったか?それに殿下でなく様呼び!頑張ったなぁ」
「ワッツ様、ふれぇ〜、ふれぇ〜・・」
弱々しいというか、ちょっと力が抜ける声援、だが彼女にしたら大声なのだ。
「はうっ・・!ゔ〜〜〜、俺の嫁(声ちっちゃ)ががゔぁゔぃゔぃ〜〜っ!!」
もう勝たなくて良い、すぐにでも行って抱きしめたいっ!!
ワッツはさっさと負けました。そして嫁の所へ、終了の礼もそこそこで退場した。
次の試合はB枠、リーンブルグ対オニール。
「リーン様ぁ〜〜、頑張れぇーーっ!!フレーフレー!」
フラーウがミニスカート(この世界にしては短い)でチアリーダーで応援だ。
「フラーウ!!そんなはしたない格好で!足が丸見えでは無いですか!!」
血相を変えたリーンブルグは会場の枠をひらりと飛び越え、
「すまない!!危険だ!、じゃない棄権だ!!」
彼女を小脇に抱えると、一目散に応援席ゲートに消えた。
観戦客達は呆然として、会場はシーーンと静まり返る。
「・・・じゃ、アルフレア・・決勝するか」
「そうだな・・去年と同じ組合せですな」
「負けねーぞ?」
「こっちもですぞ」
ようやくちゃんとした試合となり、接戦の末勝ったのはアルフレアだった。
勝った時のおねだりの『メダルかぷっ』もやって貰いましたとも!
肝心の優勝の剣は、当然アルフレアが手に入れた。
他の男子達には『御守り』が貰えた。HP回復(中)の効果が付与されている。
「それ戦う時に便利だなぁ。良いなぁ」
「アルフレアは滅竜の剣だろ?それ、アンデッドにも効くじゃないか」
「そうそう。欲をかかないかかない」
「主で戦ってもらうから」
「仕方ないでござるな」
アルフレアは早速帯刀している。良いのよ?真剣を帯刀して良いのは、王族だけだから。
「これでいつ襲ってきてもぶった切ってやるデスぞ」
「おおおーーーっ(拍手)」
「では、チョコパフェで労いして差し上げよう」
「きゃー!だから大好き!!オニールん!!」
「わぁ!ありがとうございます!オニールん様!」
「え」
声にした方を全員『ギュン!』と振り向くと・・アレがにこやかに笑って、居た。
(な、なんで?なんで笑ってるんだ?・・はっ!!)
「障壁結界!!!」
「きゃあ?!」
リーンブルグは瞬時に結界を張る。
「おい!魅了は?大丈夫か?」
「そ、そうだった・・うっかりしていた・・」
「二度目の魅了ポイントだった・・・ここだった・・忘れてた・・」
「とにかく今は逃げろっ!!ここからすぐに離れろっ!!魅了は術者からすぐに離れるが鉄則だ!」
「おう!!!!」
ダッシュで4人はアレから離れる。
「あ、いたぁ・・」
障壁決壊に当たってアレは倒れたようだ。
「大丈夫?」
「すみません」
誰かがアレに手を貸し、立ち上がらせている。
「ありがとうございます!」
「・・あ、いや・・」
そして・・・ふわぁん・・薄いピンクのモヤが彼を包んだ。
そのモヤはハート型になるとしゅうぅと消えた。彼の顔は・・・目がハート、緩んだ笑顔。
魅了にかかってるーーー!!!!
「シュウ、お待たせ!」
彼の恋人?女の子が駆け寄ったのを、彼は手で払う。
「なんだ。なんの用だ・・ああ、ごめん。こいつは友達で」
「えっ・・・シュウ?何を」
「うるさい、向こうに行けよ」
や、やばい!!早速犠牲者が!!
「・・チッ」
「アレから引き離すぞ!」
アルフレアは男に駆け寄ると、腹パンで気絶させて男を抱えると、ダッシュしてアレから離れる。
ワッツは女の方を抱き上げて、アルフレアを追う。
リーンブルグは睡眠をアレに掛けると、アレはこてんと廊下に転がって眠ってしまう。
オニールは教師を呼び、アレがまた魅了を掛けた事を連絡しにいった。
保健室に男を連れて行き、べそをかいている女の子に彼の症状を説明している所に、校長と教師数人がやってきた。
「王子殿下!ご無事でしたか!」
「校長先生。彼女には困りましたね」
「彼は魅了に掛かっているんです」
「なんと・・」
廊下で寝転がっていたアレを回収し、起きてから尋問となったのだが・・
魅了を俺達に仕掛けるつもりは無かった、ただ仲良くなりたかった。
せっかく友達になったんだから。
・・だそうだ。
これには4人も表情が固まった。そして身体をブルッと震わせた。
「友達?庶民が、私・・王子と?無礼すぎない?ねえ、無礼じゃない?」
「まだ俺達は何も許してはいないのだが」
「前向き?・・恐っ。魅了調整出来ないならもうどこかに隔離するべき」
「しれっとチョコパフェ食べるメンバーに入る気だったのがもう、キモい」
暫くして目を覚ました男は、魅了に掛かったのが短い時間だったせいか解けていた。
魅了ににかかっていた時のことも覚えていて、彼女にひたすら謝っていた。
「自分の思いや考えと違うことを言って、君を邪険に扱って・・本当にすまなかった!」
「良いの。目が覚めてくれたなら」
グスグス鼻をすすりながら涙する彼女に、彼は土下座で謝っている。
男主人公4人は、商店街の喫茶室でチョコパフェを食べながら、先ほどの出来事を検証していた。
「5分と掛からなかったのに、この威力・・やばいぞ、アレの魅了」
「でもさ。校長とかは魅了に掛からないな。何かアイテムつけてるのか?」
「いや、そんな事は言っていなかった・・」
「あっ」
急に声を上げたので、3人は彼を見る。
「んっ?どうしたオニ〜ルん。いつもの閃きですかな」
「いよっ!とんち小坊主!」
「一休さぁーーん!」
「はぁーーーい!・・・ったく。あいつ、多分・・」
「多分?」
「年齢選り好み。恋人にしても良い年齢で、魅了かけてる。もしかしたら、男前なら40でも掛けるかもしれんが・・結婚相手にしたい奴とか」
「ゔあ」
「さいってぇ〜〜〜!」
「好みはお前にもあるが、相手にもあるという事を考えてねーな」
「しかも魅了で操ってるとか」
「人類の敵だな」
「ほんそれ」
「あいつを野放しにしたら・・・最悪エンド待った無しだ。気を引き締めて行くぞ!」
「おおおーーーーっ!!!」
いつもの如く、月末スチルは9月・テスト勉強。
婚約者のお嬢様達を定例会議で使っている会議室にお招きし、8人でお勉強会だ。
アルフレアは侍女を呼び、お茶を用意して優雅にテスト勉強。
結果も上々。アルフレアは定番の1位、2位オニール、8位リーンブルグ、12位ナタリィ、13位ワッツ、18位モーリン、22位フラーウ、31位サイファ。・・アレは4位だ。
そして月末ランチも8人で!美味しくいただきました!!
デザートあ〜んはいつもの事だが、今回はステーキ!一口に切って、あ〜ん。
それはもう!!美味しゅうございました!!
こんなにラブラブで、幸せなのに・・・何故こんなに不安なんだろう。
あの魅了が恐ろしい『毒』で、愛する嫁(守る)を弾糾するかもしれない恐怖。
自分の意志にかかわらず、攻撃してしまうかもしれない。泣かせるかもしれない。
仲良しカップルでさえ、僅かの時間でおかしくしてしまう威力。
負けるものか。絶対。
さて10月は文化祭がある。9月で発生するはずだった、
12/ 虐められた子を慰め、好感度が上がる(2)
これは起こらなかった。やはりゲーム通りでは無いらしい。
10月は次の3つが主なイベントになる。
13/ 元婚約者と話す (分岐的なとこ)
14/ アレとポーション作り ポーションを手に入れる
15/ 文化祭 アレと行動 バザーで古いグローブを手に入れる
13は『元』では無いので、多分無いだろう。
14は・・・確かアレにポーションのレシピを教わる、という内容だった。これはなんとしても知りたいレシピだ。最後で戦うスカルドラゴン時に用意したいアイテムだ。
15は嫁と回っても問題無かろう。
バザーでグローブを手に入れるだけの簡単なお仕事、みんなで固まって行動すれば良い。
このグローブは剣用にも良し、魔法用にも良しの万能アイテム。これも是非人数分欲しい。
「ポーション作り・・またみんなで行くか!」
「がっと!」
「ががっと!」
「がーーー、で完成!」
4人は両腕をぶん回してアクション。
「よぉし!作っている間の魅了制御は、リーンブルグに任せますぞ!」
「はっ!!防御結界はお任せください!!」
「メモは俺がとります!」
「アルフレアと俺はアレになるたけひっつかないように作る!」
「気合入れていこう!!」
「おーーー!!」
本日の会議は終了、それぞれ散って行く。
今日は金曜なので、4人は久しぶりに土日を実家で過ごすつもりだ。
アルフレアは自分の馬を馬舎に置いているので、それに乗って城に向かう。
リーンブルグは乗合馬車で帰るつもり、停車場に歩いて行く。
ワッツは従姉妹がこちらに来ているので、その馬車に乗せてもらう為に喫茶室で待つ。
オニールは辺境伯所属の騎士団が帰る馬車に乗せてもらうので、宿営地に向かった。
そして4人は・・・見てしまう。
アルフレアは貴族の屋敷前を馬で進んで・・ナタリィの家の前に差し掛かって・・
彼女が誰かと話しているところを見てしまう。
リーンブルグは停車場の、ちょっと外れの道の奥で見てしまう。
ワッツは喫茶室の奥の席で見てしまう。
オニールは宿営テントの隙間で見てしまう。
そこには・・
婚約者達が、知らない男と親しそうに話しているところだった。
それが、なんだか諍いになってきて・・・
男達は、婚約者に手を伸ばして・・抱き締める。
「あっ」
4人は思わず声が出てしまった。
ふいと・・
婚約者達と4人は目が合った。
別々の場所だけど、4人は同じ様な目にあっていた。
「アルフ、さ・・」
「リーン様」
「ワッツさ、ま・・」
「オニール、ん」
婚約者達は驚いた様子だ。
対する彼等は同じ言葉、同じ思いだった。
(やばい。やばい。やばい。幸せだったのは、もしかして・・・俺達だけだったのか?)
声が出せない、呆然としてしまった。
あのエンドを避けようと頑張ってきたのは、無駄だったのか?
もしかして彼女達は、もしかして、もしかして・・・他に好きな男がいたのか?
そして・・・・・
彼等は。
悲しそうに微笑んだ、それしか出来なかった。
この野郎、離せ!と相手の男を殴りかかったって良かった。
でも、心の中の彼等は、恋さえした事の無い高校生だったから・・
嫌われたく無かった。
そして格好付けたかった。
だから踵を返して歩み去るしかなかった。
「ま、待ってください!アルフ様!!」
「リーン様、待ってぇ!
「ワッツ様、ワッツ様!」
「オニールん!!違う!」
ずきずきする胸。待つ?
聞きたく無い、でもここで聞かないのも聞くのも同じ結果なら・・・
「盗み見る感じになってごめんね。それで・・何?」と、アルフレア。
「こんな物騒な所で話すなら、喫茶室で話しなさい。危ないから」と、リーンブルグ。
「楽しそうに話していたね。俺じゃ無理だった様だ。俺で良いの?話すのは」と、ワッツ。
「こんな所でこそこそ話す様な相手が良いんだろう?何が違うんだ?」と、オニール。
男から離れ、彼女達は彼等の元に駆けて来る。
男達が彼女達の名前を呼ぶが、皆振り向かなかった。
婚約者たちの言い分、言い訳は概ね同じだった。
彼等とうまくいかなくなっていた時、時々相談に乗ってくれていた。
うまく行く様になってからは、全然会っていなかった。
会おうと連絡が来たので、今まで相談に乗ってくれた事のお礼を言おう。
ところが、今までいい友人と思っていたのに、物凄く怒りだして急に抱き締められて驚いた。
ふと視線を感じてそちらを見ると・・彼等と目があった。
その瞬間、彼女達はズキンと心が痛んだ。
彼等がとても優しく、そして悲しげな微笑みだったから。
「で。これからどうするの?」
彼等が聞くと。
「ごめんなさい」
彼女達は謝罪する。が。
「どの辺を謝る訳?」
彼等は問い詰める。、まずはアルフレアだ。
「・・内緒にしてたわけでは無いけれど・・」
「内緒みたいなものだよ?これは」
「はい・・」
「で。どの辺?」
「・・侍女をつけて外出・・?」
「宅地内だからね、君は。で、あれ誰だったの」
「近所の子爵の子・・」
「身分はあるのか。で?まだ反省してないよね?分かってないよね?」
「えっと・・・」
「恋愛でも、なんでも!相談するのは、他人なら異性に相談しちゃダメだろう?」
「そうなの?」
「婚約者がいるからとか、そう言うの関係ない奴は多いからね?」
「はい・・軽率でした・・」
「そう言うところ見られたら、損するのはナタリィだから」
「はい・・」
「でも、異性と会うときに人目のあるところで会うのは正解。もっと注意しなければいけないよ」
「はい・・ごめんなさい・・」
「さあ、おいで」
「キャ」
アルフレアは彼女を馬に乗せると抱き寄せる格好で、彼女の家の敷地を闊歩する。
「驚いた」
「アルフ様・・」
「浮気していると思った」
「え?」
「・・そう言うつもりが無い様だから、赦す」
「(・・あ!そういう事?)・・ごめんなさい」
「そうだな・・お仕置きくらいしないと気が済まないなぁ(ニッコリ)」
「??」
どうなったかは内緒。
リーンブルグは馬車に彼女を乗せると、はぁーと深く息を吐いた。
そのまま黙って車窓を眺めているが、眉は釣り上がっていて怒っているのが分かる。
「リーン様・・ごめんなさい・・」
だが返事が無い。軽率だったと今考えれば思う。彼が怒るのも無理はない。
このまま返事も、それどころかもう話もして貰えないかも、そしたら涙がこぼれた。
「り、り・・ぐす・・」
ふいに彼の腕が伸び、ひょーい。
軽々と彼女を持ち上げて、彼の膝に横だっこされた。
そしてギュッと抱き締められる。
「離さないから。言い訳など要らない」
「私が大大大好きなのはリーン様だけですから・・信じてください」
「じゃあ、一生掛けて信じさせてみろ」
「はい。頑張ります。だから見捨てないでください」
「努力しろ」
「はい・・リーン様・・好き」
「生憎だったな。俺はお前なんか愛している」
「ほわぁ!」
ちなみに、リーンブルグが家に帰ると家の者が執事と女中(二人は夫婦)しかいなかった。
両親と兄弟は用で数日外出するとかで、使用人も休暇をもらって出払っていた。
「何だこれ。聞いてなかった。フラーウ、君のうちに送ろう」
「あ、あの・・このままいてもいいですか?」
「え」
さあ、どうするどうなる?
さて一方のワッツ達は・・・彼女はダンマリで相変わらず話が進まない!!
と言うか、話しかけるのもはばかる雰囲気だった。それはそうだろう。
モーリンと話していたのは幼馴染だそうで・・
彼と話す彼女は・・楽しそうだった。家同士、長い付き合いなのだそうだ。
(俺と一緒になるよりも、そっちの方が良かったのかもな)
今は喫茶室を出て、従姉妹の家の馬車に乗っている。従姉妹は用があるとかで乗っていなかった。
(婚約破棄、してあげた方が良いのかもな。俺との婚約は家同士の繋がりみたいなもんだ)
ゲーム中も大好きだった。この世界に来て、更に好きになった。
(楽しい思いも一杯した。そろそろ離してやるべきか。むしろ良いタイミングだったとも言える)
彼はずっと俯いて考えていて、顔を上げるとモーリンが涙を流しているのを見て・・
ニコッと笑って見せた。
「モーリンは彼が好きなんだな?だったら俺との婚約は解消しよう」
「ワッツ様」
「早く言ってくれれば良かったのに。俺と話すのは面倒だっただろう?すまない、気付かないで。君が不利になる様にはしない。そっと婚約を解消すれば良い事だ。俺は君が幸せになるなら
「ワッツ様!わ、私はそんな、そんな・・ワッツ、様・・私は・・・」
モーリンは彼が話している最中に割り込んで話すも、涙が更にポタポタと、床にも滴って、また黙ってしまった。
「幸せに出来無くて済まない。君と気心を知った彼の方が良かろう?」
「・・・嫌です。嫌ですっ・・私は、ワッツ様が・・貴方が・・良いのです」
「無理はしなくて良い。家の事で」
「縁談の話が来た時、私が。私が選んだのです。ワッツ様を、貴方を・・」
モーリンは公爵家の令嬢だ。彼は侯爵、少し身分が下がる。普通は子息側に絵姿と釣書が送られ選ぶのだが、絵姿と釣書を見て選ぶ側だったのは彼女の方だったのだ。
「そうだったっけ?」
「そうです」
彼は貴族間の婚姻などこんなものと思っていたので、『婚約者のモーリン嬢だ』『了解』で進めた。
「ではこのままでいいのかい?」
「お願いします」
「・・本当に?」
「はい!」
「分かった。でも二人きりで会うなら、今度から俺も付いて行くから」
「はい」
「いいのか?」
「誤解させてしまった私が、全面的に悪いのです」
「そうか。良かった」
「ワッツ様?」
「どうやら俺は、存外君に惚れていたと分かった」
「・・私もです」
「おや。気が合うね」
「ふふ」
「でもね。本当、さっきは心折れそうだった」
「・・・」
「もっとゆっくりと、君と進める気だったけど、やめた」
ガラガラ車輪音を立てて馬車は行く。
中で何があったのかは、内緒。
最後は出来る子オニール。彼は気が付いたのだ。
「ああ、これが・・・『13』だったか。なんとまあ・・・キツイな」
「オニールん、だからあの人は、相談してただけで」
「それでも許さない」
「だって、ダンスパーティー、ひとりでいけないじゃん。オニールんはエスコートしてくれなかったし。丁度良いところにあの人が」
「そうだね。そこは俺が悪かった。あの頃は君とはちょっと距離取りたかったからね。分かるよね?」
「う」
「なのに婚約者を無視して出掛けてたとか。普通は反省して謹慎するべきだよな?」
「うう」
「さあー、言い訳を片っ端から折りまくってやる。ヘイ、カマーン」
「ううう、ごめんなさいぃ」
「なんだ、もうやめるのか?」
「降参ですぅ・・でもオニールんこんな性格だったっけ」
「お前のために厳しくなろうと決めた」
「うううう」
「まずは、こうだ」
そしてオニールはサイファを抱き締める。
「おほっ」
「かわゆい女の子が出す声じゃ無いな」
「オニールん、今分かった」
「なんだ」
「好きな人が抱き締めてくれると、こんなに嬉しい事!好き!!」
「ははは、やっと分かったか。ひとつ賢くなったな」
後頭部に手を滑らせ、軽く掴んで逸らして仰け反らせた格好にして、口付けをした。
「今度は何かわかったか?」
「・・オニールんが大好きってわかったぁ〜」
「そうかそうか」
突然目の前の宿舎のテントが折り畳まれて、二人は数名の騎士見習いと目が合う。
「お父上はあちらの馬車でお待ちです、坊っちゃま」
彼らはニヤッと笑った。
月曜、出校した4人は例の会議室に集まっていた。
「あー。やっぱしあれ『13』だった訳ですな」
「ああくるとは思わなかったぞ」
「心抉って来たな、マジ焦った」
「ふぅ・・やはりこれからもゲーム特性は、気をつけるべきと分かった」
「俺達と嫁達(でも好き)との仲を試す様な内容でしたな。で!」
「ん???」
「皆様、可愛い嫁と何か・・・進みましたかな?(ニヤリ)」
「お。おう・・まぁ(かあぁ)」
「うん・・ちょっと(ソワッ)」
「まぁな!(えっへん!)」
「これを糧に!頑張りましょう!嫁との幸せなエンド、もしくは幸せなスタート目指して!」
「おう!!!」
今回はここで解散。
だって、文化祭が待っているんだもん!
15/文化祭イベは14/ポーションよりも早く始まる、と言うか準備期間で被る。
今年の出し物はなんと・・プリンバーに決まった。
5種類のプリンを提供、イートインも用意。
「プリンバーとは何故」
「多分アルフレアが、プリンが好きって言ったせいだぞ」
4月の月末のスチルの事だった。
彼は嫁(ああ可愛い)に「プリンが好き」と言ったのだ。
「あちゃー!プリン好きはランチに誘う為の言い訳だったのになぁー!本当はチョコパフェが好きなんだがなぁー!」
「俺達全員甘党だもんな」
「紳士の嗜み、葉巻に魅力を感じないもんな」
「俺はおっさんになっても甘味を手放さないぜ」
「嫁のお手伝いを全面的にするのですぞ!」
「当然」
「勿論」
「お前の嫁だが手伝ってやるか」
で、今はお店の内装の小道具を作っている。看板とか、カウンターとか、机のカバーとか。
皆で分担を決めてコツコツ作っている。貴族の子息令嬢が、魔法を駆使して作る様は微笑ましい。
「こっち、浮かせてー」
「リボン貼り付け、この辺り」
「ほい」
「赤に染めて、この生地」
「待って、縁を飾るレースはまだだよー」
「机用の板、丸くカットだ」
「ここ支えてくれ」
皆楽しげに作業をしている。
王子達の役割はプリン製造、加熱したり冷やしたりする。
微調整の火入れ、冷蔵程度の冷やすのは高度な魔法になるからだ。
5種類を各300個作る予定だ。なので今は魔法の微調整の練習中だ。
「これくらいか?冷蔵は」
「そうだなぁ・・・氷を出して器を冷やすでも良いかもな」
「焼きプリンの焼きは火力はこのくらいか?」
「蒸し工程の後だから、さっと高めの火力で焦がすか」
校庭に出て4人で火を出したり、氷や冷気を出したりしている。
側にはナタリィとモーリンが、プリンの種類で魔法を使用する違いを確認している。
フラーウとサイファは、店内内装を手伝っていた。
「アルフ様、焼きは蒸してから表面を焦がして、ブリュレは砂糖を表目に掛け、焦がします」
「オニール様は冷蔵担当をお願いして、リーンブルグ様はカスタード液を作る担当をお願いします」
「じゃ俺はケースに並べるとか雑用でいいか?」
「はい。ワッツ様よろしくお願いします」
ワッツは魔法の微調整が苦手なので、作ったプリンをどんどん品出しを担当する事になった。
膨大・・1500個のプリン、彼は浮遊の魔法が得意なのでそれで運ぶ事になった。
試しにコップで練習しているが、フワフワ〜と浮いてテーブルに並ぶのが可愛い。
王子達が作るプリンという事で、今から大評判だ。
「なあ。そろそろ来ますかな?」
「確かこのくらいの時期だった筈」
「もうとっとと来い・・」
「あ。来た」
魔法を練習する4人に、来ました来ました!アレが来ました!!
アレはあの事件以降、別室で授業を受けている。
それはそうだろう・・
本当は4人に魅了するつもりだったと溢したのが決定打だったが。
そしてオニールの『結婚対象的年齢に魅了攻撃をする』という予想を踏まえ、50くらいの女性教師がつきっきりだ。普通なら退学、いや投獄されて然るべきなのだが、『とある』なんちゃらの後ろ盾?で今も学園に在籍している。そしてほぼマンツーマンで勉強している。
それがひとりで動いている。そしてこっちに来る・・笑顔全開で!!どうした警備!!
「障壁結界!!」
「きゃあ!」
アレの全身をリーンブルグが結界で包み込んだ。
「そこで止まれ。何の様だ」
アルフレアが目的を聞く・・・うん、知っているけどね。とりあえず聞く。
「アル様、リーン様、ワッツ様、オニールん様!!あのっ」
「(むかっ!)待て。私、そして彼等はその様に呼んでいいと許可した覚えは無い。お前は礼儀も知らぬ様だな」
「えっ」
「(えっ、じゃないぞ)ついでに言うと、私も彼等も最初の魅了事件を許してはいないからな。この間のは論外だ」
「えー・」
「どうして自分の都合良い思い込みを押し通そうとするのか、理解が出来ぬ」
「ぇ・・」
「まずは礼儀を持って接するべきでは無いのか。お前とは友人では無いのだからな」
「ぇぇ・・」
「ええ、じゃ無いだろう!!(←ついに声になった)本当に、礼儀すらなっておらぬのだな!!」
「・・」
「それで!我等に何か用か!」
「あ、はいっ!あのぉ、ポーション作りをするんですがぁ、ひとりではそのぉ、作るのに機材を補助していただけたら、と思ったんですぅ」
「・・・・・・・機材の補助」
彼等の顔が薄い笑顔で固まった。
おい。機材の補助って。
高位貴族、そして未来の王に・・お手伝い?
「他の者に手伝いを頼めば良かろう?」
「だって他の人はぁ、話しかけても無視するんですぅ。ちょっと酷いと思いませんかぁ」
「自業自得(4人でハモった)」
「ぅ」
「それで、手伝ったら何か褒美はあるのか?」
「褒美?」
「等価交換は当然だろう?何だ、我等を便利な人足と思ったか?仮にも私は王子だが」
「あ、いえ、そんなっ・・」
ようやく顔を青くしている。学生だからって王族舐め過ぎ、彼等4人は白い目で見つめる。
「えーとぉ・・ポーションのレシピでどうです?私特製レシピなんですぅ〜」
「何のポーションだ」
「体力魔力状態異常全回復、あ。魅了は別ですがぁ」
「(カチン!)貴様は魅了解除のポーションを、即刻作るべきだとは思わんのか!!」
ついに切れて、アルフレアは今までに無い大声で激昂した。他3人は呆れるしかない。
「アルフレアをここまで怒らせるとは・・アレは本当凄いな」
「きゃあーー、怒らないでくださぁいぃ〜」
「今回は手伝ってやるが!私達は全く赦してはおらん!!お前の様な無礼な者が同じ生物というだけでも不愉快だ!!さっさと引っ立てぃ!!」
「きゃー、ごめんなさーいぃ」
「こういう時の謝罪は『申し訳ありません』だ!この礼儀知らずが!!」
王子はそれはもう!大声で怒鳴りましたとも!!
その会話は周りにいた生徒達、婚約者達にも聞こえました。
「アルフ様、宜しいのですか?」
「ああ、ナタリィ。ちょっとこの無礼者の手伝いをしてくる」
「ですが、魅了が」
「リーンブルグが障壁結界でアレを包んでいるから、まあ大丈夫だろう」
「障壁結界、ですか?」
「魅了は攻撃魔法だからな。では少し席を外す」
障壁結界はワイバーンの火球攻撃を、二度跳ね返す威力を持つ。
そんな強力な結界を、彼女に施していると聞いて、周りも騒然となった。
「王子殿下、大丈夫ですか」
みんなが心配をする。それはそうだ。何たって、障壁結界だからね。
「ああ、だが帰りが遅かった時は、教師に連絡をしてほしい」
ここまで根回しをしたら、下手な事はすまい。
アレを先導して魔術実験室に向かうと・・
テキパキ!!先ほど打ち合わせをした通り、さっさと作ってレシピを手に入れた!
文化祭の用意をしている皆のところに戻ると、一斉にクラスメイトが駆け寄って来た。
皆一様に心配げな表情をしているので、安心させようと笑顔を振り撒いた。
こうして14はクリア、ポーションが手に入った。
10日後の文化祭も大好評!
王子と子息達が目の前でプリンを作り、ワッツが浮遊魔法で次々とカウンターにプリンを並べるのはなかなかに圧巻、見応えがあった。だって、1500個のプリンだから!
文化祭の後、夕方からは巨大なボーンファイヤーを囲んでのダンスを皆で楽しんだ。
当然婚約者同士で踊る。社交界のダンスと違って、相手をチェンジせずにずっと同じ相手だ。
13の試練を乗り越え、ますますラブラブな彼等を、じっと見つめる影。うん、知ってる。
10月スチル『文化祭』も同時に終え、回避も完了した。
月末のお楽しみ、スペシャルランチは異国料理のすき焼きだった。デザートは練り切りとお抹茶。
お抹茶の点て方を知るワッツがお手前を披露し、モーリンに尊敬の眼差しで見詰められ照れていた。
11月は2つのイベントが起こる。
16/ 虐められた子を慰め、好感度が上がる(3)
17/ ギルド依頼で行った先で謎の遺跡を発見
だが、虐めた子が誰なのかが分からない。
「まあ・・・先月の13の様なことが起こらなければ良いですな」
「あれは本当・・心に効いたからな。御免蒙る」
「何はともあれ、用心する事だな」
「17は土日のギルド依頼を積極的に受けて行こう」
「それしか無いですな。でも遺跡なんぞありましたかな?」
「うーーん・・・聞いたことがないな」
「俺の家系は建国当時からここに住んでいるが、遺跡は聞かないなぁ」
「アルフレアとワッツが聞いた事が無いなら、俺達がわかる訳はないな」
ワッツの家系は500年前からここに住んでいる。王子も知らないのでは見当がつかない。
「そうだ、我が家の(王家の)蔵書室で調べてみませんかな?」
「あ、それは良いな。今日は金曜だから、お前んち(王城)に泊まり込みで」
「よし、お菓子を持ち込んで」
「前世ではよくやったよな」
コーラにポテチ、漫画にゲーム。
4人で喋って、ゲームして、漫画を回し読みして、お菓子を食べて・・
「炬燵が欲しいよな」
「じゃ、ローテーブルに布団を掛けて、即席の炬燵を用意しますぞ」
「おおっ!ポテチは無理だがフライドポテト用意してもらって良いか?」
「ははは、任せなさい」
4人は授業を終えると城に籠り、それはもう、昔の自分達を堪能しました!
コーラはないけど炭酸水はあるので、ジュースと割って「『ファ●タ』だー!」と大騒ぎ。
もちろん遺跡の事を調べるのも、忘れていません。
調べてみると、この大陸には大昔の遺跡があったが、城や街を作る時に壊してしまったそうだ。
もしかしたら地下・・ダンジョンには遺跡があるのでは。
いくつかのダンジョンには、建造物に使われていたと思われる石材でできた洞窟もあった。
「そういえばボロブドのダンジョンの壁や床は、石材っぽかったですな」
「ではまずそこの依頼を受けてみよう」
「難易度が高かったと思うが、大丈夫か?」
「アレのポーションを試すのにも良いな」
「では来週の土日は、ボロブドに潜ろう」
「賛成!!!」
さて学園に戻り、来る土日までは普通に学生生活・・・
「ちょっと!私のシュウによくも魅了をかけてくれたわね!!」
「本当、庶民って浅ましい!」
「シュウは私の婚約者なのよ!あなたなんか早く学園を辞めてしまいなさい!」
「あなた、まだ彼女に謝っていないそうね?礼儀知らずにも程があるんじゃ無いの?」
女生徒数人の諍いの場に、4人は通り掛かった。
「だ、だってぇ〜、そんなつもりはぁ〜」
この口調・・・ああ、うん。
そりゃあもう、大急ぎで足を進めましたとも!でも見つかってしまった!
「あ!アルフ様ぁ、リーン様ぁ、ワッツ様ぁ、オニールん様ぁ!助けてくださぁい!」
(!!!!!)
4人はこの呼び方に苛立った。特にアルフレア。嫁(愛しい)以外に呼ばせていない呼び方を、許してもいないのに使われたのだがら怒りは頂点だ。
「おい、お前。精々しっかり叱られて反省しろ。御令嬢方、よろしく頼む」
「はいっ!王子殿下!・・王子殿下の許可を得たわよ・・覚悟しなさい」
「きゃあーー」
そして大急ぎで去ったのだった。
はい!16、終了!!
「あのくそ野郎・・これからは嫁には『フレア』と呼ばせようか・・」
「いやいや、呼び方コロコロ変えるのはどうか」
「そうそう、アレは無視という事で」
「うんうん、関わらない関わらない」
毎週末はギルド依頼、ボロブドのダンジョンのを集中して受け、剣と魔法、体力と魔力をバリバリ鍛える。そろそろ力をつけておかないと、スカルドラゴンで詰む。
何度もダンジョンに挑み、遂に第4週の日曜に遺跡を発見!
「思ったより後で出ましたな」
「遺跡の石盤を読み取るんだったよな」
「えーと・・確か灯籠っぽい所に、くっついてたんだよな」
「これだこれ!・・・なになに・・」
「創世ザーフェス語か・・面倒だな。書き写すしかない」
「昔の言語だな・・辞書がいるな」
「ほら、明るくしたぞ」
すると今迄闇だった場所が照らされた事で、隠れていた魔物達が現れた。
「げげげ!!魔物が潜んでいる!!」
「言語をちょっとかじっている私が写しますので、御三方が排除して下され」
「分かった!早めに写せ!」
「爆破で揺らすのは厳禁だ!灯籠が壊れるからな!剣で斬れ!」
「分かった!」
魔物達を倒し、文字も書き写し終えてダンジョンを出ると、既に日が暮れていた。
言語の解析は、翌日に持ち越しにして4人は寮に帰る。これで17も完了だ。
11月スチル『ギルドの依頼』も、アレとは一度も会わなかったので無し。
11月のスペシャルランチも仲良く頂きました!
北京ダックならぬ、ザーフェスオーク!オークを甘辛な飴でジューシーに焼き上げた逸品!
で、食べるのは飴状になった、ちょっとパリッとした食感の皮部分だけ!
それを薄い餃子風の皮を、炙ったものに巻いて食す!旨し!!
嫁達は彼らの為に巻き巻きして、「アーン」で食べさせています!
デザートは濃厚杏仁豆腐。またも「アーン」で食べさせています!!
この濃厚杏仁並の濃厚で甘いイチャイチャに、食堂の生徒達は当てられています!
軒並み恋人達や婚約者同士もイチャイチャしだし、フリーの皆さんは魂が抜けた表情です。
「彼氏(彼女)欲しい・・・」
フリーな皆さんはつい溢していました・・・
そんなフリーな皆様に、朗報!!
12月ですよ!!
この世界にもクリスマス的なイベントがある。
聖女信仰は『聖女ルーン』を信仰し、女神信仰は『女神マナ』を信仰している。
この二つの信者が手を取り合って魔族を倒したのが、1000年位前の12月25日。
この日は『親愛の日』と言われていて、踊りを神に捧げるのが元なのだが、いつの間にやら『この日に恋人達が踊ると一生添い遂げる』・・な日になってしまっている。まあ祭りにありがちだが。
恋人欲しい熱は、王子達の所為でMAX状態。
例年にも増してお相手探しが加熱していたりする。
諸悪の根源(語弊)な4人は、いつもの会議室に集まっていた。
18/ 魔法を暴走した子を助ける(新たな攻略対象出現)
19/ アレに新たな力が(光属性)
20/ クリスマス的、いや・・『親愛の日』イベ
今月はこういった事があるようだ。
「18、新たな攻略対象・・すっ飛ばしていましたなぁ〜」
「いらんいらんいらん」
「増やしたくなかったから、全力ですっ飛ばしてた」
「・・会うだけ会うか・・・好感度は低く抑える事」
「やっぱり会わないといけないですかな?」
「新キャラよりも19の方がヤバイ。アレが聖女でぇ〜すぅ、って来るからな」
「・・どっちも飛ばせないのか?」
「飛ばせるよ。でも、アレが聖女信仰の信者を味方にする。で、アレとのエンドに行くしかなくなる」
「そうだった!!忘れてた!!」
「確か・・・新キャラは『女神信仰』だったよな?」
「え?そうだったっけ?すっ飛ばしてたから知らないが」
そして出来る子オニールが立ち上がった。
「そうだったか!じゃ、二人を敵対させる、ってのはどうだ?」
「きゃあーーー!!何この恐ろしい子・・・」
「いいね、それ。それで共倒れ、か」
「二人を排除か出来るね。それ採用!!」
4人の笑顔は真っ黒だった・・・けれども・・
「それはそうと、攻略対象はなんて子なんだ?」
「えーーー・・・なんて名前だっけ?」
「うわ。忘れた!」
「作戦出来ないぞ?何かヒント思い出せ!!」
「いやはや、参りましたな・・」
「そのうち思い出すかな?」
「うん、向こうから接触してくるだろう、多分」
「・・・してきたか?こっちから行かなくちゃいけなかった、ような?」
結局1月になっても、4人は名前を思い出せなかった・・・
そうこうするうちに、アレが光属性の魔法を開花させてしまった。19はどうしても起こる。
アレはひとりで勉学に励む、というかさせられていたというか・・何にしろ力を手に入れたのだ。
ゲームではもう、もてはやされてチヤホヤ状態だったが、現実はそうでもなかった。
「それがどうした」
「あ、そうなの?」
「精々神殿で頑張って」
「魅了を何とかしろよ」
と、学生達は冷めている。いや、どうでも良いらしい。
聖女信仰をしている者は、更に嫌悪している様だ。
「お前みたいな聖女がいてたまるか」
「男に見境無く魅了をするなんて、聖女に相応しく無い」
辛辣だが仕方が無い。
アレは勝手に自滅している様なので、王子達は自ら関わるのは止め、嫁達と『親愛の日』を楽しみました!
フリーの皆様も頑張ってアプローチをして、ダンスを楽しんだり、まだフリーな人も楽しめる様にゲームやブッフェなどでわちゃわちゃ、みんな丸ごとエンジョイ!
この光景を、ひとり見つめる・・・影。
いや、影ではない。身体を黒い闇が覆っているのだ。
光属性の力を手に入れたはずの、アレなのに?
つまんない。学園なんかに来なきゃよかった。
『とある』にさっさと入れば良かった。そうしたらもっとあたしは幸せになれた。
欲張らなきゃ良かった?
学園に入れば人生薔薇色と思っていた。
でも入った時から失敗した。
何故失敗した?魅了の所為?・・ううん、今までこの『魅了』があたしを人気者にしてくれた。
今まで幸運だった。
でも、王子達は『魅了』が『攻撃魔法』と言った。知らなかったのに!
王子達が、あたしを好きになれば、全て上手くいったのに!
あたしが側室や愛人になれば、王子達も、あたしも幸せじゃないの。
あたしは誰でも愛せるし、王子達があたしを愛してくれくれれば良いだけだし。
何であの女達が良いのよ。
高慢なお貴族様な女なだけじゃないの。
あたしの方が気さくで、可愛くて、甘え上手で、良い子で、ちょっとドジで、ユルくて隙があって、男の子が守ってあげたいって思う、理想の女の子だよ?
「負けない」
アレはぼそっと呟いた。
『親愛の日』の翌日から冬休みだ。
本日はワッツの家に集まり、定例会議だ。
21/ 新年イベ
22/ 虐められた子やアレと好感度を上げるミニイベ
あまり重要度が高く無いので、主に剣技や魔法をあげていく予定だ。
そして18/ 魔法を暴走した子を助ける(新たな攻略対象出現)だが、まだ出現もしていないし、名前も思い出せていない。
「今日は12月31日だ!カウントダウンに、行きますぞ!」
「おいアルフレア、日の出まで城にいて良いか?」
「そういえば、城の東の塔は日の出スポットだよなぁ」
「おい、あの塔、8人いられるほど広くないよな?」
「そうですぞ!ナタリィと二人でみようと思っているのですぞ・・遠慮して欲しいですな!」
「チッ。じゃあ湖に船で、サンライズクルーズするわ」
「よーし、浮遊で俺はお空デートするかな!」
「俺は自領の展望台で過ごすからいいや」
結論。4人は嫁とカウントダウンをして、あったかい飲み物を飲んだりして時間を潰し、日の出を見ながら祈願したのだった。お願いした内容はお約束。21も完了。1月スチル『新年お挨拶』も完了だ。
22だが、アレと会う機会が無かったので、自然と完了となった。
1月はこうしてあっさりと過ぎた。
アレも邪魔してこない。剣技や魔術の技も覚え尽くした。あとは体力や魔力をいかに増やすか。
月末のスペシャルランチはビーフシチュー。
スペシャルというだけあって、超高級ビーフを使用している。デミグラスも10日煮込んで仕上げた手間暇かかった物を使用。口の中に入れた途端、肉が蕩けた。旨味満載の、シチューだった。
熱々だったので、嫁達が「ふうふう、アーン」をしてくれた。
この「ふうふう」が御馳走です!!
デザートはすっきり味のソルベ、口に中が爽やかになりました。
「ああ・・・スペシャルランチ、2月で最後か」
「3月5日には、卒業式だからな」
「美味しい、嫁と楽しい、本当良い時間を過ごせたよな」
「最後は何が出るのか楽しみだな」
そう。2月のスペシャルランチをもって、お終いだ。
卒業に向かって、皆ラストスパートとなる。
2月に入ってすぐ、スカルドラゴンの目撃情報がぼつぼつ聞かれる様になる。
そして25日、彼等と戦うのだ。
骨で出来た翼を羽撃かせて、スカルドラゴンは城を狙って襲来する。
「絶対に、守るぞ」
「ああ」
「寄せ付けない」
「1人でも倒したんだ、4人なら完勝だ」
「油断はしないで、行くぞ」
「おう」
4人は気を引き締める。
いよいよ2月。
23/ バレンタイン的なイベ 元婚約者と喧嘩する場面も
24/ 突然のスカルドラゴン討伐イベ
23だが、12月に続き、前世に似たイベントがこちらの世界にもある。
2月22日、『ふふふ』の日だ。女の子から男の子にアプローチする日で、好きな男の子にバンダナを送り、OKなら男の子の頭にバンダナを巻いて二人腕を組んで闊歩する。
バンダナを巻いたお爺さんと、腕を組んで歩くおばあさんもいたりして微笑ましい。
だが、彼等はこれから起こるスカルドラゴンの襲来の為、ギルドで依頼をこなして身体強化に勤しんでいる。その間、婚約者達をほったらかしだ。
「婚約者様!今日もお一人なのですか?うふふ」
「!」
アレがナタリィに馴れ馴れしく声を掛ける。
「殿下はぁ〜、土日は何をしているか、ご存知ですかぁ〜?」
「・・・」
「あたしとデェ〜トしているんですぅ〜。学園では冷たいそぶりをしているのは、カムフラ〜ジュでぇ〜。内緒にしているんですぅ〜」
「・・・・」
何だか、不愉快だ・・この娘が発した言葉では無い。
彼女の存在?何故だろう、鳥肌が立つ。
ナタリィはちゃんと知っている。アルフレアが友人達とギルドの依頼をこなしている事を。
泥だらけの靴、汗で湿ったシャツを見た。稀に顔に傷がついていて、血が滲んでいる時もある。
最近鋭い目をしている事も知っている。
彼女が声を掛けると、微笑んで見せるが、何か隠している様だ。
だからといって、この娘と浮気は全く考えられない。
何だろう・・・邪悪?最近この娘は光属性の力を得た筈。
・・どうでもいい。馬鹿馬鹿しい事を言う無礼者など、無視に限る。
「そうですか。殿下に聞いてみる事にしましょう。ではご機嫌よう」
「何よ!すましちゃって!!お貴族様が何よ!!この・・!!」
アレはナタリィに掴み掛かって、力一杯髪を引っ張った。
周りにいた生徒は驚いて身動きが出来ない。
「や、やめて」とか細い声で止めようとするが、アレに睨まれて萎縮してしまう。
アレは更に強く、ナタリィの髪を引っ張る。
「ああっ!」
「あんたもあたしと同じ人間だ、貴族がどうした!庶民だからって、馬鹿にして!!」
「やめて・・」
「ざまあみろ!この髪を、引きちぎって
バァン!!
音と共にアレは吹っ飛んだ。アルフレアが裏拳を振るったのだ。
「ナタリィ!大丈夫か!」
「アルフ、様・・」
「君!教師に連絡してくれ!」
「あ、はいっ!」
慌てて女性徒は駆け出した。
「どういうつもりか。彼女は未来の妃だぞ。度重なる振る舞い・・もう許さん」
「何で・・何でよ!あたしだって、あたしだって!!」
アレの身体から、黒い湯気の様なモノが湧き出して揺らいでいる。
「それは闇だな?光属性では無かったのか?」
「うるさーーいっ!!」
「っ、障壁結界!!」
だが遅かった。魅了の波動が、アルフレアに僅かに触れた。
「!!!」
瞬間、頭の中がグラグラする。目が回る。
「アルフ様!!」
彼女では無い。私が、私が・・愛しているのは・・
視線をずらすと・・居た。
私の愛しい娘が。
怒っている。
・・ああ、慰めないと。
腕に抱いていたナタリィを放して、一歩。愛しい娘に近寄ろうとして・・立ち止まった。
頭の中で誰かが叫んでいる。
違うぞ、俺
俺はこんな奴は嫌いだ
自分の思うままに操る
魅了で俺の心を無視して縛ろうとする悪魔
俺、負けるな!
負けるんじゃない!!
お前が一番愛しているのは誰だ!!
黒い服を着た少年が、必死に叫んでいるのが見えた。
「な、た・・りぃ・・」
震える声でアルフレアは名前を呼んだ。
彼は強張る手で剣を抜き、太腿を刺した。
「きゃああ!!アルフ様、アルフ様、ああ、駄目、駄目です」
「まだ・・・俺を縛るか、魅了め・・ナタリィ・・ナタリィ・・・ナタ、っ・・」
彼は膝をつき、両手で何とか体を支える。身体が震えているのは、何かを堪えている様だ。
ナタリィから離れ、目の前のアレに近付こうとするのを必死の思いで耐えている。
「ナタリィ・・ナタリィ・・ナタリィ・・ナタリィ・・」
愛する娘の名を呪文の様に呟いて、痛みに神経を集中させて、魅了を無視する。
息は荒く、額は脂汗を滲ませ、太腿からは血が流れて地面に滴った。
「アルフ様・・負けないで・・負けないで・・」
「ナタ、リ・・負けないよ・・私は、君がいてくれれば・・ナタリィ・・」
ぐらりとアルフレアの身体は傾き、地面に横たわった。失神してしまった様だ。
「誰か!!アルフ様を助けて!!アルフ様を、助けて・・お願い・・」
彼女の顔は涙でくしゃくしゃで、彼の頭を抱きしめて大声を上げた。
暫くして、女生徒が教師数人を連れ、戻ってきた。
アレは目の前の二人を無表情で見つめていた。
保健室には友人が見舞いに来た。今ナタリィは席を外しているが、ずっと看病をしている。
「大丈夫か?アルフレア」
「まだ頭の中が変だ・・」
「足の怪我が治るまではここを離れていた方がいい」
「距離を取ると正気に戻る様だもんな」
「何故私が学園を出なければならぬのだ?もう直ぐ卒業だぞ?それにドラゴンも来る。出て行くのはアレの方だ」
「確かに!今度こそ、学園側も対応するだろう。王子に魅了、婚約者には暴行だ」
「まだ行動しないなら、王家権限で死刑にしてやる」
「それが一番だが、アレには『とある』なんちゃらが付いている様だ」
「何だ『とある』って」
「口には出来ない奴らだよ。国の役に立っているから、排除は難しいけど」
「ふん、正体なぞ知る気はない。国の役に立っているなら構わん。でもアレは駄目だ」
翌日、アレは学園を出て何処かに連れて行かれた。
アレが去ってからは、アルフレアの頭の中はスッキリして落ち着いた。
この事態に父である国王は激怒、アレを幽閉する様だ。光属性の力がどれ程のものか調べ、役に立たない様なら即刻死刑か流刑になる。あれ程の所業をしたのだから当然だ。
このまま卒業まで現れなければ良い。
やれやれと4人は思った。
もうすぐスカルドラゴンが現れるのに、こんな事で煩わされるのは勘弁だった。
2月22日、「ふふふ」の日がやって来た。
可愛い嫁達がバンダナを手に、現れた。
「アルフ様、よろしいですか?」
「ああ、頼む」
太腿の怪我は、ポーションを使用したのですっかり治っている。
ナタリィは彼の頭にバンダナを結んだ。紺色で彼女の髪と同じ色だ。
リーンブルグは黄色、フラーウの金髪に似せた色のバンダナを首に付けている。
ワッツはモーリンの髪に似せたグレーのバンダナを、二の腕に巻いてもらっている。
オニールはサイファの髪色に近いオレンジのミニバンダナを、右の手首に巻いている。
サイファはオニールと「お揃い」とばかりに、同じく右腕に巻いている。
4組のカップルは、他の人々に混ざって公園を歩いて行く。
3月も間近、卒業式はもうすぐだ。
既にお互いの家では、結婚式の準備も始まっていた。
貴族の結婚式の準備は、半年から1年を費やすものだ。
嫁達のウエディングドレスも2ヶ月前には仮縫いを終えていた。
レース製のベールは手織り、それから刺繍、宝石などを施していく。
これが時間が掛かるのだ。だって花嫁が主役、仕方がない。
晴れの日を迎えるには・・倒さなければならない。
2月25日、早朝。
遂に・・・現れた。
禍々しい巨体、スカルドラゴンが飛来したのだ。
結局『イチヂク浣腸』は何に使用するかは分からず、『真実の鏡』も同じく不明だった。
「ポーションは持ったな!」
「ああ。俺は魔法で弾幕を張る」
「街に近付けない様に!」
「まずは地面に引き下ろしてやるか!」
4人は城下町から離れた高台で、スカルドラゴンを迎え撃つ。
「火帯!!」
リーンブルグはオーロラの様に幅広の火の幕を展開、スカルドラゴンの前方を塞ぐ。
だがそのままドラゴンは進み、火が体を覆う。
「もう一度!火帯!!ついでに火拡散!!」
再びドラゴンの前方を火の帯が塞ぐと、ドラゴンは旋回して避けようとする。
もたついた所に火拡散が体全体に当たり、骨を次々と砕く。だがまだ余裕がある。
火拡散は50センチほどの火の玉が、数百飛んで敵を殲滅する火系では最大の全体魔法だ。
「よし!動きが止まった!」
浮遊でドラゴンに接近していたワッツが術を解除、落下速度を利用して突っ込む。
「片羽、頂く!!」
バキィ!!
右肩に剣を叩き込み、3分の2程切れ目を入れると、重さで残りも折れ、ドラゴンは落下して行く。
ごおおおおん・・・
泣き声というよりも管楽器の低音の様で、この一帯に響き渡る大音量だ。
「んがあっ!!耳が痛えっ!!」
一番近くのワッツは直撃、どうやら耳が聞き取りにくくなってしまった様だ。
「(ポーションを)飲んどけ!」
オニールが手でゼスチャーして見せると、ワッツは頷いた。
「オニール!援護してくれ!」
「じゃあ・・さっさとドラゴンに近寄ってもらおうか」
「待て待て待て!!」
「風上!!さあ、ドラゴンまで飛んで行けー!!」
「だーー!!くそっ」
オニールの風魔法で体が浮き、アルフレアはそのまま押し流される。
手に握るのは滅竜の剣、竜を叩き斬る事が可能になる。
「滅す!!」
頭蓋骨ど真ん中を剣は捉え、パァンと良い音がして、真っ二つになった。
「頭の中の、魔石を砕け!」
頭蓋骨と共に落ちて行く黒く光る石を、オニールが落雷の術で割った。
割れたと同時に骨がばらけ、崩れて地面にボトボトと落ちて行く。
「さすが4人係りだとあっという間ですな!」
「よく俺達ひとりで挑んでたよなぁ」
「あー・・耳痛てぇ・・終わったのかな?」
「終わった終わった、待つために早起きしたからな、眠い・・」
アルフレアは皆の顔をぐるりと見渡して・・
「これで、ほとんどのイベントは終わりましたな」
「そうだな。後は卒業パーティーを残すのみだ」
「アレも居ないし、すんなり行く筈なんだがなぁ・・」
「イチヂク浣腸と鏡は結局何に使うんだ?」
「そういえばもう一人の攻略対象は、どうなったのですかな?」
「もう良いじゃないか。これでお終いで」
「そうだな。やるべき事はやったな」
「ま、気を抜かないでいようか」
アルフレアがにこやかに笑う。
「この前、私の花婿衣装の仮縫いしたぞ。挙式は今年の11月予定だ。卒業後は父から統治を習う日々が待っている」
リーンブルグはふうと溜息を吐いた。
「俺達はまだしばらく結婚しない。フラーウが魔法学校に行きたいってな。3年くらい?俺も一緒に行こうかな?」
ワッツは両手を首の後ろで組みながら、
「父が新婚旅行も兼ねて、外国へ商談に行く時モーリンを連れて行けって。5月から半年」
オニールは空を仰ぎつつ・・
「俺は近衛騎士団に入団して外の飯を食って来いってさ。2年くらいかな?その後だな、結婚は」
それぞれの道が、目の前に広がるのを感じた4人だった。
数日後。
いよいよ翌日は卒業式。
本日は卒業パーティー、4人はそれぞれの婚約者と共に出席をした。
美しく着飾ったパートナーを見つめ、彼らはドキドキしているが、表情はすましたものだ。
貴賓の祝辞を何人かが読み、在校生がお祝いを述べて、校長が砕けた口調で卒業生を讃えた。
輝くシャンデリアの下で、卒業生のダンスが始まった。
貴賓にはアルフレアの父である国王も出席していて、校長と歓談している。
皆楽しげに踊り、雑談をし、用意された軽食や飲み物を頂いて、和やかなパーティーは恙無く進む。
ガタン!
突然の異音に、何事かと視線が集まると・・
そこに、アレが立っていた。大声で、叫ぶ。
「アルフ様ーー!!あたしを置いて他の女と踊るなんて!!」
「う、ううっ?!」
アルフレアは頭の中が真っ白になる・・
そして、目は何も映さない。
「アルフ様!!あたしです!シルフィーエです!!」
目が、たった一人の娘を捉えた。
足が一歩、一歩、よろよろと進む。
「シルフィーエ・・」
「アルフ様?」
「放せ・・私は、彼女の傍に・・」
「アルフ様ーーーっ!!あたし、迎えに来ましたぁ!!」
「ああ・・そうか・・」
「あたし、いっぱい虐められたんです!その女に!!」
「お前が・・虐めたのか?シルフィーエを」
「アルフ様・・」
アルフレアの瞳を見て、ナタリィは震えた。虚で、ぼんやりしていて、いつもの彼ではなかった。
「障壁結界!!!アルフレア!!正気に戻れ!!」
「衛兵!!・・えーと、50代の衛兵!!こいつを捕らえろ!!」
「若い男は下がれ!!魅了にかかるぞ!!」
3人はアルフレアの異常に、アレの乱入に気付いて駆け寄った。
「すまん!!」
まずリーンブルグがアルフレアの頬を叩く。
「頑張れ!この前も頑張ったじゃないか!」
次はワッツが腹パンした。蹲るアルフレアを、オニールが立たせた。
「魅了はやはり攻撃魔法だな。おい!!お前が大事にしているのは、誰だ!!」
耳を引っ張り、大声で叫ぶ。
「・・・・・!!・・な、た・・り・・・だ・・」
「よーし!正気に戻った様だな!よーしよしよし。後は任せたよ、ナタリィ嬢」
ナタリィにアルフレアを任せ、3人はアレの前に立つ。50代の衛兵もどたどたとやって来て、アレを取り囲んだ。
「本人の意思を捻じ曲げて、操る・・お前は魔女かよ」
「俺達にだって選ぶ権利はあるんだ」
「間違ってもお前は選ばない」
「う、うるさーーい!!あたしだって、素敵な恋人が欲しかっただけだもん!アルフ様!助けて!」
「ゔううっ・・」
「アルフ様・・負けないで」
「・・・ん」
呼ばれたアルフレアは頭を抱え、苦しげに悶絶している。
ナタリィが優しく背中を摩ると震えが和らいだ。
コトン・・
真実の鏡が突然現れ、オニールがそれを拾い上げる。
「・・ここで使うって事か?・・てやっ」
鏡をアレに向ける。するとアレの体から黒い煙が現れて、鏡に吸い込まれて行く。
「あ、ああああ・・・ち、力が・・力がああっ・・・」
がくりと脱力し、兵が支えなければならなかった。気を失っている様だ。
「アレ?本当に魔女だったのか?」
「如何なんだろう。アルフレア、大丈夫か!」
「張りビンタに腹パン・・有り難いが、やり返したい・・・何にしろありがとう」
「さて、鏡は・・・こうだ!」
オニールは鏡を床に叩きつけ、パリンと割った。
この後パーティーは続行されたが、アルフレアは医務室で休む事となり、ナタリィが看病で付き添った。
父親である王は激怒、アレを処分した。どんな処分なのかは不明だが。
光属性という稀な能力だろうが、無くても構わない。今迄無くてもやってこれたのだから。
跡取りの息子の方が大事なのは当然だ。
そしてアレを庇っていた『とある』なんちゃらも、大変な事になった様だが・・如何でも良い事である。
翌日の卒業式も粛々と執り行われ、感動と誇らしさ溢れる式となった。
4人は式の後、例の会議室に集まり最後の会議。
「アレから出ていた黒い霧みたいなのだが、膨大な魔力だったそうだよ。魅了で責められるうちに、性格が悪くなって、光属性が闇属性になったらしい」
「どんだけ性格悪くしたんだよ。本当、俺達に嫌がられているのに、勘弁して欲しかった」
「この学園に来るまで、魅了垂れ流ししてたの、全然分からなかったんだってな」
「だが、魅了に気付いてからのあれこれが駄目だ。可哀想とは思わんね」
「さーてアレの話はもう止めだ・・最後まで残った、これは何だったんだろう」
アルフレアがアイテム入れから取り出した、それを3人が覗き込む。
「イチヂク浣腸、な」
「謎アイテムだったな」
「・・・・俺は・・なんか・・思い付いたんだが・・・」
「お!流石出来る子オニールん!」
「大体お前の考えは合っていることが多い。で、何だったの?オニールん!」
「オニールん、言いなさいよぉ〜」
「・・・・俺達が・・・男しょ
「ヒッ!!!、言うなーーー!!!」
ギャーーーと皆で絶叫、1階まで響いたが、卒業式に皆出払っていたので、聞くものはいなかったとさ。
図書館から出ると、可愛い愛しい婚約者達が待っていてくれた。
「じゃあ、11月だからな。式に来いよ」
と、アルフレア。
「魔法学校は城下だから、ちょいちょい会おう」
リーンブルグはニヤッと笑った。
「式までには帰る。土産は期待するな」
ワッツも照れ臭そうに笑う。嫁と新婚旅行の所為だろう。
「近衛騎士団だから俺も会えるぞ〜。ワッツは楽しんで来い。俺達3人で楽しむから!」
オニールはイヒヒと笑った。
「何だよぅ〜。俺行くのやめようかな」
「ワッツ、こういう時は嫁を取れ、な」
そしてワハハと笑って、じゃあなで別れた。
転生して1年、嫁とのエンドを果たせた4人は、ゲームという指針無しでこれからの人生を歩む。
でも俺達は、大丈夫!多分!!何でも話せる気のいい奴らが支えてくれるから!
俺達4人、ズッ友だから!!
おしまい。
だけどもーちょっと続くんじゃ・・・
●おまけ・君達〇〇〇パパイヤマンゴーだね●
「こんなんでましたぁ〜〜」
アルフレアの前世の母の口癖だ。
かなり昔、占いを占って、決め台詞で言ってる占い師が居たそうだ。
それはさておき。
あまりにもイチヂク浣腸のインパクトが破壊力がありすぎて、影の薄かった・・・
キウイ草のジャム。
「忘れてた」
彼が忘れているのだ、皆も忘れているだろう。
今ワッツは嫁と新婚旅行も兼ねて、海外に行っている。
残りは城下町にいる筈だ。
「ワッツには親父さん経由で連絡するか」
王子は気楽な格好に着替え、城をこっそりと出た。
城下町は大賑わいで、自分の国が繁栄しているのがよく分かる。
道を外れてもスラムの様な所が殆ど無いのは、本当に自慢だった。
そのうち自分が統治して行くのだと思うと、誇りにも思うし重責も感じる。
「ま!良い部下揃えて緩くやっていこう!」
てくてくと歩く事10分程・・
こじんまりとした邸宅の前に来た。門扉横の柱に『カーン公爵』とプレートが付いている。
リーンブルグ家の別邸で、魔法学校はここから通うそうで、婚約者も一緒に住むようだ。
「リーンブルグはいるか?」
丁度庭に出ていた女中に声を掛ける。
「あ!まあ、王子殿下!さあお入りなって、すぐ若様をお呼び致します!」
50くらいの小太りの女中が、門を開けて招き入れる。
彼女について行き、屋敷の中に入ると、
「此方でお掛けになってお待ちくださいませ」
たたたと小走りで2階に駆け上って行く。
しばらくすると、インテリ眼鏡の友人がやって来た。
「如何したんだ、この間別れたばかりなのに。暇なのか?それとも寂しかったか?」
ニヤッと笑うと、眼鏡のフレームがキラッと光った。
「さびしかねーやい。まあ、くだらない事なんだがな・・・キウイ草のジャム、アレが残ってたのを思い出してな」
「ああ!イチヂクの方に意識持ってかれてて、すっかり忘れてた!」
「お前もかぁ〜。俺も今気がついたんだ。これって何のアイテムだったんだっけ?」
「前世では・・・使った事あったか?」
「いや、もらったままだった気がする」
「これは・・・聞かねばなりませんね?(キラン)」
「出来る子の出番ですな?奴は今、近衛騎士団で訓練中ですぞ」
「終わる頃、襲撃だな!」
「襲撃ですな!」
「メイリ!今から出掛けてくる!夕食は外で食べてくるから、フラーウに伝えておいてくれ!」
「おや、嫁はいいのですかな?」
「たまには良かろう?ではオニールんに会いに行くぞー!」
「おー!」
俺達はわちゃわちゃと燥いで外に出た。
近衛騎士団の練習場は、城から1キロ離れた空き地にある。
練習用具倉庫と、馬舎に休憩所の棟がいくつか並んでいる。
「あいつは3号棟にいる筈だ。第3騎士団所属だからな。練習は5時には終了、今は5時半だから下っ端が片付けしている」
「あいつは下っ端なのか?」
「庶民は入団すぐは下っ端から始まって、騎士見習い、騎士と出世するけど、あいつは10歳に見習いを終えているからな・・あ、いた」
騎士服姿の出来る子オニールが、同僚達と此方に歩いてくる。
「おーい、オニールん!」
「元気か〜オニールん!」
「止めっ・・・ばかっ!その名で呼ぶな!!」
後ろで同僚が笑っている。
「お前ら何の用だー、コラー」
「暇して遊びに来ちゃった!」
「えへ!」
「えへ、じゃない!!ったく・・着替えるから待ってろ」
「あ〜ん、私は王子なのになんて扱いなんだろう、酷くないっ?」
「ぷっ・・そうねっ、酷いわよねっ!」
「お前らなんか、クソ王子にクソ公爵だ!!」
そしてプイっと踵を返して行ってしまった。
「ちょっと、茶化しすぎましたかな?」
「俺にもするなよ?」
「さて?如何ですかな」
「悪質ぅ〜」
「・・・またせたな、とっとと行くぞ!」
「急がなくてもよかろう」
「お前らいると、録でもない事になる!先輩や同僚に何言われるか」
「私達のどこが悪いっていうの?ねえっ?リーンちゃん!」
「(乗るべきか?)そうね、フレアちゃん!」
「ぶっ、ばっか!お前ら、本当ばっか!!」
「ふふ。いつでも俺たちが揃えば高3気分に戻れるんだぜぃ」
「ハイハイ」
「仕事してんのオニールんだけだから、奢ってよね!」
「お前は王子だろうが!!お前のが金持ちだろう?」
「これは国民の血税でございますぅ〜、安易に使えないのですぅ〜」
「んがあっ!!お前、ウザさが急上昇だな!」
「オニールん〜、俺も構ってぇ〜〜。リーンのお願いっ!」
「185のでかい大男が名前呼びするなっ!」
繁華街に行くよりも、城の方が近いという事で・・
今はアルフレアの私室。
女中が料理を運んでくれ、白ワインで乾杯、優雅に召し上がっているのだった。
「おーい、王子様ー」
「何だ、セイクリッド辺境伯子息殿」
「あー。お城では王子しやがって。これ、国民の血税ですよねー。
100年前のヴィンテージワインに、フォアグラ載せのシャトーブリアン」
「国の象徴である王族が、粗末な物など口にしたら諸外国に舐められるからな」
「っもうー!ああ言えばこう言うー・・で。何の用だったんだ?」
「ゲームに擬えて日々を送っていた学生時代、イチヂクと一緒に存在した・・キウイ草ジャム」
「ああ、そんなのあったな」
「アレ、お前なら知ってると思って。使い所。まあ、終わっちゃったことだけど」
「そうだなー」
「お前、使った?」
「いや?」
「そうかー。何に使う物だったか、知りたかったんだよな」
「・・・そうだなぁ・・多分」
「多分?」
「アレにやると好感度が上がる、その程度だったんじゃないのか?」
「そっか。でもこれ、如何するよ?」
「ジャムだから、パンに塗って食う?」
「えーーと・・確か・・キウイ草って食物繊維が豊富で・・お通じに良いとかだったような」
「またそっち系かよ!!」
「相変わらず詳しいな!やっぱ頼りになるぜ、オニールん!」
「これからもよろしくな!オニールん!」
「本当、お前ら俺が好きだな!で!ワッツのも合わせて4瓶のジャム、如何するよ」
「母にやろうかな」
「俺も母上に」
「ミートゥー」
「でもさ」
「ん?」
「ワッツいないとやっぱ寂しいなぁ」
「だな」
「手紙、いっぱい送ってやろうぜ!」
「嫌がらせみたいにしてな!」
こうして夜は更けてゆくのだった・・・
今度こそエンドぉ・・
ほぼ毎日短編を1つ書いてます。随時加筆修正もします。
どの短編も割と良い感じの話に仕上げてますので、短編、色々読んでみてちょ。
pixivでも変な絵を描いたり話を書いておるのじゃ。
https://www.pixiv.net/users/476191