表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

◆――――国営パーティーの魔王攻略記 第0話。ジーク・ラインメタル少佐のある朝――――◆ 

 

 さて皆さん、"神"という存在を皆様はどう捉えていらっしゃるでしょうか。


 唯一絶対の存在?

 創造神?

 心のセーフティーネット?


 まぁこんな曖昧な存在のわけですから、政治や宗教、民族に国家、古今東西と分けるだけで全く違う意味を持つものです。

 僕が命懸けで守り抜いたこの王国も、すっかり"アルナ教"という唯一神教に染まりきってしまいました。


 ん、なぜに浮かない顔をしているかって?

 これは失礼しました――――まだ僕の考えをお教えしていませんでしたね。


 どんな国も個人も、神という存在をどう捉えようが自分には関係ありません。

 ただ一つ......神に選ばれた勇者である僕が言えること。


「神とは――――殲滅すべき悪の権化であります」




 ◆――――国営パーティーの魔王攻略記 第0話。ジーク・ラインメタル少佐のとある1日――――◆ 



 朝、目が覚めるといつもの天井が目に入った。

 清潔に保たれたベッドから身を起こすと、窓から青空が伺えた。


 社会人なら今日も仕事かと億劫になり、学生ならまた勉強かと憂鬱になるこの時間帯。まぁ冒険者の人間は狩りだなんだと浮かれているのだろうが。

 一応組織に務める社会人の僕は、昨日より引き継がれた退屈な日常を続けるべく立ち上がった。


「おはようございます、ラインメタル少佐」


 朝のコーヒーを貰うために階段を降りた僕は、さっそく同僚と出くわした。


「おはようルミナス広報官、早朝から勤務とはご苦労だな」

「いえ、この広報本部を任される者として当然のことです。よくお眠りになられましたか?」

「残念ながら低血圧の身では7時間睡眠も意味を感じないよ、爽やかに起きられる人間が羨ましいね」


 そう、僕はこう見えて軍人である。

 王国軍参謀本部直属、第315即応遊撃機動大隊レーヴァテインの誉れある大隊長を背任している。


 なぜ勇者のくせしてそんな将校になってるかって?

 簡単な話、この国の軍隊が魔王軍との戦争の時まっっったく役に立たなくてね。


 魔王を撃退した後に"ちょっと特殊な外国人"と協力して、この国の軍隊を大幅に近代化させた。

 ちなみに元勇者ということで准将クラスへの昇任もあったのだが、ありがたくお断りさせていただいた。


 僕のような人間は前線勤務の野戦将校が望ましい、っというより参謀本部で戦略プランを考えるのが面倒だったのだ。

 そういう点で"少佐"という階級はとても魅力的である、大隊を率いて戦えるというのはきっと楽しいものなのだろうと毎日夢見た。


 まぁ実際は......。


「本日も書類仕事ですか?」

「あぁ、ちょっと面倒な手続きがあってね。それを進めなければ」


 魔王を倒して軍隊を強化したは良いものの、王国は至って平和そのもの。

 出没する魔物は冒険者たちが狩りまくってるし、魔王軍亡き今王国軍は無駄飯食いと平和主義団体に叩かれる始末だ。


「軍人が暇なのはいいことだと言うが、培ったスキルが腐っていくのもまた考えものだな」


 執務室へ向かう。

 本棚を背に自分のデスクに座ると、僕は今日も今日とて書類にペンを走らせる。


 書いているのは"王立魔法学院への転入申請書"。

 ん、大人の僕がなぜこんな学院の書類を書いているのかって?

 いやいやさすがに僕は入学しないよ、ちゃんと代わりは用意してある。


 ――――コンコン――――


 そら来た。

 僕が入室を促すと、その少女は現れた。


「ふわあぁぁ......、おはようございます少佐」


 肩くらいまで伸びた茶髪のショートヘアを下げ、我が軍の制服に身を包んだこの子はセリカ・スチュアート1士。

 年齢は14歳で階級も下から2番目の下っ端だ。


「おはようセリカくん、その様子だと深夜まで本を読み漁っていたと見えるが」

「ギクッ......! いや......まぁ、そんなところです」

「睡眠不足はよくないぞ、君は成長期なんだからしっかり睡眠を取るように」

「はっ、はい! 気をつけます!」


 ちょっと抜けてるところが弱点か。

 けれど、彼女は王国最難関と呼ばれるレンジャー教育課程を修了している。

 元近接職の冒険者でもあるので、腕っぷしも見た目にそぐわず持っているのだ。


「あぁ、そういえば駐屯地では起床ラッパなるものがあったな。セリカくん――――明日から君が担当したまえ」

「ふぇっ!? いや無茶ぶりッスよそんなの! わたしも駐屯地暮らし以来吹いてないんですから!」

「でも2士時代は優秀なラッパ手だったそうじゃないか、期待しているよ」

「りょ、了解ッス......」


 これで明日から寝坊助になることはないだろう。

 彼女はキッチリ役割さえ与えれば、ズボラになったりはしない。


「それで――――今日は何の用で?」

「あぁ、実は君には1週間後に【王立魔法学院】へ転入してもらいたい」

「そっ、それって......、王国軍クビってことッスか......!?」

「いやいや、君には転入――――――っというより潜入調査兼、偵察を頼みたい」

「潜入?」


 僕はデスク前まで来たセリカくんに書類を見せる。


「? なんですかこれ」

「情報部にパイプを持つ偵察隊所属の友人がくれたものだ、どうも資金や資材の流入が最近激しくてね」

「工事か建て替えでもするんじゃないですか?」

「建前はそうだろうな、だがこれら支援を行っているのが連邦企業なのだ」

「ミハイル連邦ですか?」


 ミハイル連邦とは、大陸の北半分を牛耳る巨大共産主義国だ。

 なにかと王国とは仲が悪く、王国の気づかないところで工作活動がなされているのが最近疑われている。


「つまり、連邦企業と繋がっている可能性があるこの学院で潜入捜査してこいってことですか?」

「そういうことだな」

「危険手当とか付くんッスか......?」

「安心したまえ、太っ腹にも500スフィアが給料に上乗せされるぞ」


 セリカくんが崩れ落ちる。


「500スフィアって......、1回の昼食代で消し飛ぶじゃないですか」

「すまんね、軍の予算は常にカツカツなんだ。学院に違和感なく潜入できる年齢なのは大隊で君だけだし、まぁ頑張ってくれたまえ」

「あーブラック、やっぱ王国軍って国営ブラックですよ」


 ブツブツ言いながらも、キチンと概要を頭に入れるセリカくん。

 まっ、モチベーションくらい上げてやるか。


「無いとは思うが、ヤバい状況になったらこれを使いたまえ」


 机の上に拳銃と実弾8発の入ったマガジン、それを入れる用のホルスターを置く。


「わッ!! これ最近配備されたばかりの新型拳銃じゃないッスか!! これ持ってっていいんですか!?」

「あぁ、構わん」


 彼女は生粋のミリタリーオタクというやつだ。

 護身用の武器でモチベーションが上がるなら安いもんさ。


「でもわたし魔法とか全然使えませんよ?」

「魔法演習のない期間だけに絞って送り込む、筆記と人間関係だけ頑張りたまえ。体育も朝飯前だろう?」

「了解ッス」


 さっそく彼女は拳銃の構え心地、どこにホルスターを付けて拳銃を制服に隠すかなど考えていた。


「念の為チャンバーには最初から入れておこう......、ホルスターは多分スカートの中だからショートパンツを下に履いてその上に......」


 良い意気込みである。

 どうもあの【王立魔法学院】は臭うからな、魔王軍が復活する前にハッキリさせておきたい。

 まぁ無理なら無理で別にいいが。


「魔法学院で友達って作らない方がいいですかね?」

「適度な関係を維持したまえ、もっとも――――君の趣味に合う人間が魔法学院なんかにいるわけないだろうが」

「それもそうッスね」


 部屋を出ていくセリカくん。

 いやはやしかし、この世界なにが起こるかわからん。

 まさか潜入調査に向かったセリカくんが、同じミリオタの友人を引っ張ってくるとは思わなかった。


 なんでも王国軍に入りたいというらしい。

 セリカくんから事情を聞いた僕は、潜入捜調査を終えた彼女の帰還を確認する。


『へっ!? あなたの紋章......! これどうなってるんですか!?』

『やっぱ......なんかあるんですか?』


 適正検査をしているルミナス広報官の声が聞こえた。


 なんでもその男は魔力が実質無限だという。

 面白い、実に面白い。

 彼らがいるであろう部屋の前に立つ。


『いや、でも俺は複雑な高等魔法が使えない。いくら魔力量がほぼ無限にあってもそれじゃぁ――――』


 僕は扉を開けて中に入ると、その男――――エルド・フォルティスくんを見た。


触媒しょくばいを使えばいいんじゃないかな? 魔法が使えなくとも道具に付与すれば、絶大な威力アップになる。ましてそれが"最新の武器"なら......」


 高位魔法が使えないという彼へアドバイスを送る。

 すると、側にいたセリカくんが立ち上がって敬礼した。


「お久しぶりです少佐! 学院の潜入任務は成功! ついでに志願者も連れてきました」


 まさか、本当に趣味友達を見つけてくるとはな......。


「君がエルドくんだね、初めまして。僕は成り行きで少佐をやっているしがない元冒険者だ。"ジーク・ラインメタル"少佐とでも呼んでくれ」


 さて、クソマーダーをぶっ殺す準備をしようか。


いかがでしたでしょうか、初めての番外編なんで至らぬ部分が多いかと思いますがご勘弁くださいm(_ _;)m。


いやはやしかし、これで結構最序盤にあった展開の回収ができたんじゃないでしょうか。

なぜセリカがラッパ手だったのか、第1話でエルドを撃った拳銃がどういう経緯で渡されたか......。

この短編のラストは、本編第2話の最後とも繋がってるのでまた読み返してみるのもオススメです。


あと、主人公が来る前のレーヴァテイン大隊の雰囲気が書けて個人的には楽しかったですね。

それでは、本編の方を引き続きお楽しみください。

(作者より)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] こんな番外編があったなんて、3ヶ月も気づかなかったですよ……! ついでにセリカの年齢を今更ながらに知りました。 14歳だったのですね……中2のミリオタか。今が人生最盛期ですね(ぉ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ