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今日の私の夢  作者: ジャリカスミノムシ
7/11

元カノと風呂

少し残酷な描写があります。

【追記】あまり関係ないですが作者名を変更しました。

「……、こんなところで何してんの?」


 母を車で職場まで送った帰りのことである。私は自宅マンションのエントランスにて、昔付き合っていた女性に再会した。彼女とは、大学時代に半年弱付き合っていたが、別れて以降は完全に相互不干渉を貫いていた。おそらくお互い本気の恋愛ではなかったのだろうと、懐かしむように過去を思い出す。

 過去はともかく、問題は現在だ。一体なぜ彼女がここにいるのか。僕の記憶が正しければ、彼女は社会人のはずで、この時間は会社にいなくてはおかしい。勤務先など知らないが、少なくとも、こんなド田舎にはオフィスも客もないだろう。


「……」


 彼女の口がパクパクと動いた。しかし、何を言っているのか聞き取れない。声が小さいのか?

 私は耳を彼女の口に近づけ、コミュニケーションの初球を掴もうとするが、やはり何も受け取れない。

 埒が明かないので、私は彼女をその場に放置し、帰宅することにした。ひどい対応かと思われるが、何かあったら追ってくるだろうと考えていたので、心は痛まなかった。階段を上り、自宅の門を開けるまで背後に気配は感じなかった。彼女はずっとあそこに立ち尽くしているのだろう。


「ただいま~」

「おじゃまします」


 友人である後藤は恐る恐るといった様子で私の家の扉をくぐった。その気持ちはわからなくもない。私も初めて他の人の家に、それも家族と同居している家に行くのには緊張する。おそらく後藤は今、他人の家のにおいと雰囲気を久しぶりに味わっていることだろう。

 私は靴を脱ぎ、彼を自室へと誘導した。


 そこで見たものは異様な光景だった。

 ベッドがあった場所には浴槽が、デスクがあった場所にはシャワーが我が物顔で鎮座していたのだ。クローゼットにはタオルや着替え、本棚にはシャンプーなどのボトルがあった。

 

 今日家を出るまで、自分の部屋だった空間がいつの間にか風呂に改造されていたのだ。

 

 さすがの私も絶句である。言葉がでない。喉からではなく、脳の奥底から言葉を失った。

 友人はそんな私の驚きを知ってか知らずか、部屋の入り口で固まっている私の脇を通りすぎ、浴槽に腰を掛けた。

 原因を考える。犯人を考える。しかし、心当たりがない。

 すると、家の奥、自室とは反対のほうから誰かが近づいてきた。母だ。


「もしかして、母さんか?俺の部屋を勝手に改造したのは」

「うん。今から解説するね」


 さも当たり前かのようなリアクションをしたかと思いきや、私の部屋のこだわり改造ポイントを解説し始めてしまった。


 私は母を無視し、ベッドに腰かけて友人と会話を始めた。


「そういえば司法試験受かったんだってな。おめでとう。祝いの品を用意しているからあとで持ってくるわ」

「お、ありがと」


 後藤は受かることもプレゼントがあることもさも当然かのように返事をした。実際彼が受かると確信していたからこそ、私は前もってプレゼントできたわけなのだが。


「そういえば、私もようやくFGO始めたよ」

「まじか。ゲームアプリなんて一個も入れてなかったくせに、いったいどういう心境の変化だ?」

「そろそろかなって思って」


 私はスマホの画面を後藤に見せた。彼の言う通り、私は今までゲームアプリを入れたことがない。スマホの画面を埋めるアプリはSNSかニュースアプリ、クーポンアプリがほとんどだ。画面を一番右までスワイプするとそこにはポツンと緑のアイコンがあった。

 私はそれをタッチし、ゲームを起動させる。せっかちな私はロードの長さにさえイライラさせられる。


「……、まだゲーム画面みていないからなんとも言えないけど。多分これ偽物だぞ」

「え?」


 私のリアクションとともにゲームのホーム画面が開いた。緑の背景に大きく「FGO 迷路」と書いてある私のスマホを見て、後藤は思わず噴き出した。


「めっちゃ偽物じゃん!なんだこれ!さすがに騙されないだろ!」

「ほんと、何考えてるのかしら」


 後藤と一緒にヤジを飛ばしてきたのは母親だ。まだいたのか、と不機嫌な顔で母に視線を向けると、母はその後数十分に渡り、ぐちぐちと嫌味を私に飛ばしてきた。

 空気は今までの家庭生活の中で最悪。流石に後藤に申し訳なくなった私は母を部屋から連れ出し、遠くキッチンまで向かった。


「なあ、さすがに勘弁してくれよ。なんでそんなに言われないといけないんだ」


 私がなるべく平静に近い声で母にそういうと、母は来ていた上着を脱いで、上半身にびっちりと書き込まれた複雑な幾何学模様の入れ墨を見せつけてきた。

 いつの間にこんなものを入れていたのか、なぜ今このタイミングで見せるのか、私には何も分からなかった。とにかく会話を続けることは無理だと思った私はキッチンのコンロ下の引き出しに母を詰め込み、部屋に戻った。


 部屋に戻ると元カノがベッドの上で泣いていた。私が思い出を大切にしているのが嬉しかったのだろう。私はそのままお湯を沸かし、彼女を風呂に沈めた。


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