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ざまぁシリーズ

魔王軍四天王の一番手で地属性魔法の使い手の憂鬱

作者: 大小判

息抜き作品です。

ゲームとか漫画とか、異世界にそぐわない物が登場しますが、とりあえずその事に関する言い訳だけさせてください。

漫画はあれですよ、書物自体はあるからそこまで不自然じゃないということで一つ。

それでゲームなんですが……これは魔法の石板で地球のゲームと同じようなのが再現できるってことで。

魔法の石板ですから、画像とかボタンとか何でもあり何です。


 いきなりでなんだが、軽く俺の経歴を聞いて欲しい。手短に話すから。

 まずは俺の出生からなんだが、実は俺は昔から人間の敵対種族、魔族と戦う由緒正しい武門の次男だったんだが、実父や実母、兄弟姉妹から出来損ないの落ちこぼれ呼ばわりされていた。

 元々類稀な雷属性の適性、それを研究、発展することによって戦場で名を上げて、魔族に対する防衛の要を任された家だったのだが、そんな家に生まれた俺の魔法属性の適性は地属性。実家では全くノウハウのない、雷とは真逆の属性だった。

 生まれ持った魔力が低かったわけではない。むしろ高い方だった。なのに実父や実母ときたら、何かにつけては「伝統ある我が家の魔法が使えぬとは、とても私の息子とは思えんな」なんて言って、義務だけで俺を育てた。


 反吐が出るぜ!


 育てられたこと自体には感謝しよう。でもそこまで望んでいない子供だったっていうんなら、適性が分かった途端に里子にでも出された方が遥かにマシだったってもんだ。

 考えても見てくれ。世間一般的にはそこまで悪い才覚や適性でもないのに、実の家族からは(そし)られる……こんなん誰だってグレると思わない? 

 それから兄弟姉妹、こいつらも揃って実父や実母が望んだとおりの雷魔法の使い手だ。親も親なら子供も子供なんてよく言ったもんで、俺を出来損ない呼ばわりする二人を見て育ったあの四人も、揃って俺を見下しやがった。


 反吐が出るぜ!


 そもそもあいつ等、属性の相性的に俺より弱いくせに、俺と違って両親に好かれているという事実だけで平然と実の兄弟を見下す。あの性格の悪さ、幼いながらも確かな遺伝を感じたね。

 しかも「父上や母上にも認められない哀れな家族が強くなれるように特訓してやる(笑)」とか言って向こうから危害を加えてきたくせに、クレイウォールで守りながら反撃としてストーンブラストで顔面に向けて連射し、四人の顔が二~三倍の大きさになるくらいボコボコに腫れ上がらせてやったら、泣きながら親にチクりやがるんだよ。そして事の経緯も聞かずに俺だけ鬼のように叱られる。これが毎度毎度続くんだぜ?


 まったくもって、反吐が出るぜ!


 ……え? それはお前が悪い? 女の顔を殴りまくるなんて最低だ? 兄の風上にも置けないゲス野郎? そんな非難中傷の声が次元を二つから三つに増やした先から聞こえてくるぞ?

 生憎だが、俺は真の男女同権を求める者。男同様、女にも俺に殴ってもらえるという権利を与えただけなんだ。

 シスコンとか妹という存在に憧れる男の声も聞こえた気がしたが、むしろあんな顔だけ良くて性格の悪い妹なんざ、クーリングオフ出来るならとっくにクーリングオフしている。ブスでも性格の良い妹との交換でも可。

 

 でもまぁ、こんな最低な家族に囲まれても、当時の俺はまだ腐らなかった。幸いというべきか何というべきか、地属性という明確な取り柄があった俺はそれを活かして領民の為に出来ることをしようと頑張ったんだよ。

 人間なんて称賛を求める生き物じゃん? 能力なり努力なり評価ポイントなり。…………自分で言っててなんだけど、最後の何?

 まぁ、とにかくだ。家族には認められなかったなら、他の人からの評価が欲しくなるのが人の性。とりあえず独自に地属性魔法でできることを研究して、手始めに農業の発展に貢献し、それが見事大成功。収穫率が急上昇し、味や品質も遥かに向上したと他所の領地でも評判になったくらいだ。

 大勢の領民から感謝された時、やっぱり良い事すればそれが自分にも返ってくるもんだと、胸がじん、と熱くなった。家族には認められなかったけど、こうして俺を認めてくれる人が、俺の力だけで大勢得ることが出来たんだと。


 …………まぁ、それを実父がさも自分の手柄であるかのように周りに吹聴していたと知った時は、本気でぶち殺してやろうかと思ったが。放任どころか、生まれてからずっと悪しざまに罵って

きておいて、どの面下げて「私の教育と協力の賜物です(キリッ)」とかほざいてんだコラ、と。 

 

 だがそれだけならまだ良かった。ぶっちゃけ許す気は毛頭ないが、それだけならまだ良い。

 事もあろうかあのクソ親父、農業で巨大な利益を生み出した俺を妬んだのか、はたまた利益を欲しがったのか、ありもしない嘘八百である俺の悪行を領民に吹聴しやがったんだ。

 それにすっかり騙された領民どもは手のひら返して大激怒。何か真実なのかも見抜けぬ暗愚な領民どもは、曇った眼で俺を追放しやがった挙句、何もせずに俺の功績を横取りした実家を崇めやがったんだ。


 血の繋がった家族にも拘らず、魔法適性だけで俺を貶めやがった実家。学も品性もなく、より位の高い権力者の言うことが絶対正しいと信じて疑わない衆愚ども。

 これが人間の本性か。都合の良いものだけを見て、都合の悪いものには蓋をする、そんなのが人間の本性なのかと悟った時、俺は同族でありながら人間というものにほとほと愛想が尽きた。


 そんな時に巡り合ったのが、魔族の王である魔王様だ。実力主義者である魔王様は俺の実力を正当に評価し、俺を魔王軍に誘ってくれた。

 そしてなんやかんやあって魔王様の魔法によって俺は人間を辞めて魔族に生まれ変わり、愚かな人間どもを駆逐しまくって功績を積み重ね、魔王軍最高幹部の一人にまで上り詰めた。

 さて、少し長くなったが、これが今の地位に就くまでの俺の経歴。魔王軍最高幹部、四天王の一人、地属性魔法の使い手であるドロイの半生だ。


「…………どうしよう」


 で、ここからが本題なんだが……俺は今、深刻な事案に悩まされていた。


「どうされたのですか、ドロイ様? 何かお悩みでも?」

「……クレアか」


 そんな俺の様子に、近くで掃除をしていた俺の専属メイド、デーモンのクレアが気付いて首を傾げる。


「もうすぐ勇者が俺を殺しに来るだろ?」

「えぇ、ドロイ様は魔族領への侵入を阻む結界の要ですからね。ドロイ様を倒さない限り、魔王様や他の四天王の方々の拠点はおろか、勇者や天使どもは魔族領に一歩たりとも足を踏み入れることは出来ませんし」

「そうなんだよ……つまりだ、俺って人間どもの側から見れば、魔王軍四天王の一番手なんだよ」

「役割上たしかにそうなりますが……それがどうしたのですか?」


 ここまで言ってもまだ分からないらしい。しかし、無知なのは決して恥ではない。俺はクレアの上に立つ者として教示してやることにした。



「地属性魔法の使い手で四天王一番手って……そんなの踏み台役にされて敗北必至じゃん。やべぇ……やべぇよ……」

「何をとち狂ったことを仰っているのですか? まさか、何か変な物を拾い食いでもしたんじゃないでしょうね?」

「お前は俺を何だと思ってんだ」



 すっごい冷たい目で見られた。少なくとも、主に向けていい目じゃないと思う。

 銀髪に緑眼、容姿も優れていて更にはオッパイも超デカい。外見なら完全にドストライクなんだが、この女、仮にも主であり、四天王でもある俺に対して結構容赦なくものを言ってくる。メイドならばご主人様に従順かつデレデレであるべきだと思うんだ。具体的には、体を使ったご奉仕を実行するくらいに。


「ドロイ様の勝手なメイド像を押し付けられても困ります。本来の性格を隠して接されても後で悲しくなって落ち込むだけですよ?」

「…………なぜ俺の考えが分かった?」

「私たちが一体どれだけの付き合いになっていると思っているのですか? それにドロイ様は、考えていることが顔に出過ぎです」


 呆れられてしまった。

 こいつとは魔王軍で伸し上がっていく際に、魔王様から仕事ばかりで家事に割く時間が無くて不便だろうと斡旋してくれた時からの付き合いだから……もう五年ほどの付き合いになるのか。

 まぁ、気心の知れて遠慮のない間柄っていうのも嫌いじゃないからいいけど。


「それで、今回は一体どうしてそんな馬鹿なことを言い出したのですか? 四天王として、そんな弱気な発言はどうかと思います」

「クレア……お前は言霊というものを知っているか?」

「口にしたことが実際に起ころうとする力の事ですよね? たしかそれを元にした魔法もあるとか……」

「あぁ。そして今まさに、地属性の使い手で四天王一番手は敗北必至という言霊が世に蔓延っている」

「そんな……まさかドロイ様対策に、人間どもが密かに大規模な魔法を!?」

「そうだ」



「漫画とゲームじゃ、地属性で四天王一番手はかませ犬になるってパターンばっかりなんだよ!!」

「ぶっ殺しますよ、ドロイ様」



 なんて冷たい目なんだ。ちょっとチビるかと思った。


「最近妙に元気が無いと思ったら漫画とゲームでバカみたいに勝手に落ち込んでいたのですか? おバカなのですか? いいえ、貴方はおバカでしたね。生粋のおバカでした」

「そんなにバカっていうことないだろ」


 俺がこんなに悩んでいるのに、なんて冷たいメイドなんだろう。


「しかしこれを見てくれ。愚かな人間どもの間で人気を博している、『パイの大冒険』という漫画なんだが」

「何で四天王が人間どもの漫画を読んでいるのですか?」

「創作は種族間を飛び越える素晴らしいものだと思っている。ちなみにこれは全世界中のパイを独占しようとしている大魔神、パーンの野望を阻止すべく、伝説のパイの騎士であるポテトが仲間のザイアークと共に冒険を繰り広げるというストーリーなんだが」

「頭も内容もおかしいんじゃないですか、その漫画。何で主人公の名前がお芋なんです?」


 カオスギャグ漫画と言ってほしい。


「で、この中にタラコパインというキャラが居るわけよ。タラコとパイナップルのパイを人々の口の中にねじ込むパーンの部下なんだが」

「最悪の組み合わせですね」

「こいつも俺と同じ、地属性の使い手で四天王一番手なわけよ。四天王の中で一番最初にポテトと戦って最初は圧倒するんだけど、なんか覚醒したポテトにやられて死ぬわけ。で、死んだら死んだでほかの四天王の強さを図るための物差しにされた挙句、相性差も考慮せずに四天王最弱呼ばわりされるという、妙に俺とキャラが被った奴なんだ」 

「別にキャラは被ってないでしょう」

「で、本題は此処からなんだが……このタラコパインの登場で、創作界隈では今、四天王の一番手や地属性の使い手は総じて踏み台のかませ犬という認識なんだ」

「他の地属性の使い手の方々に謝ってください」


 こんなに懇切丁寧に説明しても、クレアの眼は冷たいまま。なんて薄情なメイドなんだろう。


「くそっ……! 知らず知らずの内に特大の踏み台要素を取り込んでいたなんて……。このまま俺は、勇者が成長する踏み台にされた挙句にボコられて、他の四天王の強さを測る物差しにされる運命なのか……!?」

「いい加減落ち着いてくださいませ、ドロイ様」

「これが落ち着いていられるか。お前だって、上司が「奴は四天王の中でも最弱」とか「人間如きにやられるとは四天王の面汚しめ」とか言われたら嫌だろ?」

「それは確かに嫌ですが……それはあくまで創作物の中での話でしょう?」

「でもさっきも言ったとおり、言霊の事もあるし」

「まぁ、それはそうですが……だからと言って、ドロイ様の勝利が揺らぐとはとても思えません」


 絶対の自信を目に宿して、クレアは言う。


「というか、なぜ地属性だから最弱だのかませ犬だの呼ばれるのですか? 地面を含めた鉱物全てを意のままに操り、自分に有利な地形を作りながら大質量で敵を圧倒することも出来る優れた魔法ではないですか。上位の者になれば重力操作に質量操作、ドロイ様に至っては宇宙から巨大隕石を敵に向けて叩き落すことも出来ますよね? これらは従来の地属性魔法でできるとは到底考えられていなかった、極めて強大な魔法なのですよ? これも全て貴方の研究と発展の成果です。貴方のおかげで地属性魔法が五大属性最強とまで謳われるようになったのですから、もっと自信を持ってください」



「でもさぁ……地属性魔法使う奴って地味な印象あるじゃん?」

「……は?」



 凄い目で睨まれた。……怖い。


「別に地味とは思いませんけど……地面が爆発するように捲れあがったり、巨大なゴーレムとなって暴れまわって愚かな人間どもを蹂躙する様は圧巻だと思いますが」

「なんていうか、魔法の彩りに欠けるんだよなぁ。雷とか炎なら分かりやすい位くらい派手だし、水とか氷とかなら神秘的とか綺麗とか言われるし。でも地属性でどうやっても黒とか白とか茶色ばっかりだし、重力に至っては完全に透明だし。ほら、こないだビュッフェバイキングに行った時、俺の皿の彩りが悪いとか言ってきただろ? カレーと唐揚げとハンバーグばっかり乗せたらさ」

「それとこれとを一緒にしないでください。それを言ったら風属性なんて立つ瀬がありませんよ? あっちは完全に無色透明、砂塵を巻き込んで灰色とか砂色になるくらいなんですから」

「あいつら、ちょっと空を飛べるからってチヤホヤされてるし」

「ドロイ様だって引力と斥力を操作して空を飛ぶではありませんか」

「そこまで出来る奴なんて限られてるじゃん」


 そもそも風の四天王を筆頭に、あいつらって上空からこっちを見下す悪癖があるんだよな。性格の悪さが魔法に出てるよ。


「大体、そんなに彩りが気になるのでしたらやりようはあるでしょう? ドロイ様は地属性魔法を駆使して、植物や溶岩を操れるではないですか。緑や赤を取り入れれば彩りも豊かになることでしょう」



「溶岩出したら腐った生卵の匂いがするって怒られるし、植物出したら落ち葉や花粉で大変になるって怒るじゃないか」

「なら諦めてください。私に怒られてもいいのなら話は変わりますが」



 メイドを怒らせたらまともに生活できない。これ、権力者の常識な。


「まぁそういう魔法のせいもあってか、地属性使いってどうもキャラが立ちにくい巨漢キャラみたいな印象持たれて、空気キャラと化すわけよ。そんでもって特に見せ場もなくいつの間にかフェードアウトするんだ。お前、漫画とかゲームで地属性が得意な主人公見たことあるか? あれは主人公としてキャラが立ちにくいと思われているからに違いないんだぜ? 現にゲームのメインキャラに地属性使いが出たとしても、そいつに関するメインイベントやサブイベントが少ないし」

「むしろ貴方の脳味噌がフェードアウトしてるんじゃないですか?」


 なんて酷い事を言うんだ。


「とにかく、ドロイ様は気にしすぎです。これから勇者がくるというのに、そんな弱気では他の者たちの士気まで下がってしまいますよ。大切なのは強さです。派手さではありません」

「俺も最初はそう思っていた……でもな、もう一つ重大な懸念事項があるんだ」

「まだあるんですか……いいです、ここまで来たなら付き合いましょう。それで? 今度は一体どんな下らないことを気にしているんですか?」


 下らないとかいうなよ。


「お前、今の四天王の名前全員言えるか?」

「それは勿論。まずはドロイ様に、炎の四天王であるブラスト様、風の四天王ゼピュロス様、水の四天王ワダツミ様」


 指を四本曲げながら名前を羅列していくクレア。



「そして、最近四天王入りされた雷の四天王タオ様ですよね?」

「何で四天王なのに五人いるんだよ!?」



「そんなこと言われましても……そもそも四天王というのはただの通称で、正式な役職名は魔王軍大将……魔王様より位が一つ下の方々の事ではありませんか。長年四人までしか同時に務められなかったから、いつの間にか四天王と呼ばれていただけで」 

 

 四天王なのに五人いるなんて詐欺じゃないか。これはもう、五天王に名前を改めるべきなのではなかろうか。


「これはもう、俺が四天王を解雇される前準備なのかもしれない」

「はぁ……なぜそうなるのですか?」

「だってだって! 俺ずっと人間どもが領土に侵入するのを防ぐ結界を維持するためにダンジョンに籠りっぱなしなのに、魔王様や他の四天王は前線で戦ってるんだぞ? これもう完璧要らない子扱いじゃん! 今までずっと四天王で通ってきたのに、「地属性とかなんとなく地味でキャラ立たないし、五天王とか語呂が悪いから解雇する」とか言われたらどうすりゃいいんだ!?」

「逆ですよ。ドロイ様が魔王軍がゆっくりと休める場所を守っているからこそ、魔王様も他の四天王の方々も安心して戦っておられるのです。強力な力を持つ勇者や天使どもに集中的に狙われても守り切れると信じているからこそ、魔王様は今の役目をドロイ様に託されたのではないですか。大変名誉なことですよ」

「そうかなぁ?」

「そうですよ」


 そこまで言い切るなら……まぁ、確かにそうなのかもしれない。


「正直侵入者が来ないと暇な上に、俺だって人間どもをぶち殺したいんだが……まぁいい。魔王様の命とあれば従うとしよう。それで、勇者とその仲間たちは今どこに?」

「丁度ダンジョンの前に辿り着いたようですね。あ、こちらが偵察して分かった今回の勇者パーティの編成になります」


 クレアが差し出した資料に目を通す。



「……おい。何で勇者パーティが十五人もいるんだよ? しかも勇者以外は全員女」

「ここに来るまでの間に立ち寄った街々で口説き落としたみたいですよ? ニコポとナデポで」



 何やってんだよ勇者。魔族領攻略を何だと思ってんだよ勇者ぁぁ……! あとで俺にもニコポとナデポを教えてください。


「そいつらがここまで辿り着いたら、俺は十五人と戦う羽目になるのか!? 普通パーティは四人から八人一組だろ? それでもリンチなのにその倍近くって、そんなのタダの苛めだろ! 大多数で一人を攻め立てるなんて、勇者として恥ずかしいと思わないのか!?」

「その発言は魔王軍としてどうかと思いますが、最近は珍しくありませんよ。確かにサブメンバー入れて八人までというのが常識ですけど、中には待機含めて六十人以上のパーティとかいますし、むしろ少ない方なのでは?」



 ゲームとかやってると、「ボス一人相手に主人公側が人数差とか回復アイテムとかやりたい放題だよな(笑)」って他人事みたいに思ってたけど、いざ自分がその立場になってみると、正々堂々からかけ離れた勇者たちの卑劣さに溜息が出る。


「そこまでして俺を引き立て役にしたいのかよ……!」

「それは単なる貴方の被害妄想です。というよりも、そのように不安を抱く必要など無いと思いますが」


 そう言うと、クレアは俺の手を両手で優しく包み込む。


「どうか自信を持ってください、ドロイ様。貴方は紛れもなく魔王軍最強の一人なのですから。それにこのダンジョンには貴方だけではなく、手塩にかけて育てた魔物や部下たち、丹精込めて作られたトラップが立ち塞がります。勿論、この私も。……それともドロイ様は、私たちでは……私が味方では、不足ですか?」

「……っ!」


 そう言われて、俺はハッとした。


「……ふっ。俺も耄碌したもんだな……そんな当たり前の事を忘れてしまうとは」

「ドロイ様……まだ若いのに痴呆は早すぎると思います」


 お黙り。


「クレア、ダンジョンに配置している者どもに伝達しろ。結界維持装置はこのドロイが必ずや死守する。お前たちは本能の赴くがままに、愚かな人間どもを殺し舞うがいい、とな」




 所変わってドロイの故郷、魔族領と隣接するとある王国。国境付近の駐屯所では。


「では最大の難関である大地の四天王、ドロイの攻略についてだが……何か有効な手段は見つかったか?」

『『『無理です。あんなん勝てませんよ』』』


 元帥の言葉に、その場にいた将校たちは全く同じセリフで返した。


「そんな弱気なことを言ってどうする!? 奴がいる限り、戦闘で傷ついた魔族どもは我々では手出し出来ない場所に転移で逃げ込んで安全に回復し、また我ら人間を脅かすのだぞ!?」

「そんなことは分かっております! 前線に居る兵士たちなど、『自分たちは傷付きながら不味い携帯食料を食べているのに、魔族どもは結界の向こう側で見せびらかすように美酒美食を煽りながら美しいサキュバスどもに身も心も癒されている、この待遇の差に心が折れそうだ』と毎日泣いているのですぞ!?」

「この間など、数多の犠牲の果てにやっとの思いで追い詰めた四天王を結界の向こう側に逃がした際、奴はあろうことが満身創痍の我らに自慢しながら最高級の酒をラッパ飲みして……うぅ!」

「というか、どうやって魔族どもは戦時中にあれほどの食料と慰安婦たちを調達できるのだ? 我らは食料を調達するのにも七難八苦しているというのに、なぜ奴らだけ毎日戦場で豪勢な食事を? 以前ゴブリンのシェフまで派遣されてステーキを焼いていた所を見たことがあるのだが」

「それもドロイの奴の仕業です。奴の魔法によって魔族領土には広大極まる肥沃な農場が開拓されており、良質な作物や家畜が大量に用意できるようで。結界の向こうに引きこもった魔族どもの慰安員も奴が……」


 一同の表情が揃って苦虫を噛み潰したようなものになる。


「やはり、勇者や天使様の力によって、奴の拠点であるダンジョンに乗り込み、倒すしか勝ち筋はないようだ。……これまでのダンジョンやドロイ自身の情報を纏め、攻略法を模索しよう。まず奴のダンジョンはどのような場所なのだ?」

「はい。まずダンジョン全域に強力な重力場が発生しており、並みの兵士や下級の天使様では足を踏み入れた途端に潰れて床のシミになります。中級の天使様クラスの実力があれば何とか潰されずに済むようですが、それでも動きは大きく制限され、そこを何故か重力場の影響を受けていない奴の配下の魔族や魔物によって倒されます。勇者パーティーのような強い力の持ち主なら何とか切り抜けられますが、それでも動きは制限されるようで……」

「何という事だ……最初から詰んでいる状態じゃないか……!」


 悩ましげに眉間に皺を寄せる元帥。


「しかも奥に進めば進むほどトラップも凶悪になっていくようで、常に地形が変化し続ける迷宮に加え、溶岩地帯に猛毒地帯、前が見えないほどの砂嵐に底なし沼、無数の巨大落石と、とても動きを制限された状態で切り抜けられそうにないものばかり。しかもそれを切り抜けたとしても無重力地帯に超引力発生力場もあり、その先の質量増加地帯は装備や身体の質量を増加させて身動きを封じてしまい、そこに強力な魔族や魔物が襲い掛かります。勿論、その連中はトラップの影響をうけません」

「そんなものどうやって突破しろというのだ!?」

「突入した殆どの者は死亡し、これまで説明した情報も僅かな帰還者たちが持ち帰ってきたものを繋ぎ合わせただけですからね……とはいえ、ドロイの元まで辿り着いたパーティも居たんです」

「おぉ!」


 凶報の中の希望に顔を輝かせる元帥だったが、すぐに違和感を抱いた。


「……待て。なぜ過去形なのだ?」

「……これまでドロイの元に辿り着いたのは三つのパーティのみ。破魔の女勇者ルーシーは知っていますか?」

「知っているとも。あらゆる魔法を無効化することが出来る勇者だろう? なるほど、ダンジョンのトラップも魔法だからな。彼女があの凶悪なダンジョンを攻略できるのも頷ける」

「それを知っての事か、ドロイはルーシーがダンジョンの最奥に辿り着くのと同時に彼女の顔面にフライングニーキックを叩きこみました」

「飛び膝蹴りを!? 敵とは言え相手は女だよ!?」

「唯一生き残ったパーティメンバーによると、当時もその事でドロイを謗ったそうですが、ドロイは自分は真の男女同権主義者だからとか何とか言っていて、女子供にも容赦がありません。しかも魔法の効かないルーシーを地割れに落として閉じて圧殺するという物理的攻撃で倒したのだとか」


 外道だ。貴族として紳士の心構えを叩きこまれた元帥はそう呻きながらドロイを心の中で外道と称した。本人からすれば戦場で女だの男だの拘る方がおかしいと反論しそうだが。


「次に異界の勇者ユキト。彼は王国が異世界から召喚した強い力を秘めた若者なのですが」

「知っているとも。ケンジュウだとかミサイルだとか、異世界の兵器を再現する若者だったな。……なにやら女ばかりの八人パーティを作って、兵士たちに睨まれていたが」

「ぶっちゃけハーレム作ってましたね。まぁその彼もダンジョンを突破してドロイと相対したのですが……彼の作る異界の兵器は金属……つまり鉱物が主材料で、鉱物を操るドロイの前にはあまりに無力でした。再現された兵器は全て粘土に変換され、他のパーティメンバーはローパーやオークにユキトの目の前で寝取られてましたね。性的な意味で」

「ドロイはなぜそんな真似を?」

「モテない部下たちに結婚相手を見繕ってやったんだそうです。相手が愚かな人間どもでも、魔族として生まれ変われば万事解決、オールオーケーだとか何とか言って」

「くっ……! 部下のプライベートのケアまで万全だというのか……!? というか、帰ってきたユキトが真っ白になって色んな意味で再起不能になっていたのはそのせいだったのか」


 元帥はユキトにちょっと同情したが、彼がとてつもなく女にだらしのない性格であると思いだし、すぐに自業自得と割り切った。


「では最後の一党は? もしかしなくても、神より与えられた聖剣を持ち、全勇者の中でも最強と謳われた、光の勇者アルベルトではないのか?」

「えぇ、そうなんですが……ドロイは重力崩壊を巻き起こしてブラックホールを発生させ、アルベルトは闇の向こう側へ吸い込まれてしまいました。いかに光を操る勇者でも、光を吸い込むブラックホールの前には無力でして……」

「な、なら聖剣は!? あれはこの世に存在しない鉱物で出来た、一振りするだけで勝利を約束する究極の兵装ではないのか!?」

「如何にこの世に存在しない、神の武器だとしても、鉱物で出来ていますからね。鉱物であれば操れない道理はないと、聖剣はハリセンになってしまいました」

「何という事だ……」


 しかもです……と、さらなる凶報が届けられる。


「どうやらダンジョン内には四天王クラスの強さを誇るメイドがいるようでして」

「メイド!? メイドなのに四天王クラスの力があるのか!?」

「はい。遭遇した者は殆ど殺害されています。箒で」

「箒で!? 武器じゃないじゃん!」


 いったいどんな化け物なんだろう。ドロイの他にもそんな厄介なのがうろついているなんて。

 作戦会議に参加していた者は一斉に項垂れ……そしてある一人の人物を睨みつける。


「それもこれも……ハウグレー卿! 貴方が子息の教育を誤ったのが原因ですぞ! 貴方が自らの家系の伝統魔法に適さない属性の子供だからと冷遇していたのは有名な話でしたしなぁ!?」

「そうです! おかげであんなとんでもない化け物が敵として立ち塞がっているのですよ!? この責任、一体どうしてくれるのですか!?」


 集中的に非難を浴びて、ドロイの実父であるハウグレー卿はただ顔を青くしながら俯くしかなかった。

 自分はただ、代々伝わるハウグレー家の魔法を重視しただけのつもりだったのだ。その結果、雷の属性を持たない次男を冷遇し、軽んじてきたのだが、それに反感を持った次男は領民を味方につけ始めた。

 自分や、自分の才覚をしっかりと受け継いだ子供たちは魔族との戦いのために尽力しているというのに、領民たちは日々の糧である食糧事情を潤してくれる次男ばかりを慕うようになったのが心底気に入らなかったのだ。

 だから奪った。領民たちにありもしない悪評を流し、生意気な次男を追放してその功績を横取りした……そこまでは良かったのだ。

 だが地属性魔法のノウハウのないハウグレー家では高水準になった農業を支えることが出来ず、結局すぐに元の不便な農作業に戻すことになって領民の不満を買い、更には人間に失望した次男は魔王軍の一人として人類を脅かす存在となった。

 

(どうして……どうしてこうなったのだ!? 私はただ、先祖から受け継がれた魔法と、その誇りを守ろうとしただけなのに……!)


 せめてもの後始末として息子や娘と共にドロイの討伐に赴いたが、圧倒的な力を身につけた、かつて散々見下していた息子の前に抗うことすら出来ずに敗走することになり、国王からは叱責を受け、領民たちの眼はますます冷たいものとなって、家族揃って肩身の狭い思いをしている。

 こんなことになるくらいなら、もっと広い視野を持って息子の才能を認めておけばよかった。そう後悔しても時すでに遅く、名門ハウグレー家の名声は地に落ち、没落の一途を辿ることとなるのであった。






「……来ないな、勇者ども」

「来ませんね……あ、今届いた報告によると取り巻きの女どもは皆ゴブリンに寝取られたみたいですね。勇者は発狂しながら失禁し、スライムの体当たりで止めを刺されて無様に死んだようです」

「マジかよ? 勇者スライムに殺されたのか?」

「まぁ、私は何となくこうなるだろうと思っていましたけどね。このダンジョン、歴史上最も勇者を殺している最難関ダンジョンとして認定されていますし、並みの勇者では中層に辿り着くことすら叶わないのではないかと」

「じゃあ俺の心配はなんだったんだ?」

「単なる杞憂です。……さて、そろそろお昼時ですし、昼食の準備をしますね」

「おー。……にしても、このダンジョンを任されてしばらく経つけど、ここに辿り着いた勇者パーティは三組だけか……。なぁクレア、お前はやりがいを感じないとか、そういう不満はないのか? こんな暇な部署はそうそうないし、やりがいが無いと思ったら異動届出しても構わんぞ?」



「……私はどこにも行きませんよ。貴方にお仕えするために、十年近く待ち続けたのですから」



「ん? 十年? それって一体どういう……」

「思い出せないのなら結構です。それより、今日は何が食べたいですか? リクエストがないならイナゴの佃煮を出しますが」

「お前ふざけんな! 何で数ある選択肢からイナゴをチョイスした!? メイドならメイドらしくオムライスを出すんだ!」

「オムライスのどこにメイドらしさがあるのかまるで理解できませんが、分かりました。ケチャップでドロイ様への日頃の不満を書けばいいのですね?」

「そこは大人しくハートマークで良いんじゃないかなぁ!?」




 これは余談だが、俺が子供の頃に助けて人知れず匿った、傷を負った魔族の子供がクレアだったと思い出したのは、しばらく後の事である。

 

書籍化作品、「元貴族令嬢で未婚の母ですが、娘たちが可愛すぎて冒険者業も苦になりません」と「最強の魔物になる道を辿る俺、異世界中でざまぁを執行する」もよろしければどうぞ。

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