7 悪役令嬢の妹の彼氏
俺にはクララという恋人がいる。同じ子爵家で家柄も合うとつい最近までは思っていた。
彼女の家が借金まみれで彼女が借金のかたに好色家で有名なゴートン・ギュンターの後妻になりそうだった時に助けてくれたのがオッドウェイ公爵家だった。何故公爵家が助けてくれたのかクララは話してくれなかったが、リリアーナ様を近くで見て納得した。リリアーナ様はクララに瓜二つだった。どうしてだれも気付かないのか不思議なほどだ。
「あなたがクララの彼氏なの? もっとしっかりしてくれないと困るわ。わたしはあなたみたいな平々凡々で悪い奴に騙されそうな人って嫌いじゃないんだけど、お父様は妹をとても愛してるの。私のことよりも大事にしてるから結婚を許してもらうのは大変だと思うわよ」
リリアーナ様はクララのことを誰にも言うつもりがないと聞いていたのに、俺には隠すつもりがないようだった。クララが言うように彼女は悪役令嬢という役柄にはまっているのだろうか?
クララはリリアーナ様が悪役令嬢になりきっているから、クララのために公爵家に引き取れないのだと言っていた。悪役令嬢というのはいずれ王子から断罪されるからクララまで類に及んだら大変だと言ってるらしい。とても優秀だと聞いていたのに残念だ。少し頭がおかしいのかもしれないな。
だがリリアーナ様のおかげで身分違いということにはならずにすんだのだ。少しくらいなら彼女の馬鹿げた話を聞くのも義弟の役目だ。
「クララから聞いてます。私のクラスのアリス嬢のことを見張っていたらよろしいのですね」
「そうよ。決して邪魔をしてはいけませんよ。そして誰かが彼女をいじめそうな時は…」
「助けるのですね」
「何を言ってるの。惚れられたら困るから助けるなんて論外です。すぐに逃げなさい」
「逃げるのですか?」
「大丈夫です。彼女は主人公補正がありますから怪我をする事はありません」
主人公補正ってなんだ? いじめられてる女の子を置いて逃げるってすごく嫌な男になるんだけどリリアーナ様には逆らえない。
「わかりました。見て見ぬ振りをします」
「よろしい。ではお父様にはあなたの事を素晴らしい男性だと話しておきましょう」
確かに髪型を除けば瓜二つの二人だけど、やっぱりオーラが違うと思った。リリアーナ様を包み込むオーラは眩しいくらいだ。これが王妃様になる運命の方なのだと誰もが納得されるほど存在感があるのだ。俺のクララは違う。側にいる人を癒してくれるそんなオーラだ。俺はいつも彼女のそばで癒されたいと思っている。
そして話にあったアリス・アンダーソンは平々凡々なオーラだ。とても主人公になれる器ではない。それに殿下はいつもリリアーナ様を見つめている。さっきも俺とリリアーナ様が話をしてるのを遠くから見ていた。きっと後で呼び出されるに違いない。どうやって誤魔化せばいいのか。殿下はクララの存在を知っているのだろうか。クララのことを話さなければ消されるかもしれない。それほど嫉妬深い視線だったのだ。
リリアーナ様の勘違いだと思うな。あれほどリリアーナ様のことを見つめている殿下が他の女性のために婚約破棄するなんてあり得ない。でもクララとの今後のためにリリアーナ様に従うしかない。彼女の機嫌を損ねたら俺に未来はないのだから。
そうそう俺の自己紹介もしておこう。俺の名前は…
「何を突っ立ってるのですか? 早く教室に戻りなさい。決してアリスさんから目を離さないように」
リリアーナ様に叱られてしまった。急いで教室に戻らなければ。