4 悪役令嬢の婚約者
私の婚約者であるリリアーナ・オッドウェイが、
「私はいつでも婚約破棄受け入れるからね。私を嫌いになってもできたら国外追放とかですませてね」
と言いだしたのはいつからだろう。はじめは笑い飛ばしていた私も最近では心配になっている。もしかして彼女は私のことが嫌いなのだろうか? これは暗に私に婚約破棄してと訴えているのか?
私はこの国の第一王子アンドリュー・オルティーニ。生まれた時からこの国の王になる事が決まっている。そしてリリアーナも生まれた時から私の婚約者だ。
だが誓っていうが私は彼女をひと目見たときに恋に落ちたのだ。もし彼女でない人が婚約者だったら婚約破棄してでも彼女と一緒になっただろうが、リリアーナが婚約者なのだから婚約破棄などする予定などあろうはずがない。
「それはきっと拗ねてるんですよ」
仲の良い弟のエリオットに相談するとそんな答えが返ってきた。エリオットも幼い頃からリリアーナの事を姉のように慕っているから婚約破棄などやめてくださいねと言われた。何度もいうが婚約破棄などするつもりはないからな。
「拗ねてる?」
リリアーナには似合わない言葉だ。
「リリアーナ様だって拗ねることもありますよ。女性なんだから愛の言葉一つ言わない婚約者に遠まわしに催促してるんですよ」
そんな雰囲気ではなかったと思うが、女の扱いの上手い弟に言われるとそんな気がしてくる。
「そういえば今まで何も言ったことがないな。だが誕生日の贈り物は忘れたことはないぞ」
「好きでもない婚約者にだって誕生日の贈り物はするでしょう。デートくらいはした事あるのでしょう。その時に愛のささやきでもすれば機嫌も直りますよ」
「デート? この間、新しくできた美術館のセレモニーに参加したな」
「それは公式行事でしょう。デートとは言えません.....まさかデートにすら誘った事がないのですか?」
呆れたようにエリオットに言われて考えてみれば、リリアーナとは公式行事以外で出歩いたことがない。
「拗ねてますよ。丁度良かったじゃないですか。避暑地でデートにでも誘って愛の告白をするチャンスです」
そうだな。私はリリアーナが横にいるのが当たり前で甘えていたようだ。不安にさせていたとは婚約者失格だ。避暑地ではずっと彼女の側にいるようにしよう。そして愛の告白を......言えるだろうか? エリオットと違い女性にそのようなことを言ったことはない。男性が相手ならいくらでも饒舌になるのに女性が相手だと母上にすら口下手になる。
だがこのままでは婚約破棄されるかもしれない。それはダメだ。リリアーナは私の妻に必ずしてみせる。