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友人が言うことには“いべんと”があるらしい

因みに、アナリシアはマリアのことを親しげにマリアちゃんと呼んでいるが、実際には1度も会ったことがないという。

物陰からこっそり覗き見たことはあるそうだが、声は掛けなかったとか。「モブはストーリーに極力絡まない方が良いかと思って!」と言っていたが、“もぶ”とは脇役のことで、“すとーりー”とは物語のことらしい。

物語には脇役も居ないと困ると思うのだが、他の世界では違うのかもしれない、とナリシフィアは首を傾げるばかりだった。


「“いべんと”というのは、“ひろいん”という方が好感度を上げていなければ発生しないのですよね?」

「そうだよ。順調だったら今日起きる予定だったのに、クラス違うしなぁ」

「日付まで解るのですか?」

「んー、日付はわかんないけど、今日から宝具実習でしょ?宝具実習の1日目にあるんだよ、イベント」


宝具実習というのは、実際に宝具に魔力を込め、発動させる実技のことだ。

実技は段階を踏んで行われてきた。第1学年では魔力の増幅と制御を主に学び、第2学年では幾つかの種類の魔法具の発動、第3学年では皇家から貸し出された宝具を実際に使用してみることになっていた。

いずれ爵位を継ぐこととなる貴族の子息にとって大事な授業であり、令嬢や平民にとっては良い機会となる。

因みに、他者と魔力をあわせて高めあうという技法の、さわりを行ったりすることもあるが、体調を崩す者が続出するため、方法を少し試すだけということが多い。

婚約者が同じ組にいる者は、実際に授業でその方法を試してみることがあるらしい。その場合はどういうわけか問題なく魔力をお互い増幅させられるとのことだ。

赤の他人同士では高めあえず、想いあう者同士ならできる。それが何故なのか理屈は解明されていないが、魔法省の研究対象となっていた。

この国では魔法の在り方が他国とは違う。

他国ではどれほど高名な魔法使いでも、この国に来ると魔法が使えなくなる。

もちろん、この皇国に住む国民も魔法は使えないのだ。

ただし宝具を元に開発された魔法具や、宝具の発動ならできる。

しかし他国で開発された術具は、この国では使用出来ない。

皇国を取り囲む結界の為ではないか、と推論は出ているが、それを立証する方法も確立されておらずただの推論止まりとなっている。

神から賜りし宝具の御業(みわざ)に対して、検証するもなにもないのだが。

そういった色々な、他国との魔法の違いや、どうすれば他国の魔法がこの国でも使えるようになるかの研究、新たな魔法具開発を一手に引き受けているのが魔法省だった。

学園の卒業後、研究員として毎年何人かが就職したりもしている。

ナリシフィアとしては、アナリシアさえ良ければその魔法省の開発部門に、彼女の推薦状を書くつもりだ。

この友人はいつか幼なじみと一緒にすごい発明をしたいと言っていたので、うってつけだと思うのだ。


「なるほど。では、今日はどんな“いべんと”が起こる予定なのですか?」


微笑ましい気持ちでアナリシアに話題の水を向けると、それはね、と楽しげに彼女は返答をしてこようとする。


「シア、またナリシフィア様を困らせてるのか?」


しかしそれは、横合いからかかった呆れたような声に遮られた。


「またってなによ?スキロ、あたしに対して失礼だよ!」


アナリシアの幼なじみにして婚約者である青年、スキロがやってきたのだ。アナリシアの席の傍らに立ち険しい顔で見下ろしているが、深い緑の瞳は彼女に対する愛情で満ちていた。

背は高く、肌は健康的に焼けており、精悍な顔つきは日頃は表情の変化が乏しい。しかしアナリシアが相手となると表情がよく変わり、2人の仲の良さを窺わせる。

アナリシア限定で世話焼き気質なのか、なにかと心配し行動を先回りして手助けしたりしているが、少し鈍感な所のある彼女の為に苦労が絶えないようだった。しかしそれも退屈しなくて良いのだと、以前に楽しそうに教えられたことがあった。

どうやらアナリシアに頼られるのが好きらしい。

2人の間に流れる信頼感とゆったりした空気が、ナリシフィアは見ていてとても好ましかった。


「お前は思い込みが激しいからな。勘違い暴走させてナリシフィア様によく迷惑かけてるだろ」

「そんなことないよ!シフィーは迷惑なんて言ってないもん。ね?」

「はい、シアといるといつも楽しいですよ。ごきげんよう、スキロ様。相変わらず仲がよろしいのですね」


朝の挨拶を返してくるスキロに、ほら大丈夫だったよ!とアナリシアが胸を張って見せ、2人は猫がじゃれあうような親しげで微笑ましい空気を自然と作り出す。

癒し効果のあるその光景に温かい気持ちを覚えていると、ナリシフィア様、と青年から呼び掛けられた。


「ちょっとお伺いしたいことがあるんですが」

「まぁ、なんでしょう?」


首を傾げて見せると、若干躊躇(ためら)いを見せた後声を潜めて、スキロは確認してくる。


「殿下と何かありましたね?」

「まぁ、やはりお分かりになりますか?」

「逆に気付いていない者は、この教室にはいないでしょうね」


スキロは平民だが、魔力の高さ、頭の回転の良さ、立ち回りの秀逸さ、魔力の扱いの上手さ、どれをとっても高水準で成績も常に上位だった。

察しの良さも併せ持っており、跡取りのいない貴族や、優秀な官吏を求める城等から度々声を掛けられる程だ。

その彼が、わざわざ解りきったことをナリシフィアに確認に来るのは、アナリシアの為だろう。

事態を正確に把握し、自分の大切な婚約者が巻き込まれたりしないように立ち回るつもりなのだ。


「実は昨日、殿下に意中の方が()られるのか確認させていただいたのです」

「ナリシフィア様が、わざわざ直接訊かれたんですか?」


どちらにせよ2人には教えようと思っていたナリシフィアは、素直にサヴェンヒェルとの間にあったことを伝える。

するとスキロは若干顔をひきつらせ、なんだってそんなことを、と理解出来ないように人差し指と中指2本の指先で、眉間を軽く揉み始めた。


「お父様に頼まれたのです。メイダース家の役割に関わる問題なのですが」


いけませんでしたか?と首を傾げて見せると、スキロからあからさまに顔を背けられ、ナリシフィアは困惑に両眉尻を下げた。


「それで、皇太子様に好きな人居たの?」


恋の話だと思ったのか、ニコニコしながらも小声でアナリシアが会話に交ざる。


「はい、居るということ確認できました」

「えー、誰だれ?それは教えてもらえたの?」

「いえ、次の夏の夜会までに探してみよ、と言われてしまいまして」

「うーん、誰なんだろうね。マリアちゃんはもう婚約しちゃってるし、そもそも出会いイベント発生してなかったしなぁ。無関心皇子が、他に好きな人なんて簡単に出来るのかなぁ?」


楽しそうに訳知り顔で語っているが、もちろんアナリシアはサヴェンヒェルとの交流など一切ない。

同じ教室に居ても平民のアナリシアにとって、皇太子は雲の上の存在だ。いくら学園内では全て平等とする、と言われていてもおいそれと近づける対象ではない。

しかもただでさえ、「モブは主要キャラクターに近づかないように、そっと見守るもの!」と公言しているアナリシアなのだ。

“おとめげーむ”の“攻略対象”であるサヴェンヒェルと、交流を持とうとするはずもなかった。

では何故アナリシアが訳知り顔なのかというと、その“おとめげーむ”のサヴェンヒェルがどうだったか、という知識を持ち出しているにすぎない。

“おとめげーむ”では何でもあっさり完璧に出来るが故に、何事にも無関心な皇太子になってしまったのだ、と以前アナリシアは言っていた。

実際の皇太子も確かに完璧な姿を見ているが、内面までは解らないので本当に無関心なのかどうかは判断出来なかった。

それに時々、妙な迫力というか、いつもとは違う空気のようなものを漂わせる時があるのだ。無関心な人間が、そのように態度を使い分けるかのような真似をするのだろうか。

謎が深まるばかりだと困っていると、やがてスキロが疲れた顔をして助言をくれた。


「あまりそちらの事情に立ち入るのは本位ではありませんが。

長引いてシアがおせっかいをしたがっても困るので、言っておきます。奇をてらって考える必要はありません。客観的に見て、誰が皇太子妃に相応しいか、そういう観点から見ればあっさりと答えは見つかりますよ」

「スキロ様は、殿下の意中の方をご存知なのですね」


長年見守ってきた自分には解らないというのに、さすが優秀な男だとナリシフィアが感心していると、呆れたような諦めたような顔でスキロが溜め息をついた。


「え、なんでスキロ知ってるの?ズルいよ、あたしも知りたい!」

「類は友を呼ぶとは言うが……。案外解りやすいから、寧ろ隠す気なさそうだから、すぐ解ると思うぞ」

「ヒント!ヒントちょうだい!!」


賑やかになるアナリシアを鬱陶しそうにいなすスキロだったが、その顔は本当に迷惑しているわけではない。

仲睦まじい友人2人の姿に、ナリシフィアの口元には貴族として意識してつくったわけではない、心からの笑みが浮かんでいた。


閲覧、ブクマ、評価、ありがとうございます。

スキロとアナリシアの容姿設定を変更していたつもりだったのに、不在の方を読み返してみたら変更されていなくて狐につままれたような心境になりました。

仕方ないので、容姿設定変更せずいくことにしました。

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