06話
最初の家庭教師は一月でクビにした。
次の家庭教師は一月半。
その次は三週間ぐらいだったような気がする。
そこから先は覚えていない。
どの家庭教師も、つまらなかった。
『剣術など貞淑な女性が嗜むべきではありません。おやめください、みっともない』
『いちいち疑問など挟む必要はございません。昔からそう言い伝えられておりますので』
『私の申し上げる通りになされば良いのです。私は学会の権威ですぞ』
本当に、つまらなかった。
あんまりクビにしすぎたから、とうとう誰も家庭教師を引き受けなくなった。
まあいいやと思ってたけど、お父様はしぶとかった。
『マリシェ。最近仕えるようになった者に、異国の貴族がいるのだよ。とても学識があり、そして非常に面白い男だ』
面白い、ですか?
『そうだ。伝統ある、そして硬直しきったロイツェンの外から来た、不思議な男だよ。彼は……そう、自由なんだ』
ふーん。
正直あまり期待はしていなかった。
今だって別にそんなに期待はしていない。
でも確かに、今までの家庭教師とは違う。
学者っぽくないし、役人っぽくもない。妙な安心感があって、そして面白い。
算術の講義がつまらないと言ったら、なぜか銃を撃たせてもらえた。
かと思ったら、しっかり算術の勉強をさせられていた。
悔しいけど、ちょっと面白いと思う。
それに私がずっと考えていたことにも、きちんと応えてくれた。
そう。大公になってみんなを守っていくためには、剣よりも銃、銃よりも算術。
だったら算術もやってやろうじゃない。
算術名人の大公になって、みんなを守ってやるわ。
何万もの軍勢を操って、どんな敵も退けてやるんだから。
さあ、そのためにはもっと算術の勉強をしないと。このクロツ算さえあれば無敵よ。
でもまだちょっと、七の段が苦手なのよね。
ジーベ・アイ・ジーベ。
ジーベ・ツァ・テムフォルア。
ジーベ・ドリン・ツァテムアイ……。
うあ、眠く……なって……きた……。