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第十五話:ちょっとした冗談

どうもお久しぶりです、お盆なんて特になかった負け組です。

レビュー書いて下さったお三方、(とくに最初の方はかなり機会を逸しちゃいましたが)有難う御座います。お陰様で(?)何故か一文字たりとも投稿していないのに一瞬ランキングに載ってしまっていたみたいですネ!コレがいわゆるシャドウポスト現象か!(存在しない単語をさも存在するかのように語る


 というかさ、今更だけど。

 方向性が間違っていたのかもしれないと思うんだよ。


「ふむ……」


「よい、しょっ……」


 俺はシャルが調合をしている後ろ姿をじっと見つめながら、そんなことを考えて顎先に手をやった。


 なんの方向性かというとだな。

 そう。基本的に俺は、シャルが何かよくわからんことを言うととりあえず褒めて知ったかぶりをすることが多い、かもしれない……。


 もはやいつからそんなことをしているのか曖昧なほどずっとそうやってきたが、そういった俺の”つい褒めて有耶無耶にしよう”というクセが我が弟子の(俺的に)好ましからざる振る舞いに繋がっているのではなかろうか。

 俺の哀れな胃に負荷がかかってしまう、そもそもの原因となっているのではないだろうか……。


「ううむ……」


「よい、しょ……!?」


 俺はシャルが釜をかき混ぜる度にぴょこぴょこと揺れる髪先をじーっと見つめながら、更に思考にふけっていく。


 ここはやはり、大胆な意識改革をするべきなのかもしれない。


 いっときの苦しみをぐっと抑えて、的はずれなことを言ってしまうかもしれないという不安を呑み込んで。

 あえて、シャルの説を否定する勇気が俺には必要なんじゃないか……?


 俺はそんなことを考えながら……、また何か妙ちきりんな技でも使っているのか、ふるふると身体を揺らしながら釜をかき混ぜているっぽい天才少女の背筋を、なんとなく上から下に、下から上にゆっくりと目でなぞる。


「!!? ……っ」


 それに、もし俺が的はずれな否定をしてしまったとしても……。

 慎重で用心深い俺はその時がきた時にまた思わず褒め逃げしないよう、頭の中で予防線を用意することにした。


 そう、改めて考えてみれば別に俺が否定してみせたところで、そしてそれが的はずれだったとしても。


 我が弟子たるシャルはどのみち正解にたどり着く……というか答えをひねり出すはずだ。

 それはもはやモノが上から下に落ちるのと同じくらい当然のことで、そしてそうやって”答え”を導き出したシャルが”偉大なる師匠”こと俺がどうして”間違い”を口にしたのかと頭がオカシイ深読みを始めることも、やはりそれと同等程度にはわかりきっていることである……。

 

 ならばやっぱり俺は別に”間違えて”もいいんじゃ、ないかな?

 良くも悪くも悪くも悪くも、その程度で今更、師匠としての面目は崩れないんじゃないか……?


「ふぅむ……」


 俺はうなりながら……、今度はぐっと精神を集中して何か難しい調合にトライしているのか、ついに彫像のように微動だにしなくなったシャルの背を、目を細めてむぅっと睨みつけた。


「――――」


 変化だ。


 そう、今のどん詰まりの状況を打破するには変化が必要なのだ。

 それが有効かどうかはまだわからないが、とにかく違った形で俺はシャルに対抗してみるべきなのかもしれない――。


「よし……」


 と俺はつぶやいた。


 まるで敵陣に真っ先に飛び込む兵士のごとき決意をもって、途方もなく築かれた鉄壁なる砂上の楼閣に挑むことを――。

 そのための第一歩としてシャルを”否定”してみせることを――俺は心に決める。


 千里の道も一歩からという。

 別に今回うまくいかなくても、こうしてチャレンジする心意気が大事なはずだ!


 泰然と佇む鉄壁の楼閣(シャルの背中)に、意気軒昂となった俺はカッと両目を見開いて無言の宣戦布告を叩きつけた。


 するとそんな俺の気合が伝わったのか、


「ひょうわぁっ……!」


 と変な声を上げて、シャルは小さく飛び上がった。


 ……おっと、仕事の邪魔してごめんなさい。



§§§



 依頼品のうちの一つである風邪薬が完成する。

 外観は指の先っぽサイズの骨に苔が生えたみたいな感じだろうか。


「わぁ。できました……っ」


 ぴょこぴょこと飛び跳ねながら歓声をあげるシャルティアに、俺は疲れた声で返事を返す。


「……そうね」


 ……いや、なんだか知らんけどくっそ疲れるなこの調合。


 手順自体は特に難しいことなんてひとつもないのに、なんというかこう、倍率が一秒おきに変わるレンズでも覗いてるみたいな気分になるっつーか。

 ほら、魔法陣とかじっと見てると、めっちゃ有名でシンプルなヤツでも段々頭の中で意味がこんがらがってミミズがのたうち回ってるようにしかみえなくなることあったりするけど、アレともちょっと似ているかもしれない……。


 まぁ、一応出来たっぽいからよしとするか。

 調合手順とか魔力の消耗とかとは全く別の意味でなんか不必要に疲れるし、二度と作りたくないけど。

 やはりそんなうまい話はないというか、横着して別のレシピに逃げたのは良くなかったらしい。


 俺はそんなことを思いつつも、錬金釜から一粒つまみだして口に放り込んでみた。……別に腹の足しになるかとか思ったわけじゃないよ?


 兎にも角にもそうして口に入れたモノをカリッと噛み砕くと口いっぱいに……、


「……なんでキノコの味がするんだ……? それもなんかバター炒め風……」


 意味不明すぎる……。

 骨と薬草数種に花びら一枚くらいしか入れてないはずなんだけどな……。キノコなんか入れてないぞ。


 あ、ちなみに花びらってのはライトウィスパーから例の天使人形に加えて『粗品ですがコレも……』といわれてもらったやつで薄紅色の花弁をしたやつである。なんか五枚もらった。

 多分、あのピンク好きのおっさんのコレクションか何かだと思う。

 何かすごい効果でもあるのかと俺も一応疑ってはみたんだが、さっきの調合中も取り立てて何かヘンな効果などは見当たらず……。どうやらマジで粗品だったようで逆にびっくりである。


 そもそも見た目的にはこの国で比較的よく見かける春咲き(・・・)の広葉樹の花でしかないし、”期待させて実は~”みたいなおちょくりを最後にしてみたかっただけなんだろう……。


 ……率直に言って心底ウザイです。


「うん。まぁ……」


 ……味はナゾだけど効果は多分きっと大丈夫だろう。


 俺は頭を振って気分を切り替えた。


 今回は骨取り出すの面倒だからこのレシピでやったけど、薬草自体は普段のレシピで使ってるのと同じだしな。

 むしろ加えた素材の薬効を増幅するとかいう性質をもつらしいこの錬成薬のほうがいつものより効くかもしれない。

 なんか結構数もできちゃったし。効果を増幅するというのがどの程度かよくわからなかったからとりあえずいつもと同じ薬草の量にしたんだが、そっちは恐らくそのせいだろう。


 そして、味の方は……なんかキノコも薬草も一緒くたにカゴにいれたから変なことになっただけなんだ、きっとそう。

 まぁ考えてみれば、意味不明な付加効果が付くなんて錬金術の調合では普通によくあることだしな。味がオカシイなんてまだマシな方だともいえる。

 その性質上、モロモロの法則を弄くり倒すことになるからどうしても制御がゆるくなる部分は出てきてしまうのだ。些末なことをイチイチ気にしていたらキリがないだろう……。


 ――よしっ!


 俺はさっくり考えるのをやめると、実はさっきからぐうぐうとうるさい胃袋さんに留意して次の行動に移ることにした。

 そして、俺と同じく一粒つまんだあと『さいしょの、すーぷ……』とか意味不明なことをつぶやきながら目をまん丸にしていたシャルティアさんに向けて、キリッとした顔で宣言する。


「よし、シャルティア。ひとまずコレを納品しにいくぞ。事態は一刻を争うからな!」


 端的に言って、腹が減って死にそうですからね。


「……! そ、そうなんですか? わ、わかりましたっ」


 俺を見上げハッとした顔になるシャルティア。

 そんな彼女に頷きかけて、必要数量を瓶に詰めた俺たちはアニスのところへと向かった。


§


 カウンターにいた眠そうな目の店員さんに用を告げ裏方の部屋に案内されると、椅子から立ち上がったアニスに、


「レインジ―先生、こんな時間にわざわざありがとうござ……。あら?」


 と、キョトンと首を傾げられた。

 どうやらうちの弟子をご覧になっているようである。うん……。そんな反応にもなるわな。

 とりあえず俺はぽんと弟子の背中を軽く叩いてアニスに紹介した。


「こっちはついこの前、弟子に取った……あー。まぁ、シャルティアだ。ついでだし顔見せに連れてきた」


「こ、こんばんはっ。よろしくですっ」


 ワタワタと慌てながら挨拶をするシャルティアに、アニスはほんの僅か目を瞬かせていたが、やがて身をかがめると


「ふふ。宜しくおねがいしますね、シャルティアさん。私はアニスといいます。そうですね、ティアさん……。……いえ、『シャルちゃん』と呼んでもいいですか?」


「は、はいっ。よろしくですっ。あ、あにすさんっ」


 相変わらずワタワタしているシャルティアを微笑みながら見つめていたアニスだったが、やがて俺に向き直って口を開いた。


「ちょっと意外でしたが……先生も、良かったですね。良い子そうじゃないですか」


「……なんだろう。何か含みを感じて釈然としないが……まぁいい。そっちも忙しいだろう。とりあえず仕事の話をしよう」


「ふふ、はい。そうですね。そうでした。どうぞそちらにお座りください」


「どうも。それでだが、いつものやつはまだ備蓄残ってるだろうし明日か明後日にして、先に風邪薬の方を納品に――」


§


 やったぜ。お金が手に入ったよ。泣きそう。

 コレでご飯が食べられる……。


 というわけで、もうだいぶいい時間ではあるが俺たちは遊び人通りの酒場の前に来ていた。

 

「なんか……ほそながい、ですね。うえのほうはちょっと、ふとい?」


「そうだな。というか改めて考えると不安定な建物だよなこれ……」


 4階から5階までが酒場のスペースでふとい円柱状になっていて、それまでは階段しかないとかいう意味不明な木造建築である。

 なんつうか家と家の間の中途半端なスペースに無理やり新たな建物をねじ込んで、酒場用に上の階を広げてみました、みたいな感じだろうか。

 一応はただの木造建築ではなくて何かしらの魔法的強化が入っているらしく、店主は安全性を強く主張しているが……本当かいなという気分になるのは否めない。


 ……どっちにしても両隣の家の寛容さが伺い知れるな。


「まぁ登るぞ」


「は、はいっ」


 少し眠いのか時たま目をこするシャルティアを連れてせっせと登っていくと、段々酒場の客の話し声が聞こえてくる。本日もそれなりに盛況のようだった。

 階段を登って酒場のど真ん中に到着すると、周囲からざわざわっと音が押し寄せてきた。



「あっ、てめえ! それは俺が注文したヤツだぞ! おいコラ、聞いてんのか!」

「聞いたか? 東門の先、ルメス街道の外れでかなり大型の魔物がでたらしいぜ。近衛の『千刃』が討伐に出る事態になったとか――」

「うんうん。あの三人、最初こそ強情だったけどそれも込みで段々可愛らしく思えてきたっていうか――」



 そんな喧騒を流しつつ、席を探していると


「いらっしゃいませ~。おっ、グランじゃーん。一週間ぶりくらい?」


 とよく響く明るい声が横から掛けられた。


 振り向くとそこにいたのは、ボーイッシュな女性店員……。ではなくそう勘違いされることを狙った格好をわざとしているヤヤコシイ男である。

 ちなみにこの酒場の店主で、あとついでにここ王都ではレアなエルフでもある。さらに残念なことに割りと旧知の仲だったりもする。

 ユルトゥルス・ルゥリィ・なんちゃらこんちゃらとかいう長ったらしい名前のヤツで、俺はざっくり縮めてユルスと呼んでいる。


「そんくらいだったか。あ、ユルス。席はあの奥のところでいいか?」


「うん、いいよー」


 といったあとユルスはささっと傍に寄ってきて、深刻そうな顔で耳打ちしてくる。


(それはともかく、その子は? 隠し子? お持ち帰り? 誘拐? やっぱり通報したほうがいいかな?)


(やめてくれ……。弟子だよ弟子)


 あながち全部否定出来ないのが困る……。

 表向きは弟子にとった遠い親戚の子で、実際はスラム街からスカウト(マイルドな表現)してきた子供だし……。


(ふーん? まぁなるべく早く自首しなよ。面会には行ってあげるから)


(こいつ全然信じてねえ……)


 思わず俺がそう呻くと、ユルスはくすくすと楽しそうに笑ってから仕事に戻っていった。


「はぁ……。シャルティア。とりあえず向こうに座るぞ。……シャルティア?」


 少し歩き出し、シャルティアがついてこないことに気づいた俺は後ろを振り返った。

 するとそこには人で賑わった酒場の様子をソワソワと見つめている弟子がいた。なんだろう。


「……どうした?」


「あっ、あの! ごめん、なさい。なんか、ひとがいっぱいで……たのしそーで。ここにいるのが、ちょっとびっくりで、ふしぎだなって……」


「……?」


 楽しそう……楽しそうなんだろうか。

 疑問を抱いた俺はすこしばかり周囲の喧騒に耳を傾けてみることにした。



「ぐすっ。もうやだ……もうやだよままぁ。今日は朝から猫にパンツ取られるし、今は今で勝手に俺の酒飲まれるし……。あ”あ”、もっと酒だぁ!」

「へー珍しいね。大きい街道の近くってそんなに魔物でないんじゃなかった? あ、そういえば近衛ってなんかみんな仮面かぶってるらしいけどホントなの? ちょっと見てみたかったなー」

「そう! 同士候補! いやぁ彼が”狩り”を手伝ってくれたんだけどなかなかノリノリで良い感じだったなあ。てっきり彼は僕らとは”違う”と思ってたけど、もしかしたらイケるタチなのかもね。”招待状”でも送ってみようか」



 楽しそうというより、あまり関わりたくない感じの会話も結構混ざってる気がするが……。

 というか最後のやつ……?


「……まぁ、別にそんなに気負う必要もないんじゃないか? 人間はとりあえず群れる生き物らしいからな。人の輪なんか嫌でも勝手に組み込まれるもんだし、適当に美味しいところどりしときゃいい。それはいいとして早く何か食べよう」


「は、はいっ」


 とりあえず腹が減って死にそうだった俺は弟子をそう急かすと、席に向かうよう促した。


 ……。

 ……。


 そしてしばらく経った後。


「で、少し食って人心地ついたのはいいんだが……。なんで店主のお前もそこで飯食ってるんだよ」


 俺は当然のように目の前の席で飯を食っているユルスに、一応抗議することにした。

 俺とシャルティアの分の料理を自ら運んできたかと思ったら、なぜか自分の分もセッティングして着席し、そのまま流れるように祈りの動作をして食べ始めたのだ。口を挟むスキすらなかった。


「良いではないかー。共に久闊を叙するとしようよ」


 自家製らしい濃い茶色をした大豆パンをかじりながら、とぼけたことを言うユルス。

 もっとも目立つ種族特徴たる細長い耳をひょこひょこと揺らしながら、蒼い瞳で楽しげに見つめてくる。


「いや、まだ一週間しか経ってないんじゃなかったか。……まぁ聞きたいことはわかる。コイツのことだろ?」


 つい頼んでしまったキノコのバター炒めを口に運んだあと、シャルティアに視線を向ける。

 するとシャルティアは案の定というべきか、勝手に押し入ってきた闖入者と俺とを交互に見つめて戸惑っていらっしゃるようであった。

 

「図々しいコレのことは気にせず、好きに食っていいぞ。ああ。一応紹介しとくと、コレは何を血迷ったか、人間の街で酒場をやってる珍獣エルフことユルスってやつだ。男な。多分森でやっていけなくなったからここにいるんだと思う」


「えっえっ」


「うわ、ひどーい。なんだかそろそろ、ツケ飲みする人たちに一斉に請求したくなってきちゃうなぁ……。ボクだって別にボランティアでやっているわけじゃないんだし……。従業員に給料も払わないといけないし……」


「というのはもちろん冗談で、安くて美味い料理を出してくれる非常に心優しい良心的なエルフ様だ。ユルスほど高潔で心が広いヤツは、この広大な王都といえどほとんどいないと俺は確信している。こんなヤツが友人で俺は本当に幸せだ」


 俺はガッと両腕を広げて、喜びを強くアピールした。

 ああ、なんて俺は恵まれた人間なんだろう……。


「シャルティア、お前も我が大親友ユルスにご挨拶しなさい」


 俺はシャルティアに挨拶するよう促した。必死であった。


「は、はいっ。こ、こんばんは、ゆるすさんっ! おししょうさまのでしになった、しゃるてぃあですっ」


 シャルティアはピンと背筋を伸ばして挨拶する。

 ユルスはシャルティアと俺とを見てから、苦笑しつつ口を開く。


「うん、よろしくね。……それにしてもキミってやつは本当にキミだよね。いろんな意味で。んーフルネームで呼ぶとなんか困るから……。シャルちゃんでいいかな?」


「はいっ。だいじょうぶですっ」


「そう、よかった。よろしくね、シャルちゃん」


 そんなやり取りを経た後、俺達は本格的に飯を食い始めたのだが、ユルスは持ち前の親しみやすさであっという間にシャルティアといろんなことを話し始めていた。


「えっとえっと……。ゆるすさんって、ほんとーにあのえるふさんなんですか? びっくり、ですっ」


「うん。まぁそうだね。エルフさんだよ。この王都には今はー、ボクくらいしかいない、かな? 多いときは二桁いくんだけど、森の外にでるエルフは大体あちこち渡り歩くことが多いからね。ボクみたいに半ば定住してるのは、グランの言う通り確かに珍しいかもしれない」


「そうなんですねっ! あ、そうだ。えるふのもりって、どんなところなんですか? やっぱりようせいさんが、たくさんいて、きらきらしてるんですか?」


 眠気が吹き飛んだかのように目を輝かせて色々と質問攻めをするシャルティア。


「森はそうだなぁ。エルフ族が住んでる森はこの王国だと一箇所しかなくて、この王都からずっと南に街道を下った先にあるルナルカ湖の、西側あたりに広がる大森林がそうだね。

 ルナルカ湖の真ん中の島に住まう木龍”ルナルシエル”の影響ですごい命力(マナ)が濃い森だから、人間族がいうところの”妖精”は確かにたくさんいるよ。

 といってもボクらの”眼”で見てだから、キミたち人間族が捉えられるかは素質によるかな。アレらって生命と現象の狭間にあるモノだから”薄い”んだよね。でも確かに見ることができるなら、キラキラしてみえるかも? って、あ。難しかったかな?」


「いえっ、とってもおもしろいですっ。あ、そういえば……。そのようせいさんって、らいとうぃすぱーさんとはちがうんですか?」


「ライトウィスパー? ああ、瑞光の森の? ……うーん。アレはちょっと例外というか、一体なんなんだろうねアレ……」


 ユルスは暫く苦笑いを浮かべていたが、ああ、そうだと手を叩いた。


「実はフツウの妖精の方は、この酒場にも偶にいるんだよ? 今はー。うーん。ちょっと見当たらないけど」


 ユルスはぐるりと酒場を見渡しながらそう口にする。


「えっ。そう、なんですかっ」


「そうなんですよ。この建物、実は生きてる(・・・・)樹木だからね。このカタチになってくれてる樹が中に清浄な命力(マナ)を満たしてくれてて、例えば下の階段登っててもあんまり疲れなかったでしょ? そういった訳で、ちょくちょく湧いたりするんだよね、妖精」


「わぁ……すごいですっ」


 シャルが感嘆の声を上げるのを聞きつつ、俺も密かに驚いていた。

 そんなこと初めて聞いたぞ。エルフってやっぱ頭オカシイ種族なんだな。

 樹をここまで建物っぽく変容させることができるとか、ちょっと意味がわからない……。


 と思ったが、素直に口に出すと負けた気がするので俺は無言で食事を続けることにした。


 いわれてみればここで殴り合いのケンカやってるの見たことないな……。それも清浄なマナの影響だったりするんだろうか。

 てっきり不安定な位置にいるのを無意識で恐れて、自重してるだけかと思ってたわ……。だってこの酒場、興奮しかけの輩がいたりすると微妙に揺れてる気がするし……。ってもしかしてそれも生きてるせいなのか。

 なんか普通に怖いな。知らなければよかった。


「あ、もしかして……。このたてものが、こんなたかいのも、もとが、きだから、なんですか?」


 俺がそんなことを考えて内心震えていると、シャルティアが更に質問をする。

 そんな質問にユルスはにこやかに笑って答えた。



「いや、それは違うよ。この酒場がこの位置にあるのは、人間たちが下々を歩いているのをボクが(・・・)見下ろしたかった(・・・・・・・・)だけかな。本当はこの倍くらいの高さにしようかとも思ったんだけど、それは流石に自重したんだよね」



「……あ、はは。そ、そうなんですねっ」


「性格わるっ……。やっぱお前もここの通りの住民なんだな……」


 引きつった笑みを浮かべるシャルティアに、思わず口を開いてしまった俺。

 そんな俺たちを見ながらユルスは楽しそうに笑ってこう続けた。


「あはは。ウソだよウソ。もちろん冗談に決まってるじゃないか。ねぇ?」


 嘘くせえ……。

 コイツ、実は人間になにか恨みでもあったりするんじゃないだろうな……。

 結構付き合い長いし基本は良いやつなはずだけど、たまーに黒いこというよな。ユルスって……。


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