表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/18

Prologue:妄言から出たエリキシール

プロローグは短編版の師匠視点を手直ししたものとなっています。


 俺の名前は『グランニート・レインジー』。

 今年で三十二になるナイスガイで、仕事はいわゆる錬金術師というやつをやっている。

 いや、正確にはやっていた(・・・・・)というべきか。


 なぜなら俺はいま現在、かつては(・・・・)憧れてやまなかった”ヒモ生活”を送っているからだ。


 え、どうして”かつては”なんて前置きを付けるのかって?


 その原因を端的に説明するならば。

 いま現在俺を養ってくれている人物が、大した能力を持っていない俺のことをひどく誤解してしまっているからだといえるだろう。


 そう、俺は想定外にも並外れた才能を持ってしまっていたその人物に、“超偉大な”お師匠さまであると勘違いされて――。


 「お師匠様、ただ今戻りました! ……あれ? なにを考え込んでいるんですか? あ、さては新薬のレシピを考えていたんですね! 私にも教えてください!」


 かつては到底買える代物ではなかった、幼竜の羽毛を使ったふわふわの高級椅子。

 それに深々と腰掛けて頭をグリグリとやりながら内心で嘆息していると、扉がバタンと開き、元気いっぱいの声が耳に飛び込んできた。


 びくりと身体が震えるのを感じる。


 しまった、しばらく帰ってこないと思って油断してしまった。

 くそ、今の俺は”新薬のレシピを考えている”のか……!


 落ち着け、落ち着け。


 俺は、齢十三にして王室付き錬金術師となった『シャルティア・レインジー』の師匠なのだ。

 どうしてこんな目に()っているのかさっぱりわからないが、それっぽいことを言わなければ……!


 俺は不意を突かれた焦りを完璧に封じ込めながら顔を上げる。

 そして俺の目の前までパタパタと駆け足でやってきて、興奮で真っ赤になった顔で俺を覗き込もうとしていた少女と目を合わせた。


 そんな彼女の緑の瞳には、一体誰だよお前と言いたくなるような(いかめ)しい顔をした人物が映り込んでいる。というか俺である。


 「おほん。シャル、早かったな。国王陛下の病状は如何であった?」


 まずは時間稼ぎだ……。

 その間に、その『レシピ』とやらの材料となる素材名をいくつかでっち上げ(・・・・・)なければ。

 物覚えがさほどいい方ではない俺は、すぐにぱっと名前が浮かばないのである。

 

 しかしそれにしても。

 まさかしがない市井の錬金術師であったこの俺が『国王陛下の病状は如何であった?』などと言う日が来るとは、人生って本当に何が起こるかわかんねえなあ……。


 「あ、そうですね……。実はそのことでお師匠様に相談したいことがあったのです」


 ……え???


 な、な、なんだって!?!?!??

 ちょっと待てやおい。

 ただでさえ忙しいのに、問題増やすなや!! 国王陛下もこいつが悩むような病気にかかるんじゃない!!


 小さな額にシワを寄せて、心底困っていますというようにぐりぐりと明るいオレンジの髪をいじっているシャルに戦々恐々とする。

 もちろん顔に出しはしない。


 「シャル、それは良くない。良くないぞ。お前はもはや一人前の錬金術師なのだ。いつまでも師に頼っていてはいけない。お前自らの手で解決しなさい。さすればお前は更なる錬金術の深奥に辿り着くことができるだろう」


 錬金術の深奥ってなんだよと思いながらも、なんとか相談相手から逃れるために適当に言葉を並べる。

 するとシャルはハッとしたように顔を上げて、目の端に僅かに涙を滲ませる。

 というか既にもう半泣きである。


 ……は?


 「! ぐすっ。ごめんなさい、お師匠様……。私、またお師匠様に頼ってしまって……。五年前にスラムの片隅で飢えて死にかけてた私を助けてもらって……。ぐすっ。それに『シャルティア・レインジー』という名前まで私にくれて、家族になってくれたお師匠様……。私、また知らないうちにお師匠様に甘えちゃったんですね……。ぐすっ。不出来な弟子で……っ! ちっとも恩を返せない弟子で……っ! 本当にごめんなさいっ……!」


 ……くっ、心が痛い。

 いきなり重い、重すぎるぞ!!


 俺は彼女の言葉を聞いて、『どうして彼女を拾ったのか』その経緯を思わず回想してしまう。


 そう、実は彼女を拾ったのは別に慈愛の心に満ち溢れていたからでも、飢えて死にかけていた彼女に同情したからでもなんでもなく、ただ俺のためだったのだ。

 それも徹頭徹尾、自分が楽をするために。


 もっと正確に言えば、俺は『適当にさらって……、いやスカウトしても問題ないガキに錬金術を仕込んで一生俺を養わせるために』シャルティアを拾ったのだ。

 はっきりいえば、別に誰でも良かったのである。

 ただたまたま、最初に目についたのがこの少女(ぶっちゃけ性別はわからなかったが)だっただけ。


 しかもそのシャルティアという名前だって、役所に届けるには遠い親戚の子供ってことにしたほうが都合がいいからであって、別に家族になろうとか心を癒やしてやろうとかそんなことはこれっぽっちも思ってはいなかった。


 我ながらドン引きされても仕方ないくらいクズだが、俺はそれくらい働きたくなかったのだ。


 なにせ当時の俺は日に三十回は、

 

 『働きたくねえなあ。どうしてこの世は働かないと金が手に入らねえんだよ。誰だよこんな仕組み作ったやつ……。俺も働かないで酒池肉林の生活送れる王侯貴族に生まれたかったよ』


 みたいなことをぶつぶつ呟いていたことだし。


 まあもっとも、そうやってスカウトしたスラムの子供は俺が思いもしないほどの”大当たり”で、そしてそれは、根っこを掘り起こせば小市民でしかない俺にとってはまるで天地をひっくり返されたかのような、分不相応な生活の幕開けだったわけだが。


 そんなことを思い返しつつ、俺は半泣きからガン泣きに移行しつつあるシャルをどうにかしなくてはと、頭より先に口が動く系の俺はまた適当なことを喋り始めた。


 「シャルよ……、そう泣くでない。お前はまだまだ未熟だ、しかし! この『グランニート・レインジー』のゆいいつの弟子であり、ただひとりの娘なのだ! お前の側には常に師であり父である私がいる……。それをゆめゆめ忘れるな……」


 なにが”しかし”なのか俺にもよく分からないが、俺の口は勝手に良い話風に仕上げようとしていた。

 というか錬金術の腕で言えば、シャルの方が既に数十段くらい上なので未熟なのはむしろ俺の方だ。


 そしてシャルは、俺の言葉に絶対にそんな価値はないと思うのだが、ポロポロと涙をこぼしながらも俺の言葉を一言一句聞き逃すまいと必死に耳を傾けていた。

 彼女は俺がすべて言い切ると同時にふるふると小さな身体を震わせ始め、直後、凄まじい勢いで依然偉そうに腰掛けていた俺に飛びついてきた。


 ぐふッ! し、死ぬ……!

 実は身体能力も、その並外れた魔力循環のおかげか、かなりやばいシャル。

 俺は絶対に肋骨何本か逝ったと思いながらも(折れてなかった)、”師”の威厳を保つため平然とした顔を維持する。


 「お”じじょうざま”あ”あ”!! ぐすっ。わ”たし……、わたし……。本当におししょーさまの弟子になれてよかった……、よかったです……。おししょうさま、のためなら、なんだってします。なんだって、できます……。………………そうだ……、お師匠様の偉大なるお力を正当に評価しない国をまず手始めに……」


 !?!!??


 しばらくぽんぽんと背中を叩いていると、ふいに小声でボソボソと呟いたシャルが、暗い感情から発生する陰属性の魔素を身体から放出しはじめる。

 今度は何だ!??!?


 よくわからんが、国は俺を正当に評価しているぞ!

 とは思うが、もはや”偉大なる師”の仮面を剥がすわけにはいかないわけで、俺は珍しく口より先に思考を回転させた。


 「そ、そうだシャル。話は戻るが、先程、私が新レシピの考案をしているのではと尋ねたな。実はその通りなのだ。考えをまとめるためにも聞いてはくれないか」


 俺がそういうと、シャルはハッとしたように身体を震わせると、俺に抱きついたまま下から俺のことを見上げてきた。


 「は、はい! わ、私ごときがお役に立てるかはわかりませんが、聞かせて下さいっ!」


 「うむ。良かろう。私が考えている新薬にはな、”サルマリア草の地下茎”と”ユーグレナ焔石”、それに”グレンドラギルの肝”を使う。この意味がわかるか?」


 ちなみに俺は分からない。

 だって適当に思いついたの並べただけだし。


 「”サルマリア草の地下茎”と”ユーグレナ焔石”、”グレンドラギルの肝”……ですか? 珍しい組み合わせですね……」


 僅かに俺に抱きつく力を強めながら思考する、シャルの言葉に思わずびくっとする。

 あれ、だめか? もしかしてこれは絶対やっちゃダメな組み合わせだったりする?

 背筋に冷たい汗が流れるのを感じる。


 「”サルマリア草の地下茎”は土精の力を多く含み、錬金素材として成長の概念を高揚させるのに使われるほか、滋養強壮効果にも富む植物素材……。”ユーグレナ焔石”は火精と、焔石にしては珍しく水精の力を僅かに含むことで有名な魔鉱石……、確か最新の論文では、錬金釜の中に形成されている孤立界を安定化させ矛盾概念の融和純度を高めることができるとあったはず……。”グレンドラギルの肝”は確か、魔力循環の際に一時的に瘴気を留める停止の概念効果があり、そして食せば、血管を極端に拡張させ死に至らしめるという極めて危険な毒物……だったっけ……。その組み合わせでどう魔力を混合し、どのような手順で調合すれば、今までにない新しい効果が生まれるのか……。……はっ! わ、わかりました!」


 お、本当かっ!?


 俺は途中から何言ってるのかよくわからなかったが、それは本当に良かった。

 何やら目を丸くして、俺のことをじっと見つめるシャルに俺は心の底から安堵する。

 いやあ、弟子の優秀さを信じた俺の大勝利だな。


 「まさか、お師匠様は”国王陛下の病”を最初から分かって……いらしたのですか!? 私が、どんな薬を使えばいいのか途方に暮れるだろうことまで見越して、考えていてくださったのですね!?」


 「え!? あ、そうそう。そうなのだよ、ふっ、私もまだまだ……だな。口では自立を促しながらも、実際はついつい手助けをしてしまう。先程の叱責はむしろ私自らに向けるべきだったかもしれないな。師である私が弟子離れできないのだから、シャルが師離れできないのはむしろ当然というもの。すまなかったな」


 「いえ……っ! そんなとんでもない……っ! でも私、すごくうれしいです……っ! どれだけ、お師匠様が私のことを想ってくれているのか、もちろんわかっているつもりだったけど……。それ以上だって、分かって、すごくうれしいです……っ! だ、だいす……。じゃなくって! えっと、そう、流石は私のお師匠様です!」


 まだわずかに涙の残滓を残しながらも満面の笑みでそう言ったシャルに、俺は今回も危機を乗り越えることが出来たかと、ほっと心のなかで一息ついたのだった。


 いや……、ほんとつかれる……。

 これなら、適当なポーションをちまちまと作ってその日暮らしをやっていた昔の方がまだ楽だったかもしれないな……。


 俺はシャルの子供らしい熱い体温を感じつつ、そんな本末転倒なことを思わず考えてしまうのだった。




 ……ちなみに、シャルが発明した新薬”エリキシール”は国王陛下が患っていた難病を見事完治させ、我が家は更に巨大な大貴族にも勝るとも劣らない屋敷となり、小市民な俺の心をますます不安定にするのだが、この時の俺は当然そんなことは知る由もない。




*後々不都合が生じる気がしたので師匠を少し若返らせました。

*短編であったシャル視点は構成の都合上、もう少し引っ張ります。

 連載から読みに来てくださった方で気になる方は短編版(http://ncode.syosetu.com/n9624eb/)を御覧ください。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ