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city  作者: フーフー・ベンジャミン
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歩く男

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歩く男

 

歩いている

必死に、歩く。

でも一向に距離を離せないどころか、じりじりと、追いつかれている。肩を掴まれるのも時間の問題だ。

船内の狭い通路を逃げ歩いている。

絶対に追いつかれてはならない。


自分の中に産まれた殺しの欲望。

それを叶える美しい方法から。


自分以外の人間、愚かな客どもから見れば、甲板に立ち 風を受けているだけにしか見えないだろう。


黄金で刺繍を施された美しい方法が持つ引力は、凄まじい力を持っていた。


 旅は長く続く…このしなやかな獣を自分の中に飼いならし寝かしつけることが、

自分を守ることそのものなのだ。

 4日前、午前11時。 豪華客船st.オシリス号が横浜港を出航し、部屋に荷物を置いて、船内をパンフレット片手に歩き回る。


 ちょっとした探検気分に心は踊る。船内はまるで都市だ。色んな人間がそれぞれの意思で、空間を作っている。


 乗客千人分の料理を作る指揮をする者、


 早くも水着に着替え、自慢の肉塊を晒す、露出狂。


 人生の終わりに、知らない海の上で、2人のこれまでをゆっくり反復し合おうと計画する老人。


 詩人気取りの、気を病んだ無力な青年。


 海しか撮れないアル中の写真家。


 陸上で幸運を使い果たした、四人家族。


 1ページ間違えてオファーされた、奇術師。

 それぞれが独自の軌道を描き、日を一周する…………………本は閉じられる。

 

 


文庫本を閉じるとスマホを取り出し、応答と同時にポテトを2つくわえる。


電話の相手は大通りの交差点から状況を説明してくれる。


一方、ここノース天神デパート、ミーナ天神モール間をつなぐ空中の渡り廊下は 休憩スペースが設けられており、小さなテーブルに椅子、ガラス張りと渡辺通りを歩く人々を見降ろし見張り食事とともに長時間居るには最適と言えた。


見張りをたのんだ看板持ちのおじさんに礼だけいうと、スマホをポケットにしまった。

おじさんは眼下の交差点でこちらに看板を軽く上げてくれた。

手を挙げて返す。すぐさまターゲットに目を移す。

現れた。

「ウォークマン。」


 14時32分 いつも通りの時間。

長靴にジーンズにタンクトップ。

いつも通りの服装にガリガリの体。

何より特徴的なのはその姿勢と、

歩く速度だ。


天空からつき刺さった まち針のように、地面と垂直に背骨を立てて、人の半分の速度で宙に浮かぶ様に歩く。

 

彼の周りだけ空間が歪んでみえる。

男はゆっくりと歩く。


認めましょう。

自分も暇なのだ。


昼休み2時間という、時代と逆行した我が社のシステムのおかげで都市の怪人の発見という偉業を成し遂げたのだ。


ウォークマンが通りの人々を次々に叩く叩く。

風を切る かなづち

ゆっくりと歩く。ゆっくりと歩く。


叩く。叩く。

風を切る音


想像はドミノ倒し。


3日前購入したオペラグラスを取り出し、再びウォークマンに標準をあわす。


 目を引くのは巨大なSONYのヘッドホン。ラジオでも聞いてるのだろうか?

上質な音で?


速度は一定を保っている。姿勢も一切崩さない。ゆっくりと。

 

通りを往来する、無防備な隣人たちは異常に姿勢良く、異常にゆっくりと歩く男の存在に気付いてないのだ。



 二日前に、パン屋の路地からウォークマンを待ち構えた。



  14時31分、いつもとほぼ同時刻に奴は現れた。気がつくと人ごみの中、とてもゆっくり昭和通り方面に歩いている奴の背中に気がついた。

 

 こちらもゆっくり行動を開始する。

はじめて近くで見るウォークマンの後ろ姿は痩せていた。

そしてなにより驚いたのは、やつがとても大きいことだった。

自分より30cmは高いだろう。


巨大な痩せっぽちは、ゆっくりと歩く。


ふと思う。もしかして、ウォークマンは自分にしか見えないのかと不安にかられる。

対向の人がよけて歩く所を見て、我にかえる。


昼下がりの巨人、存在している。

自分は立ち止まり。ぼーっとそれをみつめていた。


通りを引き返していると、行きつけのパン屋の看板持ちのおじさんに出くわした。


「すみません。お伺いしてもよろしいですか?」

 思いきって話しかける。


「みょうれんじかい?」


「え!?!」


「あぁ。すみません。いつもありがとうございます。どうしました?」


「あそこに見える。大きなひと、ゆっくり歩いている……」


「あぁ はいはいはい。」


「あの人は毎日ここを通りますよね?」


「そおいや、よく見るねぇ。」


「お手数ですが、明日からあの人が通ったら、自分にLINEしてくれませんか?

一週間くらいの期間だけ。

 あLINEってわかります?」


「わかるけど、そりゃまたどーして?」


「説明は難しいのですが、気になって仕方がないのです。何か起きそうな予感がして。」

正直にはなした。


「…………で?わたしが電話して、あなたはどうすんの?」


「自分はあそこにいます。」


 そう言うと、デパート間のガラス張りの渡り廊下を指差した。


そして今日。

ポテトを片手で探りつつ、オペラグラスでウォークマンを追いかける。


ゆっくり歩く。ゆっくり歩く。


片手がポテトを掴めない。オペラグラスから目を離して、テーブルを見る。ポテトは空になっていた。

 オペラグラスに目を戻すと、手こずりつつも標的を捉えた。何しろゆっくりしか動かない……ゆっくりと歩く男がいるはず……だった。

様子がおかしい。


ウォークマンは腰を屈め、何やらポケットから取り出し、握った。

 

遂にやる気だ!


思うより先に体が動いた。ポテトとコーヒーの残骸をそのままに、エスカレーターを転げるように降りた。

 表に出て、運良く青になった横断歩道を渡る。植え込みに隠れるようにして、サンドイッチ野、包みを開けている、看板のおじさんと目が合い。


「止めなきゃ!」


叫び、横断歩道を渡り左に曲がる。走りつつ人ごみをかき分けウォークマンをさがす。

背が高いためすぐに頭を見つける。

ゆっくりと歩きながらも奴は、頭を上下に振っている。


 何!?何!何!!??


その奇妙な動きのまま、交差する大通りに右折していくウォークマン。


交差点差し掛かろうとしているのろまな巨人。

こっちは全速力だ!すぐに追いつく!奴が交差点を右折するのが見える。僅かな差で自分も昭和通りに駆け込む。


 ?


一瞬何が起きたかわからなかった。


人ごみはない。すぐに両目が奴を捉えるはずだった。


だがその通りにのろまなウォークマンの巨大な姿はどこにもみえなかった。


ゆっくりと歩く男は忽然と姿を消した。



取り敢えず処女作です。拙い部分ご容赦ください。

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