その1
初めてオリジナルを書いたので色々と拙いですが、アドバイスなどがあれば嬉しいです。
あるところに一人の老婆がいました。
体はやせ細り生きているのが不思議なくらいでした。
老婆は体を起こし、ベッドから降ります。そして近くにある杖を手に取り、玄関へと歩き出しました。
普段は寝たきりの老婆でしたが、今日は久しぶりに孫がやってくるので花を摘みに出かけます。
しかし、体は思うように動きません。ふらふらと二、三歩歩くと立ち止まり、ゆっくりと少しずつ進みます。
そして、やっとの思いで花畑に着いた頃には、老婆は立てなくなっていました。
老婆はそのまま、糸が切れたように花畑に倒れ込みました。
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あるところに一匹の狼さんがいました。狼といっても普通の人間です。ただ、周りの人が狼と呼んでいるだけです。
狼さんが木の上で休んでいると、一人の人間が近づいてくるのが分かりました。
その人間はよろよろと歩いては立ち止まり、立ち止まっては歩いてを繰り返していました。
そして、その人間はとうとう倒れてしまいました。
ただ事ではないと察した狼さんは木から飛び降りて、その人間のもとへ駆け寄りました。
そこにいたのはやせ細った老婆でした。
狼さんは老婆の体を起こし、話しかけました。
「大丈夫か?」
「今日は久しぶりに孫がくるんでね……あの子はお花が大好きだからここまできたんだけども…もう無理だね……。あの子にはあたしがいてやらないといけないのに……」
「…………」
まるで老婆は独り言のように言葉を並べます。狼さんは黙ってそれを聞いています。
そして一通りしゃべり終えた老婆は、今気がついたかのように狼さんを見据えました。
「……ねぇお前さん。あたしの代わりに、あの子を守ってやってくれないかい……このままだと、あの子は独りぼっちになってしまうよ…」
「……分かった」
狼さんは短く、はっきりと言い切りました。
「そうかい、すまないねぇ……。でも、ありがとうよ……」
老婆はそういうと、笑いました。
それはほんとうに、幸せそうな笑顔でした。
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あるところに独りの少女がいました。少女は父親がおらず、母親と二人暮らしでした。
ある日少女は病気を患っている祖母の家にお見舞に行くよう言われました。
少女は無言で頷きました。
母親は少女の事を嫌っていました。育児に疲れ、自分の母親、つまり少女の祖母に少女を引き渡してしまおうと考えていたのです。
そのことを少女は理解していました。
でも何も言いませんでした。
言ったところで意味などありはしないのですから。
これからは祖母の家で暮らすのです。
少女はもう戻ってくることのない家を一度だけ振り返ると、ゆっくりとした足取りで祖母の家を目指しました。
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―――コンコンコン
少女はドアを三回ノックしてから開けます。
中に入ると老婆の姿はありませんでした。代わりに背の高い表情の無い青年がいました。
赤ずきんは狼さんを見据えて問いかけました。
「おばあさんの耳はどうしてそんなに大きいの?」
「それはお前の言っていることを聞き逃さないためだ」
赤ずきんは眼を伏せて問いかけます。
「おばあさんの目はどうしてそんなに大きいの?」
「それはお前の可愛い姿をよく見るためだ」
赤ずきんは自分の手を、強く握りしめて問いかけます。
「おばあさんの手、随分と大きいのね」
「大きくないとお前を抱いてやれないだろ」
赤ずきんは、今にも泣き出しそうなほど、震えた声で問いかけます。
「……狼さん、どうして……どうして、おばあさんのふりを……してくれてるの?」
「それはな……お前を悲しませないためだ」
狼さんは赤ずきんを抱き寄せました。赤ずきんの眼からは涙が溢れました。声をあげて泣きました。
悲しくて泣いているのか、嬉しくて泣いているのか。
それは誰にも分かりませんでした。
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木造校舎の入り口に、ぽつんと佇む少女が一人いました。赤い頭巾の隙間から金色の髪をなびかせて、艶やかな表情を浮かべています。黙っていると美人と言われ、話す姿は無邪気な子どものようでとても可愛らしいと評判の、そう私です。
その日は小さな音をかき消すほどの大雨でした。とは言っても朝からずっと降っていたわけではなく、午後になってから急に降り出した雨です。
今朝、家を出るときは雲が少しある程度の快晴でしたが、今は見る影もありません。
「狼さんの天気予報はよく当たります。ちゃんと傘を持ってきて正解でした」
正確には無理やり持たされたのですが、そこは気にしてはいけません。
私の頭と同じくらい赤い傘をパッと開いて、雨の中に飛び込みます。
ぼつぼつぼつぼつぼつぼつぼつぼつぼつぼつぼつぼつ……。
「……雨音が大きすぎて風情でもなんでもないですね」
もう少し小雨なら趣があったと思うんですけどね。
さて、そんなことは気にせずにとっとと帰路につきます。
ただ歩いて帰るのも退屈なので、歌でも歌って帰りましょうか。
ピッチピッチチャップチャップランランラ……。
「……ん?」
驚くほど平坦な道の端に、森と境目の草木に紛れるように大きな何かが横たわっているのがわかりました。遠巻きに様子をうかがいながら、慎重に横たわるソレに近づきます。
近づいてみるとソレは緑のたぬき……じゃなくて……。
「………カエルさん?」
そうゲロゲロ鳴くあのカエルです。しかしカエルと言い切らなかったのはその全長がウシガエルより大きく、手足が普通のカエルより長めだったからです。その異様な姿に一瞬不安になった私でしたが、勇気を出して、そのカエルさんに話しかけます。
「あの……大丈夫ですか?」
「………だい……じょうぶ…です……」
明らかに大丈夫じゃない様子で大丈夫と答えてくれましたが、とりあえず生きていることが分かったので大丈夫です。
「どうしてカエルさんはこんな雨の中、しかもこんな森の中で寝ているのですか?」
「……少し疲れて、倒れてしまっただけです……」
「なるほど、寝たくて寝てるわけではないのですね」
「…そうなんです……もし、もしよければ……私を助けてくれませんか?」
「はい、いいですよ」
口癖のように狼さんは言っていました。困っている人がいたら助けるべきだと。
だから私は迷いなく手を差し伸べます。え?人じゃなくてカエルだって?
細かいことは気にしない主義なので問題ありません。
私はカエルさんの首に手を回して、うつ伏せの状態から仰向けへと回転させます。
すると腹部には生々しい血がべっとりと付いているではありませんか。
「ってケガしてるじゃないですか! い、今すぐ手当しますね!」
「……いや、助かりますぅぅおおおえ!」
私はカエルさんを落とさないように強く脇腹に抱えると、出せる力のすべてを発揮して、自宅を目指して駆け抜けます。ちなみに私の全力は、等間隔にならんだ木々が一面の壁に見えるくらいの速さです。
「あ、あの……手当は……? それからもっと優しく……うおおおえ!」
カエルさんの苦しそうなうめき声が聞こえましたが、今は早く帰ることが先決なので問題なしです。
「鮮血のカエルさんだけに……早くカエルことが先決ですからね!」
またカエルさんのうめき声が聞こえました気がしましたが、私は気に留めることができませんでした。
なぜなら私は家に帰ると同時に、疲れ果てて気を失ってしまったのですから。
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「うーん…」
暖かい布団の中で、私は目を覚ましました。森では小鳥さんたちがさえずり、素敵な朝の訪れを知らせてくれます。ああ、本当にいい声です。まるで子守歌を聴いているような感覚になります。せっかくなので二度寝しましょう。三、二。
「おい、起きろ」
あと一を数えれば夢の世界へ旅立てたのに、小鳥さんに邪魔されてしまいました。
変わった声の小鳥さんもいるんですね。物凄く人間に近い声です。それにどこかで聞いたことがある声です。
「起きろ」
その小鳥さんは無慈悲にも布団を剥ぎ取ると、鋭い目つきで見下ろしてきました。
「ああー、私の布団がぁー。返してー…って狼さんじゃないですか。おはようございます…」
「いつまで寝るつもりだ。朝食の準備ができてる。冷めないうちに食べにこい」
「嫌でーす…動けませーん」
抵抗のつもりでその場に丸くなります。
うう、布団をとられてしまったので少し寒いですが仕方ありません。ここは我慢しましょう。
しかし、私はかよわい美少女。狼さんのような男性に抵抗など意味をなさないことは明白です。
狼さんは私の膝の後ろと背中に手を回して軽々と抱き上げました。
「つべこべ言ってないで早く起きろ」
「ああーセクハラですー放してくださいー。私をどうするつもりですかー?」
「顔を洗わせてから朝食をとらせる。それが嫌なら自分で歩け」
「ええー、面倒なのでこのままでお願いします」
私は狼さんの首に手を回して、離れられないようにします。でもこうすると顔が近くなるので少し緊張します。そのままじっと狼さんの顔を見つめてしまいます。ゆらゆらと、揺れながら。
そういえば狼さんっていい顔してますよね。いつも無愛想で睨んでばかりですけど、たまにみせる笑顔は、なんというかこう……キュンとします。
そんな事を考えるとつい顔が赤くなっていくのがわかりました。これは目を逸らして頬を冷やしましょう。
と、急に狼さんが足を止めてこちらを見下ろして、顔を近づけてきます。冷ます予定の頬がまた赤くなります。
「えっと、狼さん…?」
「目を閉じろ」
狼さんはさらに顔を近づけてきます。これってもしかしてアレじゃないですか?恋人同士でよくやるあの……いや、いくら一緒に住んでるからってまだ心の準備が……。しかし私も女です。覚悟を決めて目を閉じます。
「うひゃぁ!」
「動くな。拭きづらい」
「つ、冷たいでふがふが」
待ち構えていたところに襲ってきたのは、柔らかく温かい物とは異なる感触でした。
何か濡れた布のようなもので顔をまさぐりまわされます。狼さんの行動は私の想像を遙かに凌駕していました。
「何するんですか!」
「何って、濡らしたタオルで顔を拭いただけだ。これで目が覚めただろ」
「……少しでも期待した私がバカでした。もういいです。自分で歩けます」
すっかり目とその他もろもろ冷めてしまった私は狼さんに降ろしてもらい朝食を食べにいきます。少しは私の気持ちを考えて欲しいですね。
朝食の用意してある部屋に入ると、そこではすでに誰かが朝の栄養補給をしていました。
私が部屋に入ると、それは食事をしていた手を止め、こちらに向き直りました。
「おはようございます、赤ずきんさん。ぐっすり眠れましたか?」
そう言って深々と頭を下げたのは凛々しくはっきりと喋る青年……の声をしたカエルさんでした。大きさとしてはティッシュ箱を縦向きに立てたのと同じくらいでしょうか。カエルなのに二足で立ち、ナイフとフォークを器用に使っています。黄緑色の体はお腹の辺りが少し淡くなっていて、肩からは青いマントが伸びています。
「はい、ばっちりです。カエルさんはもう大丈夫なんですか?」
「おかげさまですっかり良くなりました」
そう言ってくるりと回ってみせると、あれだけ酷かった傷が嘘のように消えていました。人間ならちょっとした切り傷でも完治には時間がかかるのに、カエルさんは一晩で治してしまいました。やはり人間と他の生物では治癒力に違いがあるようですね。
「それはなによりです」
私はいつものように椅子に座って、両手を膝の上に置きます。本当は机に突っ伏してぐだぐだしたいところですが、狼さんに『行儀が悪い』と怒られてしまうのでそんなことは考えても行動には移しません。
「ところで今日の朝食はなんでしょうか?」
「パンだ」
おお、なんとざっくばらんで的を射た答えなのでしょうか。これにはカエルさんも微笑んでいます。
「……できればもっと詳しく教えてほしいのですが?」
「見ればわかるだろ」と言わんばかりの顔で目の前に朝食を手際よく並べていきます。
バターがほんのり香るトーストと、その隣にはベーコンエッグ。別のお皿には色とりどりの野菜が入ったサラダです。
「なるほど。今日は洋風なのですね」
「野菜が収穫時期を迎えてたからな。市場に持っていく分を引いたとしてもかなり余るから、しばらくは野菜が中心のメニューになる」
「別に構わないですよ。狼さんの作る野菜はおいしいですから」
「そうか」
私が満面の笑みを向けても、相も変わらずのそっけない対応です。少し傷つきましたよ!
「なんと、狼殿は野菜を作っておられるのですね。お若いのに立派なことです」
いやカエルさんあなた何歳ですか。声年齢的には狼さんと大差ないですよ。
一方の狼さんはというと、カエルさんに褒められたことを噛みしめもせずに、いそいそと出かける準備をしているではありませんか。
「今日はどこかへ出かけるんですか?」
「野菜を売りに行くだけだ。あと食器とか生活に必要なものを新調する……来るか?」
頻度としては週に一回くらい遠出をして、街の方に買い物へ行きます。今は特に欲しいものはありませんが、街へ行くと色々と良いことがあります。ここを断る手はないでしょう。
「そうですね、今日は学校も休みですし、せっかくなので行きま……」
「カエルはどうする?」
ちょっと狼さん、最後まで言わせてください。というか私が行くって言うことが分かってましたよね。ただ私の言葉を遮りたいがために尋ねたんですかねこの人は。
「いえ私は遠慮しておきます。傷の修復にまだ時間がかかりそうですし、遠出は無理かと……お二人で楽しんできてください」
流石カエルさん、私と狼さんのデートを邪魔しまいと、空気を読んでくれます。
「そうか……なら仕方ないな。赤ずきんと行くか……」
「な、なんでちょっと残念がってるんですか?! こんな美少女とデートできるんですよ!!喜んでしかるべきでしょう!」
「こんなうるさい美少女は嫌だから」
「んな! 失礼しちゃいます!! ぜんぜんうるさくないですからねこれでも学校ではおしとやかで通っているんですからあんまり変なこと言わないでください立派な名誉毀損もとい営業妨害ですよそもそも私と一緒に住んでるんですからもっと喜んで、そ、そして欲情とかしちゃって……あっ、狼さんそこは駄目です!あ、でも狼さんになら…キャーキャーキャー!!」
「あのー……赤ずきん殿?」
「なんですか今良いところなんだから邪魔しないでくださいよ!」
「狼殿なら、既に出て行かれましたよ?」
「なんですと! もう照れ屋さんなんですから!」
そう言って私は、出て行ってしまった狼さんの後を追うのです。
こうしてまた、何気ない日常の一ページが開かれたのでした。