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動物系モンスターとMPK

 日が明けて、フィオナの加護も発揮された。ドリスが与えていた加護が引き継がれ、俺の倍ほどのステータスがある。

 彼女は九階まで降りた事があるらしい。

 ドリスのクランは、十人のメンバーがいたが、加護が無くなったことで各自はバラバラに。

 薬草学があり、加護に頼らず生計を立てられるフィオナだけが、クランハウスに残れたらしい。

「そこまで蓄えもありませんでしたし、皆が生き残るには仕方ありませんでした」

「皆ごめんよ……」

 説明を聞くうちに、ドリスは泣き崩れた。まあ、他人の人生背負ってるのに、食い逃げで逮捕は、言い訳のしようがないな。


 気を取り直して、迷宮へと向かう。もっと深くに行ったことのあるフィオナには悪いが、四階につきあって貰う形だ。

 フィオナは戦闘用の服装として、革鎧一式を着込んでいる。ゆったりしたローブでは目立たなかったが、体に合わせた装備だとボディラインは露わになっている。結構大きい。

「その胸はワタシが育てた」

 俺の視線を目ざとく見つけたドリスが、そんな事を言ってきた。聞き流すのが良いだろう。

 武器として、樫の木で作られた杖を持っている。直接殴る訳ではなく、魔法の補助に使うと思われる。

「私の能力はどちらかというと補助系魔法ですね、身体能力を向上させたり、回復を行ったりできます」

 安全にいきたい俺にとっては、ありがたい能力だった。


 四階に到着し、ゴブリンを探す。何匹かで固まって徘徊しているのを、周囲に他の集団がいないのを確認しながら倒していく。

 ステータスアップに『女神の守護騎士』、さらにフィオナの補助が加わって、数日前より格段に強さが感じられる。

 相手の武器を避けつつ、ほぼ一撃でゴブリンを倒せていた。

 二十匹くらいを無傷で倒していると。

「もう下に降りても大丈夫だと思いますよ、タモツさん」

 フィオナがそう太鼓判を押してくれた。

 攻略サイトで確認してみると、五階はゴブリンに大柄なホブゴブリンという種類が、混ざるようになるらしい。知能は低めだが、筋力、体力が高く、身長も人と同じくらいになっている。


 意を決して、階を降りてみることにした。人の胸にも届かないゴブリン達に、明らかに大きな個体が混ざっている。

「ホブゴブリンを先に倒すと、他のゴブリン達は怯えるので、動きが鈍くなります」

 フィオナからのアドバイスを受けながら、ホブゴブリンに挑む。

 人間に比べると腕が長く、膝の辺りまで届いている。その分リーチが長く、アウトレンジで戦うのは不利だった。

 補助魔法で上がったスピードで、懐へと飛び込み、袈裟懸けに切り下ろす。深く切りつけると、刃が食い込み抜けない場合もあるので、肌の上を滑るように広く斬る。

 手首を返して垂直に切り上げ、わきの下を傷つける。手にした棍棒を取り落とし、慌てて下がろうとする。そこを追いすがって喉元へ。

 フィオナの言うとおり、ホブゴブリンが倒れると、軽くパニックになったゴブリン達は動きを止めた。それを確実にしとめていく。

「タモツさん、凄いです!」

 結構必死にやっているのだが、女の子に褒められて悪い気はしない。

 その日はそのままゴブリン達を相手に攻略を行い、それなりの稼ぎを出すことができた。


「タモツさん、本当に凄いですよ。まだ一週間くらいなんですよね?」

「うん、そんなもんかな」

「それはワタシのおかげだな」

 ドリスがドロップ品を回収してくるなり、偉そうにしている。事実も含まれるが、誤解を招きそうだ。

「スキルがね、守る存在がいると強くなる的なものなんだよ」

「へえ、ナイト様ですか。かっこいいですね」

 そんな風に言われると照れくさい。

「六階に降りるなら、そろそろ武器を替えた方がいいんでしょうけど……」

 先立つモノがない。

 六階からはブルボアというイノシシや、ウルフなど、動物系のモンスターが待っている。

 動きが早いので、一撃の威力を上げておきたいところなのだ。

「防具も心もとないしな。ドリスにも着せないと駄目だろうし」

 ドリスがアシスタントをしている事に驚いたフィオナだったが、躾のためにもやらせた方がいいと結論づけたようだ。

「しばらくは五階で金策でいいかな?」

「はい、そうしましょう」

 ドリスだけは不満そうだが、無理して失敗はこりごりだった。


 それから五日が経過して、品質の良い剣と、小手やブーツといった防具。ドリス用のレザースーツを購入できた。

 フィオナはドリュアスクランから持ち込んだ薬草から、回復薬を作ってストックを増やしている。

「魔法もありますが、回復薬は誰でも使えるのがメリットです」

 無いと思いたいが、フィオナが何らかの障害で魔法を使えなくなる可能性はあるのだ。

 そうした準備を整え、六階へと侵攻を開始した。



 やはり動物は早い。速度もそうだが、反応が今までのモンスターと違っている。

 直線的な攻撃をするブルボアでも、攻撃の瞬間には首を使って牙を振り、思わぬ場所に届いたりした。

 通り過ぎざまに、側面を攻撃するのが基本となっている。

 ウルフはそのまま狼だ。群れる訳じゃないのが救いだが、機敏に動きまわり捉えにくい。

 スパイダーウェブで罠を張り、そちらへ追い込むようにして、絡め取って戦う方法で対処した。

 ドロップ品は主に毛皮。アラクネ様も専門外で、ギルドに買い取って貰うしかないが、ゴブリンよりは稼ぎになった。


 六階に降りて三日目、それは起こった。

 ウルフと戦闘中の俺達のところへ、複数のブルボアに追われた男が迫ってきた。

「なんだ、こっちに突っ込んでくる!?」

「擦り付けるつもりですっ」

 ウルフとは始めたばかり。まだウェブにも掛けていない。この状態では、隙を見せると大怪我をする。

「俺がウルフを連れて移動する。フィオナとドリスは、ブルボアに絡まれない位置に!」

「でも!」

「早くっ、フィオナが無事なら立て直せる。ドリスがやられら、俺が困る」

 主にスキル的な意味で。

 ウルフもその気配を感じているのか、安易には攻めてこない。回り込むように、視野の外へと移動しようとする。

 俺はブルボアが迫る様子も気にしながら、ウルフを誘うがうまくいかない。

 ズドドドドッ!

 遂にブルボアが直ぐ近くに迫っている。しっかり牙を振って、こちらを引っかけようと攻撃姿勢を見せていた。

 それに合わせてウルフも素早く位置を変え、死角へと姿を消した。

(ヤバいぞ、これっ)

 まずはブルボアを正面に、攻撃範囲を見極め、届かない位置を探す。俺の前を横切るように、ブルボアを引き連れてきた奴が通り過ぎた。

 その口元には笑み?

「キャイィッッン」

 一瞬、男に気を取られた時、背後で甲高い声が聞こえた。犬科の悲鳴はウルフに違いない。フィオナが対処してくれたと信じ、ブルボアを待ち受ける。

「スパイダーウェブ!」

 先頭の一匹の前足を絡め、躓いたところを横に避ける。そのまま回転しながら転がってきたが、避け切れた。

 それを見た後続は、左右に分かれて半数が俺の方へ。あと三匹もいるのかよっ。

 既に魔法を撃てる距離じゃない。頭を低く突進してきたブルボアの、更に下から盾を構えて身を沈める。

 ブルボアの前足が盾にかかった瞬間に押し上げると、突進してきた勢いのままにブルボアが宙を舞い、俺を飛び越していった。

 残る二頭はぴったり並んで、やってくる。しゃがんだままなので、左右に跳ぶほどの余裕もなく、二頭の間に隙間はない。

(詰んだか?)

 跳ね上げた盾を引き戻そうとするが、間に合わないだろう。

 目は閉じず、受けた衝撃を極力流すべく、後方に跳ぶ。

 ぴょんと半歩ほど下がって尻餅。あ、駄目じゃん。ブルボアの牙の位置が胸の高さになっていた。このまま胸を抉られ、轢かれるのか……。

 その時、目の前の地面から急激に成長した木が、ブルボアの突進をいなした。幹に押し分けられる形で左右に分かれ、俺の横を素通りしていった。

 少し離れたところで、フィオナが胸をなで下ろしている。彼女の魔法か。


 時間にしたらわずか十数秒か。

 ウルフはフィオナの魔法に撃たれて昏倒し、スパイダーウェブで転んだ一頭は、仲間にも蹴られて瀕死。俺の頭上を越えていった奴も、着地に失敗して前足を骨折。

 あとのブルボアは遠くに走り去ってた。

 その場に残った動物達の息の根を止めて、辺りを確認するがさっきの男はいなかった。目深にフードを被っていたので、顔も見れなかった。

「まったく、何だったんだよ」

「MPK、モンスター・パーティー・キラーでしょう」

 狩り場の独占を狙い、邪魔なパーティーを排除する。見つかれば厳罰にあたるが、実際に取り締まるのは難しい。

 この世界は思った以上に、柄の悪いのが混ざっているようだ。初日にドリスに絡んだ冒険者といい、さっきの男といい。

「それにしても、タモツさんは凄いです。あの中をほぼ無傷で生き残るなんて」

「いや、フィオナがウルフをやってくれたからだよ。あのウルフの悲鳴で、何とかなった感じだから」

「ブルボアが飛んだのは見物だったね。豚だけにトンでた」

 空気が止まった。ドヤ顔のドリスが痛々しい。

「ドリス、ドロップ集めて」

「え、あれ? うまくなかった?」

「あ、タモツさん。肘に擦り傷が」

「あれ? あれ?」


 それからも六階で狩りを続けたが、さっきの男が現れることはなかった。

 ただ他のパーティーの動向にも気を使うとなると面倒だ。ギルドのアランには伝えておいたが、あまり期待しないでくれとのこと。


 今までのドロップ品は、一つで銅貨1枚だったが、毛皮は数倍の値段で売れた。収益も一気に増えている。

 しばらくは六階で稼げると思うが、一度のMPKのおかげでいらぬ心配も必要となってしまった。

 一応、戦闘中はドリスが見張ってくれるが、結局は乱戦になるとヤバいのは変わらない。

 またパーティーメンバーを増やせるといいのだが。



 その夜、攻略サイトを確認すると、やはりMPKの話題も載っていた。対処法としては、目立たない狩り場を見つけるか、引っ張ってくる冒険者を逃がさず巻き込ませるか。何にせよ、根本的には人の欲が絡むので、根絶は難しいようだ。

 攻略サイトといえば、知らぬ間にアラクネ様やドリスの情報が記載されていた。自分で編集した訳ではないので、自動でこの端末が情報を記載しているみたいだ。

 新しい神様の情報がどれだけの査定になるかは分からないが、多少は期待できるのだろうか。

 トップランカーは18階まで進んでいるらしい。俺が六階まで進む間に、トップランカーも六階分進んでいる……追いつくのは無理か?

 こちらに来て二週間、1/6が消化されている。このペースでいいのかどうか。

 焦って仲間を失うのは御免だし、上を目指すよりは確実性か。でもMPKがあると、下の方でも安心はできないし……。

 堂々巡りの思考に陥っているうちに、眠っていた。

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