魂を縛る呪いの糸
細かく分けてすいませんでした。
このシーンは分けておいた方が、雰囲気がでるかなと思いまして。
主のいなくなった部屋は、一年にわたって掃除されつつも、維持されていた。
一つ残ったベッドでは、クランマスターである女性が毎夜を過ごしている。他のメンバーも毎日というわけでは無いが、足繁くそこを訪れ、たわいのない報告をして去っていく。
ただその日は少し様子が違っていた。
「ふふふ、わらわから逃げれると思ったかのぅ?」
その糸はとても儚く、焦ればすぐに切れそうになる。何度も言葉を交わし、体を重ね、魂に結びつけた呪いの糸。幾重にも、何重にも、決して逃すことの無いように。それを引き寄せ、ゆるめ、余裕を作り、再び引く。釣りのように気長に、相手の調子を感じながら勝負を続けた。
それもようやく終わりだ。
もう手の届くところにまで、その気配は来ている。
再会の時は二人でと思ったが、なぜかドリスに気づかれた。そうなれば他の面々も集まってくる。
いっそ一日延ばしてしまうかとも考えたが、ちっぽけな独占欲で逢えない時間が延びるのは無駄だ。一刻も早く逢いたい、その気持ちが勝っている。
最後の一引き、その手応えが形になる。目の前に光が集い、重みを持ち始める。あの日、あの時の逆回しを見るような、存在の収縮。そこに現れる確かな人。その首に、思いっきり抱きついた。
「うおっ、眩しいっす」
現れた男は目を瞬かせ、涙をあふれさせながら、あたりをキョロキョロと見渡す。
「え、ここって……えっと、アラクネクランの皆さんっすね?」
首を傾げながら問いかける。
「な、何言ってんのよ、タモツ」
「え、タモツさん? 確か、さっきまで一緒にいたような、そんな感じはあったんすけど……」
そんな事をいいつつ辺りの様子を伺う。
「もしかして、タダシ……さん?」
フィオナがそう問いかける。
「そうっすよ? 他の誰に見えるっすか」
「タモツ」
即答するドリス。
「あっ、そこにっ」
タモツの体が、その一点を指さす。そこでは光が集まりはじめ、一つの形を成した。現れたのはもう一人の男。
「う~ん」
「え、俺っち……?」
「タダシじゃん!」
ドリスがその顔を確認して、声を上げる。
「どうなっているんでしょう?」
一同は混乱する。
現れたタダシは、上体を起こして座り直す。ベッドの上の二人と、それを取り囲む面々を見渡して言った。
「さる芝居にはつきあわないっすよ。俺っちにも早く逢いたい人がいるんで」
その言葉に、周りの視線がタモツに集まる。わらわはまずは二人だけの時間を作ろうとした、タモツの意図を理解していた。ずっとその首にしがみつきながら、再会の喜びを堪能した。さわさわと腰の辺りに手を回すのはどうかと思ったが、不快でもない。
「お帰り、タモツ」
「ただいま帰りました、アラクネ様」
そんな訳でひとまず完結です。
オチが弱いと定評のある私なので、消化不良の部分はあるかと思います。
気兼ねなく、感想なりでぶつけてやって下さい。
今後に活きてくる……はず。




