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どろ沼と銭湯

 裁縫事業の必要物資の調達は、ブリギッドクランのギブソンに任せた。さすがにすぐに手配はできないだろうが、目途が立っただけにありがたい。

 あとはそれまで稼ぎを繋がないといけない。迷宮での稼ぎを続けるだけだ。



 十六階は湿地になっていた。足をとられてあまり機敏には動けない。

 そこへ襲ってくるのはリザードマン。二足歩行のトカゲ人間だ。水掻きの発達した足で、湿地でもスムーズに移動してくる。

 こうなると頼みはキサラの弓だが、リザードマンの鱗の体は、矢を逸らしやすく出来ていて、遠くから射るのでは、ダメージが通らない。

 田んぼのような湿地の中で、足を取られながら戦闘するしかなかった。


「もう泥だらけだよぉ」

「十六階、どうしたもんかねぇ」

 カサンドラにとっても初めての階層。あまり打開策は無いようだ。

 攻略サイトを見ても、動けないなら動かない戦術。主に魔法で対処すべしとあった。

「魔法……か」

「す、すいません、あまりお役に立てなくて……」

 フィオナはヒーラーであって、魔法は補助的なもの。直接ダメージを望むものではない。

「いや、フィオナが悪いわけじゃないよ。火力が足りないのは、適した人材がいないだけだな」

 ふとルージュさんが思い出されたが、タダシが消えたことが発覚してから会ってはいない。そもそもがマルスクランで活躍している人だから、引き抜く訳にもいかなかった。

「あとは……」

 ダメもとで一つのアイデアはある。俺はそんなに得意ではなかったが、加護のある状況なら多少はできるかもしれない。


 その夜は、銭湯として解放予定の大浴場へと入ってみた。熱した水差しと、冷やしたままの水差しから、お湯と水を好きに使えるようにしてある。

 さすがにシャワーまでは用意出来てないが、これでも十分だろう。

 風呂場は下着着用の混浴としてあるが、江戸時代は混浴だったというし大丈夫だろう。


「わっほーい」

 ドリスはお約束のように盛大に飛び込む。いや、駄目だから。飛び込み禁止の看板立てないと駄目か。

 フィオナとカサンドラも入ってくる。鍛えられたカサンドラの体というのも趣があるな……などと見てたら、ニヤリと笑みを浮かべた。

 こちらに近づいてこようとするカサンドラから、すすすっと逃げていると、わーわーと大勢の声が聞こえてきた。エレナを筆頭とした、子供たちである。

 さらにはエレナに引っ張ってこられたキサラもいた。俺とは慣れ合わないつもりなのだろうが、エレナには逆らえないらしい。ハーフエルフの華奢な体つきたが、意外と出るとこは出ている感じである。その視線に気づいたキサラに、殺意の視線を向けられあわてて顔を逸らした。

「旦那ぁ、何反応させてるんだよ」

 いつの間にか隣に来ていたカサンドラが体を寄せてくる。

「子供がいるんだから、変なことすんなよ」

「わかってるって。でも、アタイにもそのうち、思い出をくれよ?」

 などと耳元で囁かれた。


 子供十人、エレナ以上が六人でも多少の余裕は感じられた。同時に入れるのは二、三パーティーってところか。一人銅貨三枚としても、それなりに稼げそうである。

「銅貨十枚でも人は来ると思うよ?」

 ドリスはそういうが、衛生管理は生存率に繋がる。無理せず入れるくらいで、薄利多売を心がけるほうが、街全体にとっていいだろう。

 まずはネプチューンの連中に利用してもらって、意見を聞くつもりである。


 その後、夕食の席で大入浴会があったことを知り、拗ねてしまったアラクネ様と、二度湯する羽目になった。ターニャもついてきたんだが良かったのか?



 翌日、再びの十六階。俺が用意したモノに、ドリスが見入っている。

「この板どうすんの?」

 潟スキーという言葉をどこかで聞いた事があったので、板を履いて湿地を進めるんじゃないかと思ったのだ。

 平地で摩擦も雪に比べると大きいので、扱うのは難しいはすだが、加護を受けて身体能力が上がっている今なら、少しは使えるんじゃないかと。

 二枚の板をスキー状に足にくくりつけ、湿地に足を踏み入れる。おお、確かに足は沈まない。しかし、コントロールは難しいな。剣をストック代わりに突き刺して、向きを変えたりするきっかけに使う。後はボーゲンの要領でエッジを利かせればブレーキもかけれる。

 自由自在となるには、慣れが必要だな……と思っていたら、目の前をキサラが綺麗に滑り抜けていった。運動神経抜群だと、初見であれなのか……。


 潟スキーだと踏ん張りが利かないので、足を止めての打ち合いはやりにくい。ヒットアンドアウェイな戦い方になったが、リザードマンを越える機動性を発揮して、通り過ぎ様に攻撃を加えていく。

「慣れてくっと、楽しいなこれ」

 カサンドラもすぐに慣れてきたらしく、綺麗に打撃を与えていく。発案者の俺はまだ苦労してるんだが……。

 キサラは相手の背後を取りながら、ほぼゼロ距離射撃でリザードマンを仕留めていく。ポイズンスティングを乗せた毒の一撃に、一撃では死ななくてもいずれは倒れるのである。

 俺にはかんじき程度が似合ってたかな……。


 俺はともかくアタッカー二人が、潟スキーの機動力で敵を殲滅。探索は進めやすくなっていた。ドリスも軽やかに滑っていて、ちょっと悔しい。俺も地道に練習するしかないか。



 その夜、ネプチューンクランに銭湯を利用してもらった。

「お前さん、よくこんなの思いつくな。こりゃ、流行るしかねえだろうさ」

 ブロリーもいたく気に入ったようだ。

「あんまり人には教えたくないがな、俺達で貸し切りって訳にはいかねえのか?」

「無用な争いを避けるために、クランごとに時間を区切るのはありかもな。まあ、若い女の子との交流はなくなるかも知れんが……」

 ネプチューンクランは、むさい男達の集団である。

「な、なんだそれは、羨ま……けしからん! まあ、他クランとの交流も大事かもだな、うん」

 ブロリーは欲望に素直な奴だった。

 実際のところ、キャパシティの問題もあるので、大々的には宣伝できないだろう。武装解除は必須としても、店番を誰にやらせるかも問題だった。

 最初は繋がりのあるネプチューンクランとブリギッドクラン程度に留めておいた方が良さそうだ。


潟スキー、本来は大きめの板でサーフボードに近い感じみたいですが、加護によるスペックアップで、誤魔化してると思ってください。

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