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ハーフエルフの少女

「で、ここなのかよ」

「失敗したから逃げてちゃ、反省したことにはならないんだよ」

 ドリスに連れてこられたのは、奴隷商だった。テベスでの失敗で、奴隷に頼るのはやめようと考えていた。

「奴隷になった子は、犯罪者だよ。でもね、それはやりたくてやった訳じゃなく、何らかの事情があったはずなんだ。その辺を確認して雇えば大丈夫だよ!」

「食い逃げ犯には、どんな事情が?」

「さあ、善は急げだよ!」

 俺の問いには答えず、ドリスは奴隷商へと入っていった。


「これはようこそいらっしゃいました、タモツ様」

 奴隷商は俺を見るなり、近づいてきた。

「先日はすいませんでした、雇い主様のモノに手を出すとは……」

「俺の確認も甘かったんだ、そこはお互い様だろう」

 テベスのした事は許せないが、ちゃんと確認してれば防げた事ではあったはずだ。

「今後は、その辺の犯罪歴などについてもちゃんと確認するが、良いな?」

「ええ、ええ、もちろんですとも。この商売は信用が第一ですから。して、今日は何をお探しで?」

「エルフはいるか?」

「エルフ……ですか。さすがに純血種は……」

 エルフは元々森で生活しており、人間のいる街にはあまり出てこない。さらに高潔な精神をもっていて、犯罪を犯すくらいなら死を選ぶような種族。奴隷商に入荷する事は少ないらしい。

「ハーフでよろしければ、ご用意できます」

 その高潔さ故に、人間の血が混ざった子は、エルフの村に居づらくなり、街に出てくることが多い。そうなると、身よりもないので、犯罪に走りやすくもなるそうだ。

「戦闘系はいるか?」

「そうですね、技術は持っている者もおりますが……」

「犯罪歴がまずいのか?」

「強盗殺人ですね……」


 そのキサラという少女は、独房のような檻の中、片膝を抱えて座っていた。こちらを見る目は攻撃的で、隙を伺っているように見える。

 こりゃ駄目じゃないか。

「どうして殺しちゃったの?」

「殺したかったから」

 ドリスの質問に、簡素に答える。

「詳細はわかるか?」

「そこまで詳しくは残ってませんが、被害者は孤児院を開いていた神父ですね」

「ふむ?」

「人徳者として知られ、スラムの貧しい子等を集めて養っていたようです」

 聞く限りは良い人の代表のような人だ。

「でも裏では集めた子らに虐待してた……とか?」

「さて、そこまでは……」

 少女はこちらを睨みつけているだけだ。

「その孤児院の場所はわかるか?」

「ええ、それは分かります」



 クランハウスとは違う側のスラム街。人もそれなりにいて、路上で物乞いしているものや、目つきの険しい男達が目に付く。

 そんな中で、目的地の孤児院だけは、塀も高く簡単に侵入を許さない立派な作りになっていた。

 神父がいなくなり、当時の年長者が跡を継いでいるようだ。

「神父様の蓄えで、もうしばらくは経営ができますが……」

 その代表を務める少女の表情は暗い。慈善事業だっただけに、収入には繋がらないのだろう。

「今いる子等だけでも、ちゃんと働かせてあげたいのですが」

「この孤児院の卒業生達は? 援助してくれたりしないの?」

「スラム出身とばれると、色眼鏡で見られますし、極力関わりたくないのかと……」

 連絡すらない……か。何か嫌な予感がする。

「じゃあ、ちょっと周りも見てくるよ」

 少しの駄賃を渡して、孤児院を跡にする。


 スラム周辺は、治外法権といった雰囲気だ。クランハウスのある辺りは、単に人が居なくなったゴーストタウンだが、この辺は活気がある分、猥雑で色々と怪しい。娼館があるのもこの辺りだ。

「病気とか怖いから、やめときなよ、タモツ?」

「いかないよ?」

 かつての俺なら少なからず興味は覚えたかもしれないが、今は全く気にならない。それはドリスにも伝わったのか、面白く無さそうだ。

「むう、からかいがいがなくなったなぁ。だったら、ワタシの相手もしてよねー」

 何か言ってるが、無視するに限る。昼間から開いてる酒場へと入ってみる。薄暗い店内には、管を巻いてる奴らがちらほらと。

 軽食を頼みながら、マスターと世間話。

「あそこの孤児院の神父が殺されたそうだが、ルートはどうなってる?」

 マスターは俺の事をじろりと睨むと、ふっと笑った。

「下手な芝居はやめな、どうみたって裏の人間にゃぁ見えないよ」

 簡単に見破られた。

「元々あの神父の品は偏ってたし、需要もあんまりだったしな」

 こちらの事をどう思ったのか、マスターは話を続けてくれた。

「少女は神父のお手つきだし、衆道は女の子っぽいのばっかりだったみたいだ」

「なるほど……孤児院に残ってる子等は?」

「神父の見る目は確かだった、成長すればいい玉にはなるだろう。まあ、成長できればだが」

 経営的に無理なんだろう。

「あの子等に買い手は?」

「今のままじゃつかないな、どこも金掛けて育てるまでは価値を感じてない」

 世知辛い世の中だ。

「ありがとう」

 俺は情報料渡して、酒場を後にした。


「タモツってさ、何者なのかな?」

 ドリスが興味深げに聞いてきた。ゲームの知識だと言っても、通じないだろうしな。

「俺の国でも色々あったんだよ」

 それだけにとどめた。

「ダーティタモツ、それでどうするの? キサラは悪人じゃないよね?」

「まあ、それは分からんけどな。方針は決まった」



「わらわ達も裕福な訳じゃないんだがのう」

 俺達はクランハウスに戻っていた。今後の方針を進めるには、アラクネ様の確認が必要だった。

 正直なところ理想論だけでは、共倒れになるだけ。継続性がないと意味はない。

 十歳に満たない孤児を十名ほど、安易に受け入れられる数じゃない。

 子供達にも働いてもらうのがベストだ。裁縫の単純な作業など、割り振れたりはしないか。

「ターニャは元々裁縫をやっておって、実作業もしておったからな。全くの素人からとなると……」

「薬草栽培のお手伝いとか、してもらいましょうか」

 フィオナも案を出す。

「ステータス次第では、アシスタントもさせられるかも知れませんし」

 俺の一番の狙いはそこだ。商品として育てられていた少女達は、余計な力を持たないように、加護を与えていなかった。もしかすると、思わぬ素養を持つ者がいるかも知れない。即戦力にはならなくても、将来のクラン維持に人材は必要だ。

「分かっておる。わらわとしても、身よりのない子を救うのに否はない。話を進めるが良いぞ」


「私達をクランに……ですか?」

 代表を務めるエレンは、俺の提案に戸惑いを見せる。年長とはいえ、まだ十三歳の少女だ。物事の展開を全て理解するのは厳しいかも知れない。

「少し時間をいただけますか?」

 エレンはそういって、他の子供達と相談し始めた。勢いに流されず、ちゃんと自分達で考えようとするのは大事だ。クランに加わって貰えたら、思った以上の戦力になるかも知れない。

 話し合いを終えて帰ってきたエレナの顔は、晴れやかだった。

「まとまりました。是非クランに入れて下さい」



 そこからも大変ではあった。五人のクランに十一人の孤児が加わる。住むところの確保から必要だった。幸いクランハウスの側はゴーストタウンで、空き地、廃屋には事欠かない。お金さえあれば、拡張は可能だった。

 そこで神父の遺産に手を出した。人身売買で稼いだ金で、抵抗がないといえば嘘になるが、背に腹は変えられない。厳密には、十一人の孤児からアラクネクランが借りた形にしてある。将来、子供達が独立したいなら、その時に支払うつもりだ。

 孤児院があった土地も売ることができた。話を聞いた酒場が、その地区のまとめ役だったらしい。

「まとめてクランにか、思い切った事をしたなぁ」

 関心と言うよりは、呆れた様子のマスター。それでも子供の行く末は気になってたらしく、少し色を付けて土地を引き取ってくれた。


 アラクネクランの隣に、子供達の暮らす孤児院ができた。今までよりもボロい建物になったが、そこは我慢してもらうしかない。

 フィオナ主導の薬草畑用に、空き地も購入。ちゃんと栽培するには、色々と準備が必要だろう。

 フィオナが担当していた家事仕事は、ターニャが引き継ぎ、子供達にも手伝ってもらう。

 あと棚上げになっていた男部屋もついでに作って貰えた。まだベッド一つの簡素な部屋だ。

 一気にクランとしての規模は大きくなったが、戦力としては変わっていない。当初の目的を果たすために、奴隷商へと向かった。



「キサラをお買いになるので?」

「ああ、問題ないと判断した」

「銀貨30枚になります。買い戻しの際は半額になりますが、よろしいですね?」

「ああ、わかってる」

 クランに所属してない戦闘系ということで、少し高かった。

 再び現れた俺に対して、警戒を強めた様子のキサラ。その瞳は鋭い。

「また来たのか?」

「ああ、君が欲しくてね」

「気に入らなかったら、寝首を掻くぜ。契約書も、意識がなければ働かない」

 ひぃ、怖い。

「ま、まぁ、その時は、その時だ」


 アラクネクランに戻った俺達を、待っていたのはエレナだった。

「キサラッ!」

 俺の後ろをフードも目深にうつむいていたキサラに、迷わず抱きついていった。

「貴様っ!」

 キサラは俺に対して、声を上げるが、エレンが抱き留めてくれている。

「大丈夫、私達は大丈夫だからっ」

 しかし、キサラの眼差しは鋭いままだ。

 キサラにとって俺は、神父に取って代わった男に見えるだろう。すぐに信用されるとは思っていない。

「ボクに対する人質のつもりなら、容赦はしないからな」

「ああ、是非そうしてくれ。俺が彼女らの害悪と思えば排除してくれていい」

 内心、冷や汗たらたらだが、ここは強気にでる場面だ。

 そんな俺に、キサラは鼻で笑う。

「よく言った。その言葉、忘れんなよ」

 ひとまず俺を生かして置いてくれるらしい。今のところは、ステータスもあって、俺が強いが今後はどうなるか。

 彼女を失望させないよう生きなければな。

何か書いてるうちに、思わぬ方向へ。

一人増やすつもりが、十一人ついてきた。

これでサッカーもできるね!


どんどん登場人物が増えるのはよくないんでしょうが……

極力増やさず話を進めれるように気をつけますorz

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