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タダシとルージュと30点

 テベスを解雇したのはいいとして、戦力不足の問題が再燃する。少なくともあと一人はいないと、挟み撃ちにされた時にフィオナが襲われる事になる。

「だから欲望に忠実に、女の子を雇っとけばよかったんだよ」

 などとドリスに説教される始末。確かに女の子ばかり雇って、とアラクネ様とかに思われるのを避けたかったのはある。その辺が下心なんだろうなぁ。

「また九階になるけど、いいかな?」

「私は全然、気にしませんよ」

 フィオナはにこやかに接してくれる。テベスを雇うという失態をした割りには、前よりも親身になってくれてる気がする。気がするだけか。

 そんなこんなで九階へ。

 ゲームと違って、経験値が数値としては見えないから、稼ぎの多寡は金銭的なモノに限られる。そういう意味では、九階はまずくはないのだ。


 狩りの後、フィオナの夕食を食べて、俺はタダシに会いに行った。

「ちーっす」

 タダシは相変わらずノリが軽い。その上、今日は連れがいる。

「タモツさんのアドバイスで、彼女になつてくれたルージュっす。こちらは故郷が同じで、アラクネクランのタモツさん」

 紹介されたのは赤毛の少女。マルスクランという戦闘系には似合わないような、大人しそうな雰囲気である。腰くらいまである髪を、二つの三つ編みにしている。手には杖、服装はゆったりとしたローブ。魔道師なのだろう。

「はじめまして」

「ああ、はじめまして」

 ペコペコとお辞儀を返す。タダシの事だからもっとイケイケな感じかと思いこんでたから、戸惑ってしまった。


「その、タダシさんを説得してくれたようで、ありがとうございます」

「へ?」

「俺っちが悩んでた事を解決してくれたのは、タモツさんじゃないっすか」

 え、ああ、そういう解釈になってるのか。俺はただ3ヶ月で限られた訳じゃないと教えただけなんだが。

「タモツさんは、俺らのキューピットなんすから~」

 ちょっと浮かれすぎてて不安になる。

「で、今日は何の用事っすか?」

「ああ、実はな……」


「新しい戦力っすかぁ」

「どこも有力な人材は求めているでしょうから……」

 ルージュさんも一緒に考えてくれてるが、難しいようだ。

「あれはどうっすか、共同パーティー」

「共同パーティー?」

「別のクランと一緒にパーティーを組む事です。うちのマルスクランでもたまに募集してます」

 どうやら別のクランと合同で探索する事もあるようだ。

「あれっすね、身内で固まりすぎると戦術が偏ったり、馴れ合いが過ぎたりするんで、定期的に外の目を入れる的な」

「そんなのがあるのか……」

 確かに第三者の目線というのは、成長に不可欠なモノではある。行き詰まってた事も、外からみると解決しやすかったりするのだ。

「それなら、探してみるのもアリだな」

 弱小クランで募集をかけるよりは、どこかに応募した方がいいだろう。

「どうせなら、俺達と組みません?」

 などとタダシの方から言われた。

「マルスクランは、そういうとこに積極的で、色々な経験を積ませようとしてくれるんす」

「ふむ……でも、俺らはまだ十階だぞ?」

 俺よりも1ヶ月も早く冒険者を始めたタダシは、もっと先にいるだろう。

「全然、OKっす。俺らもまだ十二階なんで、そんなに変わんないっすから」

 そんなわけで、タダシとパーティーを組むことになった。



 翌日、迷宮前で待ち合わせ。タダシとルージュは先に来ていたようだ。

「すまん、待たせたか?」

「いえ、私達も今来たところですから」

「ヒーラーのフィオナと、アシスタントのドリスだ」

「よろしくお願いします」

「うーむ、60点!」

 ドリスがいきなり失礼な点数評価だ。しかし、タダシは気にした様子もない。

「めっちゃ、かわいい子っすね。タモツさん、やるじゃないっすか!」

 などとはしゃぐもんだから、ルージュさんの杖をつま先に落とされている。

「ちなみに、タモツは38点だよっ!」

 そりゃ俺の年齢だよ……てゆーか、そんなに評価低いのか、俺。


 十階へと進んでいく。

 タダシとルージュが前衛で、ドリスを挟んで後列に俺とフィオナが並んでいる。

 タダシとルージュは、二人の空間を作るように密着している。実はクランのパーティーだといちゃつけないから、俺達と組むことにしたのか?

 まあ、今は危険もないから注意はしない。経験という意味では俺よりも上級だしな。

 タダシは、二刀流の軽戦士のようだ。盾は持たず、手数で攻めに行くスタイル。ルージュは、炎の魔道師らしい。


「ドリス、俺の点ってそんなに低いか?」

 結構頑張って来たつもりだけに、ちょっとショックだった。

「そりゃ未だに童貞チェリーのままだし。ターニャのフォローもしてないでしょ?」

 そこかよっ!

「フォローって、あんな事があったんだし、男が近寄らない方がいいだろ」

 男性恐怖症になってもおかしくない状態だったんだ。

「これだから……30点なんだよ」

 やれやれといった感じでため息をつかれる。点数下がってるし。

「あのねぇ、自分のピンチを救ってくれた王子様だよ、おっさんだけど。上着を掛けてくれたり、優しくしてもらったんだよ、おっさんたけど。かわいいドリス様がいるし、私なんか相手にしてもらえないわ、おっさんだけどって思ってるに違いないよ!」

「おっさん、おっさん、言うなよ。俺だってわかってるんだからっ」

 泣きたくなるだろ……。

「年齢は関係ないと思いますが、ターニャには声を掛けてあげて下さい。タモツさんに嫌われたと思っているようなので」

「え、全然そんなことないぞ?」

「避けられるようになったと相談を受けました」

「や、だから、男は、怖いかなって……」

「はぁ、30点ですね」

 フィオナにも酷評されてしまった。



 一人ブルーになっている間に十階に到達。隊列はほぼそのまま、先頭にタダシ、ルージュ、ドリス、フィオナ、俺の順だ。

「コボルトは美味しくないんで、撃破数重視でいくっすね」

「お、おう」

 タダシは、結構サクサクと進んでいく。両手に持った剣をうまく使って、防御と攻撃をほぼ同時にこなしている。それこそ、仲間を呼ばせる隙もないほどだ。

 さらにルージュは見た目は大人しいが、戦闘ではアグレッシブで、隙あらば炎の玉を撃ち込んでいる。

「タモツさん、くるっす」

「了解」

 たまに呼ばれた援軍にも反応して、俺に一声掛けてくれる。おかげで俺は楽だった。


 かなりのハイペースで狩りを続けて、ちょっと開けた部屋に出たところで休憩をとる。

 フィオナが手作りサンドイッチを配って、簡単な昼食タイムだ。

「やっぱ、タダシはやるね。あの撃破ペース、十階は物足りないんじゃない?」

「そうでもないっすよ。結構、いっぱいいっぱいで。手を抜くとルージュが怖いんで」

 もしかして、あの火の玉はタダシへの援護ではなく脅しなのだろうか。よく見ると、鎧に焦げた跡がある。

「それよか、タモツさんこそ凄くないっすか。まだ1ヶ月ですよね?」

「そうだな、もうすぐ1ヶ月のはずだ」

「タモツさんのアレ、スキルって死にスキルっしょ? 俺は二刀流のおかげで、楽できてますけど」

 どうやらタダシの二刀流は固有スキルらしい。攻防一体の連続技は、確かに便利そうではある。

「いや、実のところ死んでないんだよ、俺のスキル」

「へ? 『女神の守護騎士』っすよね。名前はかっちょいいっすけど、神様が近くにいないと駄目なんすよね?」

「ああ、神様ってのは、自分のところの神様に限定しないみたいでね。誰でも近くにいたら、大丈夫なんだ」

「それでも、神様は迷宮に入れないんじゃ?」

「それも奴隷で解決できたんだ。奴隷になると、神様でも迷宮に入れて、スキルの恩恵だけ受けれる」

「は? 何すかそれ」

「あそこのドリスが、神様というか精霊で……」

「女の子を奴隷で買い漁ってるんすか!?」

「え、あ?」

「何すか、奴隷ハーレムとか、男の夢じゃないっすか。そんな方法があったなんてっ」

「ルージュさんが睨んでるぞ?」

「も、もちろん、俺っちには、ルージュがいてくれるだけで十分っすけどねっ。さっ、次行きましょうか!」

 タダシは慌ただしく立ち上がった。


 その日はかなりのハイペースで、コボルトを撃破していった。しかし、ドロップのコバルト鉱石は安くて、稼ぎとしてはイマイチだった。

 それでもタダシは満足できたようで、冒険者ギルドで別れた。



 タダシのハイペースに引っ張られ、思った以上のステータスアップがあった。フィオナも同じように、アラクネ様からステータスアップの儀式を受けている。

 その間にターニャをクランハウスの外へ連れ出し話しかけた。

「ターニャ。その後、大丈夫か?」

「え、は、はい」

 急に話しかけた為か、かなり緊張させてしまったようだ。

「その、俺にできることがあれば、なんなりといってくれ。俺のせいであんな事になってしまったんだ。すまない」

 そういえばまともに謝ってもいなかったことに気づく。こりゃあ、30点だな。

「あの、私は、奴隷になりましたし、ある程度は覚悟して、ましたし。ああいうのは、ちょっと、怖かった、ですけど」

 やはりどうあれ、女の子にやさしくないのは良くない。いくら奴隷といえ、気持ちは大事だろう。

「そうですね……少しでいいので、ぎゅっとしてもらっていいですか?」

「へ?」

 思わぬターニャの提案に、間抜けな声が出てしまう。

「その、おねだりして、いいなら、ですけど」

 頭の中でドリスに蹴飛ばされるイメージが沸く。コレをほっといたら、そうなるのだろう。

 俺は彼女をそっと抱き寄せる。強くなりすぎないように、不安の震えを抑えつつ。

「あの、助けて下さって、ありがとうございました」

 俺を見上げながらそう言うと、そっと瞳を閉じた。え、これって、そういう合図だよね。

 俺は思いきって……彼女の額に口付けた。

 はっと目を開けた彼女は、つつつと下がって額に手を当てる。

「やっぱりドリス様の言う通りです。30点!」

 そう言い置いて、彼女はクランハウスに逃げ込んだ。



 その夜、俺は後ろ手に縛られていた。ハンモックで寝ていたはずなのに、今は柔らかなクッションの上に座らされている。

 周りはいつもの工房で、そこに使ってないベッドのマットレスを持ち込んだのだろう。

 蝋燭のやや赤みがかった灯りに黒いシルエットが浮かび上がっている。

「タモツよ、クランメンバーからクレームが出ている。分かっておるな?」

「そ、それは……」

「大切にするのと臆病なのは違う……との事じゃ」

「うう……」

 断罪裁判か。

「ドリスのいう戯言ならばと放っておいたのじゃが、今日はターニャまでじゃったからな」

 やっぱり駄目? キスは駄目だったか……。

「さて、申し開きはあるかの?」

「いえ、全ては私の不徳と致すところ」

 どうしても言葉は固くなる。

「では、今後はそれを肝に銘じて、女の子の想いにしかと行動できるかや?」

 え、今後? 執行猶予がつくのかな。

 俺は頭を垂れて承る。

「ははーっ」

 それと同時に拘束を解かれた。


 いつまで頭を下げていればいいかな?

 アラクネ様から動く気配はない。ただ、イライラした様子は伝わってくる。

 そーっと顔を上げると、じっとこちらを見つめる気配はある。

「のう、タモツ。わらわの言った事は聞いておったよな?」

「それはもちろんです」

 女の子の想いにしかと行動……う?

 それにアラクネ様は含まれますかと聞いたら、殺されるんだろう。

『その中にわらわは……?』

『それは当然入ってますよ』

 脳裏にフラッシュバックする記憶。これは夢だったような、違ったのか。

 関係ないな。今、この時の行動が、全てを決するのだ。


 俺は一歩進み出て、その貴く華奢な体を抱き寄せた。誤解を恐れず、想いに応える。自らに素直になる。その言葉を実行に移した。




「30点じゃな」

どこまで書こうかと思って、この程度で……

一瞬、ノクターンに短編でもとも思いましたが、本筋ではないのて、この辺で失礼します。

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