表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/31

接触

「でさ、タモツ。真面目な話なんだけど」

「ん? 何だ?」

 八階を探索中、薬草が群生しているのを見つけた。フィオナが採取をしている間の、ちょっとした休憩。その時に、ドリスが話しかけてきた。

「いつまで童貞チェリーを守ってるの?」

「どこが真面目な話だよ」

 ドリスが真面目な話をしとことないか。

「いやいや、真面目なんだよ!」

 ただいつものからかいとは、ちょっと違う雰囲気もあった。

「タモツってさ、ワタシ達に遠慮してるっていうか、一歩下がってる感じあるじゃん?」

 そうなんだろうか?

「それって根本的に女の子が苦手だからだよね? 一発やっちゃえばマシになるんじゃない?」

「だから何でそう言う論理になるんだよ」

「えー、仲良くなるにはスキンシップだよ。フィオナだってもっと仲良くなりたいよね?」

 いつの間にか戻ってきてたフィオナに、ドリスが話を振る。

「えっと、あの?」

 ほら、やっぱり駄目じゃん。可愛い女の子が、おっさんに興味ないって。

「その、タモツさんには、アラクネ様が、いらっしゃいますし」

「そっちかぁ」

 そっちもどっちもないよ?

「アラクネ様は神様だろ」

「ん? うちらの間じゃ関係ないけど。人間との間で子作りとかざらだし。こっちの体は、人間と同じに作ってるしね」

 思わずアラクネ様を思い浮かべる。西洋人形のような整った顔立ち、感情によっては若くも大人びて見えたりもする。外見的には、二十歳くらいだとは思うが……。

「って、違う、違う」

 アラクネ様をそんな風に見ちゃ駄目だろう。


「アラクネもねぇ、お堅いとこあるから難しいよねぇ。それよりも初めて同士は失敗するよ?」

 どうしてもそっちに話をもってくか、このセクハラ精霊。

「ここはワタシで練習して、本番に臨むとか。初めてを試したいなら、フィオナでもいいんじゃない、ねぇ?」

「た、タモツさんが望まれるなら……」

 そこで頬を染めながら頷かないで、本気にしちゃうからっ。

「ほらほら、稼がないと。クランハウスを建て増ししないと、狭いだろっ」

「あ、逃げた……」



 夕飯を終えて、腹ごなしに散歩に出かける。フィオナのご飯はおいしくて、ついつい食べ過ぎてしまう。

 気が利いて、料理がうまくて、家事全般をこなして、稼げる技術もあって、理想の嫁だな。などと考えてしまうのは、ドリスのせいだろう。

 しかし、一歩引いてる……ねぇ。

「動くな」

 ごりっと背中に、固い物が押しつけられる。

 考え事をしていて、油断していた。クランハウスは、半分スラムのような場所にある。治安が悪い危険もあった。

 幸い財布はハウスに置いてきたし、取られて困るのは命くらいか。

「あんた、日本人だな?」

 思わぬ問いに、硬直する。

「ゆっくりと、こっちを向け」

 言われたとおりに振り返ると、押しつけられていたのは見慣れた情報端末だった。


「いやー、やってみたかったんすよね、ああいうの」

 近くの石に腰を下ろした男は、砕けた様子で話しかけてきた。

 歳は二十代半ばといったところか。

「俺の名前はタダシっす」

「……タモツだ」

 素直に名乗っていいか一瞬悩んだが、偽名を使う意味もないかと思い直した。

「で?」

「いやー、最近登録されたクランに、アラクネってのがあって、目星をつけて来たんすよ」

 勝手に俺を特定した方法を教えてくれる。なるほど、攻略サイトに新しい情報があれば、そこにプレイヤーが関わってると。

 そう言えば現地の人に日本人と知られたり、情報端末を見られるのよくないとされたが、プレイヤー同士の接触は禁止されてなかった。


「あのですね、ちょっと聞きたい事があったんすけど……」

 まあ、そうでもないと、わざわざ会いにこないよな。

「この世界ってなんなんすかね?」

「何って……体験型アトラクション……だろ?」

 このところ忘れかけていた事実。

「でもですよ、こんなのって実現できるんすかね?」

「まあ、俺が知る限りだと、聞いたことは無かったけど……」

 VR技術とか言われだしてはいるが、五感をすべて再現するなんて聞いたこともない。

 そもそも中にいる人達の反応、あれらをプログラムで再現できる訳がない。

「ここって、ゲームの中……なんすかね?」

「そ、それは……」

 今まで深くは考えて来なかった事。どこかで、避けていた思考。


「実はっすね、こっちで彼女ができたんすよ」

 リア充爆発しろ。

「でも期間が過ぎたら帰らなきゃならないじゃないっすか」

 そう……か。

「俺、どうしたらいいっすかね。日本じゃ会えないようないい子なんすよ」

 そんな事聞かれても、俺も困る。というか、なんか頭の中がごちゃごちゃしてくる。

「タダシはいつまでなんだ?」

「あと1ヶ月ほどっすね」

「俺はまだこっちきて1ヶ月経ってないんだ……正直、どういったらいいかわからん」

「……そうっすよね」

「でも、俺も考えてみるよ。何か思いついたら連絡する」

「そ、そうっすか! ありがとうっす!」

 タダシはマルスクランらしかった。アテナでなくて良かった……。



 職安で案内された会社。そこで契約書にサインして、ここに連れてこられた。

 最低三ヶ月は拘束される。

 そう最低だったさはずだ。

 だとすれば、三ヶ月過ぎても強制的に帰らされる訳じゃない……のか?

 しかし、この世界に残るのか?

 というか、このアトラクションが一般開放されたりしないのか……いや、そもそもこの世界はなんだ。アトラクションなんかで済ます事のできないリアリティ。

 どこなんだ、ここは。

 バーチャルで再現されたんじゃなければ……魔法のある世界?

 訳がわからん、どうすればいいんだ。何が正解なんだ。

 深く考えずに三ヶ月過ごし、給料をもらって日本で暮らす。それが正解なのか……。


 結論の出ない思考を繰り返すうちに、クランハウスへと戻っていた。

「ただいまー」

「た、タモツ。わらわは、その、特に何を禁止するとかはないからな、仲良くやってくれたら、それで……」

 しどろもどろになりながら、アラクネ様が取り乱している。一体何の話だ。こっちは難しい問題に直面して混乱しているのに……。

「ちょっと疲れたんで寝ますね、また明日」

 工房のハンモックへと転がった。考えなきゃと思う反面、探索での疲れもあって、すぐに寝入っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] >>最低三ヶ月は拘束される。 >> そう最低だったさはずだ。 >> だとすれば、三ヶ月過ぎても強制的に帰らされる訳じゃない……のか? 『最低だったさはずだ。』 の意味がよく…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ