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新たな人生へと歩み出す

この物語はフィクションです。

作者は特に流通にかかわった事がないので、そんなブラック企業があるかは知りません。

妄想で書いていますので、ご了承ください。

 俺は大手流通会社で働いていた。

 在庫管理と倉庫整理が主な業務。

 年々増加する流通量に品物の種類。仕事量は増加の一途だった。

 その上で会社は、時間指定に翌日配達、さらには即日発送までもをサービスとして提供し、そのくせ人員の増員は行わない。しわ寄せは確実に、現場を蝕んでいた。

 比較的余裕のあるバイトですら、一人、二人と姿を消す。

 残った者はその分の仕事も加算されていく。

 ノルマがこなせなかった場合には、自己責任で追加業務を行わされ、絶対裁ききれない量を押し付けられる。

 残業、休日出勤、泊まり込み……。

 疲れ切っていた俺は、自分でやってはいけないと決めていた事柄すら忘れていた。

 給与を就業時間で割るという行為を。

 時給換算300円以下。

 その事実に俺の心は折れていた。

 

 翌日、目が覚めると出勤時間はとっくに過ぎていて、無断欠勤。

 そのまま事務所に退職する旨を伝えると、あとは流れ作業だ。必要な書類を用意させられ、ハンコをついておしまい。

 最後の給与からはきっちりと無断欠勤分が引かれていた。休日出勤の代休は三か月分溜まっていたのに。もちろん、それを消化することは許されない。

 身も心も擦り切れていた俺は、そのまま三か月をだらだらと消化。気づくと貯金も少なくなっている。

 

 心機一転、新たな一歩を踏み出すべく職安に行ってみた。

 しかし、世の中は世知辛い。ボーダーは34歳に設定されている。俺はすでに38歳。経験なしで雇ってくれる業種は少なく、面接を受けても通ることはなかった……。

 貯金も尽きかけ、職安で仕事を探す余裕すらなくなってきた。

 バイトでその日暮らしをするか、親元に帰るか……。

 色々な事が頭をよぎる中、その求人が目に留まった。

『冒険者求む』

 なんだそれは。

 年齢不問、未経験者歓迎。まかない、宿舎付き。日払いにも対応。月給18万~。

 求人要綱は、代わり映えのしないテンプレ。年齢不問とかいって、平気で年齢で切られるのだ。

 しかし、職種が『冒険者』ってなんだよ。

 ゲームで育った世代としては、気にはなる。冷やかし程度に行ってみるかと思ってしまった。

 

「ああ、これねぇ」

 職安の職員が会社情報が記載されたプリントを見て、俺を見上げた。

「勤務地は遠くて、宿舎へ住むのが条件。一度会社に入ったら、守秘義務の関係で最低三か月は勤務してもらうことになるよ」

 なるほど、色々と付加条件はあるようだ。守秘義務が厳しいとか、何かのモニターとかだろうか。

 まかりなりにも政府の機関である。極端な危険はないはず……。

「その辺は、なんとかなります」

「本当に? 親御さんとかに確認した方がいいよ?」

「もうそんな子供じゃないですよ……」

 心配してくれる50代と思われるバーコードの男性に答えて、連絡先を教えてもらった。


「ここか……」

 電話で連絡すると、いつでも良いから面接をするということで、その日のうちに向かうことにした。残高がそんなに残ってないのだ。

 現場についてみると、よくある雑居ビル。その四階に事務所があるらしい。

 ギシギシきしむエレベーターに乗って、四階に到着すると目の前が事務所のドアだ。インターホンの類もない。

 スチール製の扉を開けると簡素ながら受付があり、30歳くらいの女性が座っていた。結構かわいい。

「いらっしゃいませ」

「あの、電話で連絡した、大木場ですけど……」

「大木場さまですね、伺っています。こちらでお待ちいただけますか?」

 受付嬢に連れられて、間仕切りしただけの応接室に通された。テーブルと二人掛けのソファが二つ。一応、下座の方に掛けて待つ。


「いやぁ、よく来てくれたねぇ」

 待つこと五分、50歳くらいの恰幅の良い男性が現れた。対面のソファに腰を下ろしつつ、人の好さそうな笑みを浮かべている。

「いえ、こちらこそ、今日の応募で会ってくださって感謝します」

「いやいや、今日の今日で来てくれる。その決断力が大事なんですよ」

 生活に余裕がないからとは言いにくい。

「じゃあ、迂遠な挨拶も省きましょう。うちの仕事は聞いてますよね?」

「あの、職安では『冒険者』とあって、詳しくはわかってないんですが……」

「うん、いいね。わからないことは素直に聞く。その姿勢はいいですよ」

 などとこちらをやたらと褒めてくる。

「じゃあ詳しく説明しますね……」

 業務に関しては、体を使ったゲームをやるらしい。開発中なので、守秘義務が発生し、情報漏えいしにくいように、決められた宿舎で最低三か月暮らす事になるらしい。

「情報端末なども一時的に預かることになるので、誰かに連絡するには職員を一度通してもらう必要があります。その辺も大丈夫ですかね?」

 倉庫番生活のうちに、学生時代の友達とは疎遠になっている。職場の同僚には裏切るように辞めてしまってから、一度も連絡はとっていなかった。あれ? 俺ってかなり孤独なのか……。

「だ、大丈夫です」

「うん。あとは健康面も大丈夫そうだね。ゲームの経験なんかは?」

「あ、はい。たぶん、それなりにやってきていると思います」

「文句ないね。それじゃぁ……」

 面接官は、書類を取り出した。内容は先ほどの守秘義務などに関する契約書だ。

「内容を確認して、良ければ下のここにサインしてくれるかな?」

「え、採用……なんですか?」

 思わず聞き返してしまう。面接に進むのも困難で、面接でもそれなりに落とされた身としては、こんなにあっさりと採用が決まることに違和感があった。

「ええ、うちとしては問題ありませんから。貴方が良ければ、採用させていただきます」

 契約書へと目を落とす。内容は先ほどの会話の通り、三か月の拘束期間と守秘義務。連絡も取りにくい状況になること。体を使ったアトラクション業務。問題は特にないように感じる。

「わ、わかりました、お願いします」

 俺はまだ半信半疑でサインした。

 

 名前を書き終わった途端、急激な眠気に襲われた。

「あ、あれ……」

 平衡感覚がおかしくなり、前のめりにテーブルへと倒れ込んだ。



 気づくとそこは、小さな会議室。

 前にはホワイトボードと、32インチほどのモニター。

 長テーブルとパイプ椅子が並んでいる。

 俺のほかには誰もいない。

 窓はなく、出入り口は後方に一つ。

「な、なんだ、ここ……」

 その声に反応したわけではないだろうが、モニターの電源が入る。

 白いシャツを着た男性が映り、一方的に話し始めた。

「この度は、異世界探査に志願してくれてありがたく思う。今回の作戦について説明する」

 唐突な通達。なんだこれは……体感型アトラクション、それがもう始まっているということか?

 俺は面接の後どうしたんだ。

 そんなことを考えるうちに、モニターの説明は進んでいる。

 世界の名前はアトラウト、その中にある迷宮都市サンコートが冒険の舞台。その街の中央にある迷宮を探索することで得られる物、力、情報。そういったものを集めるのが任務。

 10万円相当の銀貨10枚と初期装備品の支給、あとは情報端末が用意されている。

「これか」

 見た目はスマホ。液晶のタッチパネルで、操作が可能だ。

 バッテリーは電気ではなく、使用者の精神エネルギー。ある種のマジックアイテム扱いらしい。

 現地の人間にとっての異世界人、日本人だとはばれない方がよく、情報端末にしてもあまり知られない方が得策だろうという事。

「田舎から出てきた者として、現地に溶け込み、情報を集めて欲しい」

 モニターはそれで映像が終わる。

 後はこの情報端末か。

 さっと触ってみると、編集可能なウェブページに、世界観や貨幣の価値、宿泊施設などの生活に関わる情報などが掲載されているのがわかる。

 それに迷宮内部のマップや生息モンスター。ドロップするアイテムなどなど、ゲームの攻略サイトを思わせる。

「これをみんなで完成させるのがミッションというわけか」

 その成績によって給料が変わる……最低三か月続けて、まとまったお金になる……のか?

 まともな仕事とは思えないが、質問しようにも人はいない。

 モニターの側にも電話などはないし、情報端末も通信機能は備わってなかった。

 相手がいなければ、文句の言いようもないのだ。

「あとはこの着替え」

 現地のものだと思われる簡素な服。ファスナーやボタンもなく、頭から被って革の紐で締める。素材は麻かな、少しざらついた感じだが思ったよりも着心地はいい。ズボンも同じ感じで飾り気はない。色も茶色と質素である。

 そして残っているのが武器。いわゆる西洋剣、刃はそこまで鋭くはなく、重さで叩き切るという奴か。軽く振ってみると、意外と使えそう……なのか?

 何もわからない、誰にも聞けない。頼りにするのは同じく冒険者をやってる仲間が記す情報。

 なるほど、ワクワクする感じはあるな。

 やってみようじゃないか、この体感型アトラクション。


書き始めてしまった……。

他にも書いてるから、こちらは更新が遅いような気もしつつ、生暖かく見守っていただければと思います。

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