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52/53

51:空に落ちる。

2話連続更新です。

「51:キスをして。」をまだお読みでない方は、そちらから先にお読み下さい。


 答えを見つけたくて。

 賭けをしてみた。


 触れられるのが嫌だと思うあたしが、キスを求めて。

 それをすることで、簡単に答えなんて見つかると思った。


 女の子にとっての聖域。


 触れられるのは、好きな人にだけ。


 許されるのは、好きな人だけ。


 じゃあ、佐村は?




 指先に落とされただけで、心臓は跳ね上がる。


 晶子、言ってる意味がわかったよ。


 佐村のバカ。

 なんてやつ。


 こんなの、恋じゃなかったら、なんだというんだ。



「……佐村が、好き」


 言葉にしたら、その感情だけで心が覆いつくされて軽くなった。

 しぼんだ風船にヘリウム入れたような感覚。いっぱいになったら、ふわっと浮いた。


 そっか。言葉にすれば軽くなるって言われたけど、こういうことなんだ。


 なんだよ。あたし、やっぱり佐村が好きなんじゃん。


 込み上がる実感を噛み締める。


 佐村は、何も答えてくれない。


 聞き取られたら恥ずかしいから、自分でさえ聞こえないくらいのつぶやきだった。


 聞こえてなかった?


 もう二度と言う気は無いから。聞こえてなかったら、どうしよう。

 でも、これ以上大きな声でなんて言えない。

 ドラマでよく絶叫告白する人がいるけど、あんなのありえない。あたしには絶対無理だ。


 佐村がどんな表情をしているのか、気になる。でも怖くて顔を上げられない。


 何も言わない佐村。……やっぱり聞こえなかったのかな。


 意を決して、上履きを睨んでいた目を上げる。


 前髪に少し隠れた黒い瞳があたしをじっと見下ろしていた。

 黒目が、夕日の移ろいを映して、揺れる。

 真っ直ぐで真摯で、優しい目。


 あたしを惹きつけて捉える、罠みたいな目。


「聞こえた?」

「聞こえた」


 はあ、とため息をつくから、あたしは戸惑う。

 やっぱり、もう遅かったんだ。

 

「ごめんね……」

「なんであやまんの?」

「だって、あたし、ひどいことばっか言ってるし」


 ふと見せた切なげな表情が、心の奥をつつく。


「本当にお前は嫌なやつだけど」


 暮れなずむ空。教室に差し込む光が黄金色を帯びて、カーテンみたいに揺らめいた。


「やっぱ好きだ」


 呆れたような、感慨深げな声。



 あんなに遠く離れたのに。


 今は、こんなにも、近い。


 近付いた距離を。

 この手に収まるこの距離を。

 もう、きっと手放せない。


「佐村、顔真っ赤」

「お前だって、まっかっか」

「太陽のせいだよ」


 言って、気付く。あたしは太陽に背を向けてるんだから、太陽のせいにはならない。


「……佐村のせいだよ」


 佐村のセーターをつかんで、訴える。

 佐村は楽しそうに笑うから、なんかむかついて、足を踏んづけてやった。


「痛え!」

「気のせいじゃない?」

「気のせいじゃないだろ、思いっきり踏んでるし」


 フフン、と鼻で笑って、じっと佐村の顔をのぞきこむ。


「ね、キスして」

「ぶったまげた口だな。まだ言うか」

「言うよ」


 だって、癖になりそう。

 触れたい触れたいと、心が訴えてくる。


 一瞬見せた佐村の真剣な表情も目を伏せれば見えなくなる。

 まぶたを閉じても、消えないオレンジ色。


 大胆になるのは、きっとあの太陽のせい。


 大きな手が、あたしの髪をすくって、耳の後ろに収まった。


 くすぐったい。

 オレンジに溶けて、空に溶けて、夢の中でゆらゆらしてるみたい。



 そっと触れる。

 柔らかな唇は。


 びりびりと全身を走り抜けて、体から芯を抜き取ったみたいに力を抜けさせた。


 風に混じって、ふわりと広がったのは春の香り。

 柔らかくて優しい風は、愛おしい香りを運んでくれた。







 教室の窓辺。

 広がる空。


 逃げ出したいと、見つめていた。


 本当は――何かを漠然と求めてた。


 よくわからないけど、何かが欲しかった。


 あの空の先に、それがあるような気がしてた。


 でも、落ちて壊れるのが怖くて、何も出来なかった。



 机に乗っかって。

 窓の端をつかんで。

 身を乗り出して。

 思いっきり、蹴りだす。


 背中を押してくれる、優しい人。


 あたしは真っ逆さまに落ちていく。


 だけど。


 地面と空は反転する。

 角度を変えれば、世界もあっさりと姿を変える。



 落下するのは地面じゃない。だから、あたしは壊れない。

 羽は生えてこないから。落ちていくしかないけれど。


 風に吹かれて、心が飛ぶ。

 真っ青な空に。灰色の雲の向こうに。鮮やかに染まる赤の中に。

 風を感じて揺られている。


 羽なんていらない。

 あたしは、あたしのままでいい。

 必要なのは、一握りの勇気だけ。


 

 落ちるのは、空だから。飛んでいるのと同じこと。


 そう。あたしは。





 空に落ちる。




残念ながら、作者の住む地域は曇り空でした。

夕焼けは拝めなさそうです(笑)


次で最終回です。

明日0〜3時ごろ更新を予定しています。

明日といっても、あと8時間後くらいですね(^^)

では、また夜にお会いしましょう!


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