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46:気持ちを軽くする方法。

 四月二十九日は昭和の日でお休みだ。

 あたしはその休みを利用して美容院へとやって来た。

 最近大人気の美容院みたいで、空いてる時間を聞いて、なんとか予約できた。


 店内に足を踏み入れると、美容院独特の白い光に目が眩む。

 白シャツにベスト、黒パンツの美容師さん達がにこやかに「いらっしゃいませ」と声をかけてくれた。


 祝日とあって客は多い。すべての椅子に人が座っていて、皆てるてるぼうずみたいな格好で髪を切られたり、ブローされたり。


 店内を見渡していると、巨体な人がぬっと現れて、思わず声をあげそうになった。


 でかっ! こわっ!


 ソフトモヒカンというのだろうか、逆立った髪の毛は、不思議色。耳につけた骸骨ピアスがじゃらんじゃらん揺れていて、パイレーツオブカリビアンを思い出してしまった。


 ……あの人も美容師? あたしの担当になったらどうしよう……。


 嫌な汗をかいていたら、爽やかな笑顔の男の人が近寄ってきた。


「今日担当する、店長の山下海渡です。よろしくね」


 よ、よかった。モヒカンの人じゃない……。




 ***


 店長さんはシャカシャカと無駄の無い動きではさみを動かしていく。

 長さは変えないで軽くしてくださいとだけ頼んだ。

 ばっさり切るつもりはない。

 ここまでのばすのにどれだけの時間がかかったか。もったいないじゃないか。


 鏡越しに、モヒカンさんの後姿が見える。ものすっごい気になって、彼を目で追ってしまう。


「ゴールデンウィークはどこか行くんですか?」


 柔らかい声色がはさみの音に混じって聞こえてきて、あたしははっと我に返った。


「あ、もう行きました。日光に……」

「家族と?」


 鏡越しに目が合う。切れ長の瞳がかっこいい。この人、もてるんだろうな。

 目が合っただけでころっとやられそうな、色気のある目をしてる。

 男の人に色気っていうのも変だけど。


「いえ、ええと……」


 佐村は一体、あたしの何? 友達、ではない気がする。もちろん彼氏じゃないし。


「クラスメートと……」

「ああ、グループ旅行。いいですね、楽しそう」

「あ、二人で」


 グループ旅行ってことにしとけばいいじゃん。追求されたらどう答えるんだ。クラスメートの男と二人で旅行って、なにそれ。


「二人旅かあ。僕も行く予定なんですよ」

「彼女さんと?」


 こんなかっこいい人ならいて当たり前だろう。

 鏡に映るあたしはニコニコ笑顔だ。たぶん、店長さんにつられた。

 ふと見せる嬉しそうな表情。接客用の笑顔じゃない、素の少し照れた笑顔。

 はさみの音を響かせながら、店長さんは幸せそうな顔を一瞬見せた。


「いえ、友人と」


 とか言ってるけど、いるんだろうな。彼女。


「いいな」


 無意識に出た言葉。羨ましかったというよりは……素直な感想だった。

 きっと素敵な彼女さんなんだろうな、って思える柔らかな微笑み。


「店長さんは、恋愛って怖くなったりしないですか」


 年上の男の人。周りにはいない大人の男の人が、どんな答えをくれるのか興味が湧いて、つぶやいていた。

 はさみの音が止まって、店長さんは一度天井を仰いだ。


「怖いこともありますよ。ちょっとしたことでいらいらしたり、むかついたり。喧嘩もしますし。でも嬉しかったことの方が多いかな」


 いいな、とやっぱり思った。

 こんな風に誰かと一緒にいることを幸せそうに話せる店長さんが。

 愛されてる、彼女さんが。


 顔に出さないようにしてるけど、溢れでる幸せオーラ。

 こっちまでにんまりしてきちゃいそう。


「はい、終わり。触ってみて下さい」


 いつの間にかカットは終わっていて、後ろに鏡を差し出される。

 重たかった髪の毛が軽い。指を通すと、もっさりとしていた髪がさらさらと流れた。


「軽くなったでしょ? 少し乾燥しやすい髪の毛だから、水分を補充するタイプのトリートメントを使うといいですよ」

「あの……気持ちを軽くする方法って無いですか?」


 ……なんじゃそりゃ。美容院に来て髪の毛軽くしてもらうだけじゃなく、気持ちを軽くしてくださいって、あほ? あたしはあほ?


 変なことを口走った手前、あたしは気味の悪い笑顔を浮かべ、どこを向けたらいいのかわからなくなった目線を鏡の向こうにいるモヒカンさんに向ける。


 モヒカンさんが、ちょっと恋しくなってきた……。

 だんだん斜めになってくモヒカンが、ちょっとかわいいし。


 鏡に映った店長さんは目を丸くしていたが、こぼれるような笑みを見せた。


「言葉にすればいいと思いますよ」

「言葉?」

「そう。言いたいことを言えば、軽くなるんじゃないかな」


 うなずいたら、鼻がフン、と鳴ってしまった。

 ……恥ずかしい。





今回、「はじめての×××。」参加作品「Shorty!〜僕の彼女〜」(風海南都さん作)から海渡店長とロボをお借りしました。


ロボは後姿だけの出演ですが(笑)、私、ロボが大のお気に入りです!

モヒカン部分をチョップして二つに割ってあげたいっ


時系列的には、GW中ですので、「旅行計画」と「佐伯ビーム」の回の間辺りでしょうか。

海渡店長と花ちゃんの旅行前です。

二人の旅行は本当に面白いです。おじいちゃんの髪を切ってあげる海渡店長のエピソードで涙したり、花ちゃん一族の魅力で笑い転げたり……。

もうすでに読んでらっしゃる方も多いと思いますが、ぜひもう一度!

何度読んでも面白いのです(^^)


風海さん、出演の許可、ありがとうございました!



明日も0〜3時更新予定です。

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