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32:君がいた。

「じょ、冗談でしょ。やめてよ」


 どこからか風が入り込んでいるのだろうか。前かがみになった佐村の浴衣がふわふわと揺れていた。

 その度に佐村の胸板が目に入って、落ち着かない。


 熱を帯びた顔をなでる冷たい風は心地いいはずなのに、パニくった脳みそはそれを感知することが出来ない。


「冗談でこんなこと言うか」

「……どっきりでしょ?」

「カメラなんて用意してねえよ」


 かちんこちんに固まってしまったあたしは、指先ひとつ動かせず、佐村と目が合わないようにひたすら目だけを泳がせる。

 頭の中では、「いやいや、んなばかな」「佐村の得意のギャグだって」「まじなの? 嘘でしょ?」と何人ものあたしが言い合いを始めてしまっている。


「もう一回言った方がいい?」

「いいいいい言わなくていい!」


 暗闇の中では佐村の表情は読み取れない。

 おちょくったような口調だから、もしかしたらやっぱりあたしをからかっているのかもしれない。


「な、なんで」

「なにが?」


 布団にもぐったあたしと、あたしの顔をのぞき込むように体を向けた佐村との距離は近すぎて、口から心臓が飛び出てきそうだ。

 横を見ると、佐村の腕があたしの顔の真横にまだ置かれていて、ぎょっとする。


「なんでそうなるの!?」

「何度も言ってんだろ。気になったって」

「まじだったの!?」


 声がうわずって唇が震える。そんなバカな、と繰り返すもう一人のあたしは黙る気配は無い。


「まじだっつーの」

「変だよ、なんでそうなるの!」

「そういうもんだろ、こういうのは」


 そういうもんなの!? と声高らかに叫びそうになって口をつぐむ。

 テンパリすぎ。冷静になれ。


 頭の中で手の平に「人、人、人」となぞり、飲み込む。


 スウハア、と何度も深呼吸を繰り返してみて、吐く息が微妙に震えているのに気付く。

 ちっとも冷静になんかなれやしない。


 もしかしたら、と思うことなんて何度もあったのに。

 なのに、実際に言葉にされたら、こんなにも動揺してしまうものなんだ。


 速くなる心臓の音と、どんどん加熱していく頬の熱。

 救心でも飲まないと、脈拍上がりすぎと熱の上がりすぎで死んでしまうんじゃないか、と馬鹿げた考えがよぎる。

 とうとう頭までおかしくなったらしい。


「夕方の教室で竹永がひとりで空を眺めてる後姿見たら、やられた」

「じゃあ! あの時にいた人があたしじゃなかったら、その人に惚れてたんじゃないの」


 口をついて出た言葉に、自分で驚いた。


 なにそれ。ひねくれすぎてる。


「でも、竹永がいた」


 目をつぶるその瞬間。眼前に漂うオレンジ色の光。


 クレヨンで描いたみたいな教室の光景がよぎって、闇夜に消えていく。


「あたしじゃ、なくても、佐村は優しくするでしょ……」


「俺はそんなに優しくねえよ」



 教室のドアにもたれかかって。あたしを見る佐村の目は。


 これでもかと優しくて、真剣だった。


 佐村の白いシャツをオレンジに染める太陽の光が、まぶたの裏で閃光になって走る。


「優しくする人間なんて、一人で充分だろ」



 そんな優しい佐村を、振り回してばかりのあたし。



 佐村へのこの感情を、どう言葉にしていいかもわからず。


 ぐわりと押し寄せる熱い涙。 



 こぼれて、砕ける。



 ……雨が降る。杉の木が泣く。ぼたぼたと音を立て、葉から落ちてく涙雨。


 手を差し伸べてくれた。


 触れた瞬間、波打ったこの思い。



 ――だけど。



「……ごめん」




 この思いが、恋だとは思えなかったんだ。




おはようございます!

今起きました!


更新遅くなってしまい申し訳ありません……

明日の更新も0〜3時を予定しています。


では! また寝ます!

おやすみなさい!

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