30:歩いてく、その道に。
あたしに背を向けていた佐村。もそもそと動いて、あたしの方へと体を向けた。
あたしもその動きに合わせて、自分の布団に体を戻す。
布団に潜り込み、天井を仰ぐ。
長方形に切り取られた空が眼前に広がっていた。
佐村の視線を感じる。
佐村が寝てたら「つまらない」と思うくせに、起きてたら起きてたでこの状況は気まずくて戸惑う。
いつの間にか階下から聞こえた客の声も無くなって、風の音と鳥の鳴き声しか聞こえない。
暗がりの下、あたしは沈黙を破る話題を探す。
「……佐村はどこの大学に行くの?」
「秘密」
「教えてくれたっていいじゃん」
口を尖らせ不平を述べる。佐村は笑うだけで、教える気はやっぱりゼロみたいだ。
「佐村が羨ましいよ。行きたい大学も決まってて、ちゃんとまっすぐ進んでる」
「そういう風に見える?」
「見えるよ」
あたしとは全然違う。佐村の生き様は、かっこいい。あたしの生き様は無様だ。
あっちに進んでは間違ったと引き返し、こっちに進んではうろうろし、そっちに進んでは、立ち止まる。
普通に歩くことさえままならない。
「俺だって、迷ってるよ」
漆黒に飲まれていくような優しい声。
「俺が行こうとしてる学部は、将来の役に立つようなもんじゃねえし。ただ好きだから行きたいだけ。就職のこととか考えたら、俺の選択は間違ってる」
親にも色々言われてるよ、と自嘲する笑い声が聞こえた。
「でも俺は俺の道を進みたいし。間違った選択でも、自分が選んだ道だから文句はねえよ」
そういう風に言える佐村が、心底羨ましいよ。
「竹永が思ってるような人間じゃないよ、俺は。顔に出さないだけで、いつも迷ってるし悩んでるし、びびってる。でも、それでいいじゃねーの? と、思うけど」
それでも。
あたしはやっぱり佐村に憧れる。
そう言う風に素直な言葉を吐ける佐村を、心から尊敬する。
じわりと目の奥が熱くなる。
目の前に広がる空が、淡くかすんでいく。
「まだ迷ってるなら、迷いまくればいいんだ。その内、見つかる。あせらなくていいだろ」
そうなのかな。そういうもんなのかな。
「俺も進路決めたのつい最近だぜ。大学行ってからだって、悩む時間はあるんだし。とりあえずは好きなこととかやりたいことを探せばいい。その延長線上に将来があるんじゃねえの?」
あたしは……
佐村に悩みを打ち明けていないのに。
迷ってるあたしを、どこで見つけたの?
言葉の端々から、見つけてくれたの?
あたしが欲しい言葉を、どうして言ってくれるの?
「ゆっくり見つければいいんだよ」
今見つからなくても、ずっと先の未来に見つかるかもしれないから。
大学に行って見つからなくても、働き出してからだって見つけることは出来るから。
少しずつ少しずつ歩んでいけば、足元に落ちてるキラキラした結晶に気付くんだ。
それは過去に。現在に。未来に。
落ちている。
振り返って見つけるかもしれない。
足元を見て見つけるかもしれない。
遠い道の先に見つけるかもしれない。
あたしは。
闇雲になって、むやみやたらにきょろきょろして、じっくり見据えることを忘れていたんだ。
佐村の言葉は、いつだってあたしの心をまっすぐに射抜いてく。
信じさせるパワーを持ってる。
「うん……」
嗚咽交じりになる声が恥ずかしくて、あたしは布団に顔をうずめた。
今こんな風に思い悩んでいることも、大人になって振り返ったらきっと笑えるんだろう。
あの時のあたしは、ほんとにちっぽけなことで悩んでいたと。
もしかしたら、同じことで悩んで、あの時と変わらないなと笑うのかもしれない。
どんな感情だって、時を過ぎれば笑い事。
苦しさも辛さも切なさも、きっといつか笑える日が来る。
頑張ろう。
あたしも。
佐村みたいに、笑って話せるように。
誰かに力を与えられる人間になりたい。
佐村みたいに、なりたい。
社会人になったとき、ふと中学の卒業の時に書いてもらったサイン帳を読み返したことがあります。(サイン帳が流行ったんですよ。懐かしい笑)
驚いたことに、その時に書いてもらった「将来なりたい職業」に実際に就いた人が多かったんです。
私もそのひとりだったりして(笑)
中学の頃この職業に憧れてたっけ、とその時やっと思い出しました。
あれやりたい、これやりたいと、あっちへふらふらこっちへふらふらしてたのに、結局選んだ職業は、昔からの夢だったんです。
この物語の主人公のように、どう進めばいいのかわからなくなった時、昔の自分を顧みてみると、意外と見えてくるものがあるかもしれません。
たまにはちょっといい話をしてみました(^^)
はずかしっ
明日はお休みします。
次回の更新はあさって4月10日0〜3時の予定です。
風海南都さん作「Shorty!〜僕の彼女〜」に佐村が出演してます。
「旅行計画」の回です。
ステキすぎる海渡店長とかわいすぎる花ちゃんの微笑ましい恋愛模様を描かれています。
ニマニマしたりはなぢぶーしながら読める、とんでもなく惹きこまれる物語です。
エケッコーに大注目して読むと、いっそう楽しめるはずです(笑)
少しの期間だけリンクを貼っておきますので、まだ読んだことのない方はぜひ一読をおすすめします!