表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/53

26:空を見てる。

 佐村の伯父さんが作ってくれた料理は本当においしかった。

 オーソドックスな内容だけど、だからこそ良し悪しがわかる。


 カリカリベーコンがのったサラダも、トマトの味を存分に活かしたミネストローネも、ほどよくこしょうの利いたステーキも、ほくほくのフランスパンも。ほっぺが落ちるほどおいしかった。

 最後に出たデザートはラズベリーのムース。

 これも嫌味のない甘さとすっきりとした酸味が程よく混じあい、絶妙な味だった。



――満腹で幸せな気分に浸ってしまったのがいけなかったんだ。




 ***



「郁ちゃんてさ、顔怖いよ」

「むすっとしすぎ」

「もっと笑えばいいのに」


 二年の時だったか。

 何の話題の延長か、あたしの話になった。

 あたしを取り囲む友達は、別に悪気があったわけじゃない。

 純粋に、あたしの悪いところを指摘してくれたのだ。


 あたしは、友達がすぐに出来るタイプじゃない。

 積極的な人間ではないから、友達を作る時だって向こうから話しかけてきてっていうパターンが多い。


 社交性が低い、その自覚はある。

 ただ、いじめにあうようなことはなかったし、それなりにうまく立ち回れる。敵を作るタイプでもない。


 だからこそ、もっと笑えば交友関係も広まるのに、という友達の心配だった。


 けれど、本当のことっていうのは、指摘されるとぐさりと刺さる。

 無愛想で表情のないつまらない人間だと、自分でわかっているからこそ、友達の言葉が痛かった。


 人と距離を置いていくのは寂しい。だけど、近付くのが怖いことだってある。


 三年生になって、あたしの心のネジはぼろりとはずれてしまったのかもしれない。


 頑張れば広がる人間関係を、億劫だと思ってしまった。


 ぽつんと、隔離されたあたしの席。


 誰も、あたしをシカトしようとしてるわけじゃない。あたしが作ったバリアに踏み込めないだけだ。


 佐村の笑い声。

 うるさい、笑い声。

 土足で踏み込んでくるみたいな、不躾な笑い声。

 がんがんと響いて、頭が割れそうになる。


 静かな、誰もいない夕暮れの教室。


 それは、あたしにとっての聖域だった。


 一人でいても苦しくない、寂しくない時間。


 オレンジ色で染まる教室の中で、佐村は柔らかな笑顔をくれる。


 佐村を嫌うことで保っていた均衡が、ゆるやかに崩れる。


 予鈴の音がする。


 シャーペンが転がる、音。


「上の空」


 佐村の声が、頭上をかすっていく。


「お前、いつもどこ見てんの」


――空を。



 空を見てる。透き通るみたいに真っ青な空に溶けていく姿を想像してる。

 羽が生えて、この窮屈な教室から飛び出すことを望んでる。


 あたしの背中に羽根なんか無い。


 どこにも飛んでいけないことを、知ってる。



 なのに。


 捨て切れない。

 どこかに行ってしまいたいという、この切望を捨てることが出来ない。



『どこかに行こうか』


 ルーズリーフの紙切れが、風で揺れた。





「竹永!」


 がばっと起き上がる。

 木の香りが鼻をつき、にんまり笑うウサギが目に映った。


 ……ぬいぐるみが、目の前にいた。


「あ、れ?」


 いつの間にかソファーの上で寝てしまっていたらしい。

 夕飯をご馳走になった後、ダイニングで寛いでいたのは覚えているんだけど、いつ寝てしまったんだろう。


 ペンションの泊り客が廊下でがやがやとしゃべっているのが聞こえる。


 ぐしゃぐしゃになった髪の毛を手ぐしで直しながら目線を上げると、佐村が少し焦った顔をして立っていた。


「竹永、もうそろそろ電車に乗らないと終電に間に合わないんだけど」

「嘘!」

「何度も起こそうとしてるのに、全然起きねえし」

「ご、ごめん」


 ウサギの時計を見る。もうすぐ21時を回ろうとしていた。


「泊まっていっちゃえばいいじゃなーい。明日も休みでしょ」


 ダイニングの奥にあるキッチンから、伯母さんののん気な声が聞こえた。


 泊まりって、さすがにそれはまずいよ。

 怒られるに決まってる。しかも、男の子と一緒なんてことがばれたら、どんなことになるか!


「すぐ用意する」


 慌てて立ち上がった拍子で浴衣のすそを踏んでしまい、こけそうになる。

 佐村が「そんなに慌てるなって」と言ってる横で、いつの間にか畳んで置いてあった服をつかんだ。


「あの、着替え、どこですればいいですか?」

「お風呂場が開いてるわよ」


 伯父さんとおそろいのエプロンをつけた伯母さんが、エプロンで手を拭きながらキッチンから出てきた。


「急いでね」

「はい」








私自身、入学してすぐ友達作りが億劫になった時期があります(笑)

高校からの友達がいたため、その子と行動してたのですが、二人ともやる気が無くて、1ヶ月近く二人だけ。

毎日一緒にいると会話も無く、「倦怠期だね。これを乗り越えたらいい夫婦になれるよ」と言い合っていました(女同士ですが笑)


研修旅行がきっかけで友達は出来ましたが、友達と倦怠期を経験するとは思いませんでした(笑)


入学式や入社式を迎える方も多いと思いますが、素敵な友達や仲間と出会えることを願っています(^^)


明日の更新は0〜3時を予定しています。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ