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9:少女マンガの一場面。

 電光掲示板に映し出された緑色の数字が、九時十分を過ぎたころ。

 佐村は未だ来ない。


 まさか日にちを間違ってるんじゃないだろうか。四月の終わりの休みとしか話してないし、あれ以降、待ち合わせの時間と待ち合わせ場所しか決めてない。

 誘ってきたのはあいつのくせに、忘れてる?


 もし忘れてんなら、覚えてろよ……


 佐村を叩いてる姿を想像し、「馬鹿らしい」と頭を振る。


 もうすぐ来るだろう。あと五分待って来なかったら、本屋に寄って帰ればいい。


 鼻息で肺に溜まった空気を吐き出し、いじっていたケータイを閉じる。

 

 人の流れがまた押し寄せてくる。電車が止まったのだろう。

 JRの改札に目を向けると、クシャクシャ頭が見え隠れしているのを発見した。


 佐村だ。


 みどりの窓口に向けられた目は、なかなかあたしを見つけられないでいるのか、右往左往している。

 あたしは佐村に気付いているくせに、佐村に「ここにいるよ」と合図は送らない。


 意地っ張りで、本音は吐かない。そんなあたしは、もしかしたら、ものすごく世渡りが下手なのかもしれない。


 走ったのか、息が上がってる。眉間にしわを寄せて、キョロキョロとする佐村。

 普段、見たこともない佐村の、焦った顔。

 なんだか優越感。佐村は、あたしを見つけられなくて、焦ってる。


 素直に、嬉しい。



「いた!」


 やっとあたしを見つけられたのか、佐村が満面の笑みをあたしに向けた。


「遅刻」


 腕時計を指して、十分の遅れを教えてやると、佐村は恐縮したように頭を下げた。そして、小走りであたしの元へ駆け寄ってくる。


「ごめん、待っただろ」


 少女マンガの待ち合わせ場面みたいで、笑いが込み上げてくる。ありがち過ぎる。

 ここで、「ううん、待ってないよ」とか答えるのが、定番なんだろうけど。


「待ちくたびれた。お昼、おごってよ」


 あたしからそんな甘い言葉は出てこない。


「う、マックで許せ」

「嫌」

「お前、やっぱ冷たいやつ」

「遅刻したくせに」

「悪かったって」


 自分の非をわかってる佐村は困った顔をして、叱られた犬のような顔を向けてくる。

 ちょっとだけかわいいと思ってしまったことは、胸に秘めておこう。


「なに、ニマニマしてんだよ」


 顔に出てしまっていたらしい。


「うるさい」

「怪しいな」

「うるさい、行くよ」


 佐村は楽しそうに笑って、「じゃ、行くか」とあたしに背を向けて歩き出した。

 

 どうしてなのかわからないけど、佐村の背中をついじっと眺めてしまう。


――不思議。


 ずっと関わりのなかった佐村とこうして出かけようとしてることが。ものすごく、不思議。

 ただ、隣の席になっただけで。

 たまたま、あの夕焼けの中で「どこかに行きたい」とつぶやいただけで。


 こんなことが起こってる。


 佐村は、一度振り返り、あたしに笑いかけてくる。


「行くぞ?」

「――うん」


 ストライプ柄の白いシャツ。いいかんじにくたびれたブラックジーンズ。佐村の私服姿を眺めながら、制服ばかりだった日常が、がらりと音を立て崩壊していくのを感じた。


 ただのクラスメート。そこから一歩抜け出した、今日。


 照りだした白い太陽がキラキラとまぶしく輝く。

 目を細め、青空に見入る。光の粒の中に、佐村の背中が溶けていく。

 

「竹永、怒ってんの?」


 歩き出さないあたしに気付いたのか、佐村は歩を止めて、あたしの元へ近付いてきた。


「怒ってるよ」

「まじで」

「まじだ」

「まじか」


 あたしの表情は、きっと怒ってない。だから佐村も、さっきまでの神妙な顔はしていない。


「でも、行くよ」


 佐村の下へ、歩いてく。


 それは、あたしと佐村の心の距離さえも縮めていくかのようだった。




すいません!3時過ぎました(;_;)

明日は0〜3時にきっちり更新します……

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