アットホームな職場
ある日、いつものように派遣会社から打診がきた。
「下町にある、アットホームな会社ですよ」
ちょうど前回の派遣契約が切れて、そろそろまた働こうと思っていたところだった。私は受けてみることにし、採用も決まり働き始めた。
働きだすと私の部署は私を入れて四人。
初老の男性の方と、30代くらいの女性と大卒の若い女性。
皆にこにこと迎えてくれた。
働きはじめた初日、就任祝いということで四人でカキフライ専門店に行ったのを覚えている。皆して私を会話にいれようとする雰囲気に、なるほど、アットホームだと思った。
が、二日後、三日後とランチの時間になると三人の方は「今日のお昼は何にしましょう」と嬉しそうに私に語りかけた。
一週間程経った頃、私のお財布は限界をむかえた。
私は派遣社員。
毎日毎日、千円もするランチに付き合うのは無理だった。
いつものようランチに誘われた時、私は断った。
「すいません、今日はコンビニで何か買ってきます」
と。
その瞬間のことをよく覚えている。
三人とも目を丸くして、私の言葉が理解できない、そんな顔だった。
「そう...」
三人はいそいそとランチに出てしまった。
その翌日、またランチに誘われたが断った。
明らかに不満の色が顔に広がり、私を見る目に冷たさが走った。
アットホームな職場が、豹変した瞬間だった。
翌日から、私はランチに誘われず、業務もギクシャクとしていった。
一ヶ月後、仮契約が終わった時、会社側も私も更新を申し出なかった。
私も協調性が少しなかったかもしれない。
しかし、毎日みんなでランチ、そんなことが必要とされる"アットホームな会社"いまでもあの会社で働けなかったのはしようがないし私には無理だった、と思う。