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彼女はいつも急いでいた

またもカラオケ屋で働く機会があった。


シフト制のアルバイトで朝と夜があり私は基本朝、人が足りなかったら夜も出勤という形になった。


朝のバイトは二人。

私ともう一人の女性で、共に週5日、年齢も一緒。

毎日顔を会わせていれば、自然と仲良くなる。


彼女はとても女性らしい人だった。

あまり人の話を聞かずどんどんと自分の話をしていく。


彼氏のこと、ファッションのこと、化粧品のこと。

彼女の話は止まらなかった。


私は人の話を聞くのが好きな方だったので特に苦痛も感じず彼女の話を聞いていた。


そのうち彼女の特性に気付いた。

どうも彼女はいつも急いでいるのだ。


朝の仕事内容は接客は当然として、忙しい夜の仕事のために簡単な調理業務があった。


枝豆を茹でる。

もう茹であげあなくちゃ。


彼女の茹でた枝豆は大概少し固い。



唐揚げを作る。

もう取り出さなくちゃ。


彼女の作った唐揚げは大概少し味が薄い。



レモンの輪切りを作っておく。

いっぱい作っておかなくちゃ。


彼女の切ったレモンは大概少し薄っぺらい。



私は夜の部にも出ていた。

苦情は当然朝からいる私にくる。


「はぁ、気を付けます」


彼女にその旨を伝える。


「ごめんね」


だけど彼女は変わらない。

相変わらず急いでいて、帰る時さえも急いで帰っていく。


ちょっと困ったな、私がそう感じていた時、彼女は彼氏の話を始めた。


古い記憶なので詳しいところは曖昧だ。


確か彼氏は鉄道関係の仕事をしていて、数ヵ月後の試験か何かに受かったら車掌さんになれる、そんな話だった。


そして車掌さんになったら結婚するの、と言っていた。


このカラオケ屋の仕事も結婚資金のため、と。


まだ二十歳そこいらの私には結婚など現実味のない話だった。


追いうちをかけるように彼女は言った。


先にこっそり妊娠しちゃおうと思うの。

子供が出来たら、直ぐに結婚できるでしょ?


と。

私は呆然としながら考えていた。

さすがにそれはまずいのではないか。

この人は何をそんなに生き急いでるんだ・・・?



その後も彼女は急いでいた。


新作のコスメが出た、買わなくちゃ。

今日は彼氏に会う、急いで帰らなくちゃ。

妊娠しない、もっと何回も身体を交えなくちゃ。



だんだんと彼女への対応で頭を悩ませていた時。


いつもバタバタとやってくる彼女が職場に来なかった。

どうしたんだろう?

疑問に思っても一人で接客をしなければいけない。

電車が遅れてるのかな?

私は一人仕事を続けた。


数時間後、やっと彼女が来た。

泣いていた。


私が理由を問うより、やはり彼女が先に口を開いた。


彼氏に、結婚はまだ出来ないと言われたこと。

その言葉を聞いて別れを告げてきたこと。

次の相手をみつけたいから、バイト先を変えること。


私がフォローなりなぐさめたりする暇もなかった。


もう来ないから、そう言って彼女は急いで帰っていってしまった。



数ヵ月後、彼女からメールが届いた。

新たな彼を見つけ、結婚したとのことだった。

相変わらず早いなぁ、そんなことを思いながらおめでとうといった返信を送った。


それきり、連絡を取り合うことはなかった。


彼女が何をそんなに急いでいたのか、いまだに分からないままだ。


読んで頂きありがとうございます!

感想なり評価なり頂けると嬉しいです!

エッセイ内には入れませんでしたが、こぼれ話があります。

彼女が突然辞めてしまったので、私が社員の方に怒られました。

理不尽な話だ。

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