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だんな様は庭師です

作者: 甲斐月誠子

「……?」

 大きく目を見開いて、友人であり、この国の王妃でもある実恵子様は口をパクパクさせた。

「子供ができたって……結婚してまだ2か月……早すぎでしょ?」

 呆れたような彼女の言葉に、私は苦笑を浮かべてしまう。

「でも、彼と出会ってからなら、5年以上経ってますよ?

 それに、結婚3か月後に妊娠が判明していた王妃様も、あまり人のことを言えないと思いますけど?」

 その言葉に、実恵子様は宙に視線をさまよわせた。

 ちなみに、昨年即位された現国王夫妻には、現在3歳になる王子と1歳になる王女がいます。

「私から言わせてもらうと、どちらも大差ないわよ?

 アリアさんを選んだカルロも、ギル……陛下が選んだ実恵子様も、二人とも案外、押しに弱かった性格も似ているかしらね?」

 含み笑いを隠さないアントシュ公爵令嬢キャサリン様の言葉に、私は実恵子様と顔を合わせ、お互いが微妙に顔を赤くしていることに気付いてうつむいてしまいました。

 キャサリン様は、かつて、ギルバート国王陛下の婚約者でした(私たちがこの世界に落ちた時、まだ一応婚約中だった?)が、キャサリン様と陛下の婚約破棄に関連してはいろいろあったそうです。

 詳しいことは知らないけど、婚約破棄の発表と、実恵子様と陛下の婚約発表がほぼ同時に行われたため、さらにいろいろあったそうです。

 その辺のもろもろの企みを潰したのは主にキャサリン様で、陛下も実恵子様も、後から簡単な結末だけを聞かされ、ほぼ関係することなく終わったとか。

 なお、婚約破棄はキャサリン様の事情によるものであり、実恵子様とは一切関係ありません。

 実恵子様が公爵家から王宮へ保護を移した後で、数名の実恵子様の婚約者候補についてキャサリン様から説明を受ける際、キャサリン様が婚約破棄を決めた理由を聞いてますから、確かです。 

 実恵子様が陛下(当時は王太子殿下)と結婚されてからも、実恵子様とキャサリン様のお二人で、王宮内で頻繁にお茶会をされる程度に仲が良いです。あ、キャサリン様は今も独身です。

 今日は、キャサリン様主催で、3人で公爵家の客間の一室でお茶会をしています。





 私と実恵子様がこの世界で保護されたのは、17歳だった約5年前のこと。

 あ、私たち二人は、元の世界でも友人関係にありました。

 元の世界ではいろいろあったのですけど、向こうでの最後の記憶は、実恵子様と一緒に乗っていた車に背後からの衝撃でした。多分、事故にあったのだと思います。

 私の第一発見者が、当時公爵家で庭師見習いとして働いていた当時14歳のカルロで、私は公爵家の庭に高校の制服を着たまま意識がない状態で発見されたそうです。……で、カルロが私に一目ぼれし、同時期に屋敷内で保護された実恵子様が、王宮へ保護を移すと決まったころには、……その。

 本来は、実恵子様と一緒に、私も、王宮へ保護を移すはずだったのですけど……。

 ええ、年下のはずのカルロの情熱にほだされました。

 ぶっちゃけ、私もカルロ以外の相手を考えられなくなってました。

 ……で、気付いた時には婚約してまして。

 婚約者が決まり、私も公爵家で菓子職人見習いと秘書見習い的な仕事をすることが決まったため、キャサリン様が王宮と相談され、私はそのまま公爵家の保護を受けることになっていました。

 えっと、この世界では、過去にも異世界の人間を保護したことがあり、異世界人は王宮で保護するのが基本だそうです。

 私は王都の外に出たことがないので詳しいことはわかりませんけど、魔物はそれなりにいるし、元の世界よりも命が安いというか……。後、異世界人はこの世界に落ちるとき(?)に魔法を使うための魔力を得る人が多いのも、保護の理由の一つだとか……。

 はい、この世界、剣と魔法の世界、らしいです。

 防御系の魔法に適性が高かったという実恵子様と違い、ほとんど魔力を持たず、戦闘系の技量に適性を持たない、すでに婚約していた私は、王宮で保護を受ける理由が薄かったともいえますけど。

 もともと、王宮で保護される期間は婚約者が決定するまでで、王宮で保護される理由も、できれば異世界人には、貴族や王族と結婚して欲しいという、この世界側の思惑も隠れていると、キャサリン様から伺いました。

 基本、婚約者が決まるまではいろいろ周囲がうるさくなるそうですけど、結婚後はぴったりと静まるのだとか。

 私ですか?

 結婚するまで、基本的に王都にある公爵家の敷地から外に出たことがありませんから、うるさかったかどうかは不明です。

 公爵家の敷地自体、かなり広いんですよ。だから、お庭を散歩するだけで結構な運動になりますから、婚約時代、お菓子の食べすぎで運動不足というのは避けられました。

 ちなみに、公爵家の表門から玄関まで、徒歩だと30分はかかります。馬車などは玄関前に止めるのが基本です。




 え? 現在の私の仕事、ですか?

 婚約時代は、元の世界のお菓子をこちらで再現し、レシピを作り上げるために全力をつくしていましたね。

 結婚直前までレシピ作成に時間がかかるとは、私も考えていませんでしたし、キャサリン様も想定外だったと思いますけど……ちなみに、時間がかかった理由ですが、私が、元の世界ではお菓子作りが大好きで、こちらの世界には、お菓子(ケーキの種類等)がほとんどなかったからです。食事(和食やイタリアン、その他いろいろ)は、過去の異世界人から伝えられて充実していたけど、お菓子系はほとんどないに等しい状況、……遠い目になる程度に、再現するのは大変でした。

 とりあえず、レシピは公爵家を通じていろいろなところに伝えられるそう(表に出るのは、主に公爵家の料理長です)で、私の手から離れまして。現在は、キャサリン様の秘書的な仕事を学んでいる最中です。

 だんな様と一緒に、公爵家で住み込みで働いています。




「どうしたの? 顔がゆるんでるわよ?」

 実恵子様から声をかけられて、私は我にかえりました。どうやら、これまでのことを思い返している間に結構な時間が経過していたようです。キャサリン様もどこか楽しそうな笑みを浮かべて、私のことを見ています。

「いえ……カルロと出会えて、幸せだなぁって、え……えっとっ!」

 ……自爆しました。多分、今の私は耳まで真っ赤になっているかと……。

「あー。愛しのだんな様が庭で仕事をしているものね。新婚だし、だんな様のことが気になっても仕方ないわよねー」

 ……キャサリン様が、楽しそうに追い打ちをかけてきます。

 今日のお茶会は、公爵家の2階にある客間の一つで行われています。バルコニーから庭を眺めることができるので、お二人も私が先ほどから何に気付いて心が別の場所に飛んでいたか、理由に気付いたのでしょう。

「……幸せそうで安心したわ、アリア」

 不意に、実恵子様がそ呟きました。

「こちらへ落ちる前にいろいろあったでしょう? 多分、当事者のわたくし以上に、アリア、あなたのほうが同年代の異性に不信感を抱いていました。

 ただ、わたくしの諦めが早かっただけだったのかもしれないけれど……だから、この世界でさっさと伴侶を見つけたアリアを見て、相手のカルロ君が、年下だけど信頼できる男性だってわかって……ほっとしていたの。

 カルロ君ね。わたくしが王宮へ移る前に、わたくしに対して、『アリアを幸せにします!』って誓ってくれていたのよ?」

 ……え? は、初耳です。

 ……だめです。顔が火照ってしまいます。

「ふふふ。その顔だと、カルロ君は誓いを守ってるわね?」

 実恵子様の言葉に、俯いたまま小さく「はい」と答えました。





 初めてカルロと話をしたときの印象は微妙でした

 でも 何度かカルロがお見舞いにきてくれているあいだに

 私の中で カルロの印象が変わっていったんですよね。

 気付いた時には 好きになっていた

 

 カルロは最初から、私への好意を隠すことはなかったから周囲にはバレバレで

 がんばって私も同じ気持ちだと伝えたあとは

 周囲からはたまに白い目をされることもありました

『このバカップルが!』と突っ込みを受けたのも、多分両手でも数え切れません

 いいんです。

 カルロと結婚して、私は幸せだって言い切ることができますから!

 

 

 

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