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終焉機ヴィクティム  作者: 梅上
第八章 終焉
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EX05 舞う種子

85話から続けて読む方は温度差にご注意ください。

「出来たよまこっち! 通常型の十倍の出力を持つエーテルリアクターだ!」


 唐突に。そんなことを言いながら優美香が誠の休んでいる部屋に飛び込んできた。

 

 そろそろ30歳のハズだが落ち着きという物が全く見えない。

 いや、年齢の事を言うのならば自分なんて600歳越えかと誠は自嘲混じりの笑みを浮かべる。

 

 その辺りで漸く、誠の思考が先ほどの優美香の発言に追いついた。

 

「待って、それは大ニュースじゃないのか?」


 決して何時もの面白ジョークグッズと同じノリで紹介していい物では無い。

 人類が地球から旅立って早8年。誠がその旅路を共にしてから三年が経過した。

 

 地球からそろそろ120光年ほどは離れただろうか。

 移民船アークは同型の二番艦、三番艦を伴って移民船団を形成していた。

 その間の人類の戦力を支えた量産型ヴィクティムとでも言うべき機体、ハーモニアス。

 以前に優美香が指摘したように、搭乗者によって出力が上下する非常に不安定な機体だった。

 全く適合していないパイロット同士ではほぼ通常のエーテルリアクターと同じだったため、出力が上昇するのはリサと誠のペアくらいだった。

 

 守る対象が増えれば、そのための戦力も必要となる。

 

 現状の守備隊の規模では大規模な群れと遭遇した時には対処が難しい。

 

 戦力を欲しながらもこれまで全くエーテルリアクターの出力向上が見込めなかった中でのこの報告。

 大発見のハズである。

 

「いやいや、作れること自体は前々から分かってたんだよ。ほら、マザーシップがあるじゃない」

「確かにそれはそうだが……」


 元々はクイーンの一部であったマザーシップ。

 あそこから地球上に居たASIDは生み出された。それは膨大なリアクター出力を持つジェネラルタイプも例外ではない。

 だから、作れることは分かっていたのだ。

 作り方が分かっていなかっただけで。

 

「いや、やっぱ大発見だろ」

「まあね。りさちーが産休に入る前に作れてよかったよ。最近、ちょっと遭遇数増えているし」

「まあ、な」


 つまりそういう事である。

 少し照れ臭そうに誠は頬をかく。

 遺伝上の子供は実のところ大勢いるのだが、愛した相手との子供というのは別格の感慨があった。

 

「そろそろオーバーライトをするべきかもね。今度は何光年くらい進めるかな」


 クイーンタイプを撃破し、そのマザーシップを鹵獲したことで手にしたASID由来の技術。

 オーバーライトと呼ばれるエーテルを使用したワープ航法もその一つだ。

 誠は原理を知らないが、優美香は何か色々とそれを別の事にも使えないか考えているらしい。


「……前々から思っていたんだが、ASIDはどれだけこの宇宙に生息してるんだ? ワープしてもまた生息域に突っ込んだら意味が無いと思うんだけど」

「ん~そうだね。これは私の完全な推測だけど。むしろ居ない場所の方が少ないんじゃないかな」


 それが6:4なのか9:1なのかは分からないけどね、と優美香は笑った。

 

「マジか」

「マジマジ。超マジ。だから本当は、こうやって移民船同士が固まって行動するのも避けた方が良いんだけどね」


 分散すると今度はそれぞれの船の防衛力やら生産力やらの問題が噴出する。

 何より、一隻だけでは何かあった時にリカバリーが利かない。

 マザーシップも一つしかないので分かれた船は自分の修理もままならなくなる。

 

「移民船団分散構想か」

「まあ直ぐには難しいけどねー。きっとまこっちがお爺さんになった頃に実現できるんじゃないかな」

「他人ごとの様に言ってるけどその頃はお前も婆さんだからな?」


 むしろ、時間凍結されていた年数を加味すると多分優美香の方が肉体的には年上である。

 

「で、話を戻すけど十倍リアクターが出来たんだよ」

「変な略し方をすんな」


 もうちょっとマシな呼び方は無いのかと誠は突っ込む。

 

「そう、それなんだよ! 何て言えば良いと思う?」

「うん?」

「ほら。ずっとダーリンのRERも通常の2000倍! とかクイーンは通常の1000倍! とか言ってたじゃない」

「そうだな」

「単位、必要じゃない?」


 その言葉に誠は半眼になって突っ込む。

 

「今更それを言うのか?」

「今更だけどさ! 確かにこう……五年と一か月くらい遅くない? って思うけどさ!」

「そこまで具体的には言ってないけど。いや、ほんと今更だな……」


 今まで単位無しで何とかなっていたのが驚きである。

 

「と言う訳で単位を考えて欲しいんだ」

「めんどくせえ……俺早く帰ってリサの顔みたいんだけど」

「決まるまで絶対に帰さない……! 無理やり帰ろうとしたらりさちーに『うちも実の弟か妹が生まれそうなんだ』って言ってやるからな!」

「おい、ふざけんなお前。超えちゃいけないライン考えろよな!?」


 微妙に根も葉もある話をするのはやめろと誠は必死で止める。

 優美香の子供である実。

 その子の素性についてリサも薄々気付いているが追及しないでいるのだから。

 

「分かった分かったよ。考えればいいんだろ」

「さすがまこっち。信じてたぜ?」

「寝言は寝てから言え」


 さてと誠は腕を組む。

 パっと思いつくものと言えば。

 

「俺の時代の話だけど」

「お。旧時代の? いいね」

「発見したエネルギーの単位に自分の名前を付けたものがある」

「つまり?」

「1優美香と名付けよう」

「嫌だよ!」


 意外な程強硬な拒否反応が返ってきて誠はびっくりする。

 

「良いじゃんか。あ、バイロンの方が良かった?」

「どっちも嫌だよ! 何その羞恥プレイ!」

「おいおい。ジュールさんに謝れよ。普段から恥ばっか晒してるやつが何言ってんだ」

「そんな恥晒してないし!」


 それはお前の感覚がマヒしているだけだという突っ込みを飲み込む。

 日ごろから機械に愛を囁いているのを恥だと感じないのは正直どうかと思う誠である。

 

「だったらまこっちの名前つければいいじゃんか! 1誠! これで良いよもう!」

「これっぽっちも良い要素が無いっての。何だよその単位。誠心から生まれる誠エネルギーか何かか」


 子供向けのロボットアニメに出てきそうと思いながら誠が突っ込むと、優美香は不可解そうな顔をした。


「ごめん、まこっちが何を言ってるのか良く分かんない」

「くそっ。何か悔しい!」


 浮遊都市アーク――改め移民船アークに存在しないロボットアニメのネタ何て通じる訳が無かった。

 だが、普段からエキセントリックな言動を繰り返す優美香に心配そうな顔で見られるとそれはそれで悔しさを感じる。

 

「……あれ、もしかしてこれはビジネスチャンスなんじゃ……」


 誠の知識の中だけにある旧時代の娯楽。

 それを再現すれば結構儲かるのではないかという閃き。

 

「もう面倒くさいから1エーテルで良いんじゃない?」

「新型エーテルリアクターのエーテル精製量は凡そ10エーテルで従来型よりもエーテルの運用効率が上がってエーテルダガーの出力が向上しましたとかいうの?」

「エーテルがゲシュタルト崩壊するな……」


 いや、今の例えだと単位だけを変えてもゲシュタルト崩壊するには十分だったような気がする誠。

 だが確かにくどい。単位までエーテルにしたくないという優美香の気持ちも分かる。

 

「やっぱ名前が無難だろ。諦めろよ優美香」

「嫌だ。だったら誠でもいいじゃんか」

「ぜってえ嫌だ」


 そんな醜い押し付け合いが続いた後、優美香が何か閃いたように叫ぶ。

 

「そうだよ! そもそもこんな単位作る必要が出たのはまこっち達のせいなんだからみんなの名前つけるべきだよ!」

「お前死なば諸共って言葉知ってるか?」

「知らない」


 巻き添えを増やそうとする今のお前の事だよ、とは言わないでおく。

 

「みんなっていうと……」

「りさちー、るかちー、まこっちは外せないね!」

「リサルカマコトか」


 長い。

 

「っていうかお前も入れろ。当事者なのに何逃げようとしてんだ」

「いやだー恥ずかしいい!」


 とうとう本音が漏れた。

 まあ自分の名前が何十年後も使われるのは少し気恥ずかしいものがあるだろう。

 

 優美香は知らない。

 この後、移民船団分散構想を実現させ、宇宙時代の聖女として歴史書に名前を残す事となり、挙句の果てに映画化までされることを。

 

「せめて、せめて略そう!」

「んー頭文字取ってLMY……?」

「あ、それいいね」


 適当に誠が思いついた物を言うと優美香が指を鳴らした。

 

「Lはりさちー、るかるか、れあれあ。Mはまこっちとミリア、Yは雫の山上と私の。それぞれのイニシャルが含まれてる」


 今はもういない仲間。その名前も込められた命名。ちょっとYは強引では? と思わないでもないが。

 少しだけしんみりして誠は確信と共に尋ねる。

 

「お前、自分だけじゃ恥ずかしいからとにかく知り合い全員を巻き込みたかったんだろ?」

「バレたか」


 舌を出して誤魔化そうとする約三十歳に誠は溜息を一つ。

 

「まあ良いか……その意味なんて俺達だけが知っていれば」

「そうそう。どうせ由来何て誰も気にしないよ」


 この宇宙に人類を生かすために散った仲間たち。

 この宇宙で人類を守るために今も戦う仲間たち。

 

 いずれ、自分たちも力及ばずに力尽きる日が来るかもしれない。

 それでもきっとその後には新しく生まれた命が、自分たちが守ってきた誰かが後を継いでくれる。

 

 その後継者たちを守る機体に、自分とその仲間の名前がひっそりと残っているとしたらそれは。

 

「ちょっとしたロマンだよな」

「何か言った。まこっち?」

「いや。何も」


 今しがた考えていた想像。

 それを改めて説明する事は無く、誠は優美香に告げた。


「それじゃあリアクターの単位はLMY……ラミィで決まりだな」


 誠の想像通り。

 その単位はそれから長く人類の間で使われることになる。

 

 その由来は誰も知らない。

 だが確かに、人類を守る矛と盾であるアシッドフレーム、そしてその発展兵器であるアサルトフレームの中にその名称は密やかに受け継がれていった。

 

 人類を宇宙へと旅立たせた七人の名前が。

誠と優美香の二人があーだこーだ言っていた単位は

新作「元エースと拾われ娘の新米親子〜最強パイロットの子育て奮闘記〜」https://ncode.syosetu.com/n9962ft/


にも登場します。誠たちの戦いから150年後。宇宙で行われるASIDの戦いとその中で生まれた新米親子の物語もよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白かったです
[良い点] なるほど、なるほどな。面白かった。あと哀しくもあった。 終わりはちゃんと全部大体疑問は回収出来たしスッキリした終わり。 [一言] ミリア…………。 過去で誠とやれたからミリアと誠の子孫も…
2022/02/15 07:37 退会済み
管理
[良い点] 何度読んでも楽しい 次回作があるのでループ物となったヴィクティムだが元となったループのない最初に作られたヴィクティムはどこから来たのかとか、その武装の由来の伏線がいつか別作品で判明するので…
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