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終焉機ヴィクティム  作者: 梅上
第三章 嵐の前
28/91

25 バディとパートナー

 リサを超えるマッチング結果が出たと聞いたのは誠が見学をしてから三日後。浮遊都市に来てから丁度一週間が経った日だった。


 その時誠がしていたのは都市の組織構造を覚えると言う事だ。都市の運営を司る行政部と防衛を担う軍部に二分されていると言うところまでをルカの講義で学んでいた。リサは未だに泊まり込みで報告とそれに対する質疑を続けている為帰ってこない。それ故に二人で軍部管轄の階層へと向かった。


 浮遊都市アークの下層区画は大半が軍部所属の人間が務めている。そのうちの一室。以前誠とリサが使用したようなブリーフィングルームに通された。


「どんな人でしょうね」

「……そうだな」


 ルカのどことなく楽しげな問いかけに対する誠の解答は暗い。どころか考え事に没頭していて雑な返事しかしていない有様だ。テーブルに頬杖を突いて視線は宙を彷徨っている。


「確か今は軍部の後方組の検査やってたんですよね。そうなるとフレーム乗りじゃないって事でしょうか」

「そうだな」

「だとしたら少し大変かもしれません。フレームって結構揺れますから。慣れるまではまともに戦闘できないかも」

「そうだな」

「お姉ちゃんの話だとハイロベートよりはマシって事ですけど……ねえ、マコト様私の話聞いてますか?」

「そうだな」

「…………」

「そうだな」


 定期的に相槌を打っているだけだと気付いたルカは頬を膨らませながら机を大きく叩く。その音でようやく誠の意識も戻ってきたのだろう。眼を瞬いてルカを見る。


「な、何だ。どうしたんだ?」

「どうしたんだ? じゃ、有りません! マコト様、私の話を聞いてましたか!?」


 怒っていた。腰に手を当てて、青いポニーテールを揺らしながらルカはぷりぷり怒っていた。その剣幕はこの五日間で一度も見た事が無い物だ。どんな無茶にも笑顔で付き合ってくれる彼女が怒りをあらわにしている事に誠は焦りながらも答える。


「き、聞いてたさもちろん。都市内の食糧は既定分しか購入できないって話だろ?」

「そ・れ・は、一時間前の話です! 全然聞いてないじゃないですか、もう」

「……すみません」


 確かにそれは一時間前の講義で聞いた内容だった。咄嗟に出てきたのがそれと言う事は、誠がここに来てから一切の話を聞いていなかった事の証明でもある。


「ちゃんと人の話は聞いてください。じゃないと私」

「また怒る?」

「いいえ、次は泣きますから」

「本当にすみませんでした」


 対妹戦術第一条、泣かれたら負けを認めよ、と言う物を思い出した誠は速やかに再び頭を下げる。怒るなら良い。まだそれには対処のしようがある。泣かれたらダメだ。どうすれば有効なのかが分からないので誠は只管にあたふたするしかない。


「それで何を考えていたんですか?」

「いや、大したことじゃないんだけど」

「私の話はその大したことじゃない話にも劣るんですね……」

「大した事! 大した事でした!」


 表情が一気に暗くなり、顔を伏せたルカを宥めるように殊更声を張って誠は大したことを主張する。顔を上げたルカの口元が楽しげに緩んでいるのを見てからかわれていたことに気付いて今度は誠が口を尖らせる。


「それやられたら俺に勝ち目ないんだけど」

「なるほど。ではここぞと言う時に取っておきましょう。それで、何を考えていたんですか?」

「……本当にベストマッチな相手が見つかるのかなって思ってさ」


 現在チェックが完了した人間の数は約七百人。総人口は十万人程度だが、その内操縦に耐えられない年少者を除くと約六万人にまで減る。そう考えればまだ全体の1%程度だが、その1%は軍部のフレーム乗り――即ち戦闘のスペシャリスト達だ。そこからリサ以上が出なかったと言う事を考えると先行きは暗い。

 軍部約一万が終わった後は農作業を初めとする生産業や行政に関わっている文民達だ。戦闘への適性が低いと判断された人間の中からベストマッチが現れたとしてもヴィクティムでの戦闘に耐えられるのかと言う疑問がある。


 そんな事を考え始めたら不安が止まらない。本当にクイーンを倒すことが出来るのか。倒せたとしても一体どれだけの年月がかかるのか――。


「大丈夫ですよ」


 不安に絡め取られそうになった誠を救い上げたのはルカのどこか優しげな声だった。


「きっとマコト様が心配しているのはベストマッチの相手が見つかるか、と言うよりもクイーンを倒せることが出来るか、と言う事だと思います」


 あっさりと内心の不安を暴かれてしまい誠としてはバツが悪い。そんなにわかりやすいだろうかと思う。


「もしも見つからなかったとしても安心してください。ヴィクティムが十全の性能を発揮できないのならばその穴埋めは私たちがします。忘れてませんか? これでも私達、六百年この都市を守ってきてるんですよ?」


 少し冗談めかして、励ましの言葉を伝えて来た。そんな簡単な物ではないと誠は思う。思うのだが、そう言われた事で心が軽くなったのも事実だ。一人ではないと、そう思えただけでも楽になれる。


「そうだよな。俺一人でやる事ないよな」

「はい、そうですよ。身近な所では私も、お姉ちゃんもマコト様を支えたいと思っています」

「と言うか、何で二人はそこまでするんだ? リサがいない場所で聞くのもなんだけど」


 実の所疑問だった。命を救った、と言う理由があるにはあるのだがどうにもそれが納得できない。二人ともそう言う恩から来る奉仕と言うよりも、嫌な言い方をすれば下心が透けて見えている。


「一目惚れしたからですよ?」


 唖然。

 余りに直球な言葉に恥じらうのも忘れて誠は呆然と口を開ける。その反応を誤解したのか、ルカは慌てて言い繕う。


「あ、私の場合は、ですから。お姉ちゃんは分かりません」


 尚も誠はフリーズ中。


「マコト様? 聞いてますか? 聞いてないと私今度こそ泣いちゃいますよ?」

「…………はっ。すまん、白昼夢を見ていたみたいだ。それで何だって?」

「だから一目惚れですって」

「夢じゃなかった……」


 現実逃避をしてみたが、何一つ変わってはいなかった。


「ど真ん中過ぎて見送りも出来ねえ……」


 こうもはっきりと二度も言われてしまっては難聴の振りをして聞いてなかったと言うのも無理だ。

 何の自慢にもならないが、誠に告白された記憶は無い。実家が金持ちと言う事で狙っている人間は一定数いたのだが、逆に気後れする人が多かったので告白すると言うところまで行かなかったと言うのが実情だ。


「一目惚れ、と言うと」

「助けてもらった時……正確にはその後お礼を言った時ですけどね」


 やや照れくさそうにルカはそう言う。誠としては照れるポイントがおかしいと声を大にして言いたいのだが今は置いておく。


「あの時から私は全てをマコト様に捧げると決めました。身も、心も、全てです」


 その言葉に誠は小さく首を振る。


「それは錯覚だよ。命の危機って言う状況のストレスを恋愛感情と誤解してるだけだ」


 言ってから誠はそんな残酷な言葉をどこかで誰かに言われた気がした。自分の想いを偽物だと言われる辛さ。それをどこかで体験した。良く思い出そうとしても記憶が全く繋がらない。むしろ最初に感じた既視感さえも気のせいでは無かったのかとさえ思える。


「そうかもしれません。でも私はそうしたいんです。返品不可ですから、覚悟してくださいね?」


 どことなく楽しげに笑ってそう言うルカに誠はそれ以上は言わない。一時の熱情ならばその内冷める。そうで無いのならば――その時はその時だろう。

 会話が一段落したタイミングを見計らっていたようにブリーフィングルームがノックされる。


「失礼します。ヴィクティムのサブドライバー候補者をお連れしました」


 そう言って入ってきたのは安曇の秘書官だった。今更だがこの人の名前は何というのだろうと誠は疑問に思う。自己紹介をされた記憶もないし、誰かが名前を呼んでいた覚えもない。尋ねようと口を開きかけたタイミングで次の人間が入室してきた。


「山上雫です」


 黒い三つ編みの怜悧な印象を持つ少女だった。その顔に見覚えがあり、記憶を浚った所で思い出す。トータスカタパルト討滅の際に出撃をオペレートした管制官だった。


「柏木誠です。確か、トータスカタパルトの時の」

「はい。発進管制を行いました。覚えて頂いて光栄です」


 淡々と言葉を返してくる雫に誠は少し苦手意識を持った。どことなくだが言葉に棘がある気がしたのだ。実際のところはガチガチに緊張しすぎてぶっきらぼうな言い方しか出来なくなった雫が持ち前の見た目補正でマイナスに感じられてしまっていると言うだけなのだが。


「山上管制官は過去にフレームの搭乗訓練も受けています。管制官の適性の方が高かったためそちらに進みましたが、適性的には平均的なフレーム乗りくらいはあるかと」


 過去の試験結果をタブレット端末に表示させた秘書官がそう告げるのを聞いて誠は一つ安心材料を見つけられて一息つく。少なくとも乗るだけも出来ずと言う事は無さそうだ。


「それは頼もしい」

「非才の身ではありますが尽力させていただきます」


 そこで秘書官が時間を気にするようなそぶりを見せた。腕時計を確認して首を傾ける。


「おかしいですね。そろそろもう一人来るはずなのですが」

「もう一人?」


 それは誰、と聞く前にその人物が部屋に入ってきた。


「失礼します。申し訳ありません秘書官。遅くなりました」


 ここにいる人間全員が着ている軍服。それを爪先から頭までキッチリ着こなした女性だった。青い髪の上に制帽を乗せて敬礼する姿は凛々しさすら感じさせる。誠にとって一番驚きなのはその凛々しい女性がリサ・ウェインだと言う事だ。


「構いませんよ。リサさんはそちらに。これから全体に説明をします。質問は全て終わった後に」

「はっ、了解しました」


 敬礼してきびきびとした動きで席に着く。唖然と誠はそれを見ているが、ルカは何も気にした様子が無い。つまり、都市内でのリサはこれが普通なのだろう。そう自分を納得させて秘書官の話に集中する。


「さて、まずはヴィクティムの運用について行政部からの決定を通達します。ヴィクティムは基本的に遊撃。都市着陸時の防衛の際に敵に押されている箇所に随時出撃し戦線を支える事が求められています。この運用方法については軍部からも承認を受けています」


 なるほど、誠にとっては納得のいく話だった。ヴィクティムの突破力は魅力的だ。大抵の相手ならば即座に殲滅できる。その戦力をどこか一カ所の戦線に配置するのではなく、遊撃――もっと悪く言ってしまえばどこにでも行けるようにしておくと言うのは理に適っている。


「それに伴い、単騎で機体損失というリスクを抑える為部隊編成を行う事になりました。誠殿の安全確保の意味も含めて部隊員は既に知己の二名に頼むこととなります」


 それも誠にとってはありがたい話だ。サブドライバーはどうしても新規のメンバーとなってしまうが、それ以外は知り合いで固めておいた方が誠は安全である。何しろ、全くの他人の場合路地裏に連れ込まれてジ・エンドという可能性が付きまとうのだ。そして誠にとっては悲しい事に、むしろその方が正しいのだ。この危機的な状況で人口増加に非協力的な誠が異端なだけだ。


 安曇も無理やりはしないと約束はしたが、いくらでも抜け道はある。例えば誠側から動く様に仕向けたり、おおっぴらには出来ないが個人の暴走と言う事で誰かをけしかけてくるかもしれない。

 契約の件があるので表向きは協力的だが油断は出来ない。


「リサ・ウェインを部隊長とし、柏木誠並び山上雫のペア、そしてルカ・ウェインの三機体制で編成を行います。機体に関してはリサ・ウェイン、ルカ・ウェイン共に先の戦闘で大破しているので新しい物が支給されます。後ほど受領を」

「了解しました」

「了解です」


 二人が首肯したのを確認して秘書官は頷く。


「よろしい。二十四時間後に部隊の連携訓練を行います。各自それまでに準備を整えるように。解散」


 そう告げて秘書官は退室する。その後を追う様にウェイン姉妹も席を立った。


「それではボク達は新しい機体を受領してきます」

「マコト様、また後で」


 二人が立ち去ると部屋に残されたのは誠と雫だけになった。ほぼ初対面の相手と二人きりと言うのはいささか緊張する。だがそうも言ってられない。ヴィクティムに乗ったら必然的に二人きりになるのだから。


「とりあえず、ヴィクティムの方に行こうか」

「そうですね。詳しい事は分かりませんが、アシッドフレームとはまた別の物なのでしょう?」

「そ。だから色々と説明を受けた方が早いと思うし」


 誠の微妙な言い方に雫は首を傾げている。唯一説明できそうなのは貴方なのに誰が説明するの? と言いたげな顔だ。元から異常事態だらけで誠は然程気にしてもいなかったが知能を持つ機械というのは浮遊都市には存在しない。ヴィクティムがまさか喋るとは夢にも思っていない雫がどんな反応をするのだろうかと意地の悪い期待をしながら誠は雫をヴィクティムの元へと連れて行った。


 そうして格納庫について二人を迎えたのは――桃色の髪の変態だった。


「ん~ダーリン。何時見ても惚れ惚れしちゃう……この魅惑的な曲線、一体何人の女を虜にしてきたの?」

《否定する。当機の名称はヴィクティム。ダーリンではない》

「連れないんだからぁ。ああ、この配線……芸術的過ぎてクラクラしちゃう」

《理解不能》

「愛って言うのは時に他者からは理解を得られない物なのよ、ダーリン」

《救援要請。当機はメインドライバーの支援を必要としています》


 珍しく、非常に珍しくヴィクティムが押されていた。誠にエマージェンシーを求める程に困窮しているらしい。


 雫は目を丸くしている。その驚きが喋る機械であるヴィクティムに対してなのか、それに愛を囁いている変態になのかは判別がつかない。

 一体自分の十倍もある巨大なロボットに情熱的な愛を捧げている変質者は何者なのかと誠は近寄ってじっくり観察する。


 巨大だった。目算でリサの十倍だろうか。リサが爽やかな風が吹き抜ける草原、ルカがピクニックに適した丘だとするならば彼女は山脈。それもエベレスト級の、だ。断じて身長の話ではない。女性らしさを象徴する一部位の話である。もしも思考を読まれたら千年の恋も冷める程に最低な事を考えながら誠はその山から目が離せない。


《支援要請。当機単独では現状の打開は不可能。至急救援を乞う》

「状況が全く分からん……」


 一体どうして何をしたらこのような状況になるのか。その経緯を全く予想できずに固まっていた誠を見つけたのか。イタリア人も真っ青な熱情の詩を語っていた少女がこちらに駆け寄ってきた。それだけで二つの山が大きく弾み誠は眼を逸らす――つもりが全く逸らせなかった。己の意志に従わない身体に愕然とする。


「貴方が柏木誠ですね。この泥棒猫!」

「いきなり何なんだ!」


 生まれてこの方、泥棒猫呼ばわりされたのは初めてだった。そんな初めて一生来なくて良かったと思いつつ誠は叫ぶ。


「私とダーリンの間に割って入ろうだなんて……ダーリンは渡しませんよ!」

「どうしよう。言葉が通じてるはずなのに何を言ってるのかさっぱり分からない」


 先ほどからヴィクティムは救援要請としか言っていない。もしかしてどこかにバグでも発生したのではないかと不安になる。


「そちらは俺の事を知っているみたいだけど俺は君の事何も知らない。せめて名前位名乗って欲しいのだけど」

「優美香・バイロン。整備班所属よ」

「優美香・バイロン……? あっ」


 気が付いたら誠の背に隠れるように立っていた雫が何かを思い出したように小さく声をあげる。


「知ってるのか?」

「噂話ですが……機械に傾倒し過ぎた変わり者の整備兵がいると」

「違うねっ、間違ってるよ!」


 雫の言葉を優美香と名乗った少女は否定する。大きく胸を張った際にまた弾んだ。これは毒だと判断した誠は必至で視線を優美香の額に固定する。


「私は機械に傾倒してるんじゃない……機械を愛してるの!」

「どっちでもいいよ……」


 幸いにも誠の呟きは聞き取れなかったらしい。聞き取れていたらまた演説が始まっていたに違いないだろう。


「だからダーリンと私の間には貴方みたいな泥棒猫が入る余地は無いのよ! お互いに身体の隅々まで知ってるんだから!」

「……そうなの?」


 俄かには言ってる内容が信じがたく、ヴィクティムに確認を取る。身体の隅々まで知っているは言い過ぎだろうと思ったのだ。


《誠に遺憾ながらその通りである》

「え、嘘」


 予想外の回答が返ってきた。

 聞くところによれば、ヴィクティムを整備したいと言ってきた優美香に対してヴィクティムは念入りなボディーチェックを行ったらしい。服の上からでもヴィクティムならば危険物が無いかどうかの解析は可能と言うのだから本当なのだろう。そしてその後優美香はマッチングテストを行っている以外の時間、徹底的にヴィクティムの各部を見て解析をしていた。結果驚くべきことに中枢部を除いたその構造をほぼ理解したらしい。


「……確かに隅々まで知ってるな」

「分かった?」

「ああ。言動に反してバイロンさんがとんでもない整備兵だって事は」


 リサや玲愛とはベクトルが違うが、明らかに天凜の才の持ち主だろう。普通の人間は一週間やそこら何の仕様書も無く初めて見る機械を理解する事は出来ない。

 この短期間で三人も人間離れした能力を持つ人に出会った事は偶然なのかと誠は思いたくなる。絶滅寸前の人類が新たな進化を迎えようとしていると言う話を聞いても今なら信じられそうだった。


「……って事はだ、バイロンさんはヴィクティムの整備が出来るの?」

「バッチリに決まってるでしょ。ダーリンの事で分からない事は無いわ」


 それを聞いて決断した。


「ヴィクティム」

《イエスマイドライバー》

「良かったな、嫁が出来たぞ」


 その言葉に固まったのは優美香とヴィクティムだ。


「こ、交際を認めてくれるんですか、御義父様!」

《理解不能。理解不能。理解不能》

「誰が御義父様か」


 一応突っ込んでおく。別に誠も酔狂やヴィクティムに対する嫌がらせでこの様な事を言っているのではない。現状ヴィクティムについて理解している人間は少ない。何しろ乗っている誠自身良く分かっていない個所が多々あるのだ。

 そんな中で唯一と言っていい理解者がいる。それは何をいても確保すべき人材だろうと判断した。


「バイロンさんには今後ヴィクティムを優先的に見て欲しいんだけど……頼めるかな?」

「そんな他人行儀な……優美香と呼んで下さい御義父様!」

「じゃあ御義父様は止めてくれ……」

「じゃあ親愛を込めてまこっちで!」


 また随分と軽くなったなと思う。都市内でこんな気安くアプローチしてくる女性がいたらそれだけで警戒の対象だが、今回は安心だ。そのベクトルはヴィクティムに向かっているのだから。

 いや、良い人材を見つけたと誠は満足げな笑みを浮かべる。ヴィクティムが繰り返し助けを求めているが、無視だ。決して悪いようにはならない。少なくともヴィクティムと言う機体的には。AI部分がどうなるかは度外視した。


「……それで、私はどうすれば良いのかしら誠さん?」


 その間すっかり放置された形になった雫が不満げに言葉を漏らした。

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