第九十六天 さらば古都ッ!果たされるべき約束ッ!
何千体もの仏像がならぶ寺で、信と樹美のグループは落ち合った。
「ここは我々とは縁のない寺です。ここならば、少しの間は安全でしょう」
樹美がそう言いながらも、それでも辺りに目を配っていた。平日の昼間だというのに、観光客が多かった。
「そちらは全員無事でなによりです」
信はほっとして笑顔だ。
「無事じゃないわよッ!あやうくおっぱいされるところだったんだからッ!」
「まあまあ・・・」
明江の不満爆発に、樹美はあわてて落ちつかせた。観客の視線が痛いッ!
「狙われたんですかッ!?」
「あなたこそ、服が焼け焦げているじゃないの。ケガはないの?」
トミ子が世話をやいてきた。
いろいろな気持ちが飛び交って、カオスな会話になりかけて、
「てめぇらうるせぇ。たらたらしてる暇はねぇんだろうがッ!」
そこへ竜牙も参戦。だが、声量が大きい。視線が厳しいッ!
「他のみんなは、無事に逃げられたのだろうか?」
「だいたいはうまく逃げられたようですね。山の中で止まっている気配もいくつかありますが・・・」
「そうか」
信の顔は暗くへこんだ。
樹美は襲撃の前、寺の関係者全員に、根永寺の大樹の一部を配った。それは発信機だっ。山の中にあるということは、道中で御聖院の奴らに殺られてしまったのかもしれない。
それはあとで葬式せねばならないだろう。
信は自分の選んだ選択に胸がおしつぶされそうだった。誰も攻めはしない。しかし簡単にやっていいことではなかったのではないかと、くじけそうだ。
「あの・・・」
その暗い沈黙の中、樹美が訴えかけそうな顔だ
「これから信さんは、いかがされるんですか?」
「わたしは・・・ふたたびこの都を出ます。ここにはもう長くいられないでしょう。それに、大聖天様についていく事もまた、我々の悲願だったのですから」
「・・・わたしも同行させてもらえないでしょうか?」
「えッ!?いっちゃん来るのッ!?」
明江がパッと明るくなった。
「それはなりません」
「足手まといだからでしょうか?」
「いえ・・・。樹美さんには、母上のそばにいてほしいのです。いつ御聖院が母上を狙うかわかりません。・・・本当に勝手ですが」
「・・・わかりました」
樹美は少しへこんだようだ。そして、鞄をごそごそとさせた。出してきたのは信のキレイなコートだった。
「これを。そのコート、汚れてるでしょう?」
「・・・ああ」
信は新品同然のコートをはおって、交換した。
「キレイに直しておきますから」
樹美は優しくほほ笑んだ。
「・・・いくぞ」
寺の庭へ背を向けていた竜牙がタイミングばっちりだ。
竜牙が歩き出すと、ぞろぞろとついていった。信も後ろを名残惜しそうにしながらも、前を向いた。
母上と樹美を残し、半身がもがれるような苦しさだった。
「信~ッ!信はどのお弁当にするのッ!?」
明江は、通路の向こうの信をのぞきこむようだった。車内販売のお姉さんがカートを止めて待っている
しかし、信は窓に肘をついて憂鬱に眺めているだけだ
「信ッ!食べないの?」
「隣でうるせぇ。てきとうにたのんでおけよ」
竜牙がイラっとした。
「さっきは、ヒュ~ヒュ~だったねッ!信ッ!」
と、車内販売がいなくなってから、ニヤニヤと言った。しかしそれでも、信は窓をながめるだけだった。
「そっとしておいてあげましょう。明江さん」
朝霧は優しくほほ笑んだ。
「は~い」
明江の上目づかいは子供のようだった。
父の死、寺の消滅、路頭に迷う母上たち、いっぺんに背負うに人間の心ではあまりにも重すぎた。
だがしかしッ!それは片道切符ッ!もう止まらないんだぜッ!
「ところで、これからどこへ行くんですか?」
朝霧は竜牙に尋ねた。竜牙は普通に切符を買っていた。しかし、目的がよくわからない。
「フン・・・約束の地ってところだな」
竜牙はぼうっと窓を見たまま、わらった
竜牙もまた少し調子が違って、妙な空気だった。
「約束の・・・地?」
朝霧は首をかしげた
―――そう、そこは五神武の眠る約束の地・・・




