第八十二天 熟睡想起ッ!黒き湖畔の戦いッ!
黒き湖畔はキラキラと月を反射させて
足をたらせば湖水は優しく円を描く
彼は無数の円を描きながら
風にそよぐ月光の湖面を駆け抜けた
―――78年前
「お、おいッ!あいつ、湖を走ってきてるぞッ!!!」
「お、御神渡りッ!?」
船に乗っていた魔がビビってる
月の白い円に躍り出る竜牙の影ッ!
「うぎゃああああああああああッ!」
船の一人が真っ二つになった。そのそばのビビってるやつも
「うぎゃああああああああああッ!」
と立て続けに悲鳴があがったッ!
ニヤリと笑う竜牙の瞳に宿るは狂気ッ!
「何事かぁッ!!!」
「て、敵襲だぁッ!」
「馬鹿なッ!敵はまだ向こう岸だぞッ!」
声がとびかう大混乱の中、竜牙は一人また一人と斬っていくッ!
「うぉッ!こいつかッ!」
一匹が冷静に刀を受け止めたッ!しかし、そこは敵陣ッ!
「一人で斬り込んでくるとは、いい度胸よッ!だが、死ねぃッ!」
そばの魔が金棒を振りかぶるッ!だがしかしッ!
「うぎゃああああああああああッ!」
と、隙をついたつもりが逆に隙をつかれて、魔は炎上したッ!
白をベースに金の装飾がほどこされた華やかな服を着た女が立っていた。虎麗だったッ!
「馬鹿がッ!つっこむなと言っただろうがッ!」
虎麗の肩まである髪は頭をまるく包みこんで、つややかな銀色がもう一つの月のようだ。
「・・・てめぇの声は耳にひびくんだよ。静かに話しやがれ」
竜牙は言いながら、
「うぎゃああああああああああッ!」
スナック菓子でも食うように一匹切り殺す
「てめぇらまとめてぶっ殺したらぁッ!」
魔はまとめて襲い掛かってきたッ!だが、まとめてぶっ殺してるのは竜牙の方だッ!虎麗もまけていないッ!
だが、魔はマジで無数ッ!あっという間に囲まれたッ!
じりじりと魔と向かい合う竜牙の背にとんと柔らかな背中が触れていた。
息のあがった女の背はゆるやかに上下して、なまめかしい
「貴様のせいで犬死しそうだぞ。責任とって背中を守れ」
「ハッ!背中に切りかかるのは俺かもしれないぜ?」
「上等ッ!」
月夜の下、斬光がとびかい、血しぶきが舞い
生臭さと狂気と断末魔が響き渡る地獄の宴が、静かな湖面に始まった
それは狂おしくも激しくエクスタシー
「痛ッ!」
竜牙は虎麗に包帯をきつくしばられて、顔がきびしい。
「これくらいで声をあげるな。貴様の身勝手な行動が、貴様自身を傷つけたのだろうが」
「あん?てめぇだって、つっこんできただろうが」
「それは貴様が身勝手な行動をするからだッ!これは戦争だぞッ!隊が乱れれば、大勢の者が危険にさらされるんだッ!わかってるのかッ!?」
虎麗はマジ切れ
「ハッ!なら、勝手に犬死させておけばいい」
「・・・これだから田舎聖天は・・・。もういい。さっさと帰って寝ろ」
小屋を出ると、焚き火の広場で聖天たちが酒を楽しんでいた
「おッ!今夜の主役の登場だッ!!!」
と一人の酔っ払い聖天が気づいたッ!
「いよッ!大将ッ!!!」
「おねーちゃんとおっぱいしてきたかぁ?」
「うぜぇ野郎だな」
竜牙はうっとうしそうだ
「まあまあ、そういうなってッ!おまえにはみんな感謝してんだ。飲もうぜッ!なッ!」
と、違う一人が酒を持ってきた。
やんややんやと喝采をあびると、なんだかむずかゆく。自然と顔がほころんだ。
だがしかしッ!
ひゅっと黒く小さな物体が飛んできた。竜牙はさっと顔を横へずらして交わしたッ!石だッ!
黒い影がささっと森に逃げていった
「ん?どした?」
「フン・・・ちょっと用を思い出したぜ」
竜牙は駆け出したッ!
黒い人影は逃げるッ!だがしかし、竜牙の方が圧倒的に早いッ!!!
もう追いつきそうだッ!黒い人影は森を抜けたところで、立ち止っていた。
「鬼ごっこはもう終わりか?」
竜牙は馬鹿にしたようだ。
「本当に鬼だわ。あなたたち」
雲から月が現れて、ふぁっと青白く少女の姿があらわになった。
「ハッ!隠れておびえてるだけの人間の小娘がよく言うぜ」
「殺すことしか能のないあなたよりはマシだわ」
「ああん?てめぇ、殺すぞ」
竜牙は眉をきゅっとした。殺気が重くのしかかる。しかし、女はくじけないッ!
「そんなくだらないことで殺すの?やっぱりあなたは鬼ね」
竜牙は刀を抜いて、刹那に女の首筋にあてがった。凄まじい疾走から生まれた風が女の長い髪を吹きあげたッ!
女はまったく動けなかった。それが逆に竜牙の刃を思いとどまらせた。
「もういっぺん言ってみろよ」
最終警告だッ!
「あなたは鬼よッ!どうして殺さなくちゃならないのッ!?どうして死ななくちゃならないのよッ!!」
女は投げ捨てるように言った。
その叫びで、ハッと竜牙は目を覚ました。
特急の車内だった。
「大聖天様、お目覚めですか?」
「あん?まだてめぇは起きてたのか?」
朝霧と明江は眠っていた。連日が連日だけに、よほど疲れているのだろう。
樹美も樹美で訃報が訃報なだけに、眠っている。
信はレンガパンをかじって、お茶で流し込んでいたようだ。
「ええ。どうも眠れなくて」
「寝とけ・・・無理にでもな」
「はい」
信は、食べかけのレンガパンをしまうと、目を閉じた。
竜牙は窓の外を見た。
空は少しかすんで、霊峰はぼんやりとしていた。
あの霊峰の向こうにあいつはいる
あいつはまだ生きているだろうか
しかし、行かざるを得ないのだろう
あいつのもとに・・・




