第五十八天 結局誰なの?そして、三個目の技である
「絶望って・・・」
明江はわらった。ビビりすぎ。
「あんなのは初めて見ました」
「今のは魔なの?」
「・・・わかりません」
信は眉をきゅっとさせた。本当によくわからなかった。
「魔だったようにも見えますね。しかしそれはないでしょう」
「ふ~ん」
明江は、寿司を一つ手に取って、口に放り込んだ。新鮮でうまい
「でも、意外ね。竜牙に魔の友達がいるなんて。しかもあんなキレイな人」
「・・・キレイな人ではありました」
信は心をおちつかせようと、お茶を飲んだ。
「あの人、竜牙の元カノとかかな?」
「さぁ」
竜牙が席に戻ってきた。
「いくぞ」
「え?もう?」
明江がおどろいた。まだ寿司もそんなに食べてない。
「そうですね。朝霧様へ、おみあげをもらって帰りましょう」
「フン・・・あいつが帰るころにはなくなってるがな」
と竜牙はいつも通りだった。
朝霧は電車にのって、郊外へとむかっていた。西のはてに近づくにつれて、建物は低くなり、山が増えてきた。そして、最後は真っ暗な山の中だ。
夜の闇はすっかり降りてたから、登山の人ももういなくて、さびしいバス停と、そのむこうは怪しいホテルが山の闇に浮かび上がっていた。車の通りもなくて、近くを流れるせせらぎが清涼である。
朝霧は、まっすぐ舗装された山道をのぼった。神社の拝殿までは参拝にしては険しく、登山にしては短かった。
静まった拝殿の前で、朝霧はリュックを置いた。
「お久しぶりです。朝霧です」
「おぅ」
耳元にささやかれた。朝霧は一瞬で背後を取られていた。
「お久しぶりです。西山王様」
「おぅ。そのみあげ物はずいぶんとくせぇな」
「いえ、みあげじゃありませんよ。これは。」
「ホーン」
朝霧はリュックをあけてみせて、ダークなグリーンの粉を見せた。それは夜の闇に怪しく輝いている
「これが今うわさのジュースのもとです」
「ジュース?」
西山王は頭をかいた。彼はめったに山から下りない。朝霧はハッと気づいて、
「ええっと、最近、結界がやたら傷つきませんか?」
「おおぅ!そうなんだよ!最近やたらと邪臭がひどくてよッ!どういうことなんだ?」
「これがその原因ですッ!」
「なぬ~ッ!」
西山王は叩き割ろうとしたが、朝霧がおさえた
「だめですよ。粉なんでとびちって、山がけがれます」
「ホーン」
「それでそんなことを言っておいて、まことに勝手なのですが、西山窟で、これを浄化してもらえないでしょうか?」
「その粉をか」
「ええ。わたしたちは近々そのおおもとをたたく予定です」
「ホーン」
西山王は腕を組んで考えた。
「いいよ。そのかわり、殺したら、みあげ買ってこいよ」
「もちろんですとも」
「んで、おまえけっこう腕落ちたんじゃない?」
「え?」
「俺が教えた技」
西山王は朝霧に指さしした。
クレセントバックスラッシュを伝授したのは、なにを隠そうこのお方なのだった。
「・・・これでも鍛錬は怠らないようにしているつもりなのですが・・・」
「ホーン」
西山王は腕を組んだ
「ちょっとやってみ」
朝霧はしゅっと動いた。同時に西山王も動いた。背後を取り合ってまわりこめば、くるくると回って、同じ所へ戻ってくる
「ほら、やっぱり遅い」
「そうですか?」
朝霧はかがんだ。本気で回ったから、息があがってしまった
「おまえ、死ぬね」
「・・・」
「ここ最近の奴ら、つええもん」
「はぁ・・・」
「ちょっとここでゆっくりしてったら?」
「いえ・・・そういうわけには」
「なんで?」
「大聖天様と行動を共にしているのです」
「ホーン」
西山王は腕を組んだ。
「じゃあ、もっかいやってみ」
「え?」
「クレセントバックスラッシュ」
「はい」
朝霧はつかれてたけど、しゅっと動いた。しかし、西山王は動かない。西山王に近づく。とれるッ!
西山王がしゅっとぶれる。だが、遅いッ!
背後は取ったッ!
「え?・・・」
朝霧はびっくりした。取ったと思ったら、背後をとられていたッ!わけがわからないッ!
「へへへ。これ三個目の技ね」
西山王はわらった。かと思うと、山の闇へと消えた。
「・・・ありがとうございました」
黒い山林へ、朝霧は礼を言うのだった。




