第四十五天 父の遺言
信の地元は、高貴なる聖なるパワーにあふれていて、安全だった。
しかしなんとなく臭う、邪臭は町中のそこかしこにあった。
「この不穏な空気・・・。やはり巨大な何かがこの国を襲おうとしているのか」
信は知り合いの寺や御茶屋さんを回った。しかしいつもの通り気品をかねそなえたできる奴らばかりだった。邪臭が強くはなったが、そこには日常がある。この違和感がきもちわるい。
「最近、邪臭が強くないか?」
そういう風に聞いて回りたくなるほど、きもちわるかったが、だいたいが久しぶりである。一般ピープルもいる。そんな話をすれば、はぁ?っていわれるか、変にかんぐられて隠密のうちに破局を迎える場合も考えられる。
はっきりした証拠もつかめぬまま、日は昇り、かたむいていった。
「やはり頼れるのは親か」
と信は最後に白桜寺を訪れた。
「父上はおられるか!」
「まあッ!信ッ!いつお帰りに?」
母親が大興奮
「いえ、少し立ち寄っただけですよ。母上」
信はやさしいほほえみだ。冷たくないほんとうのやさしいほほえみ。これが家族の愛
「それより、父上は?」
「滝におられます」
「さすがは父上・・・いつも滝にうたれておられる」
「呼んできましょうか?」
「いえ、待ちますよ」
信は靴をぬいで、あがった。畳のにおいがなつかしい。そして、この清冽でピリっとひきしまった聖なる空気。薄汚れた俗世をはなれ、青空の高原にでも立ったかのような錯覚である
「いい八ツ橋をいただいたのよ。めしあがれ」
「母上、おかまいなく」
「まあ、よそよそしいこと。遠慮はしなくていいのよ。わたしはあなたの母上なんですからね」
母上は笑顔をみせた。
だがしかし、信は笑わなかった。男たるもの気を抜いてはいけない。
「おぉ・・・。信、帰ってきたか」
滝からあがってきた父も感動した
「はい、二度目。少し立ち寄っただけですよ。父上」
とあきれてむしろわらった。
「フム・・・どうだ?うまくやってるか?」
「ええ。少し不安はありますが、なんとかやっていけてます」
「少し見ないうちにずいぶんとたくましくなったように見える。聖なるパワーに押しつぶされそうだ」
「そうですか?」
と信は言いながらも、金若との戦いをこえて、パワーがアップしたのをなんとなくおもいあたった。
「オホホ!子供とはそういうものですよ」
「わたしたちにできることがあれば、いつでも言ってくれてかまわない。わたしはおまえの父上なんだからな」
父上は手元のカップを口にもってった
「母上と同じことをおっしゃってますよ」
と信はくすぐったかった
「ハハハ!親とはそういうものだ」
「それより父上、最近お変わりはありませんか?」
信は一直線にきいた。やはり家族はいい。
「お変わり?」
「町が少し黒くなってはしませんか?」
「あぁ、そのことか。それは知っている」
父はとつぜん厳しい顔になった。しかし、一直線に話せるのはうれしい。ああ、やはりそこは家族
「町中にあふれる邪臭はそれほど強力ではないが広い・・・そうだろう?」
「ええ。それで原因はなんでしょうか?」
「さぁ、わたしは滝のことしかわからんから、そこはおまえの方が詳しいんじゃないのか?」
「それがまったくつかめないのです」
「なるほど」
父はそれできたのかと、ピピっときた。
「それならば、滝に打たれるがよかろう。たまには一緒にどうか?」
信にはあまり時間がなくて、迷った。しかし急がば回れとも古代からの言い伝えである。
「・・・わかりました」
と承知した。
白桜寺の神水は無色透明、清冽にして、神聖に輝いている。その水面が太陽に照らされたとき、薄桃色に輝くのが白桜のゆえんであった。
水は高きところから、低き所に落ちる。水は地にしみて、海に至る。
自分に触れたその神水は町中にいきわたる。町とおれが一つになる。
「見えるか?」
父は静かに言った。ふんどし一丁だ
「はい・・・。なんだか、むらがあるようですね」
「そうッ!この邪臭にはむらがあるのだッ!」
「どういうことですか?」
「わからない」
滝からあがって、体をふいてお座敷にもどった。
「おそらく・・・ではあるが、この邪臭は巨悪が放っているものではないのだろうな」
「なるほど」
信はさっぱりわからなかったが、父がそういうのならば、そうなのだろう。
「おっとそろそろ私はいかねば」
「行くか」
父はあらたまって言ってみた。ちょっとさびしくみえるのは、家族だからだろう。
「信よ。おれはお前になにもしてやれなかった。すまない」
父は一歩下がって土下座した。神聖な土下座だ。まごころマックスである。
「そんな・・・」
信は父のパワーにおされた。
「それでもよく育ってくれた。俺の子としてこの世に生まれてきてくれたことを本当に誇りに思う。ありがとう。俺にしてやれることはただ一つ。おまえを御聖院に推薦しようと思う」
「ッ!?」
家族がビビった。御聖院とはこの町を守る最強の戦闘部隊ッ!その戦力は結集すれば、大聖天さえも滅すると噂されている。しかし御聖院への推薦は各寺ごとに200年に一度と決まっている。そんな貴重な推薦をもらうことは大変ありがたくヤバいことなのである。
「親ばかと思われるかもしれないが、おまえならきっとやれるはずだ。俺は信じている。もっとも御聖院に入るかどうかは、おまえの好きにしたらいい。これで思い残すことはなにもない」
父はゆっくり目をとじて、天井をみた。その顔は安らかだった。
「ありがとうございます」
信も神聖マックスの土下座をした。
家を出るころには空がオレンジだった。
「いつまでも信心を忘れずにな」
と父は言った。
「はい。では行ってまいります」
信は山を下っていった。
父はその後ろ姿をただただ黙って見送ったのであったッ!
やはり調子がよくない
ここ最近の低迷は許されざることだろう。
本当にもうしわけなくおもう




